NASAのジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡、完成近づく


2016-11-16(平成28年) 松尾芳郎

2016-11-18 改訂(誤字の訂正)

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図1:(NASA) ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡の完成予想図。上の黄色の部分が18枚のミラーからなる主鏡で、そこから伸びる支柱の先に副鏡が白く見える。下の紫色の三角形は5層のサンシールドで、これで太陽光を遮り、装置全体を絶対温度50度K(-370°F)以下に保ち、望遠鏡を正常に働かせる。

 

NASA(米航空宇宙局)が20年の歳月と87億ドル(約9,100億円)を投じて作るジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(JWST = James Webb Space Telescope) がいよいよ完成に近づいてきた。現在活動中のハブル宇宙望遠鏡 (HST = Hubble Space Telescope)と違って、一旦打ち上げた後は一切整備しない。従ってJWSTは、打上げ後宇宙空間で完璧に予定通りに展張し、期待通りに作動することが求められている。

ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(JWST) は、直径6.5 mの主鏡を持つ巨大な赤外線望遠鏡である。これに対しハブル宇宙望遠鏡(HST) の主鏡は直径2.4 m。従ってJWSTの直径はHSTの2.5倍の大きさ、主鏡の面積は5倍の広さ(25 m2対4.5 m2 ) になり、観測精度はHSTに比べ100倍に向上する。しかし重量はHSTの半分と軽い。

ハブル宇宙望遠鏡は地球周回軌道上で観測を続けているが、JWSTは前回述べたように、地球の太陽周回軌道の外側の軌道、地球—太陽ラグランジェ(Lagrange)ポイント[L2] に位置し、地球の太陽周回と一致して太陽を回わり宇宙の彼方を観測する。この[L2]ポイントは、地球から太陽と反対側に約150万km離れた点で、太陽と地球の引力と、JWSTの重さが丁度釣り合う点になる。しかし軌道上のわずかなズレを修正するため、2基のスラスターで、時々位置を修正する必要があり、このためミッションの持続期間は10年間と設定してある。

これに対しハブル望遠鏡(HST)は、地表から550 km上空 の軌道上を周回しているに過ぎない。地球—月の距離は40万kmなので、JWSTは地球から月までの距離の3倍以上離れて太陽周回軌道を回る。これまで人類が到達した天体は月までである。従って打上げ後に150万kmを旅してJWSTに行き、整備、改修することは、ほぼ不可能と云う訳である。

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図2:(NASA)ラグランジェ・ポイントの説明図、中心に太陽、やや右(太陽からの距離1億5000万km)に地球と月(月は地球から40万 kmの距離で地球を周回)。地球からさらに遠方( 150万km)の[ L-2 ]点にJWSTが打ち上げられる。ラグランジェ・ポイントは、18世紀の数学者Joseph Louis Lagrangeが発見したセオリー。つまり衛星を含む3個の天体がお互い引力を受けながら、それぞれの軌道を回る場合、太陽、地球に対する衛星の相対位置が安定する点は5箇所ある。[ L-1 ] 点は地球から太陽側に150万 kmにあり、ここでは太陽観測衛星、Discover、Wind、SOHO、ACEなどが太陽の観測活動をしている。JWSTが打ち上げられる[ L-2 ] 点には、ESA(欧州宇宙機関)が打上げた“太陽及び赤外線観測衛星[ハーシェル(Hershel)] ”が駐留している。

 

ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(JWST)は、その巨大なサンシールドで太陽(および地球と月)からの輻射熱を遮り、主鏡と4つの観測機器を絶対温度 50 K (-220℃ または -370°F)以下に常に保つ。

JWSTは、ハブル宇宙望遠鏡とスパイツアー赤外線望遠鏡の後継で、近赤外線観測を主目的にしている。しかし4種類の観測機器で、長波長 (黄赤色) の可視光線から中赤外線 (波長0.6-28.5 micrometer) 迄の範囲を、ハブル望遠鏡やスパイツアー望遠鏡に比べ遥かに高い解像度・精度で観測できる。

赤外線観測の理由は、超遠方にある星々は宇宙の膨張で遠ざかっているので、そこからの光は赤色にシフトして地球に到達、いわゆる“赤方偏移”しているためだ。さらに比較的低温(数千度)の天体は主として赤外線しか放射せず、可視光線での観測は難しい。

 

(注) [ L-2 ] ポイントで観測を続けているESAの「ハーシェル(Herschel)」は、主鏡の直径が3.5 m でJWSTの6.5 m より小型。また測定波長帯域は60-500ミクロンでいわゆる遠赤外線での観測をしている。JWSTは0.6-28.5ミクロンの近赤外線帯域での観測が主で宇宙生成初期の銀河を調べようとしている。

 

