2017-10-04(平成29年) ジャーナリスト 木村良一
「幹事長内定の夜、彼女は都内の高級ホテルに密かにチェックインした。部屋で落ち合ったのは、赤ワインとビールを手にした妻子ある弁護士」
週刊文春(9月14日号)トップ記事のリードだ。彼女とは元民進党政調会長の山尾志桜里氏、43歳である。東大法学部卒の元検察官で、小沢ガールズの1人として政界入りし、待機児童問題で安倍政権を追及してその名を上げたことで知られる。
山尾氏はこの文春の記事で民進党を離党した。山尾氏をかばうつもりもないし、不倫を勧めるわけでもないが、あえて言いたい。政治家だって人間だ。色恋の1つや2つあっても不思議じゃない。政治家としての勤めを果たしていれば問題ないのではないか。
それにしても今井絵理子氏、宮崎謙介氏、中川俊直氏と週刊誌による政治家の不倫暴露がやたらと目につく。政治家は不倫してはいけないのだろうか。今回は「政治家と不倫」につい考えてみた。
山尾氏の問題は9月9日付の産経新聞と東京新聞の社説でも取り上げられた。いまや、政治家の不倫は新聞の社説で論じられるほど重大問題なのである。
産経新聞の社説(主張)は「党勢立て直しの目玉にしようとしていた幹事長人事が挫折した。しかもその理由が男女関係をめぐるスキャンダルというのは、何とも緊張感に欠ける話である」と民進党自体を批判する。
さらに「その山尾志桜里元政調会長は、既婚男性との交際疑惑について否定はするが、まともな説明ができないまま、離党に追い込まれた」と書いた後、前原誠司新代表に矛先を向ける。
一方、東京新聞の社説は「国会質問では、保育園に子どもを預けられない母親の窮状を訴えた『保育園落ちた日本死ね』という匿名ブログを取り上げて安倍晋三首相を追及。政府が待機児童問題の深刻さを認識し、対策に本腰を入れるきっかけとなった」と山尾氏に政治活動に言及する。
その後「個人的な問題と政治活動は別だとの声がないわけではない」と書きながらも「そもそも誤解を生じさせるような行動を、民進党の再生を期すべき重要な時期にしていたことは軽率の極みである」と山尾氏の行いを批判する。
ところで不倫というと、昨年の「五体不満足」の乙武洋匡氏の不倫騒動を思い出す。
「週刊新潮」(昨年3月31日号)が「『乙武クン』5人との不倫」との見出しを付けて暴露した。そのリードも「彼は、妻と3人の子どもがありながら、陰で想像を絶する『不義』を働いていた。参院選出馬が注目を集めている乙武クンの、まさかの乱倫正体」と強烈で、他の週刊誌やテレビ番組もこぞって追いかけ、日本中が〝乙武不倫騒動〟となった。
しかしながら私個人は、乙武氏がかわいそうな気がしていた。「五体不満足にもかかわらず、ここまでがんばってきたのだから不倫ぐらいいいじゃないの」という思いがしてならなかった。ただ、その気持ちをジャーナリストとしてどう表現して伝えたらいいのか、分からなかった。
そこに作家の林真理子氏が、週刊文春(昨年4月7日号)のエッセー「夜ふけのなわとび」でみごとにこう書いてくれた。
「重いハンディがあっても、男の魅力が溢れていれば、女の人は恋心を持つ。女たらしという乙武君の行為は、どれだけ多くの障害者の人たちを力づけたことであろうか。『奥さんは泣かせただろうけど、モテるのは仕方ないよね―。ま、よくやったよ』と、私は彼の肩を叩いてやりたい」
「世間は私のような考え方をする人間ばかりではあるまい。いや、かなり少ないかも。彼はしばらく『茨の道』を歩くであろうが、彼のことだ、それもうまくやりおおせることであろう」
瀬戸内寂聴氏も昨年4月8日付の朝日新聞のコラム「寂聴 残された日々」で、乙武と17年前の夏に対談したときの記憶をたどりながら「早稲田の学生になって、ベストセラーの本を出すまでの歳月、人のしない苦労をしてきたかと思うだけで胸がいっぱいになった」と書きながら乙武氏を励ましていた。
なるほど、男の不倫を肯定して書けるのは、女性だからこそできる技だと思う。しかも大女流作家の2人にここまで勇気付けられれば、乙武氏も立ち直れる。このときそう考えたのを思い出した。
選挙戦は海千山千の輩が集うだけに、週刊新潮のニュースソースには乙武氏の参院選出馬を阻む意図があったのではないかと疑いたくなるところもあった。
かつて役者の色恋沙汰は「芸の肥やし」といわれ、週刊誌やテレビが大きく報じるようなことは少なかった。だが、いまは「不倫は悪」「不倫をする政治家は許されない」という概念が固定化している。不倫は褒められた行為ではないが、ときには不倫を黙認できる寛容さも必要ではないか。
—以上—
※慶大旧新聞研究所のOB会によるWebマガジン「メッセージ@pen」10月号
から転載しました。http://www.message-at-pen.com/