PW1000G ギアード・ターボファン、遅れを取戻し生産が軌道に


2016-12-25(平成28年) 松尾芳郎

2016-12-27  改訂(図3一覧表の誤りを訂正)

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図1:(Bombardier.com) 今年11月28日にラトビア(Latvia)の航空会社「エア・バルチック(AirBaltic)」に引渡されたボンバルデイアCS300型機。同社は本機を19機発注済みでこれはその初号機となる。CS300型機はPW1500Gギアード・ターボファン推力23,300 lbsを装備、100-150席クラスの在来型機に比べ運航費で15%、燃費で20%勝る。受注機数はCS100型(100席級)が123機、大型のCS300型(130席級)が237機、合計360機となっている。

 

今年1月にプラット& ホイットニー社(P&W = Pratt and Whitney)が送り出した新型エンジンPW1000G ギアード・ターボファンは、生産の遅れなどで最初からつまずいた。しかし、年末にかけて事態は著しく改善され、引渡し台数は増え続け、信頼性も極めて高く機体の定時出発率は99%以上になっている。

年初の生産遅れを挽回するためにP&W社が特に力を入れたのは、最新の技術で作るアルミ・チタン製のファンブレードの生産だ。

新ファンブレードは製法が複雑なため今年前半では生産が予定通りに行かず、エアバスA320neo用のPW1100G及びボンバルデイアCSeries用のPW1500Gエンジンの生産が大きく遅延した。この改善のために今年は諸々の施策が行われた。

今年11月末までに約30機のPW1000G付きの機体が引渡し、あるいは完成しているが、大半はA320neoだ。ボンバルデイアCSeriesの引渡し機数は、スイス国際航空向けのCS100が4機、エア・バルチック向けのCS300の1機の計5機に止まっている。

P&Wの国内のファンブレードの生産拠点は、ランシング(Lansing, Michigan)にあるAutoAir 工場で、目下ここの生産品質と生産能力の拡充に力を入れている。さらにP&W社の親会社「ユナイテッド・テクノロジー(UTC = United Technology Corp.)のグレッグ・ヘイズ(Greg Hayes)会長は「ファンブレード製造を準備中のシンガポール工場で来年(2017)4月からはフル生産を開始、さらに1年後には日本のIHI社でも生産を開始する予定」と話している。

シンガポール工場では、今年初めに(鍛造ブレード素材の)機械加工と前縁にチタンを貼り付けた試作1号のファンブレードを完成している。

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図2:(Pratt & Whitney) PW1000G ギアード・ターボファンのハイブリッド・アルミ合金製ファンブレード。前縁にチタンを貼り合わせ雨滴等による摩滅を防いでいる。P&Wとアルコアは2009年から開発に取り組んできた。

 

PW1000Gのファンブレードは、三菱MRJ用のPW1200Gを除き、世界初のアルミ鍛造で前縁にチタンを貼り合わせたハイブリッド金属製である。P&Wはアルコア(Alcoa)社と協力して開発を続けてきたが、2014年7月にアルコア社と、このブレード素材を10年間にわたり11億ドルで製造・納入することで合意した。

ご存知の通りPW1000Gは、低圧タービン(LPT)の回転速度を減速ギアで3分の1に落としてファンを回す方式になっている。このため、ファンに加わる「力・引張り応力 (tensile strength) 」は、ギアなしのファンでは200,000-400,000 psiであるのに対しGTFでは半分以下の100,000-150,000 psiになる。加わる力が小さくなるためファンに使う材料の選択肢が増えることになる。

この低い引張り応力に対応するのがアルコア製の新しい鍛造加工のアルミ合金 (Aluminum-Lithium Alloyまたは7000系列 Alloy ) である。これまでファンの材料はチタン合金か炭素繊維複合材に限られていた。炭素繊維複合材はチタンより軽いが価格ははるかに高い。

アルコア製の新アルミ合金は炭素繊維に比べずっと安いのに加え、ブレード後縁を薄くできるので空力効率が1%程度良くなる。さらにチタン合金と比べても価格と重量がかなり低減できる。

