GE、新型ターボプロップでP&WC PT6Aが独占する市場に参入


2015-12-05(平成27年) 松尾芳郎

 GEのATP

図1:(GE Aviation)GE製先進型ターボプロップ(ATP=advanced turboprop)。エンジンとプロペラの統合コントロール・システムを採用している。

 

GEエビエーション(GE Aviation)は、テキストロン・エビエーション(Textron Aviation)と共同で、新型ターボプロップ・エンジンを開発する、と発表した。新型ターボプロップはテキストロンが開発中の新型ビジネス機に搭載される。発表は、11月16日にラスベガス(Las Vegas, Nevada)で開催中の全米ビジネス機ショー(NBAA=National Business Aviation Association’s Tradeshow)で行われた。

GEは、2017年中に新型エンジンの詳細設計を完了し、2018年には試運転を開始する予定。テキストロンは、来年夏に行われるオシュコシュ(Oshkosh)全米試作機協会(EAA)航空ショーで、GE製「新型ターボプロップ」搭載の「新型ビジネス機」を発表する予定だ。テキストロンは、小型機の分野でその名を知られるセスナ(Cessna)、ビーチクラフト(Beechcraft)、ホーカー(Hawker)の各社、それにベル・ヘリコプター(Bell Helicopters)などを傘下に収める企業である。

GEエビエーションは、2020年までに新型ターボプロップで年間10億ドル(1,200億円)の売り上げを見込んでいる。

GE ATPの特徴

図2:(GE Aviation)GEが公表した開発中の先進型ターボプロップ(ATP)の特徴。

 

ビジネス機用の小型ターボプロップ・エンジン市場は、これまで50年にわたりプラット&ホイットニー・カナダ社(Pratt & Whitney Canada=P&WC)が市場を独占してきた。P&WCは、500〜2,000 SHP(shaft horse power=軸馬力)級のPT6A系列エンジンを69種類も揃えて市場に供給し、生産台数は41,000台を超え、総エンジン飛行時間は3億3,500万時間に達している。

PT6A系列エンジンは今もなお改良されていて、同じNBAAショーの席上で新しいPT6A-140Aエンジンを発表した。PT6A-140Aは現用エンジンと比べ、出力は20%増え燃費は5%低減している。6〜8人乗りのセスナ・キャラバン用エンジンPT6A-114Aとそのまま交換可能になる、と云う。

PT6A-140A

図3:(P&WC) P&WCが公表したPT6Aの最新モデルPT6A-140Aエンジン。気温44℃の高温下で1,075軸馬力(SHP)の出力を出せる。オーバーホール間隔(TBO)は8,000時間/12年に延伸可能で、基本形のPT6A-114Aより出力は15%増、燃費は5%向上している。

 

GEは、P&WCが独占する市場に参入することを決意し、チェコへの投資4億ドルを含め総額10億ドルの資金を投じて計画を進めている。

新型ターボプロップの開発、試験、生産はチェコ共和国(Czech Republic)にあるGE傘下の“新ターボプロップ・センター(Turboprop Center of Excellence)”で行われる。今年9月の発表によると、この施設は4億ドル(480億円)を使い建設中で、完成時には従業員500-1,000人の規模になる、と云う。

一方、テキストロンが来年発表するGE製エンジン付きの新型機は単発ビジネス機で12人乗り、航続距離は1,700 miles、時速320 mph以上となる予定だ。

GE製ターボプロップの最初のモデルは1,300 SHPで、競合する PT6Aに比べ燃費で20%勝り、高空での巡航出力は10%ほど多くなる。これに取付けるエンジン管制装置(FADEC= full-authority digital engine control)は、エンジンのみならずプロペラ・ピッチ・コントロールも統合して管制できる。

GEによると新型エンジンには、これまでGEが開発してきた最新の軍用や民間エンジンで使っている最新の設計や製造技術を組入れる予定だ。すなわち;—

1)      コンプレッサー・ブレードやベーンには”3D空力設計”を採用する。

2)      燃料ノズルは、ボーイング737X用のCFM製 LEAPエンジンと同様、”3Dプリンテイング(additive manufacturing)製法”で製造する。

3)      新エンジンのオーバーホール間隔(TBO=time between overhaul)は現用エンジンに比べ30%ほど伸びる。

4)      高温部品には、GE製”パスポート(Passport)”エンジンで採用済みの耐熱素材“酸化セラミック・マトリックス複合材(oxide ceramic matrix composites)を採用する。

GEの本エンジン開発担当部門担当責任者Brad Mottier氏は次のように語っている;-

1)      これまで5年間、我々はターボプロップの市場を研究し、次世代型の軍民両用の技術を、如何にして低価格かつ安全にビジネス航空関係の顧客に提供できるかを検討してきた。

2)      その結果テキストロン社と共同で新エンジン開発に踏み切った。我々の計画は、P&WCがPT6Aで成功した850〜1,600 SHPの出力範囲をカバーするエンジンを開発することである。

3)      1950年代から暫くの間ボーイング737のエンジンはP&W製JT8Dが独占していたが、我々は1970年代後半から新開発のCFM56を送り出しその座を勝ち取った。小型ターボプロップの分野でもこの再現を目指す。

このためGEは、4年前にチョコ共和国の小型ターボプロップ M501のメーカーMotorlet社の買収を済ませており、並行してビジネス機メーカーとも新エンジンの採用を巡る協議を開始した。すでにPT6Aの小型版に対抗するため、850 SHPのH80型を完成させている。

テキストロンのビジネス機開発担当を主管するChristi Tannahill氏は「開発中の単発ビジネス機は完全な新規の設計で、それに新型エンジンを組み合わせ、同クラスでは最高の性能を持つ機体となる」と話している。

