NASAの探査機「オサイレス-REx」、小惑星「ベニュー」に向かう


2016-05-15 松尾芳郎

 

NASAの探査機「オサイレス-Rex (OSIRIS-Rex)」は、今年(2016) 9月に地球を出発し、地球近傍を回る小天体「ベニュー (Bennu)」に向かい2018年に到着、表面のサンプルを採取して2023年に地球に帰還する。往復で7年にもなる長旅になる予定だ。

OSIRIS-Rex

図1:(NASA) 探査機「オサイレス-Rex (OSIRIS-Rex)」が小惑星「ベニュー (Bennu)」上空に到着し、ソーラーパネルをY字型に折り曲げ、アームを伸ばしサンプル採取を試みる想像画。「オサイレス-Rex」は、本体の大きさは約3 mの立方体、ソーラーパネルは面積8.5 m2 、電力はソーラーパネルとリチウム・イオン電池、推進装置は他の宇宙探査機で実証済みのヒドラジン(Hydrazine)燃料ロケットを使う。図の右にある大きな皿状は2-m 高利得アンテナ(HGA)、上に見えるリング状は推力200 Nのスラスター(推進装置)、サンプル回収カプセルは下側にあって見えない。下右に少し見える斜め切口の筒はカメラ装置(OCAMS)。

 

NASAが計画している探査機「オサイレス-Rex」による小天体「ベニュー」の探査ミッションは、米国初の小惑星からのサンプル採取ミッションである。NASAの「ニュー・フロンテア計画」の一つに位置付けられ、「今年夏に木星に到着、活動を始める探査機“ジュノー(Juno)”」、既に成功した「冥王星調査の探査機“ニュー・ホライゾンズ(New Horizons)”」に続く三つ目のミッションとなる。このミッションに関わる費用は、探査機開発と運用に8億ドル、発射に1億8千万ドル、合計ほぼ10億ドルと見込まれている。

ベヌー

図2:(NASA)「ベニュー」は直径575 mで、太陽の周回軌道を1.2年で回り、6年ごとに地球にかなり接近する小天体で、NASAが計画する「小惑星軌道変更ミッション(Asteroid Redirect Mission)」の対象候補になっている。「ベニュー」は、このままでは2182年に1,800分の1の確率で地球に衝突する。

asteroid-bennu-orbit

図3:太陽周回軌道を回る地球と小天体「ベニュー」の軌道。「ベニュー」は1.2年の周期で太陽を回り、6年毎に地球に接近する。地球の軌道と似ていてその一部は地球軌道の内側に入り込んでいる。

 

「オサイレス-Rex」は、ロッキード・マーチン・スペース・システムス(Lockheed Martin Space Systems)社のデンバー郊外のリトルトン(Littleton, Colorado)工場で5年間を費やして開発/完成し、この5月20日にNASAのケネデイ宇宙基地に納入される。

OSIRIS-REx lift into thermal vacuum testing

図4:(Lockheed Martin) 完成した「オサイレス-Rex」を、デンバー郊外にあるロッキード・マーチンの深さ約20 mの熱真空室(thermal vacuum chamber)に入れ、試験をする様子(2016-02-11)。「オサイレス-Rex」は7年間にわたり過酷な宇宙環境にさらされるため、真空にした熱真空炉内で-133℃の状態にし、太陽光を模した強力なライトを当てる試験を22日間繰り返し、耐久性を立証する。

 

ミッションの全体像;—

探査機「オサイレス-Rex」は、人類の抱く疑問、我々はどこから来たか?人類の未来は?の答えを見付けようとしている。40億年前に太陽系が形成され頃に生じた大量の小惑星や惑星になり損ねた小天体が、現在も太陽や惑星に降り注いでいる。「オサイレス-Rex」が目指す「ベニュー」は太陽系の最も初期の姿を止めている炭素を多く含んだ小天体の一つである。「ベニュー」には生命の起源や地球の海につながる分子があると見られる。

もう一つ、「ベニュー」は地球にとって最も危険な小天体で、22世紀後半に高い確率で衝突する可能性がある。探査機「オサイレス-Rex」は、将来「衝突回避ミッション(impact mitigation mission)」の立案で必要となる「ベニュー」の物理的及び化学的組成を調べる役目を担っている。

