今秋3度目、中国軍機6機による宮古海峡通過


2016-12-12(平成28年) 松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部の発表(28-12-10)によると、中国軍機6機が12月10日(土)午前から昼頃に掛けて東シナ海から沖縄本島—宮古島間の宮古海峡空域を通過、西太平洋に向け飛行した。これに対航空自衛隊那覇基地第9航空団所属のF-15J戦闘機が緊急発進、領空侵犯を未然に防いだ。

中国機は次の通り。

Su-30 戦闘機    2機:太平洋に向け通過した後、反転大陸方面に引返した。

H-6 爆撃機     2機

Tu-154 情報収集機 1機

Y-8 情報収集機   1機

 

H-6爆撃機2機、Tu-154情報収集機1機並びにY-8情報収集機1機は、その後先島諸島の南の太平洋側を経て、バシー海峡方向に向けて飛行したことを確認した。

 

これに関連して中国国防部は12月10日に ”China Military” を通じ、英文で次の発表を行った;—

「12月10日午前、中国軍航空機が、宮古海峡空域を経て西太平洋上での定例訓練に赴いたところ、日本自衛隊は2機のF-15戦闘機を出動させ、中国側航空機に対し、近距離での妨害を行うとともに妨害弾 (jamming shells) を発射し中国側航空機と人員の安全を脅かした。中国軍パイロットは直ちに必要な対抗措置を取り、訓練を行った。宮古海峡は国際法上自由航行が認められた空域であり、そこで妨害を受ける理由はない。日本のF-15が採った行動は、危険で倫理に反し、国際法上認められた飛行の自由を破壊するものだ。このような日本空軍及び海軍による妨害行為はこの数年頻繁に行われており、不測の衝突を招く要因となりかねない。日中関係を維持するため、日本側の自制を要求する。」

 

これに対し防衛省は、12月11日に次の通り発表し、中国側の発表を全面的に否定した;—

「本件に関し対領空侵犯措置を実施したF-15戦闘機は、中国軍用機の状況の確認及び行動の監視を国際法及び自衛隊法に基づく厳格な手続きに従って行ったところであり、中国軍用機に対し、近距離で妨害を行った事実はなく、妨害弾を発射し中国軍用機とその人員の安全を脅かしたという事実も一切ない。このように事実と明らかに異なることを中国国防部が一方的に発表したことは、日中の関係改善を損なうものであり、極めて遺憾である。」

また12月12日に菅官房長官は記者会見で「中国側の本件に関する発表は事実無根であり、中国側に厳重抗議する」とコメントした。

 

専門家筋は「中国側が自分たちの行動を正当化するため事実を歪曲し、日本に責任を負わせようとするいつもの中国流のやり方だ」と観ている。

 

以下に関係写真を示す。

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図1:(China Military)中国国防部が”China Military”上に発表したH-6K爆撃機とSu-30戦闘機の写真。これは今年9月25日“環球時報”に掲載されたものと同じ写真。

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図2:(統合幕僚監部)12月10日の中国軍機6機の行動航跡を示す。①Su-30戦闘機2機は一旦太平洋に出た後、反転して大陸方面に引き返した。他の4機は先島諸島南方を南西に向かい、演習を行ったのちにバシー海峡を西進、大陸方面に飛行した。

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図3:(Xinhuanet)中国海軍所属のSu-30戦闘機。統幕発表の写真は不鮮明なのでこれを掲載した。Su-30MKK型は米空軍F-15E型に匹敵する高性能多目的戦闘機。中国空軍が保有するのはロシアから輸入したSu-30MKK型76機。同海軍はSu-30MKKを改良し脚を強化し重量を増やしたSu-30MK2型機を24機運用する。Su-30MK系列機はサターンAL-31Fアフトバーナ付きターボファンエンジン2基(推力は各28,000 lbs)を装備、8 tonの各種ミサイルを搭載してマッハ2で飛行可能。燃料搭載量は5,200 kg、4.5時間の戦闘飛行が可能、戦闘行動半径は3,000 kmに達する。

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図4:(統合幕僚監部)今回の撮影ではなく、今年9月 25日に宮古海峡を通過する中国空軍H-6K型爆撃機の内の1機。今年11月25日に続き、この3ヶ月間に3回目の出現となる。H-6爆撃機 は1969年から配備が始まり派生型を含み現在120機ほどを運用中。原型はロシアのツポレフTu-16で、西安航空機で国産化。当初は核爆弾(20 kt級)用であったが、現在は長距離巡航ミサイルDF-10Aの空中発射型KD-20(射程2,000 km)を6基搭載するよう改造し使用中。乗員3名、全長35m、翼幅34.4m、最大離陸重量76ton、エンジンはロシア製D30KP-2をリバース・エンジニアリングで国産化したWS-18を2基装備。巡航速度790km/hr、戦闘行動半径3,500 km、兵装搭載量は9トン。コクピットを含む電子装備もTu-16から大幅に改良、性能が一新している。現在は西太平洋上で日本、グアムを目標にした長距離巡航ミサイルの発射訓練を行っている。

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図5:(統合幕僚監部)ツポレフTu-154旅客機を中国が輸入、電子偵察機に改造したのが「Tu-154情報収集機」。エンジンはロシア製D-30KUターボファン推力23,000 lbsを3基、航続距離6,600 km。11月25日宮古海峡に現れた機体とは機番が異なる。

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図6:(統合幕僚監部)早期警戒管制機Y-8。ウクライナのアントノフ設計局が作ったAn-12型輸送機を中国がライセンス生産したのがY-8輸送機。1981年から陜西飛機工業で75+機が生産された。Y-8は輸送機型が基本だが、多様な電子偵察用に改造されている。写真はその一つ、11月25日宮古海峡を通過したのと同じ「Y-8G」型のようだ。 全長36 m、翼幅38 m、最大離陸重量65㌧、航続距離5,700 km、エンジンはWojiang WJ-6C ターボプロップ、5,100軸馬力が4基。

 

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