エアバス、A320neo用エンジンの納入遅れに苦慮


2016-05-07(平成28年) 松尾芳郎

 lufthansa-airbus-a320neo

図1:(Airbus)ルフトハンザ航空は 2016年1月20日にA320neo初号機を受領した。同社はA320neoを61機、大型長距離型のA321neoを40機発注している。いずれもP&W製PW1100G-JMエンジン付き。特に燃料を増やしたA321noeLR型は航続距離が4,000 nm(7,40 km)になるので大西洋路線に使用できる。系列機にはA319neo、A320neo、A321neo、の3機種があり、確定受注はそれぞれ60機、3,342機、1,108機で、合計で4,510機の注文を抱えている。

 

エアバスが米国で組立てた最初の機体が顧客に納入され、これでエアバスは文字通り世界企業となった。同社が設立したモーバイル(Mobile, Alabama)工場で完成したA321neo型機で、同社の営業担当最高責任者のジョーン・リーヒー(John Leahy)氏から4月25日にジエットブルー航空(JetBlue Airways)に引き渡された。

 

(注)ジェットブルー航空は低価格航空(LCC)で、米国で5番目の規模を誇るエアライン。ニューヨーク近郊のロングアイランドに本社、JFK空港をベースに全米各地とカリブ海諸国を結んでいる。エアバスの在来型A320を主にA321及びエンブラエルE190など217機を運航中。2014年の売上は58億ドル、純利益は4億ドル。

 

しかしこれを祝っているのはモーバイルの地元だけで、本拠地/工場のあるツールース(Toulouse, France))やハンブルグ(Hamburg, Germany)では毎日苦闘が続いている。窓や車輪にカバーを掛け長期保存措置をしたA320neoがツールースのブラグナック(Blagnac)空港やハンブルグのフィンケンワーデル(Finkenwerder)空港に増え続けている。いずれもインデイゴ(IndiGo)、カタール航空(Qatar Airways)、及びルフトハンザ(Lufthansa)の塗装済みだが、エンジンが付いていない。

A320neoより数は少ないがA350もツールース空港に並び、引渡しを待っている。A350はエンジン装着済みだが、客席(seats)とラバトリー(lavatorys)の納入遅れのためだ。サプライヤーのゾデイアック(Zodiac)社の生産体制が不十分なために生じている。これに懲りたエアバスは、もう一つの新型機A330neoの客室サプライヤーからゾデイアックを外した。

ここにはA380の最終組立工場があるが、受注減のため来年は生産機数を予定の27機から20機に減らすと、この4月にサプライヤーに通告した。

これらの中でA320neoの問題が最も大きい。ルフトハンザに初号機が引渡されてから僅か4ヶ月後、これから生産を伸ばし競合機に対し優位に立とうと云う矢先に、エンジンにまつわる欠陥が明らかにされた。プラット&ホイットニーはPW1100G JMエンジンに生じた問題を6月中に解決すべく努力中であり、また、エアバスは在庫増を抑えるため7月まで生産調整を余儀なくされている。

エアバスは2016年に入りA320neoの生産を一旦は月産8機にした。しかし問題が発生してから4機に減らし6月一杯までこれを続ける。

エンジン問題が解決され次第、エアバスは7月には月産10機に増やし、10月からは16機、12月から20機、そして来年2017年3月からは月産26機体制にする予定である。今の減産は一時的なもので、協力企業から納入される部品等はツールースやハンブルグで予定通りに受取るので、大きな影響はない。

新しい生産スケジュールは、エアバスの従来からの計画、「2017年初期にはA320を月産50機体制とする」、に沿ったものである。この50機には在来型A320ceoと新型のA320neoを含んでいる。そして2019年6月頃にはA320neoだけで月産60機にする予定だ。

この7月から月産10機に引き上げるのは、CFM Leap-1Aエンジン付きの機体の納入が始まるためだが、納入先は明らかにされていない。4月初めにはLeap-1Aエンジン用の最初の新型ナセルが、ナセル担当のエアセル(Aircelle)社からエアバスに納入された。P&W社は、PW1100Gエンジンの問題点を解消した改良型エンジンを6月から引渡し始め、現在の制限付き運用を解除する、と発表した。

