中国・ロシアの海空軍、日米合同演習を睨み活発な動き


2016-11-05(平成28年) 松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部から中国、ロシア両軍の我国周辺における活動が活発化していることについて、以下の通り5件の発表があった。これらは折から実施中の「日米共同統合演習(実動演習)・Keen Sword 17/28 FTX」に合わせた動きで、演習の偵察あるいは妨害と見られる。

日米共同統合演習は、10月30日から11月11日にかけて我が国周辺の海空域、グアム、北マリアナ諸島と周辺海空域で行われている。目的は島嶼防衛、武力攻撃事態への対応処置の訓練。演習参加規模は、陸海空自衛隊から人員25,000名、艦艇20隻、航空機260機、米軍からは人員11,000名、艦艇、航空機の参加規模は明らかにされていない。

 

①      11月3日(木)ロシア海軍のTu-142型対潜哨戒機2機が我国北方領土である択捉島—国後島の間を抜け、本州東岸に添い南下、房総半島沖に飛来、反転し引き返した。航空自衛隊F-15J戦闘機が緊急発進、領空侵犯を防いだ。

②      10月27日(木)中国軍Y-8早期警戒機1機とY-9情報収集機1機が相次いで沖縄本島と宮古島間の宮古海峡の空域を東シナ海から太平洋に飛行、往復した。航空自衛隊F-15J戦闘機が緊急発進、領空侵犯を防いだ。

③      10月20日(木)午前0時半頃中国海軍ジャンカイII級フリゲート2隻とフチ級補給艦1隻が口永良部島の西約170 kmを東進、東シナ海から鹿児島県と屋久島、種子島間の大隈海峡を抜け太平洋に進出した。

④      10月20日(木)午後5時頃ロシア海軍のウダロイI級ミサイル駆逐艦1隻、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦1隻、ボリスチリキン級補給艦1隻、イングル級救難曳船1隻の4隻からなる艦隊が対馬海峡を南下、東シナ海に入った。

⑤      10月19日(水)午後0時頃ロシア海軍のグリシャV級小型フリゲート1隻、ロプチャーII級戦車揚陸艦1隻、アルタイ級補給艦1隻の合計3隻の艦艇が宗谷海峡を東に進みオホーツク海に入った。

 

現在、12月の日露首脳会談に向け、領土問題の解決と経済協力について話し合いが行われているが、その一方でロシア軍部の動きは見過ごせないものがある。経済協力だけが先行して、領土返還が先送りになる、と云うロシア側の食い逃げ作戦が心配なのは、筆者だけだろうか。

 

以下に各事象の関連写真と図を示す。一部を除きいずれも統合幕僚監部の発表による。

 

①    11月3日ロシア軍Tu-142房総半島沖に飛来

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図1:房総半島沖に飛来したツポレフ(Tupolev) Tu-142対潜哨戒機2機のうちの前方機。Tu-95型戦略爆撃機を対潜哨戒機に改造した機体。改造はTu-95の胴体を延長し対潜哨戒用機器を搭載したこと、不整地滑走可能なようにランデイングギアを強化したこと、である。約100機が作られたが、ロシア海軍で使用中は15機とされる。最大離陸重量185 ton、エンジンはクズネツオフ(Kuznetsov) NK-12MPターボプロップ出力14,800 SHP(軸馬力)を4基。

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図2:ロシア海軍Tu-142対潜哨戒機2機の航跡。

 

 

②    10月27日中国軍Y-8及びY-9、宮古海峡を通過往復

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図3:早期警戒管制機Y-8。現ウクライナのアントノフ設計局製An-12型輸送機をライセンス生産したのがY-8輸送機、陜西飛機工業で75+機が生産された。Y-8は輸送機型が基本だが、多くが多様な電子偵察用に改造。その1つが「Y−8洋上偵察機 (Y-8ASA)」である。

機首にある大きなレドームにはイギリス・タレス社から入手した高性能「スカイマスター(Skymaster)」空中捜索レーダーが入っている。中国海軍は4機を保有、東海艦隊の作戦支援任務についている。捜索範囲は1万 mに上昇した場合は320 km x640 kmに広がる。

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図4:上述のY-8輸送機の後継として大型にした搭載量20㌧の輸送機Y-9が開発された。Y-9輸送機を元に電子情報収集偵察機(ELINT=electronic signals intelligence and reconnaissance)に改造したのが写真の「Y-9JB ELINT」。これを統幕監部は「Y-9情報収集機」としている。2012年末から配備されている新型機。機首、前部胴体側面、後部胴体側面、尾翼先端の3箇所、さらに機首下にアンテナがあり、強力な通信妨害機能を持つ。全長36 m、翼幅38 m、最大離陸重量65㌧、航続距離5,700 km、エンジンはWojiang WJ-6C ターボプロップ、5,100軸馬力が4基。

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図5:10月27日の、中国軍の早期警戒管制機Y-8と電子情報収集偵察機Y-9の飛行航跡。