GE ATPの鳥瞰図

図4:(GE Aviation)新型ターボプロップは、社内では「GE93」と呼ばれ、コンプレッサー・ブレード、ベーン類は、同社製のボーイング777X型機用の大型エンジン「GE9X」で使われている3-D空力解析技法で作られる。

 

新型ターボプロップは、小型化軽量化のために“逆流方式(reverse flow)”設計にし、PT6Aとほぼ同じサイズに収まる。コンプレッサーは、シコルスキーUH-60系列ヘリ等に使われているGE製CT7/T700エンジン技術を転用した軸流4段と遠心1段構成で、全段チタン合金製である。そして“3-D空力解析技法”で作られ、圧力比は、在来エンジンの9〜10:1に比べ大きく改善され16:1を達成している。

コンプレッサー最終段の遠心式インペラーからの高圧空気は”逆流式燃焼室(reverse flow annular combustor)”に送られる。“逆流式燃焼室”は、GE-Honda製HF120エンジンで実用化した技術から転用した。(詳しくは2014- 01-01作成「ホンダジェット、[HF120]エンジンの型式証明を取得」を参照)

タービンは、コンプレッサー駆動用の2段高圧タービン(HP turbine)とプロペラ駆動用の3段低圧タービン(LP turbine)。HPタービンは単結晶鋳造で空冷式ブレードだが、これはこのクラスのエンジンでは初めてである。LPタービンはHPタービンと逆方向回転にして、これでわずかだが効率を改善する。エンジン直径が小さいので空気流量は少ないが、熱力学的改善で出力を増やし高い効率を目指している。すなわち、民間用大型エンジン(777X用のGE9Xなどを指す)の技術を転用するので、同クラスの現用エンジンより相当高い温度で運転でき、熱効率が向上すると共に整備間隔も延伸される。

新開発のエンジン管制装置(FADEC)は、エンジン本体部分だけでなくプロペラ駆動部とプロペラ・ピッチ・コントロールを含み、推進システム全体を最適状態に維持管理する機能を備えている。

これは、現用エンジンではファンが固定ピッチなのでFADEC上で配慮が不要なことを考えると、かなり複雑で高級なロジックの組込みが必要なことが想像できる。

GEは今回のシステム開発にあたって”Impacta”と呼ぶ精巧なコンピューター・モデルを開発、プロペラの動きをエンジン、主翼、胴体の状況に関連付けて解析するようにした。これを基にGE製CPX38ターボプロップとDowty製プロペラをテキストロンのビジネス機案に組合せ、最適な案を検討した。

PT6A断面

図5:(Pratt & Whitney Canada)PT6Aターボプロップの断面図。GEの先進型ターボプロップ「ATP」の構成は未公表だが、ほぼこれと同じ。右側「ガスタービン・セクション」の「空気取入れ口」から空気を取入れ「軸流コンプレッサー」3段と「遠心コンプレッサー」で圧縮、この高圧空気を逆流式「燃焼室」に送り燃料と混ぜ燃焼、この燃焼ガスで「タービン」を回しその力でコンプレッサーを駆動する。「タービン」を回した燃焼ガスは残りのエネルギーで「パワー・セクション」の「プロペラ用タービン」2段を回転させ「排気ダクト」から排出される。「プロペラ用タービン」の回転力は「減速ギア」に伝えられ、「プロペラ軸」を介して左端のプロペラを回す。「ガスタービン・セクション」と「パワー・セクション」は機械的に接続しておらず、燃焼ガスで空力的につながっている。GE製新型ターボプロップは、コンプレッサーが軸流4段プラス遠心1段、その駆動用タービンが2段、そしてプロペラ用タービンが3段となっている。

 

むすび

GEは長年温めてきた新型ターボプロップの開発を本格化して PT6Aの独占する市場に参入することを決めた。前述したが、1970年代にGE・スネクマ合弁で作るCFM56エンジンが、当時737に使われていたP&W JT8Dエンジンを駆逐した経緯の再現を目指している。すなわち、CFM56は燃費、信頼性で高い評価を受け、軍用としてボーイングKC-135タンカーでもP&W製JT3Dの更新として多数使われ、軍民合わせた総生産数は2万台以上に達している。

この攻勢を受けるPT6Aは改良で迎え撃つ姿勢で、今回発表したPT6A-140AはGE発表の先進ターポプロップ(ATP)とほぼ同一性能なのは、その一例である。P&WCはビジネス機用ターボファンの分野で、PW300/推力4,700〜8,000 lb級、PW500/推力2,900〜4,500 lbs級、それに最新の“ピュアパワー(PurePower) PW800”エンジンを有している。PW800は、コア部の技術がP&Wギアード・ターボファン(GTF) PW1000G系列に採用されるなど、最先端の技術で知られている。これらの蓄積した技術がPT6Aの改良に使われるのは想像に難くない。

どちらが勝利するか、10年後には決着がつくだろう。

−以上−

 

本稿作成の参考にした主な記事は以下の通り。

Aviation Week Nov 20, 2015 “GE Challenges P&WC PT6 with New Advaced Turboprop Engine” by Guy Norris

P&WC PT6 home page

Cincinnati.Com Nov16,2015 “GE Aviation to design, build engine in Europe”

Reuters Nov 16, 2015 “GE Aviation launches new turboprop engine”

Pratt & Whitney Canada News Nov 16, 2015 “P&WC Launches the PT6A-140A Turboprop: The Most Powerful and Fuel Efficient Engine for the General Aviation Market

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