AIRBUS148 - A321 First Flight Jet Blue

図2:(Airbus)エアバスが米国で生産した最初のA321neo、ジェットブルー航空に引き渡された。写真はエアバスのモーバイル工場の上を飛ぶジェットブルー航空のA321neo。モーバイル工場はエアバス狭胴型機の製造工場として6億ドルを投じて作られた。

 

エアバスは「P&Wは2016年夏から改良型エンジンを納入すると確約した、新エンジンは2016年後半に予定されているA320neoの生産機数に見合う数が納入される。これでエンジンに関わる問題は年内に全て解消する」と述べている。

現在エンジン無しで繋留されているA320neoは30機近くあり、問題が解消されなければさらに増えることとなろう。

P&Wが解決に取組んでいる問題は2つ;—

・  エンジン停止に際し冷え方が一様でないためシャフトが僅かに曲がる。このためコンプレッサー・ブレードの先端がシールと擦れ磨耗するが、この隙間をできるだけ小さくしてエンジン性能を維持したい。スタートの際にゆっくり温めてやるとシャフトの曲がりが少なくて済み、ブレード先端の隙間を小さく保てる。このため臨時の措置として、6月まではエンジン・スタート後のアイドリング時間を350秒に長くしている。抜本的対策としては関連部品を改良し、6月までにアイドリング時間を200秒、12月にはGE製を含む他エンジンと同レベルである150秒に短縮する。

・  エンジンが正常に作動しているにも拘らず、コクピットで誤った警報表示が頻発する。これはソフトウエアー改良で解決する。

P&WによるとA320neo用のPW1100Gはパイロンにコア部分で取付けているが、他の三菱MRJ用を含むPW1000G系列エンジンは全てファンケースで取付けている。このことが今回の問題に関係があるかどうかは不明、としている。

pw1100g-jm-engine-4

図3:(Pratt & Whitney) ミドルタウン(Middletown, Connecticut)組立工場で完成したA320neo用のPW1100G-JMエンジン。PW1000G系列エンジンは、A320neo、三菱MRJ、ボンバルデイアC Series、エンブラエルE-Jets E2、イルクーツMC-21、に搭載が決まっている。低圧ローターとファンの間に3:1のギヤを入れ、それぞれが最適の速度で回転する。ファンは4,000-5,000 rpm、低圧コンプレッサーとタービンは12,000-15,000 rpmの速度。高圧系の速度は2万rpm+である。

 

 

P&Wが取り組むもう一つの問題は、如何にして平時としてこれまでにない大量のエンジンを生産し顧客の需要に応えるか、である。PW1000G系列エンジンは、2015年に20台、2016年には200台かそれ以上、そして2020年には年間1,400台の生産が必要となる。民間部門とは別に軍用エンジンでも繁忙が加速され、現在年間100台のペースが2020年には300台の規模になる。さらに系列会社のP&W Canadaでは、小型タービンエンジンの生産が2020年には3,600台に達する。

PW1100Gneoについては、問題が解決するまでエアライン側は受取りを拒んでいる。カタール航空は「PW1100Gエンジンの問題が解決するまではA320neoを受取らない」としている。インデイゴは3機、ルフトハンザは2機を受取っているが、トラブルに備え、寄港地の制限、飛行前点検項目の追加、乗員を3名にするなど、の措置をしながら運航している。ルフトハンザは、問題解決まで追加引渡しを延期し、今後の引渡しには条件を付ける意向、エアバス、P&W、ルフトハンザは、条件の内容について協議を始めた。いずれにしても問題が解決すれば今後ともA320neoを受取り使うことにしている。

(歯に衣を着せない発言で知られる)カタール航空のCEO アクバール・バクール(Akbar Al Baker)氏は、あらゆる機会を捕えてエアバスとP&Wに圧力を加えている。今年の初めには「購入契約を破棄する」と警告し、4月になると「(対応が)大変不満足だ」、「(A320neoの代わりに) ボーイングと737NGを直ぐ引渡すよう交渉中」、「今日にでも契約を破棄できる、エアバスを憐れむ気持ちなど持ち合わせていない」、と言っている。