「ベニュー」のような小天体は、水、有機物、貴金属を含んでいるので、将来技術が進めば採取利用が可能になりそうだ。

今回のミッションの目的はl−

・  「ベニュー」表層のサンプル解析

・  「ベニュー」の地図作成

・  サンプル採取場所の選定

・  天体間の引力でなく、太陽光の(微小な)圧力で起きる軌道の変位の測定(ヤコブスキイ効果/Yakovsky effect)

・  地上観測と「ベニュー」近傍での観測の比較

 

ミッション・スケジュール;—

探査機「オサイレス-Rex」は、フロリダの基地で打上げ前の点検整備が行われ、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)のアトラスV 411型ロケットに搭載される。2016年9月8日午前7:05 (EST)にケープカナベラル空軍基地(Cape Canaveral AFB)41番発射台からに打上げられる。天候あるいは技術上の問題で遅れる場合は34日間の範囲内であれば打上げが可能である。

2023年に帰還予定の7年の長期に渡る「ベニュー」探査ミッションは、アリゾナ大学(Univ. of Arizona)のダンテ・ロレッタ(Dante Lauretta)氏が責任者として指揮をとり、NASAのゴダード宇宙飛行センターが管理するという形で行われる。

打上げ後2年かけて2018年に「ベニュー」近傍に到着、それから高度を5,000m—700 mに保ちながら505日間「ベニュー」周囲を飛行し、「ベニュー」表面の地図を作成する。この結果を検討し、着陸方法と接地点を決める。接地は着陸するのではなく、ロボットアームで表層を叩いてサンプルを吸入採取すると云う方法で行われる。

2019年9月に、およそ60grから2kgのサンプルを採取して地上帰還用カプセル(SRC=Sample Return Capsule)に収納する。探査機は地球への帰還のコースを飛行し始め、2023年9月に帰還用カプセル(SRC)を、空軍の「ユタ試験、訓練区域(Utah Test and Training Range)」に着陸させる。回収したカプセルは「ジョンソン・スペース・センター」に運ばれ、専用の解析装置で検査される。

 

(注)頭文字「オサイレス[OSIRIS]」は、古代エジプトの神話に出てくる死者の世界にいる奇妙な神の名前。「オサイレス-Rex (Osiris-Rex)」と名付けたのは、この神が暗黒世界である宇宙探査に取組むと云う意味を込めて「Origins, Spectral Interpretation, Resource Identification, Security, Regolith Explorer」の頭文字を当て、組合せたもの。

 

サンプル採取;—

サンプル採取の接地点が決まったら、「オサイレス-Rex」はソーラーパネルを Y字型に折り曲げ、接地時に舞い上がる埃がなるべく付着しないようにしながら、静かに降りる。高度約5 mまで降下し、採取アームを伸ばし地面に接触し、サンプルを採取する。この間わずか5秒。採取し終わったらアームを曲げ、採取したサンプルを地球帰還用カプセル(SRC)に収め、「ベニュー」から離れ上昇する。採取サンプルが予定量に満たなかったら再度採取を試みる。

採取が終わったら、採取アームを収納し地球に向けて出発する。

 

サンプル採取の様子を示したNASA作成の動画があるので次のweblocで見ることができる。

OSIRIS-REx-Mission-Anima#487800

 

小惑星サンプルの採取実績;—

2003-05-09に打ち上げられたJAXAの小惑星探査機「はやぶさ」が世界最初に小惑星のサンプル採取に成功している。2005年11月に小惑星イトカワに接地、サンプル採取をして帰路に就き、途中数々の故障に見舞われながら乗り切り、漸く2010-06-13にオーストラリア南部の砂漠に着陸、回収された。採取できたのは数百個の微細な粒子で、専門家により解析された。

 

-以上—

 

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

Aviation Week April25-May 8, 2016 page 35“Asteroid Encounters” by Mark Carreau

EarthSky Jul 18, 2015 “Update on mission to asteroid Bennu

NASA Science “Mission – OSIRIS-Rex””Mission to Bennu”Home webloc.

Lockheed Martin Product Finder “OSIRIS-Rex”

TokyoExpress 2015-07-14改定 “ニュー・ホライソンズ、冥王星とカイパー・ベルト探査を実施”

TokyoExpress 2011-08-08 “木星探査に向けNASA「ジュノー」が出発“

TokyoExpress 2010-11-23 “「はやぶさ」、小惑星のサンプル採取に成功“