中國・ロシア海軍、日本近海で合同演習を実施、ロシア軍偵察機が我国防空識別圏を侵犯


2017-10-08(平成29年) 松尾芳郎

 

9月半ばから10月に掛けて、ロシア海軍と中国海軍の動きが我国周辺海域で活発化している。続いてロシア軍の新型偵察機が我国日本海沿岸に2度にわたり飛来した。以下にその概要を防衛省統合幕僚監部の報道発表を中心に、まとめてみる。

今回我が国周辺に姿をみせた中国艦は、いずれも山東半島南岸の青島を基地とする「北海艦隊」所属の艦艇。「北海艦隊」は本来首都北京を守るため渤海湾と黄海の警備を任務として発足したが、今や原子力潜水艦をはじめ大規模な艦隊に成長し洋上作戦能力を向上させ、我国に威圧的行動を取るようになってきた。

北朝鮮の弾道ミサイル発射が世間の注目を集めているが、中国海軍、ロシア海空軍の動向にも注意を払う必要がある。

日本周辺

図1:(Google) 9月14日から30日の間の中国艦隊、ロシア艦隊の航跡を、統幕監部発表記事を基に地図に書き込んだ図。

 

29-09-14(木) 中国海軍艦艇4隻が対馬海峡を北上、日本海へ

ルージョウ(Luzhou)「旅州」級ミサイル駆逐艦 (116) 1隻

ジャンカイ(Jiangkai) 「江凱」II級フリゲート (576) 1隻

フチ(Fuchi) 「福池」級補給艦 (960)         1隻

ダラオ級潜水艦救難艦 「長島」(867)                1隻

この艦隊は、9月18日—26日の間ロシア-中国・海軍演習「海洋協同-2017」第2段階に参加するため、9月18日(月)にウラジオストックに到着した。同地での歓迎式典・陸上演習等の行事に参加した後、同22日から26日までの間、日本海とオホーツク海南部の海域で演習を行った。詳しくは“TokyoExpress 2017-09-17改訂”中国海軍艦艇、対馬海峡を北上し日本海へ“を参照されたい。

なお、ロシア・中国の海軍合同演習「海洋協同-2017」第1段階は、7月22日から27日までの間北欧のバルト海で実施された。バルト海は、スエーデン、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、それにロシアのセント・ペテルスブルグなどに囲まれた海域。これに参加した中国艦隊は、海南島三亜を基地とする南海艦隊所属の「旅大」級の051Z型駆逐艦「合肥」、江凱型フリゲート「運城」、補給艦「駱馬湖」の3隻であった。

 

29-09-24(日) ロシア海軍艦艇3隻と中国海軍艦艇3隻が北海道宗谷海峡を東進、オホーツク海へ

ロシア海軍艦艇

スラバ級ミサイル巡洋艦(011)            1隻

ウダロイI級駆逐艦(564)              1隻

イゴリ・ベロウソフ級潜水艦救難艦         1隻

中国海軍艦艇

ルージョウ(Luzhou)「旅州」級ミサイル駆逐艦 (116) 1隻

ジャンカイ(Jiangkai) 「江凱」II級フリゲート (576) 1隻

フチ(Fuchi) 「福池」級補給艦 (960)         1隻

これは合同演習「海洋協同2017」第2段階の後半オホーツク海南部の海域で行われた演習に参加するための行動。

参加したロシア艦隊艦艇は、「NGクズネツオフ記念・ウリヤノスク赤旗・親衛ロシア海軍情報管理局」によると、統幕監部発表と多少異なり、「キロ級潜水艦」2隻を含む9隻と、艦載ヘリコプターKa-27PL、Ka-27PS、対潜哨戒機IL-38 x 2機、対潜哨戒機Yu-142M3 x 2機、が参加した。これはカムチャツカ半島のペトロパブロフスクなどの基地から参加した艦艇、航空機があったためと思われる。

 