しかしボーイング737NG型機を直ぐに入手出来る訳はなく、カタール航空が本当にA320neoをキャンセルすることはありそうもない。同社はA320neoを34機、A321neoを16機確定発注済みである。

Neoの遅延で困っているもう一つの顧客はオスロに本社のあるリース会社、ノルウエージャン・エア・シャトル(Norwegian Air Shuttle)だ。同社はこのほどA320neoの追加リース契約にサインしないことを決めた。同社は「リース市場は極めて好況で、特にneoのような新型機ではなおさらである。複数の顧客からA320neoのリース希望を受けているが受付を停止し、2017年にリース予定の4機についてはエンジン遅延のため引渡しを少し遅らせることにした」と話している。同社では、A320neoのエンジン、P&WのPW1100G及びCFMのLeap-1A、のいずれにも数ヶ月遅れる要素があると見ている。

Airbus A321 First Flight - Mobile, Alabama FAL

図4: (Airbus)エアバスはモーバイル(Mobile, Alabama)工場でのA320neo系列機生産を2017年末までに月産4機に引き上げる。

 

ノルウエージャンはA320neoを今年中に4機受取り、2017年には8機受領する予定だ。これは低価格航空(LCC)向けではなく、同社が全額出資するアイルランドの子会社アークテイック・アビエーション・アセット(Arctic Aviation Assets)を通じて第3者にリースされる。この子会社はHK Express社にA320neoを12機、今年から来年にかけてリースする。

ノルウエージャンは、2012年8月12日にエアバスに100機のA320neoを確定発注し、2013年にはその内の半分50機にPW1100Gエンジンの採用を決めている、残りの50機のエンジンは未定。

標準型のA320neoにとっては、A321neoに注文が変更されるかも知れないと云う、良くないニュースもある。ジェットブルー航空CEOロビン・ヘイズ(Robin Hays)氏は、モーバイル工場で行われたA321neoの引渡し式で「(発注済みのA320neoを)大型のA321neoで航続距離4,000nmのLRへの変更を考えている」と話している。

ジェットブルー航空は、当面LRをヨーロッパ線には使わないと見られる。現在使用中のA320やA321では航続距離が不足する長距離の南米線にA321neoLRの投入を考えている。現在同社はA320を130機、A321を27機使用中で、さらに19機のA321を追加発注済み。そして、新型機としてA321neoを45機と標準型のA320neoを25機発注しているが、後者をA321neoに切替える案が浮上している。

モーバイル工場では今は従来型A320を主に生産中だが、逐次neoシリーズに切替えて行く。エアバス全体の狭胴型機生産は現在月産43機だが、これを2017年末に60機に引き上げるためハンブルグ工場に4本目の製造ラインを設置中だ。この中でモーバイル工場は、中国の天津工場と共に基幹工場の一つに位置付けられ、月産4機体制を目指している。

A320neoだけがエアバスの重要課題ではない。エアバスのCEOトム・エンダース(Tom Enders)氏は、A350の生産にも問題がることを認め「客室用座席等の納入遅れの改善、追加作業の低減、開発費の管理、に焦点を当てて管理運営を強化しているが、良い方向に向かいつつある」、しかし「これから一層厳しくなる」と語っている。エアバスは、今年中にA350を少なくとも50機納入したい計画で、2018年末には月産10機体制にしたいとしている。

並行してエアバスはA380の生産を、2017年には月産1.7機に減らす。これは2016年11月から始まる。2015年には27機を引渡し、2016年には20-25機を予定しているが、来年から減産しても採算は取れるとしている。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Apr 29, 2016 “Airbus Struggles with A320neo Engine Delays, Customer Complaints” by Jens Flottau

Aviation Week Daily Mar. 1, 2016 “Fixes for A320neo False Alarms, PW1100Gon Agenda” by Bradley Perrett

Aviation Week Jan. 15, 2016 “P&W is Developing A320neo Engine Extended –Start Fix” by Guy Norris

Aviation Week Feb 16, 2016 “New P&W President has “Nothing to Hide” on GTF Starting Issue” by Guy Norris