検討中の国産次世代戦闘機「F-3」は米空軍の「F-22」より大型?


2016-12-15(平成28年) 松尾芳郎

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図1:(防衛装備庁)防衛省・防衛装備庁が平成28年11月に行った「技術シンポジウム2016」で公開した「F-3」戦闘機試案(26DMUか?)。スリムな側面、傾斜角の大きい尾翼、広い翼面積、の特徴を示している。

 

公表されている我国の次世代型戦闘機「F-3」は、米国のロッキード・マーチン製「F-22」ラプター戦闘機より大きくなるかも。アビエーションウイーク誌電子版(Dec 9, 2016)が伝えた。

我が防衛省が発表した概念設計によると、兵装搭載量を大きくし滞空時間を延長するのに主眼を置いた機体で、「F-22」より全長が長く翼幅はかなり大きくなる。しかしレーダー反射を少なくするため側面は薄くスリムにしている。これが「26DMU」の全体像だ。「26DMU」とは「平成26年(2014年)デジタル・モックアップ」の略称。

「26DMU」の特徴は;—

機動性より航続距離と兵装搭載を優先させたこと。

胴体内の兵装庫(weapon bay)は2つあり、英国が開発中の空対空ミサイル「メテオール(Meteors)」を3基ずつ搭載可能なサイズにする。

3-D推力偏向装置(3-D thrust vectoring)の採用を検討中。

「26DMU」では、特にMBDA開発の空対空ミサイル「メテオール」あるいは国産の同級ミサイル「AAM-4B」の搭載を意識した設計となっている。ウエポンベイからミサイルを発射する風洞試験では、ラムジェット推進の「メテオール」のモデルが使われた。「メテオール」の開発計画は英国と日本が主導し、シーカーには日本製が使われる。

日本政府は「F-3」戦闘機の開発是非を2018年4月に決める予定で、開発が決まれば2030年代に配備したいとしている。航空自衛隊では現在の「F-2」戦闘攻撃機の後継として「F-3」の実現を望んでいる。

ミサイル発射風洞試験に使われた「26DMU」の模型はその前身「25DMU」と良く似ているが、空力的な理由で主翼付け根にやや膨らみが付いた。主翼前縁は直線になり、胴体内部の兵装庫/ウエポンベイは2箇所で変わらず、それぞれ大型ミサイル3基を搭載し、サイドベイには短距離ミサイル1基ずつを積める。幅広で薄い胴体と大傾斜角の尾翼でステルス性が向上し、大型でアスペクト比の大きい主翼で高い巡航性能と航続距離の延伸が図られている。

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図2:(Aviation Week / Yuu Kuwamoto) ミサイル発射の風洞試験に使われた「26DMU」の模型。模型は裏返しで左のウエポンベイが開いた状態、ここからフィンを短くした「メテオール」ミサイルを投下する試験をした。

 

MBDA製「メテオール」ミサイルは、F-35に搭載するためフィンを短く切り詰めた型を開発中である。ウエポンベイは、「メテオール」3発を、ややずらして並行に格納できるようになっている。また空自の三菱電機製「AAM-4B」空対空ミサイルは長さが「メテオール / 3.7 m」とほぼ同じ3.67 mなので、こちらも搭載可能となる。

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図3:(MBDA) 「メテオール」は固体ロケットブースターで発射され、ラムジェット推進でマッハ4の高速巡航し目標に向かう。重量:190 kg、長さ:3.7m、直径:17.8 cm、射程は100 km以上。詳しくは“TokyoExpress 2014-08-05 作成「欧州製“ミーテイア”空対空ミサイルに日本製シーカーを搭載」“に説明済み。

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図4:(防衛省)空自の「99式空対空誘導弾(改)」「AAM-4B」は、弾頭のシーカーがAESAに変更され、これで目標を捕捉し追尾する“自立誘導距離”が基本形「AAM-4」の1.4倍になっている。平成22年度(2010)から配備が始まっている。全長3.66 m、操舵翼幅77 cm、弾体直径20.3 cm、重量222 kg、射程は100 km以上、速度マッハ4-5。詳しくはTokyoExpress 2016-10-19作成「日本の次期戦闘機“F-3”の開発構想固まる」3ページに説明済み。

