2017-07-10 (平成29年) 松尾芳郎
防衛省統合幕僚監部の[29-07-06]発表によると、ロシア海軍艦艇16隻が2つのグループに分かれて、相次いで北海道北端の宗谷海峡をオホーツク海から日本海に向けて航行した。本件について我国のマスコミは折からの北方4島共同開発の話に配慮してか、一切報道していない。
(1) 7月5日(水)午前5時から7時にかけて、宗谷岬北北東40 kmの海上を西に向かうウダロイI級駆逐艦2隻、グリシャV級小型フリゲート1隻、グリシャIII級小型フリゲート1隻、及びタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇4隻の合計8隻を発見。
(2) 7月5日(水)午後3時から5時にかけて、宗谷岬北北東40 kmの海域を日に向かうスラバ級ミサイル巡洋艦1隻、ソブレメンヌイ1級ミサイル駆逐艦1隻、ロプチャーI級戦車揚陸艦1隻、ロプチャーII級戦車揚陸艦1隻、タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻、ナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇1隻、及びグリシャV級小型フリゲート1隻の合計8隻を発見。
(1)、(2)の艦艇の合計16隻はいずれも宗谷海峡を西に向かい、日本海に入ったことを確認した。
これら艦艇を発見、追尾したのは八戸基地海上自衛隊第2航空群所属の「P-3C」哨戒機、大湊基地第7護衛隊所属の護衛艦「せとぎり」、及び余市派遣隊の第1ミサイル艇隊「くまたか」である。
図1:(海上自衛隊)護衛艦「せとぎり」((DD-156)は「あさぎり」型8隻のうちの6番艦。1990年2月就役。基準排水量3,500 ton、満載排水量4,900 ton、速力30 kt、兵装は62口径76 mm単装砲1門、74式アスロック対潜弾連装発射機1基、対空機関砲20 mm CIWS 2基、ハープーンSSM 4連装発射筒2基、シースパロー短SAM 8連装発射機1基、など。SH-60Jヘリコプター1機を搭載する。
図1A:北海道周辺の地図。宗谷岬と樺太の間が「宗谷海峡」。7月5日にロシア海軍鑑定16隻が午前、午後に分かれてオホーツク海から宗谷海峡を通過、日本海に入った。
以下に海上自衛隊哨戒機「P-3C」、護衛艦「せとぎり」、ミサイル艇「くまたか」が撮影したロシア艦艇を示す。
図2:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“親衛ロケット巡洋艦「ワリヤーグ」(011)”。ロシア太平洋艦隊の旗艦、満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃を主任務とする。両舷4本ずつの筒の中には、射程距離700km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン」対艦ミサイルが収められている、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。
図3:(統合幕僚監部)ロシ海軍名“大型対潜艦「アドミラル・バンテレーエフ」(548)”。ウダロイ(Udaloy)I級ミサイル駆逐艦は満載排水量8,500㌧の大型対潜艦である。強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980年から1991年にかけて12隻が就航し、現在8隻が現役にある。太平洋艦隊にはこの内4隻が配備されている。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。
図4:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“大型対潜艦「アドミラル・ビノグラードフ」(572)”。図3の説明参照。
図5:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“駆逐艦「ブイストルイ」(715)”。満載排水量8,000 ton、対空、対艦戦闘を主任務とする艦。注目されるのは、両舷に装備する超音速対艦ミサイル「モスキート」SS-N-22 SSM の4連装発射筒。後述のように本艦は7月5日オホーツク海で「P-270モスキート」超音速対艦ミサイルで洋上標的を目標に発射訓練を行った。「モスキート」は全長10 m、弾頭の300 kgの炸薬を搭載、マッハ2-3で120 kmを飛ぶ。改良型の「P-800 オニークス」はさらに性能が向上したタイプ。いずれも固体燃料ロケット・ラムジェット統合推進システムの巡航ミサイルである。
図6:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“小型対潜艦「ホルムスク」(369)”。
図7:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“小型対潜艦「ソヴエツカヤ・がヴァニ」(350)”。1970年代より就役が始まった満載排水量1,200 ton級の小型対潜艦グリシャ型の最新モデルで、1085-1994年にかけ30隻建造された。速力34 kt、兵装は口径57 mm連装砲1基、対潜ロケット砲2基・96発、対空ロケット発射機1基・20発。対空・対水上レーダー、艦底装備型ソナーを持つ。
図8:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“小型対潜艦「コレーツ」(390)”。
図9:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“ロケット艇R-20(921)”。いわゆるコルベット艦で、満載排水量約500トン、対艦超音速ミサイル3M-80「モスキート」連装発射機2基を備え、敵水上艦隊の撃破を主任務とする汎用哨戒艇。さらに個艦防空用の対空ミサイル9K38イグラ発射機1基を持つ。最大速力41 kt。20隻以上が現役として配備中とみられる。小型艦とはいえ侮り難い兵装を持つ。
図10:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“ロケット艇R-14(924)”。
図11:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“ロケット艇R-18(937)”。
図12:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“ロケット艇R-11(940)”。
図13:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“ロケット艇R-24(946)”。
図14:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“ロケット艇R-19(978)”。
図15:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“小型ロケット艇「ラズリーフ」(450)“。
図16:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“大型揚陸艦「オスリヤービヤ」(066)”。ロプチャー級はプロジェクト775型と呼ばれ、艦の前後にドアがあり迅速な揚陸、収納ができるロシア海軍の揚陸艦部隊の中核的存在。現在19隻が在籍中、太平洋艦隊第100揚陸艦旅団に所属している艦は4隻ほどで、沿海州からカムチャツカへの物資輸送などに使われている。満載排水量4,000トン、全長112.5 m、タンクデッキに貨物500トン及び装甲車両24輌を搭載、兵員225名を輸送できる。
図17:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“大型揚陸艦「ペレスウエート」(077)”。
ロシア海軍の動きを報道するサイト「N.G.クズネツォフ記念・ウリアノスク赤旗・親衛ロシア海軍情報管理局」(2017-07-06) によると「ロシア海軍太平洋艦隊の水上艦16隻はラ・ベルーズ海峡(日本名・宗谷海峡)を通過して日本海へ入った」と題して、上記防衛省統合幕僚監部の発表を追認している。
それによると、16隻はいずれもオホーツク海で演習を行っていた。すなわち、7月3日には親衛ロケット巡洋艦「ワリャーグ」(011)、駆逐艦「ブイスト類」(715)、小型ロケット艇「ラズリーフ」(450)、小型対潜艦「コレーツ」(390)は
対空戦闘演習を実施した。
7月4日には、駆逐艦「ブイストルイ」(715)、ロケット艇R-18 (937)、R-11 (940)は、超音速対艦ミサイル“モスキート”発射演習を行った。
6月25日には、大型対潜艦「アドミラル・ヴィノグラードフ」(572)、6月26日には大型対潜館「アドミラル・パンテーエフ」(548)、が宗谷海峡を通過オホーツク海に入った。
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