民間航空輸送における技術進歩の足跡(その3)


2015-11-18 (平成27年) 松尾芳郎

 

 

 

層流(Laminar Flow)

11普通翼対層流翼

図11:(TokyoExpress)層流翼では、空気流が層流から乱流に変わる遷移点が後ろに移動するので抵抗が少なくなる。

12ホンダジェット

図12:(Honda Aircraft)間も無く顧客への引渡しが始まるホンダ航空機製のHA-420ホンダジェットは、図12の青色で示す部分を層流設計にしている。すなわち、主翼表面を機械加工で平滑に仕上げた層流翼とし、胴体機首部分には層流設計を採用して、空気抵抗を減らしている。翼型は自社設計のSHM-1スーパー・クリテイカル翼型である。

 

航空機の主翼に限らず胴体やエンジン・ナセルなど、あらゆる表面の空気の流れをなるべく後方まで「層流」に保つことで、「乱流」の発生を遅らせて抵抗を少なくできる。層流制御(laminar flow contfrol)の方法には二つある。一つは、表面の形状をできるだけ平滑に作り層流状態を保てるようにし、虫やゴミの付着を防いで乱流の発生を遅らせる方法である。もう一つは空気流が表面に接する境界に生じる「境界層(boundary layer)」を、表面に設けた沢山の小さな孔から吸込み乱流を生じる遷移点を遅らせる方法である。

前者の方法は、A320neo系列機やボーイング787のエンジン・ナセル設計に取入れられている。また、ホンダジェットでは主翼表面や機首の形状に、先日初飛行した三菱MRJリージョナル・ジェットでは機首設計に適用されている。後者の「境界層吸込み」法は、ボーイング、エアバスで実験中の段階で実用化には暫く時間が掛かりそうだ。

 

動力操縦系統(Power-assisted controll)

13ダグラスDC-4E

図13:(1000aircraftphotos.com)ダグラスDC-4Eは第二次大戦前にユナイテッド航空の要求で作られた旅客42名収容の試作旅客機。これが後に大量に作られたDC-4型機の前身となった。前車輪式で操縦系統には初めて油圧で作動するアクチュエータを使う動力システムが採用された。4基のエンジンは1,450馬力P&W R-2180 2重星型14気筒。初飛行は1938年6月だったが、性能不十分、整備性も悪かったため試作機1機のみで打切りとなった。1939年末に日本海軍が買い取って日本に運び、分解、いわゆるリバース・エンジニアリング(reverse engineering)手法で構造を調べ、これを参考にして中島飛行機が1941年に陸上攻撃機「深山」を試作した。「深山」も期待された性能を出せず、6機の生産に止まった。

 

旅客機がDC-3型機の時代から大型化されるにつれ、操縦用の舵面を動かすのにかなりの力が要るようになってきた。操舵力の軽減のため、昇降舵(elevators)、方向舵(rudder)、補助翼(ailron)などにバランス重り(set-back hinges)やタブ(balance tabs)を使ってきたが、これにも限界が生じるようになった。このためダグラスでは試作大型旅客機DC-4Eに、初めて油圧で作動するアクチュエータの採用を試みた。しかし、整備に手間取り、重量もかさむとあって、改良型の量産機DC-4型機では、それまでと同じ空力バランス型の操縦系統に戻してしまった。DC-4と同時期に作られたボーイング・モデル307では、油圧駆動式の昇降舵、方向舵を採用したのでこれが実用機としては最初の動力操縦系統を備える機体となった。(図4参照)

近代の旅客機では、昇降舵、方向舵、のみならずフラップ、エルロン、スポイラー、車輪、など全ての可動部分が動力化され、駆動系統も多重装備となり、安全性が一層向上している。動力化システムには、新型機では”突風で受ける荷重を軽減する装置(gust load-alleviation devices)”も含まれる。

動力操縦系統用のアクチュエータでは、我が国の“ナブテスコ”(帝人の子会社)が大きな市場占有率を誇り、その製品はボーイング製大型ジェットに広く使われている。

 

フライ・バイ・ワイヤ(Fly-by-Wire)