 

 

 

③    10月20日早朝中国海軍艦艇3隻、鹿児島県大隈海峡を東進、夜間撮影のため写真が不鮮明である。

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図6:江凱II(Jiangkai II)級フリゲート「塩城(546)」(054A型)。満載排水量4,000 ton、速力27 kt、2012年6月就役で、同型艦は建造中3隻を含め25隻に達する。フランス、ロシアの技術を導入、中国海軍初の艦隊防空艦。ロシアの9M38M2ミサイルを国産化したHQ-16対空ミサイルを国産VLS 32セルに搭載している。

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図7:ジャンカイII「江凱II」級フリゲート、艦番号576「大慶」(Daqing)は2015年1月に就役した最新鋭艦で北海艦隊所属。本艦は今年6月に東シナ海、南シナ海でロシア海軍と合同で島嶼上陸演習を行った。満載排水量約4,000㌧。現在同型艦は20隻が就役中で北海、東海、南海、の各艦隊に配備されている。対空ミサイル短SAM HHQ-16 は米海軍と似た32セルのVLS(前部甲板)に納められている。この他にYJ-83対艦ミサイル4連装発射機2基を備える。後部にはKa-2ヘリ1機を搭載する。

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図8:(日本周辺国の軍事兵器)ジャンカイII級[045A]フリゲートの鮮明な写真。32セルのVLS(ミサイル垂直発射装置)などが良くわかる。船型の縦横比(L/B)は8.8でかなり幅広、これで航洋性が向上、兵装の搭載が容易になっている。

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図9:フチ(福池)級補給艦8隻のうちの3番艦「太湖(Taihu)」艦番号889。2013年6月就役で北海艦隊所属。度々紹介しているが本級は満載排水量23,000 ton、速力19 kt、航続距離7,000 n.m.@ 18 kt。燃料10,500 ton、清水250 ton、弾薬等の貨物1300 tonを搭載する。優れた外洋行動能力を持つ。前部の補給ポストは給油用、後部はドライカーゴ用ポストである。

 

 

④    10月20日夕刻ロシア海軍艦艇4隻が対馬海峡を南下、これも午後5時過ぎの撮影のためやや不鮮明。

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図10:艦番号564の本艦は今年6月に中国海軍と共同で、東シナ海・南シナ海で島嶼上陸演習を行った。ウダロイ(Udaloy)級駆逐艦はロシア海軍では1155大型対潜艦と呼ばれ、対潜、対空任務に重点をおいた汎用艦である。前級ソブレメンヌイ級駆逐艦の後継となる新型艦。満載排水量8,500トン、最大速力約30 kt、AK-100 100 mm単装砲2門、対空機関砲30 mm CIWS 4基、対空ミサイルSA-N-9 8連装VLS 型8基、対潜ロケット12連装発射機2基などを装備する。太平洋艦隊には4隻が配備中。日米海軍のイージス艦に近い性能を持つ。

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図11:ロシア海軍の956型ソブレメンヌイ級駆逐艦は10隻が就役中で、図の「ブイストルイ(Bystry) 715」はその一隻でしばしば我が国近海に現れる。今年6月の中露合同で行われた島嶼上陸演習に参加している。1980-1994年にかけて作られた。蒸気タービン推進のため維持に手間がかかるようだ。満載排水量8,500 ton、速力33 kt。対空兵装として30 mm CIWS 4基、対空ミサイルSAM発射機2基、6連装対戦ロケット砲2基、さらに主砲としてAK-130型130 mm連装砲2基を持つ。艦後部にヘリ1機を搭載する。

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図12:補給艦「ボリス・ブートマ」でこれもしばしば我が近海に出没する。

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図13:救難曳船は、上陸演習で浅瀬に乗り上げた戦車揚陸艦を引き戻す役を担う。

 

 

 

⑤    10月19日昼ロシア海軍艦艇3隻が宗谷海峡を東進

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図14:グリシャ(Grisha)型は1124型小型対潜艦と呼び、1970年代から90隻以上建造された。グリシャV型はその最新版で28隻が就役中。満載排水量1200トン、速力34 kt、対潜ロケット砲2基 (96発)など強力な対潜装備を持つ。

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図15:ロプチャーI級は、基準排水量2,200 ton、満載排水量3,200 ton、速力18 kt。最大積載能力は450 ton、装甲戦闘車輌25両と揚陸兵員225名を輸送する。現在ロシア海軍で19隻が就役中。ロプチャーII級は、この改良型で「775M」型と呼び3隻が作られた。ロプチャーI級のAK257 57 mm連装砲2基を廃し、AK176 76 mm単装砲1基とし、新たに対空兵装としてAK630 30 mm CIWSを2基装備している。本艦(077)は、やはり6月の中露合同の島嶼上陸演習に参加した。

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図16:アルタイ改級補給艦。

 

—以上—