29-09-29(金) ロシア海軍潜水艦1隻が北海道宗谷海峡を西進、日本海へ

キロ級潜水艦                   1隻

 

29-09-30(土) 中国海軍艦艇3隻が九州・鹿児島県大隅海峡を西進、東支那海へ

これ等の中国艦隊は24日に宗谷海峡を東進、オホーツク海に入ったものと同じ。

ルージョウ(Luzhou)「旅州」級ミサイル駆逐艦 (116) 1隻

ジャンカイ(Jiangkai) 「江凱」II級フリゲート (576) 1隻

フチ(Fuchi) 「福池」級補給艦 (960)         1隻

 

29-10-3(火) ロシア軍偵察機が本州日本海沿岸に飛来

空自戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。

IL-38 哨戒機     1機

SU-24 戦術偵察機   1機

 

29-10-05(木ロシア軍偵察機が本州日本海沿岸に飛来

空自戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。

SU-24 戦術偵察機   1機

統幕監部発表の中国・ロシア海軍艦艇の動向はいずれも同じ艦による行動なので、最も鮮明な9月24日(日)の写真を代表として以下に示す。

これらはいずれも海上自衛隊厚木基地第4航空群所属の「P-1」哨戒機により撮影されたもの。「P—1」は、長年使われてきた「P-3C」の後継として開発された国産(川崎重工製)の哨戒機で、2013年から配備が始まったばかり。平成28年(2016)度版防衛白書によると配備数は9機、プラス発注済みが24機となっている。

09-24すらば011

図2:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“親衛ロケット巡洋艦「ワリヤーグ」(011)”。ロシア太平洋艦隊の旗艦、満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃を主な任務とする。両舷4本ずつの筒の中には、射程距離700km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン」対艦ミサイルを各筒に2基ずつ、合計16基搭載している。

09-24ウダロイ564

図3:(統合幕僚監部)ロシ海軍名“大型対潜艦「アドミラル・トリブツ」(564)”。ウダロイ(Udaloy)I級ミサイル駆逐艦は満載排水量8,500㌧の大型対潜艦。強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980年から1991年にかけて12隻が就航し、現在8隻が現役。太平洋艦隊にはこの内4隻が配備されている。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。

09-24 救難艦

図4:(統合幕僚監部)

09-24ルージョウ116

図5:(統合幕僚監部)051C型と呼ばれる新型防空駆逐艦で僚艦防空機能を持つ。大連造船所で建造された2隻のうちの2番艦、艦番号116「石家荘」(Shijiazhuang)で2007年3月就役、北海艦隊に所属。前身の051B型との違いは対空ミサイルを、HQ-7(フランス製クロタル)を廃し、ロシア製S-300FM 射程100 km級の対空ミサイル、8連装回転式VLSを前甲板に2基、後部構造物に4基、合計48発搭載に改めている点。満載排水量は7,100 ton。

09-24 ジャンカイ576

図6:(統合幕僚監部) 054A型と呼ばれる次世代型フリゲートで1番艦「舟山」は2008年1月、艦番号576「大慶」(Daging)は17番艦で2015年1月就役。建造中を含め同型艦は25隻になる。満載排水量4,500 ton、速力27 kts。対空兵装はロシアの)M-38Mを改良した射程25-42 kmのHQ-16(紅旗16)を32セル垂直発射装置(VLS)に収めていて、僚艦防空能力を持つ。対艦、対潜水艦兵装にも優れており、4,000 tonを超える大型艦で航行性能が高く、遠洋航海を容易にこなせる。

09-24 フチ補給艦

図7:(統合幕僚監部)903型補給艦で、艦番号960は2015年12月就役の「東平湖」(Dongpinghu)、本格的な洋上補給艦で、空母打撃艦隊を支援するのが主任務、同型艦はすでに8隻が完成している。満載排水量23,000 ton、速力20 kts、甲板に、前方/燃料移送、後方/ドライカーゴ用の門型ポスト2基を備えている。搭載補給物資は艦船用燃料7,900 ton、航空燃料2,500 ton、弾薬食料等トライカーゴ680 ton。

