2017-11-30(平成29年) 松尾芳郎
H-6型戦略爆撃機を含む中国空軍機は、東支那海から沖縄県宮古海峡を通過、西太平洋に進出、遠洋訓練を行うことが常態化してきている。
防衛省統合幕僚監部の発表によると18日-23日の間に連続して3回も我国の防空識別圏(ADZ)を侵犯、宮古海峡を通過した。これら中国軍機の動きは;—
平成29年11月23日(木)
H-6型戦略爆撃機 4機
Y-8型情報収集機 1機
平成29年11月19日(日)
H-6型戦略爆撃機 4機
Tu-154型情報収集機 1機
Y-8型電子戦機 1機
平成29年11月18日(土)
Tu-154型情報収集機 1機
この一連の中国軍機の行動に関し、中国軍の英字サイト”China Military Online”は11月23日付けで「Chinese air force patrols South China Sea」と題し、H-6K型爆撃機の編隊が支那本土の北部にある基地を発進、宮古海峡を通過してバシー海峡を抜け、南支那海に入り演習を行なった、と発表した。
また、中国共産党機関紙人民日報(2017-11-24)は本件に関し次のように報じている。「23日に複数のH-6K爆撃機が第一列島線(沖縄列島を指す)の宮古海峡を越え、バシー海峡を通過し南支那海で戦闘演習を行なった。H-6K爆撃機は内陸部の基地から飛び立ち、訓練終了後基地に帰還した。中国空軍の遠洋訓練は、2015年から始まり、当初の年4回から現在では毎月数回となり、常態化、体系化、実戦化を実現した。飛行距離は延伸され、海上での実戦能力が高まっている。」
H-6爆撃機が所属する“北部の基地”とは、沿海部からずっと内陸に入った場所で、航空攻撃に晒されにくい場所にある。資料によるとH-6Kを含む系列機が配備されているのは、南京軍区空軍の第10爆撃機師団(安慶宜秀)、蘭州軍区空軍の第36爆撃機師団(西安臨潼)、広州軍区空軍の第8爆撃機師団(衡陽)の3箇所になっている。H-6K爆撃機が発進した基地とは、上述の報道から西安基地と思われる。
図1:(Google) 統合幕僚監部発表と“China Military Online”の発表を一つにまとめて、11月23日(木)の中国軍機「H-6」 4機および「Y-8」1機の飛行航跡を示した図。19日(日)の「H-6」4機、「Tu-154」1機および「Y-8」1機はいずれも宮古海峡を往復している。18日(土)の「Tu-154」1機は宮古海峡を通過、南西に変針、台湾南のバシー海峡を通過した。
図2:(統合幕僚監部)23日空自那覇基地の戦闘機が撮影したH-6K爆撃機4機中のうちの1機。H-6爆撃機 は1969年から配備が始まり派生型を含み現在120機ほどを運用中。原型はロシアのツポレフTu-16で、西安航空機で国産化。当初は核爆弾搭載用だったが、現在は長距離巡航ミサイル6基搭載型として使用中。乗員3名、全長35m、翼幅34.4m、最大離陸重量76ton。
H-6系列の最新型H-6Kは、複合材使用の率を高め、エンジンはそれまでの国産WP-8型からロシア製のD-30KP-2型に換装、推力を30 %アップ、燃費は20 %向上した。翼下面に巡航ミサイルCJ-10Kを最大6基搭載できる。H-6Kは2007年1月に初飛行、2011年5月から配備が始まっている。
巡航速度790km/hr、戦闘行動半径3,500 km、兵装搭載量は9トン。コクピットを含む電子装備もTu-16から大幅に改良、性能を一新している。2011年以降順次増強され、しばしば西太平洋に進出、日本、グアムを目標にした長距離巡航ミサイルの攻撃訓練を行っている。最近では2016-9-26と同11-25、2017-07-16、および2017-08-12に宮古海峡を通過、西太平洋で演習を行なっている。H-6K搭載の巡航ミサイルCJ-10Kは射程2,000 km、米国のトマホークに匹敵するもので、我国領空に接近せずに公海上どこからでも我国の目標を攻撃できる。
図3:(統合幕僚監部)空自戦闘機が23日に撮影したY-8情報収集機。ロシアの貨物輸送機An-12Bを基本にして、中国でY-8輸送機として開発した。Y-8輸送機は1981年から生産が始まり100機弱が作られた。これをベースに早期警戒機、洋上哨戒機、電子戦機などの多くの派生型が作られた。エンジンはWJ-6ターボプロップ4,250 hp x 4基、航続距離5,600 km。本機は垂直尾翼前方に大きなふくらみが見えるのでY-8DZ型電子偵察機(ELINT)のように見える。
図4:(統合幕僚監部)19日に空自戦闘機が撮影したY-8電子戦機、23日に撮影したY-8情報収集機とは明らかに違う。本機はY-8GX3あるいは「高新3号」と呼ばれる電子戦/情報収集機のようだ。胴体側面に電子装備を収めた大型フェアリングがあり、戦闘指揮と電子戦機能を備える。
図5:(統合幕僚監部)Tu-154は、今も生産が続いているロシアのツポレフ(Tupolev)製3発旅客機で、これまでに1,000機以上が生産された。1972年から使われ始めたが、以来改良が続けられ多数の派生型が生まれた。中国空軍は民間で使われていた機体、Tu-154Mに大型の合成開口レーダー(SAR)を取付け電子偵察機(ELINT)に改造、Tu-154MD型として使っている。Tu-154M型は、最大離陸重量は100 ton、航続距離6,600 km、エンジンはD-30KUターボファン、推力23,000 lbs (100 kN)を3基装備している。
配備されているのは、中国空軍司令部直轄部隊の第34輸送機師団(北京南苑基地)で、6機がSAR付きELINT仕様で、他は輸送機として使っているようだ。
—以上—