JWSTは、2018年10月に南米フランス領ギアナ(French Guiana)からエイリアン5 (Ariane 5) ロケットで打ち上げられる。

JWSTは宇宙の始まり“ビッグバン”の直後の最初の銀河が作られた時代から、我が太陽系の成立に至るまでの宇宙の歴史の研究に役立つはずだ。

JWSTは、計画が始まった1996年頃には“次世代型宇宙望遠鏡 (NGST = Next Generation Space Telescope)と呼んでいたが、2002年9月に、NASA2代目の長官でアポロ計画を主導したジェイムス・ウエブ氏にちなんでJWSTと改称された。

JWSTはNASA、ESA (ヨーロッパ宇宙局)及びカナダ宇宙局(CSA)の国際共同開発の産物である。メリーランド州グリーンベルトにあるNASAのゴダード・宇宙フライトセンター(NASA’s Goddard Space Flight Center)が全体の取り纏めをしている。2002年に開発・製造の担当としてノースロップ・グラマン社(Northrop Grumman)と契約した。打上げ後の運用は“宇宙望遠鏡科学研究所 (Space Telescope Science Institute)”が担当する。

JWSTには、幾つもの新技術が組み込まれている;—

光学望遠鏡部 (OTE = Optical Telescope Element) は、主鏡とその背後支持装置からなる。主鏡はこの望遠鏡の眼に相当する部分で、宇宙空間から放射される微弱な光を捉え、観測機器に送る役目をする。主鏡は18枚の大型6角形ミラーで構成され、折り畳み式で打上げ後に展開される。各ミラーは超軽量のベリリウム(beryllium)で作られ金メッキが施されている。

JWSTの最大の構造物はテニスコート・サイズの5層からなるサンシールドで、これは太陽光の熱から装置を遮蔽する役目をする。サンシールドの太陽に面する側には、“スペースクラフト・バス(Spacecraft Bus)”と呼ぶ部分が取付けられ、JWST全体の通信、位置、姿勢を制御するコンピューターを含む6つのシステムが入っている。

科学計測装置モジュール (ISIM = Science Instrument Module) は主鏡背後支持装置の後面に取付けられ計測装置を納めている。計測装置は、カメラと分光分析計が4つあり、極めて微弱なシグナルを記録することができる。”NIRSpec” と呼ぶ計測装置は、プログラム可能なマイクロシャッターを備え同時に100個の目標を観測できる。また、もう一つの”MIRI” と呼ぶ計測装置は、絶対温度7°K (Kelvins) (華氏マイナス447度) で作動する中赤外線検出装置で、冷却のため超低温冷却装置を備えている。

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図3:(NASA)ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(JWST)の全体像を示した図。

 

既述したが打ち上げ後は一切整備ができないので、打ち上げ前に入念な試験が必要になる。

これから「光学望遠鏡部( OTE )に科学計測装置モジュール( ISIM )を取付け、今年末に振動耐久試験を行う。これはゴダード・宇宙センター(Goddard Space Center, Maryland)で行われる試験で、打上げ時に遭遇する振動に耐えられるかの試験、これは150デシベル(decibels)の騒音に耐える実証試験である。次に、主鏡と計測機器の宇宙空間での超低温を模した耐低温試験で、これはジョンソン宇宙センター(Johnson Space Center, Houston, Texas) で行われる。これら試験が完了したら、主鏡をバスと結合し、フライト・コンピューターおよび通信機器と接続する。そしてサンシールドを取付け、全体として不具合のないことを確認する。

 

主鏡 (primary mirror);—

主鏡の直径は約6.5 m、重さは705 kg、焦点距離(focal length)は131.4 m、観測可能な波長は0.6 – 28.5ミクロン。サンシールド、観測機器を含むJWST全体の重さは約6,200 kgになる。

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図4:(Northrop Grumman) ノースロップ・グラマンのレドンドビーチ(Redondo Beach, Calif.)工場で「光学望遠鏡部(OTE = Optical Telescope Element)」の組立てを完了、NASA ゴダード宇宙飛行センターに納入した(2016-05-24)。写真は下から、複合材製の主鏡支持構造、18枚のミラーからなる主鏡、一番上は支柱の頂部にある副鏡。全体の高さは約6.6 m。科学計測装置モジュール( ISIM )はまだ取付けられていない。

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図5: (NASA/Chris Gunn/popular Science)組立て完了した主鏡。主鏡を上下に横切る2本の棒は折り畳まれた副鏡の支柱。NASAゴダード宇宙飛行センターで 2016-11-02に組立完了した際の写真。これから最終試験に取り掛かる。

 

サンシールド (sunshiled);—

サンシールドはJWSTの主鏡と観測機器類を常時絶対温度45 Kelvins (-233 C) に保持する役をする。太陽光を遮蔽する数値には[ SPF= Sun Protection Factor]が使われ、市販の日焼け止めローションでは8-40位になる。これに対しサンシールドの[ SPF ]は1,000,000にもなる。サンシールドの太陽光側の温度は85度Cにもなるが、裏面の望遠鏡側は-233度Cに保たれる。

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図6:(NASA) ノースロップ・グラマン工場(Northrop Grumman Facility, Redondo Beach, Calif.)で 巨大な5層からなるサンシールドの展張に成功した写真。NASAではサンシールドの組立ては2016-11-02に完了と発表した。サンシールドのサイズは 21.20 m x 14.16 m。

