ボーイングの将来旅客機計画「SUGAR」について


2016-03-05 (平成28年) 松尾芳郎

 2.3.2_sugar_volt

図1:(Boeing)ボーイングが率いる「SUGAR」チームがNASAに提案した「SUUGAR Volt」機の完成予想図。大きさは737とほぼ同じサイズで、Hybrid electric engineを装備し、長大な支柱付き主翼を採用して、燃費、騒音、排ガスを大幅に改善しようとしている。両翼下面のポッドはバッテリー収納用。バッテリーは、窒化ボロン・ナノチューブ(Boron Nitride Nanotube)を使う高容量のものを開発する。NASAが2030-35年に実用化を目指す、現用機に比べ燃費60%低減を目標とする「N+3」プロジェクトに対応する計画。

 

ボーイングは、2030-2050年頃に実用化できそうな革新的な“亜音速、環境に優しい民間旅客機研究”「SUGAR」案をNASAに提出した。「SUGAR」とは「Subsonic Ultra-Green Aircraft Research」の頭文字をとった略で、NASAとの契約でボーイング主催の「SUGAR」チームが検討した将来航空機概念だ(2012年5月)。このチームは、ボーイング民間航空機部門、ボーイング技術研究部門(Boeing Research & Technology)、GE、ジョージア工科大(Georgia Institute of Technology)航空宇宙システム設計研究所、バージニア州立大(Virginia Tech. Univ. in Blacksburg, Virginia)、NextGen Aeronautics[次世代航空研究所](Torrance, Calif.)で構成され、4年間の研究成果を今回まとめた。

ボーイングは、現在2つの案を検討中で、一つはハイブリッド電気推進エンジン(Hybrid electric engine)装備の「SUUGAR Volt」、もう一つは燃料に液化天然ガスを使う「SUGAR Freeze」である。これまでの研究では「SUUGAR Volt」が、燃費、騒音、排ガス発生、いずれにも改善の余地が残っていて、優れているとされる。「Hybrid electric engine」装備機は、通常の短距離路線では巡航時は殆どを電気動力でファンを駆動、長距離路線では搭載のジェット燃料を併用して飛行する。

「SUGAR Freeze」では燃料に液化天然ガスを使うので、燃費が良くなり、排ガスが少なくなり、燃料費も少なくて済む。「SUGAR Freeze」のもう一つの特徴は、EU/Airbusが検討中の革新的旅客機「PFC」と同じく胴体尾部に電動ファンを装備し、胴体表面に生じる境界層を吸い取り、抵抗を減らし推力を得る事で燃費の低減を目指している。

また、「SUGAR」プログラムでは、支柱付き主翼(TBW=truss-braced wing)を採用し、現在の主流である片持ち式翼に比べ燃費を5-10%改善する事を狙っている。

現在NASAラングレー研究所の亜音速風動(TDT=Transonic Dynamics Tunnel)を使い、最適設計案の15%スケール・モデルを使って実験している。

この最適設計案は、ボーイングとバージニア州立大、ジョージア工科大のチームが15年ほど掛けて有限要素法(FEM=Finite Element Methodrogy)を駆使して完成した。これによると現在の737の主翼幅は113 ft (34.5 m)だが、最適設計案では173 ft (52.8 m)に延長し、そのアスペクト比(AR)は約19になる。

現在の737の主翼をTBW化するだけで5-10%の燃費改善が可能と云われている。

風洞実験用の最適設計案の15%スケール・モデルの製作は、[次世代航空研究所](NextGen Aeronautics (Torrance, Calif.))が担当し、[TDT]風洞では空気の代わりに比重の大きいR134A冷媒ガスを使って実機に近いレイノズル数(Reynolds number)で、実験をする。

SUGAR Freeze

図2:(Boeing) 支柱付き主翼(TBW)は、翼幅を大きく伸ばせる(52.8 m)のでアスペクト比(AR=Aspect ratio)を大きく(19)できる。アスペクト比(AR)とは、翼幅の二乗を翼面積で割った値。細長い翼ほどAR値が大きくなり、翼端に生じる回り込み渦による誘導抵抗(induced drag)を少なくできる。結果として高性能のグライダーと同じく、揚力/抗力の値が良くなる。従来の大半のジェット旅客機のアスペクト比は大体9前後であったが、高強度の炭素繊維複合材を使っているボーイング787機やボンバルデイアCSeries 機などでは11 になっている。現在のジェット旅客機でも、「フラッター減衰装置(active flutter suppression)」や「突風荷重回避装置(gust-load alleviation )」を取付け、構造に柔軟性を持たせればARを15位までする事が可能と云う。「支柱付き主翼(TBW)」では、ARを20-30にする事も不可能ではない。

Sugar Freeze

図3:(Boeing)ボーイングの「SUGAR Freeze」機の完成想像図。液化天然ガスを燃料とし、燃費、排ガス、騒音を低減する。支柱付き主翼(TBW)を採用、胴体尾部には電動ファンを設け、胴体表面に生じる境界層を吸い込む。

B-GE Suger Volt engine

図4:(Boeing, GE, Georgia Tech) 「SUGAR」用に検討中のハイブリッド電気推進エンジン(Hybrid electric engine)の概念図。超電動モーター、低温インバーター、交流損失の少ない高温超電動材料、などの電気関連装備品の開発が焦点となる。コアエンジンは小型で高い効率を目指す。このため、ファン・バイパス比は20近くに上げ、コンプレッサー圧力比(OPR=Overall Pressure Ratio)は、現在の40程度から50+を目標とする。またタービン・デイスクは粉末合金で作る本体(耐熱強度1300F)の外周に、疲労強度の高い1500F(815.5C)耐熱性能の素材で作るリムを溶着するハイブリッド・デイスクとする。短距離巡航時はコアエンジンを使わず、バッテリーの電力で先進型モーターを回し、その動力をファン駆動軸に伝えて飛行する。長距離飛行時はコアを使い、ファンを駆動、その余力を超電導モーター/ジェネレーターに伝えて発電、バッテリーを充電する。簡単そうだが実用化には解決しなければならない問題が山積している。

 

—以上—

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

Aviation Week Network @ Jan 28, 2014 “Will Boeing Embrace Braced Wings?” by Graham Warwick

Aviation Week Network @ Jan 27, 2014 “NASA, Boeing Test Low-Drag Truss-Braced Wing Concept”

NASA @ Jan 9-12, 2012 “Technical Challenges to Reducing Thrust Specific Energy Consumption” at AIAA Aerospace Sciences Meeting, by Michael D. Hathaway

Aviation Week Network @ Feb 22, 2016 “Electric Propulsion Poses New Challenge for Aviation” by Graham Warwick