P&W・アルコア共同開発の製法は、ファンブレードの形状をそのまま精密鍛造する方法で、合金を微細構造に仕上げ、これで高い引張り強度と疲労強度を得ている。

新しいファンブレードは、前縁にチタン合金を貼り付けて雨滴、氷晶や砂塵による劣化を防いでいる。

P&WはPW1000Gエンジンの生産を軌道に乗せるために、以前GE Aviationに勤めその後シコルスキー(Sikorsky Aircraft)の役員になったシェーン・エデイ(Shane Eddy)氏を迎え、担当副社長に任命した。UTCのヘイズ会長は「新陣容で2017年には年間350-400台のエンジンを製造する」と述べている。今年は残り少ないが年末までに、予定より50台少ない150台が完成しそうだ。

ファンブレードは、今年初めは完成検査に合格するのは30%以下だったが、製造品質の改善努力で今では75%が合格するまでに向上している。

PW1100G-JMを搭載するA320neoシリーズは26機が完成、ルフトハンザ航空に初号機を納入したのを皮切りに7社で運航、累計飛行時間は2万時間を超えている。これに引渡し済みのボンバルデイアCSeries型5機を加えた運航実績では、燃費はP&Wが作る同推力のIAE V2500エンジンを基準に比較すると16%良くなっている。

ルフトハンザでA320neo型機の就航が始まった時期に問題となった「エンジン始動時のアイドル運転時間を長くする」件はすでに解決した。関連するソフトと部品を改良して必要な始動時間を標準的な値に改善している。この問題で中東のカタール航空は引渡し予定のA320neo 4機の受取りを拒否したが、A320neoを30機、A321neoを16機の発注は変更していない。しかしその後ボーイング737-8型機を60機発注して、エアバスに反発する姿勢を示している。

2017年になると直ぐにブラジルのエンブラエル(Embraer)E190-E2型機向けのPW1900Gを出荷する予定だ。

ロシアのイルクーツ(Irkut) 製MS-21型機向けのPW1400Gは2号機用が間も無く引き渡される。

三菱MRJ90型機に取付けるPW1200Gは、現在型式証明取得の試験を行っている段階でファンブレードには上述のアルミ・チタン製の小型版を使用中。しかし、生産型は性能向上と抗堪性を高めるため、在来型のチタン合金製のブレードになる。MRJ90はこれまでに4機が完成し、1号機が9月28日、4号機が11月18日、2号機が12月19日、の合計3機がそれぞれモーゼスレイク(Moses Lake, Washington)の空港に到着、証明取得のための飛行試験に入っている。3号機も年内に空輸され、計4機が現地に揃い2018年中頃に予定する型式証明取得の試験飛行を続ける。

末尾に2016年11月現在のPW1000G ギアード・ターボファン一覧表を付ける。

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図3:(Pratt & Whitney) PW100G系列エンジンの受注機数はエアバスA320neo系列機の分が大半を占める。

 

—以上—

 

本稿作成の際参照した主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Dec 5-25, 2016 “Getting There” by Guy Norris

AIN online July 28, 2014 “Pratt, Alcoa Pioneer use of Aluminum Fan Blades” by Thierry Dubois

FlightGlobal 22 April, 2015 “P&W happy withPW1000G’s Bird-strike Performance” by Greg Wldrom

Aviation Week Network Feb 16,2016 “Pratt & Whitney Unveils “Singapore-made” GTF Blades” by Guy Norris

Alcoa News July 14,2014 “Alcoa Announces Jet Engine First in $1.1 Billion Supply Agreement with Pratt & Whitney

TokyoExpress 2016-05-07「エアバス、A320neo用エンジンの納入遅れに苦慮」

TokyoExpress 2016-05-10「A320neoのエンジン問題と解決策/P&Wレダック社長語る」

TokyoExpress 2016-05-30 「P&W、エンジン大増産へ/エアバスに改良型エンジンを納入」