 

 

将来戦闘機「F-3」は、現用の「F-2」の任務を代行するので、対艦攻撃能力も考慮されている。しかし、間も無く完成する空自の空対艦ミサイル「XASM-3」は全長が長いためウエポンベイには格納できない。

 

(注)空対艦ミサイル「XASM-3」は2016年度完成を目指している超音速空対艦ミサイル。固体燃料ロケット・ラムジェット統合推進システムを採用、マッハ3-5の超音速で飛翔する。またステルス性形状でレーダー反射面積を小さくしている。目標捕捉のためアクテイブ・パッシブ・レーダー・ホーミング方式のシーカーを搭載、相手側の電子攻撃への耐性を高めている。全長5.52 m、直径35 cm、射程150 km以上、重量900 kg。

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図5:(防衛省)航空自衛隊「F-2」戦闘機に取り付けられた三菱重工製の新型超音速ミサイル「XASM-3」(白色)。「F-2」には翼下面のハードポイントに4発搭載できる。2016年度に日本海佐渡沖から島根県沖に広がる「G空域」で、退役護衛艦“しらね”を標的に試射が行われる予定。

 

防衛装備庁 (ATLA = Acquisition, Technology and Logistics Agency) は今年11月に行なったセミナーで、「F-3」と「メテオール」の同縮尺の試験用モデルを公表した。これから算定すると「F-3」は、全長はエンジン排気ノズルの後ろまで伸びる尾翼を含み20 mに近くなり、翼幅はほぼ16 mである。米国の「F-22」ラプターは、全長18.9 m、翼幅13.6 m、空虚重量は19.7 tonである。従って「F-3」の方が大きくなると予想される。

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図6:(Aviation Week / Yuu Kuwamoto) 「26DMU」の胴体下面左側のウエポンベイ。中に「メテオール」級ミサイル3発を収納できる。エンジン・エア・インレット(空気取入れ口)は「25DMU」から変更されほぼ正方形に近くなっている。

 

2基のエンジンは、IHIが開発する推力33,000 lbs級の低バイパス比ターボファンで、2018年に完成する予定だ。

 

(注)「F-3」搭載用エンジンについては“TokyoExpress 2016-10-19 作成「日本の次期戦闘機”F-3”の開発行構想固まる」“の6-7ページに説明済み。

 

この新型エンジンはタービン入口温度(TIT)を1,800℃ (3,270°F)までに高温化して、高出力、全体を細く、抵抗を少なくした設計、すなわち「ハイパワー・スリム・エンジン (HSE)、を目指している。

1,800℃に対応するために;—

①  世界最高温度レベルの国産耐熱材料を高圧タービン及びデイスクに採用

②  新しい冷却構造を燃焼室及び高圧タービン動翼・静翼に採用

③  コンプレッサー全段にブレード・デイスク一体型の「Blisk」構造を採用

排気ノズルは3次元推力偏向装置とする予定で、すでに基本構造は決定し、材料、アクチュエーター、ペダルを組み込んだ試作品を完成済みで、これを基に目下実用型の開発を急いでいる。

推力偏向ノズルは排気方向を中心軸から20度まで変えることができる。この推力偏向ノズルは機動性を向上させるためではなく、「F-3」ではステルス性改善のため動翼面積を小さくするが、これを補完する目的で採用する。この研究は2016年から開始し、2020年末に結論を出し、これに基づき舵面のサイズを決める予定、と云う。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Network Dec 9, 2016 “Proposed Japanese Combat Aircraft is Bigger Than F-22”by Bradley Perret

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TokyoExpress 2016-10-19 「日本の次期戦闘機“F-3”の開発構想固まる」

TokyoExpress 2014-08-05 「欧州製“ミーテイア”空対空ミサイルに日本製シーカーを搭載」