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図7:(NASA)太陽光側の面は温度が85℃ (185°F)になるが、望遠鏡装置がある側は-233℃ (-388°F)に保たれる。

 

観測機器 (scientific instruments);—

科学計測装置モジュール ( ISIM = Integrated Science Instrument Module)に取り付けられる各種観測機器は次の通り。

NIRCam ;「近赤外線カメラ (Near-Infrared Camera)」、アリゾナ大学が用意した。

NIRSec ;「近赤外線分光分析計 (Near-infrared Spectrograph)」、ESAがNASA / GSFCからの部品供給を受けて製作した。

MIRI :「中赤外線計測装置 (Mid-infrared Instrument)」、ESAとNASAジェット推進研究所(JPL = Jet Propulsion Laboratory)が共同で開発した。

FGS ;「精密誘導センサー / 近赤外線撮影・連続波長分光分析計 ( Fine Guidance Sensor / Near Infrared Imager and Slitless Spectrograph) 、カナダ宇宙機構が製作した。

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図8:(NASA) 主鏡の支持機構背面に取り付ける[ ISIM ]の中に収める観測機器類の配置図。

 

打上げとその後3ヶ月の推移についてNASAは次のように説明している;—

  1. 最初の一時間:エイリアン5・ロケットで打上げられ、8分後にJWSTは分離され、30分後には太陽電池パネルが開く。
  2. 最初の1日: 発射後2時間で地球との通信用アンテナを展開し、10時間半後にJWSTは月の地球周回軌道を通過、発射後12時間目にJWSTは小型ロケットを噴射して最初の軌道修正を行う。
  3. 最初の1週間:発射後2.5日後に2度目の軌道修正をする。軌道修正が終わったら、機器の展開の操作を始める。先ずサンシールドの収納パレットの前後を開き、続いて打上げに備え固定していたサブシステムのロックを解除する。次に望遠鏡本体の展張にとりかかる。これには展張式タワーを伸ばし、望遠鏡と”スペースクラフト・バス” の間隔を2 m に広げる。これが終わったら折り畳んであったサンシールドを展開する。主鏡の両側を開き、副鏡の位置決めが完了するのに6日かかる。
  4. 最初の1ヶ月:サンシールドの遮光で望遠鏡部分が十分冷えたら、電子機器を始動しソフトウエアを立ち上げる。1ヶ月に近くたった頃、JWSTが [ L-2 ]点の周辺に落ち着くよう軌道修正を行う。望遠鏡が十分冷えても、科学計測機器モジュール ( ISIM ) は、発射後宇宙での結露を防ぐためまだ温められた状態にある。
  5. 最初の2ヶ月:発射後33日目に「精密誘導センサー (Fine Guidance Sensor)」の作動を開始、次に「NIRCam」及び「NIRSpec」を作動させる。最初にNIRCamで撮影するのは星々の密集した領域で、これで望遠鏡と計測機器の作動状況を確認する。しかし主鏡の正確な位置決め調整は終わっていないので画像は不鮮明のままだ。44日後に主鏡を構成する小型ミラー18枚の位置調整を行い、主鏡として使えるようにする。副鏡の調整もこの時に行う。
  6. 最初の3ヶ月:発射後60 – 90日頃に各小型ミラーが全体として1枚の主鏡として作動するように最終調整を行う。また、同時にMIRIの作動をスタートさせる。そして3日月目の終わりに技術的に価値のある最初の鮮明な画像を取得、地球に送信する。
  7. 最初の4−6ヶ月:打上げ85日後頃、NIRCamの性能を最大限発揮できる状態に仕上げる。そして6ヶ月後からは、宇宙の科学観測業務を実施する。

 

最後にNASAが公開したJWSTに関するVideoを2件紹介する。

  1. 2014-04-08公開されたJWST打ち上げ後の宇宙空間での展開の順序を紹介したノースロップ・グラマン社製の「James Webb Space Telescope Deployment in Detail」、約5分18秒、

 

https://youtu.be/bTxLAGchWnA

 

  1. 2016-11-02公開したJWST全般の実情を紹介したNASA作成の「Top Ten Facts about the James Webb Space Telescope」約4分半、

 

https://youtu.be/-MVAm89KBfE

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

NASA Nov, 02, 2016 “James Webb Space Telescope”

NASA James Webb Telescope “How does the Webb Contrast with Hubble?”

Northrop Grumman Capabilities “James Webb Space Telescope”

Northrop Grumman News Releases May 24, 2016 “NASA’s James Webb Space Telescope Reaches Major Milestone in Path to Launch with the Completion and Delivery of Optical Telescope Element”

Popular Science Nov. 4, 2016 “After 20years, NASA finally finished building the James Webb Space Telescope” by Knvul Sheikh

Universe Today 23 Dec, 2015 “James Webb Space Telescope’s Giant Sunshield Test Unit unfurled First Time” by Ken Lremer