2016-11-08(平成28) 松尾芳郎
今年(2016年)中国唯一の航空ショーは、11月1日から同6日まで南部の広東省珠海で開催された。大半は中国の出品だが、軍用機からビジネス機まで約130機が展示され、総面積82,000 m2に達する9箇所の室内展示場を埋め尽くした。外国からはロシア、ウクライナ、フランス、チェコスロバキア、それにアメリカ、カナダからも出品があった。ロシア空軍からは曲技飛行チーム”Russian Knights”がSu-27戦闘機 9機で、また、イギリス空軍からは“Red Arrow”曲技飛行チームがBAE Hawk T-1練習機9機で参加した。
最も注目を集めたのは、開発中のステルス戦闘機J-20の飛行展示だが、わずか1分間のデモ飛行で、やや期待外れだった、との評判。そのほかには戦略輸送機Y-20、世界最大の水陸両用飛行艇AG-600、開発中の大型ターボファンのモックアップ、大型無人機CH-5などの展示が注目を集めた。年率10%前後の割合で増加を続ける軍事予算を背景に、いずれも急速に開発が進んでいる。
これら新鋭機について、以下に写真とともに紹介したい。
図1:広東省珠海で行われた航空ショーで、中国が開発中のステルス戦闘機J-20が2機飛来し、初めて60秒間のデモ飛行を公開した。2機は低空で観客席の前方に姿を現し、その1機が垂直上昇と旋回飛行をして立ち去った。あまりにも短時間でかつ簡単な飛行だったため、西側専門家の間では、その完成度に疑問を呈する意見もあったようだ。
図2:J-20の飛行中の写真。主翼前縁のスラットが展張し、前方のカナードを広げ、低速亜音速飛行中のことを示している。J-20は中国航空機工業(AVICまたはAICC=Aviation Industry Corp of China)の子会社である広東航空機工業(CAC = Chengdu Aircraft Corp)で開発、製造されている。エンジンはロシアNPO Saturn製AL-31F、推力32,000 lbsが2基。このエンジンはSu-27や中国のJ-10戦闘機にも使われている。米国のF-22 ラプターに似た形をしていて2011年に初飛行し、2018年の実戦配備を目指している。
習近平(Xi Jinping)主席にとり、J-20は東シナ海、南シナ海での軍事的優位を確保するための象徴的存在となっている。これまで試作機が10機製作された。
図3:(China AviationDaily ) Y-20大型戦略輸送機。中国航空機工業(AVIC)が開発・製造する大型戦略輸送機Y-20は、今年7月から配備が始まっている。最大離陸重量200 ton、最大有償荷重66 ton。エンジンはロシア・ソロビエフ(Soloviev) D-30KP-2低バイパス比ターボファン、イリューシンIL-76MD輸送機と同じものを使っている。中国が開発中の高バイパス比エンジンShenyang WS-20推力26,000-31,000 lbsが完成すれば、換装する予定。AVICではY-20の民間用貨物機Y20F-100の開発を検討中、と云う。
図4:(Flight Global)AG-600 大型飛行艇の1号機、中国航空機工業(AVIC)の珠海工場で開発・製造する世界最大の水陸両用飛行艇で、展示場まで牽引されてきた。初飛行の予定は2017年。最大離陸重量53.6 ton、航続距離5,000 km、エンジンは中国製のDongan WJ-6ターボプロップ。Zhuzhou (株洲)航空エンジンが作るWJ-6は、中国の早期警戒管制機Y-8に装備中のエンジンで4,250 SHP(軸馬力)の出力。新明和製US-2飛行艇には、離着水速度を下げるため主翼に境界層制御装置を付けているが、AG-600には無い。中国海警局などから17機を受注している。
図5:中国航空エンジン社(AECC=Aero Engine Corp of China)が展示した開発中のターボファンのモックアップ。Shenyang(瀋陽)で開発中の WS-20推力26,000-31,000 lbsのターボファンの実物大模型と思われる。WA-20は2014年からIL-76輸送機に取り付け飛行試験中。GE-Safran合弁のCFM社がA320およびB737向けに作るCFM-56に相当する大きさのエンジンだ。西側専門家の見方では、実用までに未だ10年はかかる、と云う。
図6:(Mail Online 3, Nov. 2016)無人機CH-5。CH-5はCH-4の後継となる無人機(UAV)で、初飛行は2015年9月、翼幅21 m、搭載量は1 ton、 5,000 m程度の中高度で50時間に及ぶ長時間滞空が可能、航続距離は10,000-20,000 kmとされる。8基の空対地ミサイルAR-1を搭載した場合でも32時間の滞空ができる。米国のMQ-9 リーパー無人機に匹敵する性能を持つと云う。
図7:(Chinese Military Review)“雲影(Cloud Shadow)”輸出型無人機UAV。本機はターボファン1基を装備、米国製MQ-9 リーパー無人機とほぼ同じサイズ。ウエポンベイは無いが、翼下面のハードポイントに400 kgまでの各種の対地、対艦ミサイルを搭載できる。
最後にこれら中国製無人機の参考にされたと思われる米空軍の”MQ-9 リーパー“について触れてみよう。
参考図:(US Air Force / General Atomics)米国ジェネラル・アトミックス社(General Atomics)社が作るMQ-9 リーパー(Reaper)は、プリデーターB(Predator B)とも呼ばれ、2001年に初飛行した高性能の多目的無人機。滞空時間は27時間、速度240 kt、上昇限度50,000 ft、でペイロードは1,360 kg、エンジンはハニウエル(Honywell)製 TPE331-10ターボプロップ、出力900 SHP (軸馬力)。翼幅20 m、全長11 m、離陸重量4.8 ton。各種ミサイルなど兵装の他に任務に応じて各種レーダー、レーザー照射機、などを搭載できる。米空軍、米国境警備局(CBP = US Customs & Border Protection)、NASA、英国空軍、イタリア空軍、フランス空軍、などが使っている。2016年からは翼幅を20 mから24 mに伸ばし燃料搭載量を増やし、滞空時間を42時間にした新型が登場している。基地に設置した“地上管制室(GCS=Ground control Station)”で離陸、ミッション、帰還までをコントロールする。これまでに200機ほどが製作されている。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
FlightGlobal “Airshow China”
HIS Jane’s 360 “Airshow China 2016: J-20 cameo generates more questions than answers” by Reuben F Johnson
BBC News 1 November 2016 “Zhuhai air show: China J-20 fighter jet in public debut”
China AviationDaily Oct. 31, 2016 “Photos: World’s Largest Amphibious Aircraft AG600 to Debut at Zhuhai Airshow”
Reuters Nov, 4 2016 “After stealth fighters and jumbo jets, China’s secret weapon: aero engines”
Global Times 2016/10/30 “Airshow spotlights Chinese UAVs” by Huang Ge and Hu Weijia
Chinese Military Review “Sino Avenger, YunYing (Cloud Shadow) UCAV to Debut at zzzzzzhuhai Airshow 2016”
General Atomics Aeronautical “Predator B RPA”
US Air Force “MQ-9 Reaper” Published Sept. 23, 2015