09-29キロ級

図8:(統合幕僚監部) キロ級潜水艦はジーゼル・エレクトリック動力の攻撃型潜水艦。ロシア海軍は改良型 (636.3型) を含み28隻を保有するが、2019年から改良型6隻を新たに建造、太平洋艦隊に配備中。水上排水量2,300 ton、水中排水量3,000- 4,000 ton、全長70-74 m、水上速力12 kt、水中速力25 kt。動力は1000 kWジーゼル発電機2基、出力6,800 shpのモーターで6または7翅のスクリューを回す。45日間のパトロールができる。潜航深度は230 m。兵装は口径533 mmの魚雷発射管6門と魚雷18発、爆雷24個、対空ミサイル8発を装備する。636.3改良型は対地・対艦・対潜攻撃ができる巡航ミサイル“カリブー(Kalibur)”の発射能力を持つ。昨年12月にロシアがイスラム国の拠点攻撃に使ったのは潜水艦から発射したこのミサイルであった。

中国海軍に新型10隻を含む12隻、インド海軍に旧型10隻、イラン海軍に旧型を3隻、ベトナム海軍に新型を6隻、それぞれ輸出している。インド海軍によれば、キロ級潜水艦は極めて静粛で、米印合同演習で米軍原潜ロサンゼルス級と渡り合い相手に気付かれずに“撃沈”に成功したという。

10-03 IL-38

図9:(統合幕僚監部)10月3日、我国日本海沿岸の防空識別圏を侵犯したロシア海軍IL-38哨戒機。イリューシンIL-18型4発ターボプロップ旅客機を対潜哨戒機に改装したのがIL-38。1967年初飛行、以来40機近くがロシア海軍で使われている。IL-18の胴体を4m伸ばし、主翼を前方に移動し、尾部にはMAD(磁気探知装置)を装備している。前部胴体の下にあるドームはレーダー。胴体前後には兵装庫があり対潜魚雷などを搭載する。

10-03 Su-24

図10:(統合幕僚監部)写真は、10月3日我国防空識別圏を侵犯したロシア空軍のSu-24の“戦術偵察機”型「Su-24MR」機番34である。これは基本型Su-24Mに、広角カメラ、側面監視用レーダー(SLAR)及び赤外線偵察システムを備えている。

基本のスーホイ(Sukhoi) Su-24は、超音速、全天候攻撃機で、可変後退翼付き、双発で並列座席に乗員2名が乗る。1974年就役開始、1993年までに約1,400機が作られた。航続距離3,000 km、爆弾・ミサイル搭載量は8 ton、構造、電子装備の近代化が行われSu-24M2として配備されている。

最大離陸重量は43,8 tonにもなる大型機で、可変後退翼は離着陸時/16°、巡航時/35°と45°、高速時/69°の4段階にセットできる。エンジンはサターン(Saturn)AL-21F-3A、アフトバーナ付き推力24,700 lbsを2基装備する。最大速度は1,100 km/h (マッハ1.35)、特徴は低空での対地攻撃性能が優れ、他機種より著しく勝る。搭載する対地攻撃ミサイルは、Kh-25Lレーザー誘導ミサイル4発(射程20 km)、Kh-31Pパッシブ・レーダー誘導ミサイル2発(射程180 km)Kh-59テレビ誘導ミサイル2発(射程90 km)など、通常爆弾であれば8 tonまで搭載可能。

ロシア空軍では約370機を配備している。ロシア以外ではイラン空軍、シリア空軍、ウクライナ空軍が少数機を運用中。

10-03ロシア機

 図11:(統合幕僚監部)10月3日に我国日本海防空識別圏を侵犯したロシア海空軍のIL-38哨戒機とSU-24戦術偵察機・機番34の航跡。10月5日にもSu-24MR戦術偵察機・機番42が同じ航路を飛行した。

 

—以上—