中国、長征5号ロケットの打上げに失敗


2017-07-15(平成29年) 松尾芳郎

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図1:(CALT) 昨年11月に海南島文昌宇宙基地から打上げ成功した長征5号。今回の7月2日に打ち上げ失敗した2号機は長征5型B。両者の違いは、前者が2段式で全長が長いが、後者は2段目がないので多少短い。他は全て同じ。

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図2:(Xinhua) 7月2日海南島文昌宇宙センターから打上げられた長征5号B。通信衛星実践18号の軌道投入に失敗した。

 

長征5号(LM-5、CZ-5またはChangzheng 5と呼ぶ)は中国・天津(Tianjin)にあるCALT (China Academy of Launch Vehicle Technology/中国打上げロケット技術研究所)が開発した液体燃料使用の打上げロケットである。打上げ能力は地球周回低軌道(LEO)に25 ton、または静止トランスファー軌道(GTO)に14 tonを運ぶ力がある。

我国JAXAの打上げロケット「H-IIB」の打上げ能力、LEOへ19 ton、GTOへ8 ton、に比べかなり大型である。

米国やロシアと同様に中国も1970年代に弾道ミサイル(ICBM)を開発、東風5号(DF-5=Dong Feng 5)を完成、実戦配備しているが、これを基に打上げロケットCZ-2、3、4を開発してきた。これらはLEOに1.8 tonを打上げる。しかし中国の宇宙開発の目標に能力不足だった。

以来、大型ロケットの研究に取り組み、1990年代にロシア製RD-120ロケットの設計書類を含む実物を入手、これを基にして開発したのが次の2種類のエンジンである。

2000年代初頭には、液体酸素(LOX)・ケロシン燃料の推力120 ton級のYF-100エンジン(小型の推力18 ton級のYF-115を含む)、と液体酸素(LOX)・液体水素(LH2)燃料の推力50 ton級のYF-77エンジン、の開発に成功した。

CZ-5の開発は2004年に始まり、直径5 mのコアに各種のブースターと2段ロケットを取付けるAからEまでの種類が予定されているが、これまで2種類が完成している。基本形でGTOミッション用の2段式「CZ-5」と主にLEOミッション用の1段式「CZ-5B」である。両方とも直径3.35 mのブースターを4本取付けている。

CZー5系列

図3:(CALT) 「長征5号」(CZ-5) 系列機一覧。今回打ち上げに失敗したのは右から2番目の「Config-B」。2016-11-03に打上げ成功したのは左端の2段式「Config-E」に相当する。

 

こうして長征5号シリーズは、米国のデルタIV大型打上げロケットに次ぐ世界第2の大型ロケット、もちろん中国最大のロケットとなった。

長征5号の現状;—

2016-11-03: 「CZ-5」(正しくは「CZ-5E」)型で、通信衛星「実践17号(Shijian17)」を赤道上空約36,000 kmの地球周回静止軌道(GEO= Geostationary Earth Orbit)へ打上げ成功した。

2017-07-02 :「CZ-5B」型で通信衛星「実践18号(Shijian 18)」を静止トランスファー軌道(GTO= Geostationary Transfer Orbit)に乗せる予定だったが、第1段の停止と上段の分離が予定より1分以上遅れて失敗。

GTOのコピー

図4:(Wikipedia) 「静止トランスファー軌道(GTO=Geostationary transfer orbit)」とは、打上げ衛星を地球周回静止軌道(GEO=geostationary earth orbit) に載せる前に一時的に投入する、遠地点が地球周回静止軌道(GEO)の高度、近地点が地球周回低軌道(LEO=low earth orbit)になる楕円軌道である。

 

長征5号の今後の予定;—

2017年11月:月探査機「嫦娥5号(Cang’e 5)」を打上げ、月裏側からサンプルを採取、地球に帰還する予定

 

今回失敗した「長征5号B」(CZ-5B) の概要は;—

本体コアは直径5.2 m、ペイロードを含む全長は53.7 m、2段目がないため前回打上げの「CZ-5」の57 mより僅か短い。打上げ重量およそ837 ton。

ブースター:

「CZ-5」コア周囲に取付けられた4本のブースターは、「CZ-5」打上げ・上昇時の推力を受け持つ。各ブースターは直径3.35 m、長さ26.3 m、でLOX / ケロシン燃料タンクを備える。また各ブースターは推力2,680 kNの「YF-100」エンジン2基で構成される。打上げロケットはブースターとして、一般に固体燃料ロケットを使うが、CZ-5では液体燃料ロケットを使っている。珍しいことだ。

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図5:(新華網)天津の中国航天科技集団工場で撮影の「長征5号」のブースター。直径3.35 m、長さ26.3 m、の液体燃料使用の「YF-100」エンジン2基で構成される。今回の失敗は「YF-100」エンジンの5回目の使用で発生したもの。

 

1段目:

CZ-5の1段目は長さ31 m、直径5 m、重量178 ton、推力50 ton (510 kN)の「YF-77」エンジン2基で「CZ-5-500」型と呼ぶ。これら2基のエンジンは推力偏向装置が付きCZ-5の姿勢制御を行う。

2段目(「CZ-5B」には使われない):

2段目は1段目と同じ直径5 m。液体酸素(LOX) /液体水素(LH2)燃料のYF-75D、推力78 kNが2基で構成される。両エンジンとも推力偏向装置付き。合計推力は177 kN。

 

長征5号の2回目の打ち上げ失敗は、中国の宇宙開発計画に深刻な打撃となりそう。

長征5号は、7月2日未明に海南島文昌宇宙基地から打上げられ、その様子は中国のメデイアにより実況中継されたが、予定していた通信衛星「実践18号」の軌道投入に失敗、墜落した。国営新華社通信は打上げ45分後になって、ロケットに不具合が生じ失敗した、と簡単に報じた。

今回の打上げは、新しい通信衛星DFH-5バス用に新技術を結集した衛星「実践18号」を軌道に乗せるのが目的であった。この衛星は7tonもある大型で地球周回静止軌道(GEO)に留まり、通信と観測/地上偵察の機能を持たせる筈だった。

長征5号は、既述のように今年末には月探査のため嫦娥5号、続いて嫦娥6号探査機を打ち上げ、来年には中国が計画中の宇宙ステーション用の最初のモジュールを地球周回軌道に打上げる予定であった。しかし今回の失敗で何れのミッションも予定通り打上げができるか、不透明になってきた。さらに、長征5号のエンジン技術を使う他の系列ロケットの開発にも影響が出ることは避けられない。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week July 10-23, 2017 “Broken Pole” by Bradley Perrett

Space News July 2, 2017 “Long March 5 launch fails” by Jeff Foust

CHINA SPACE REPORT “Chang Zheng 5 (Long March 5)”

Popular Science March 13, 2015 “China7s largest-Ever Space Rocket takes Another Step Forward” by Jeffrey Lin and P. W. Singer