14エアバスA320

図14:(Airbus) エアバスのA320系列機は2クラス150席級の旅客機。翼端には“シャークレット(Sharklet)”と呼ぶウイングレットを付けている。複合材の多用、故障探知が容易な統合表示パネル、など革新的な装備を備えるが、最大の特徴はフライ・バイ、ワイヤ操縦系統を旅客機として最初に採用した点だ。これで飛行包絡線図をシステムに組込み、静穏かつ安定、安全な飛行を可能にし、パイロットの負荷を軽くしている。A320はデジタル・フライ・バイ・ワイヤ・システム(Degital FBW)の採用で、操縦桿はジョイステイック型にしている。

 

操縦系統に、ケーブルでなく電気信号を使うフライ・バイ・ワイヤを使うようになると、”突風による荷重を軽減する装置(gust load-alleviation devices)”の適用が一層容易になる。コクピットの操縦桿(stick)の動きは、機械的ではなく電気信号で操縦舵面に伝えられる。これで従来のケーブルやロッドなどを使った機械式操縦系統に比べ、軽くなり、複雑さも解消され煩雑な整備作業も不要となる。さらに安全飛行が可能な高度と速度の飛行範囲を示す「飛行包絡線図(flight envelope)」をプログラムに組込むことができるため、パイロットは失速や荷重による飛行制限を気にせずに飛行でき、負担が大きく軽減される。

 

先進型Al-Li合金と複合材料(advanced Alloys and Composites)

15 CSeries胴体

図15:( Bombardier) 写真はボンバルデイアCSeries1号機の胴体部分。CSeriesは狭胴型で、胴体は軽量、修理の容易性からAl-Li合金で作られている。構造部材は、重量比で46%を炭素繊維複合材、24%をAl-Li合金で作られている。CSeriesには110席の CS100型と135席のCS300型があり、エアバスA320neo及びボーイング737maxと競合する立場にある。就航はCS100が2016年6月、CS300は2017年の予定。確定受注は243機に止まり、A320neoやB 737maxよりかなり少ない。

 

航空機の構造材料として1980年代後半から炭素繊維強化型複合材(carbon-fiber reinforced polymer composites)などの繊維強化プラスチック材の使用が増えてきた。繊維強化型プラスチック材は、1920年代から使われてきた2000系列のアルミ合金やそれを改良した7000系列の合金に比べ、同じ強度で重量は10%ほど軽くなる。その後出現したアルミ・リチウム(Al-Li)合金は、強度(stiffness)、疲労強度(fatigue)、耐蝕性(corrosion properties)で優れた性質を持っているが、リチウムの製造コストが高いため普及が伸び悩んでいる。しかし、2016年に就航開始予定のボンバルデイアの狭胴型機”C Series”の胴体スキンにはAl-Li合金を使っている(図15参照)。理由は、重量あたりの強度が高いことと炭素繊維複合材に比べ修理が容易なことと云う。またエアバスでは2階建の超大型機A380の胴体で応力が最も掛かる天井部分のスキンに、炭素繊維とアルミ合金を組み合わせた”グレア(Glare)”と呼ぶハイブリッド材を使っている。

炭素繊維複合材は、今では一次構造部材を含み主翼や胴体など広く使われるようになり、ボーイング787では構造重量の50%、エアバスA350では53%に達している。

航空機用炭素繊維複合材の供給では、日本企業の市場占有率が大きい。すなわち、東レはボーイングとの間で2005年に締結した契約を2015年11月に更新、今後10年以上にわたり「787」、「777X」プログラム用として同社製「トレカ」プリプレグを独占供給する。供給額は1.3兆円以上を見込んでいる。帝人は、エアバス「A350XWB」向けに炭素繊維複合材を供給することで合意に達した。福井県の企業「ミツヤ」および「SHINDO」は、それぞれA320neo用エンジン「PW1100-JM」の「ファン・ガイドベーン」および「ファン・ケース」を製造し供給を開始した。

 

−以上−

 

本稿作成に際し参照した主な記事は次の通り。

Aviation Week October 26-November 8, 2015 page52-59 “ by Guy Norris

Aviation of World War II “Turbo-superchargers”

GE’s “Eight Decades of progress a Heritage of Aircraft Turbine Technology”

U.S. Federal Aviation Administration – Airplane Flying Handbook. U.S. Government Printing Office, Washington D.C.: U.S. Federal Aviation Administration, p. 15-7. FAA-8083-3A.

B-47 Stratojet, Boeing Histrical Snapshot

NASA Technology fact “The Supercritical Airfoil” TE-2004-13 DFRC