2016-05-10(平成28年) 松尾芳郎
図1:(Pratt & Whitney)エンブラエル(Embraer) E2-E190の初号機、PW1900Gエンジン付き。2016年2月にロールアウト、今年中に初飛行、2018年には就航を予定している。PW1900Gエンジンは、A320neoのPW1100G-JMよりファン直径が僅か小さいが、他はほぼ同じだ。
P&Wのボブ・レダック(Bob Leduc)社長は、A320neoで生じたPW1100Gギヤード・ターボファンの問題解決と、これから始まるPW1000G系列エンジンの大量生産への対応について「今年の第3四半期までに解決する」と述べた。
PW1100Gエンジンに関わる始動時のアイドリング時間延長と、コクピットでの無用な警報発生問題の解消は、同社にとって緊急の重要課題となっている。そうでなくても、P&Wは他の5種類の系列エンジンの開発、試験、証明取得、生産管理で多忙を極めている。
先に伝えたように、 エアバスは、A320neoを今年1月からルフトハンザに2機とインデイゴに3機の、僅か5機しか引渡ししていない。カタール航空はエンジン問題が解決するまでは受け取らないとしている。現在、ツールース空港には少なくとも7機が、またハンブルグ空港には20機ほどがエンジン待ちの状態で繋留されている。
P&Wレダック社長は「エンジン待ちの機体が溜まる一方だが、今年後半にはエンジン供給が再開でき、状況がかなり改善される。幸い従来型のV2500エンジンの生産が減っているので、このスペースをPW1100Gエンジン組立てに使える。今年後半が問題解決の折返し点になるだろう。」と語っている。
当面、最大の生産目標はPW1100GとボンバルデイアC Series用のPW1500Gだ。C Seriesは今年6月からルフトハンザの子会社スイス・インターナショナル(Swiss International)で就航する。
レダック社長は次のように語っている;—
「これまでV2500エンジンは毎月30台以上の割合で製造してきた、新しいPW1000G系列エンジンの生産は、次のような状況になっている。すなわち、昨年(2015)は20台引渡し、今年は問題点を解決して200台以上を引渡す予定、さらに2017年には400台、そして2018年からは600台に増産する予定だ。」「しかし現在はPW1100Gエンジン問題の解決に努力を集中している。就航中の5機は、エンジン始動の際のアイドリング時間延長(300秒)と云う運用制約の下で、700回近くの飛行を行い、定時出発率は99%を達成している。」
「PW1100Gの改良点は、;—
1) エンジン停止時シャフトに生じる曲がりを抑えるため、No.3とNo.4ベアリングにダンパーを取付ける、
2) 正常時に異常警報が多発する対策としてFADEC (full authority engine control)のソフトの改善、
3) コンプレッサー・シール磨耗防止のため新しいコーテイングの採用、
これらを組込んだエンジンが、今後の標準型となり今年6月からエアバスに納入される。また就航中の10台のエンジンは取卸して改修する。」
「この問題を除けば、PW1100Gは燃費及び騒音で所定のスペックを満足するか、上回っている。」そして「就航初期の段階で問題を起こしたことは認めざるを得ないが、間も無く現用のCFM56やV2500エンジンの信頼性レベルに到達できる。」と強調している。
図2:(Airbus)PW1000G系列エンジンで最大のPW1135G-JM(推力35,000 lbs)を装備したエアバスA321neoは2016年3月9日朝にハンブルグ空港から初飛行を行った。初飛行は6時間行われ、午後にツールース空港に着陸した。エンジン推力を35,000 lbsにしたことで、航続距離の延伸あるいは客席数の増加が可能になる。ギヤード・ターボファンは、燃費を現用エンジン対比で16%改善をほぼ達成済みだが、本質的に改良の余地があるので2020年までに、これを20%に向上できると云う。
エンブラエルE190-E2の2号機用となるPW1900Gエンジンは今年6月に引き渡される。初号機は間もなく初飛行の予定で、今年末には型式証明取得を目指している。
PW1200Gを装着する三菱MRJは、昨年11月の初飛行以後、飛行試験を続けている、今年6月末までに3機分、6台のエンジンを納入する。PW1200Gについては、燃費が約束の16%改善に0.5%不足しているため、対策としてファンのエクジット・ガイドベーンの改修を行っている。
PW1200Gを少し変えたエンブラエルE2-175用のPW1700Gは、PW1200Gと同様、系列エンジンの中で最も小型で推力は17,000 lbs、ファンは直径56inch (140cm)で、ファンの前縁は極めて薄く鋭く成形されている。
ロシアのユナイテッド・エアクラフト(UAC) が作るイルクート(Irkut) MC-21用のPW1400Gは、初号機用はすでに納入済みで来年4月に型式証明を取得する予定。このモデルはA320neo用のPW1100Gの系列でほぼ同じサイズ、MC-21の開発スケジュールはかなり遅れて、初飛行は今年12月にセットされている。
図2:(Pratt & Whitney及び各機体メーカー資料)P&Wでは、PW1000Gギヤード・ターボファン(GTF)を大別して6種類、細分すると16種類を同時並行で開発中である。GTFは、ドイツのMTU Aero Engines社と共同で コア(高圧コンプレッサー/タービン部分)を開発し、それに減速ギア/ファンと低圧系を組み合わせたエンジンで、2008年7月に「PW1000G」として、本格的に開発がスタートした。現用エンジンとの対比で、燃費は10-16%改善、騒音は75%静かにするのが目標。その中でPW1100Gは、2014年12月にFAA型式証明取得、PW1500Gは2013年2月にカナダ運輸省の型式証明を取得している。PW1000G系列全体の確定受注は約5,000台に達していて、今後10年間は平時としては未曾有の大量生産に追われることになる。
—以上—
本稿作成の参考にした記事は次の通り。
P&W PurePowerEngines 2016-02-25 “Milestone Moment: Pratt & Whitney Celebrates Embraer’s Rollout ofE190-E2”
Aviation Week April 25-May 8, 2015 “Work in Progress” by Guy Norris
The Wall Street Journal March 9, 2016 “Airbus Completes A321neo First Flight with Pratt Engines” by Robert Wall and Jon Ostrower
Defense-Aerospace March 9, 2016 “Pratt & Whitney PurePower Engines complete First A321neo Flight”