エアバス、将来型機にモジュラー・キャビンを提案


2016-12-22(平成28年) 松尾芳郎

 

エアバスはこの程全く新しい客室仕様を旅行者とエアラインに提案した。「A3 置換え方式 (A3 Transpose concept) 」と呼ぶこの方式は、長い円筒形の胴体内を必要に応じ部分的にしかも簡単に変更可能とする案である。これにより、ビジネスクラスとエコノミークラスの席数の比率を変更し、あるいは一部を貨物室に変更する作業が、フライト毎に簡単に行えるようになる。

旅客がエアラインを選別する基準は何だろうか?有名レストランの豪華な食事か、それともスターバックス風の簡単な食べ物か?ビジネスマンが飛行中に望むのは運動できるジムなのか、それともゆったりくつろげる入浴設備なのか?エアバスはその答えを出そうとしている。

エアバスでは、シリコンバレー(Silicon Valley) 支所のA3報告を元に、多様な客室内装をモジュール化して、必要に応じて迅速に内装を変更する試験を計画している。

「A3 置換え方式 」は、当初広胴型貨物機を使い内装モジュールを取付け、旅客、エアラインの評価を受けてから、将来の広胴型旅客機に適用したい考えだ。

エアバス A3 客室モジュールの置換え方式の要件とは;—

l   貨物機の内部に簡単に脱着可能なこと

l   モジュールの外殻構造は構造上の設計要件を満足していること

l   エアラインの収入増につながる装置であること

l   モジュールは、レストラン、コーヒーショップ、運動ジム、寝室、遊技場、などを含む

l   モジュール内装は、仕様変更が短時間で済むよう設計すること

モジュール置換え方式は、エアラインにとり、新しい旅客収入の道を開くだけでなく、客室仕様をより簡単に頻繁に変更できる手段を提供するものになる。

エアバスが作成した表題「How Airbus A3’s Transpose Cabin Concept Works」(2016-12-13公開)のビデオに概要が示されている。長さは2分弱。

 

https://youtu.be/dx8i0kiUYVo

 

現在は、客室の仕様を僅かでも変えようとすると機体のシステム上様々な問題に遭遇する。例えばラバトリーの位置を僅か数十センチ移動しようとしても、法規制のため構造解析や諸々の試験が必要になる。

「A3 置換え方式」は、新型の機体を必要としないし、空港の施設の変更も必要ない。大型貨物機はすでにモジュール構造に適合できるように作られており、乗客支援のためのシステムを追加するだけで新方式に対応できる。

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図1:(Airbus)「 A3 置換え方式」では、客室は様々な異なるモジュールで作ることができる。

 

「A3 置換え方式」でモジュールを製作するためには、それぞれの機種に適合するよう基本的な設計基準を設定しなくてはならない。ギャレイ・メーカーはギャレイを含むキッチン全体のモジュールを設計製造することになるし、シート・メーカーだと長距離フライト用の寝台付きモジュールを準備し、短距離便用にすぐに取り外せるよう設計する必要がある。

「A3 置換え方式 (A3 Transpose Concept)」計画の主席技師ジェイソン・チュア(project Executive Jason Chua)氏は「最も重要なのは各モジュールの互換性を最大にすることだ」と話している。各モジュールの外殻には、予め構造上の要件とシステム上の要件を組み込んで置かなくてはならない。各サプライヤーはこの外殻の中に必要な装備、例えばベッド、シート、遊戯室、などを組み込むことになる。

ベースとなる貨物機のドアはそのまま残し、新たに乗客の安全性確保の装備を設けることになる。完成したモジュールは貨物ドアから搬入し、強化した貨物レールに固定する。貨物機なので客室の窓はないが、その場所には新開発のデイスプレイが取り付けられビデオ映像を楽しめるようにする。

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図2:(Airbus)基本的モジュールの外殻は機体の構造要件を満たし、非常用酸素マスク、各システム用の電源など、共通システムを予め備えておく。

 

客室内全てをモジュールで構成することもできるが、一部を在来のままにしておくことも可能だ。例えば客室前部は従来のギャレイとラバトリー区域に充て、その後方をモジュール構成にする、といった具合である。

またレストラン・モジュールは、離着陸時には乗客用の座席として使えるようにすることも可能である。

「A3 置換え方式」についてこれから1年掛けて次の検討をする;—

①   モジュール客室システムの製作、運用に関わる技術的検証をする

②   乗客が新システムについてどの程度評価するのか、検証する

③   この構想がどの程度ビジネスとして成り立つか結論を出す

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図3:(Airbus)レストラン・モジュールの1例。

 

エアバスでは、「A3 置換え方式」の長さ50 mの客室モックアップを製作中で、内部に2個のモジュールを取付けて模擬飛行を行う。これで機体側のシステムとの適合性を検証する。次に、3年後を目処に実際の貨物機を使いモジュールを取り付け、飛行試験をする予定にしている。

実機試験で検証を行ってからA3方式の航空機の設計に入りたい、としている。

旅客機の客室は、伝統的に前向きシートの列が配置され、それに対応して電気系統、区域毎の温度管理、それにテレビ・音楽などの娯楽システム(IES = inflight entertainment system)の配線がされ、大変複雑になっている。

「A3 置換え方式」では、機体側の接続部分はずっと簡略化して、複雑な配線や分岐部分はあらかじめモジュール側に組み込むことにする。このシステムのため、内装品のサプライヤーは従来の個々の設計に加えモジュール化の設計に力を入れなければならない。

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図4:( Airbus)モジュールの出し入れは貨物ドアから行い、貨物室床のラックに取り付ける。

 

この考えでは、現在機体側にある各種システムをモジュール側に移すことになるので、機体設計に関わる法的基準の見直しが必要になる。

脱着可能なモジュールとするため、既存の客室に比べ容積がやや小さくなり、重量も増加するが、それでも客室仕様変更の容易さや乗客の嗜好に対応可能と云う利点は大きい。A3 方式では、乗客は単に座席にいるだけでなく、地上と同じくレストランで食事を楽しむことができる。

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図5:(Airbus)ベッド・モジュールの例。

 

A3構想はエアバス内だけでなく業界全体にとっても革命的な考えである。この構想を進めるに当って、できるだけ早く、透明性を持って、実証試験をする、ことが肝要である。

「A3 置換え方式 (A3 Transpose concept) 」は、エアバスが挙げる利点だけでなく、大手エアラインがしばしば経年機を対象に実施する「客室内装一新工事 (Aircraft Interior Refurbishing)」にも影響がある。この工事は通常数十日の期間と高額の費用をかけて行われるが、自社工場ではまかないきれず専門業者に委託することも多い。この作業も「A3置換え方式」を利用するとはるかに簡単にできそうだ。これにより機体の稼働率が向上することも期待できる。

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Forbes.com Dec 14, 2016 “Airbus Reveals New Modular Cabin Concept that could Change How We Fly” by Grant Martin

Aviation Week Network Dec 13, 2016 “Airbus Modular Cabin Promises New Passenger Experiences” by Graham Warwick