ベルのV-280 テイルト・ローター機、間も無く試験飛行を開始、UH-60ブラックホークの代替を目指す


2017-11-28(平成29年) 松尾芳郎

 ベルV-280 バロー

図1:(Bell Helicopter) ベルV-280は、戦場に展開する地上部隊を支援するためのテイルト・ローター機。安全性と防弾性能に優れ、3重の冗長性のあるフライバイワイヤ操縦系統を備える。設計と製造方法に先端技術を使い、維持費の大幅な低減を目指す。テイルト・ローター機なので、現在の汎用ヘリに比べ速度と航続距離は2倍以上になる。

外見は、米海兵隊が運用中の同じテイルト・ローター機V-22オスプレイと似ているが、大きな違いは、エンジンと主翼は固定され、ローターとそれを駆動するドライブシャフトだけがテイルト(上向き)する点である。V-22では主翼両端のエンジンに直結するローターが、一緒に上向きになる構造である。V-280では、真っ直ぐな主翼内にはドライブシャフトがあり、一方のエンジンが停止しても他方のエンジンで両方のローターを駆動できる。 

テキストロン社に所属するベル・ヘリコプター社が「V-280 バロー」の構想をまとめ、それにロッキード・マーチンがコクピット及びアビオニクスで、GEがエンジンで、スピリットが胴体で、それぞれ開発に協力している。

兵員の迅速な乗降ができるように胴体両側に幅6feet(1.8 m)のドアがある。

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図2:(Bell Helicopter) 「ベルV-280 バロー」テイルト・ローター機、両翼端をテザーで繋留しフルパワー試験を行っているところ。今年末の初飛行を目指す。V-280 バローは、乗員2名兵員14名を乗せ、巡航速度520 km/hr(280 kt)、戦闘行動半径1,480 km、最大積載量5.4 ton、また気温35℃高度1,800 m の条件下でホバリングができる。

 

1970年代から米軍のみならず我国などでも使用中の汎用ヘリコプター、シコルスキー製UH-60ブラックホーク(Black Hawk) の更新用として、ベル・ヘリコプター(Bell Helicopter) 社では次世代型テイルト・ローター機を開発中である。今年末からアマリーロ(Amarillo, Texas) で試験飛行を始める予定だ。

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図3:(Sikorsky) 米陸軍が1979年から配備しているシコルスキーUH-60ブラックホーク汎用ヘリコプター。各種派生型を含め4,000機以上が生産され、米国陸軍の2,300機を始め、日本の約190機を含め世界26ヶ国の国防軍で使われている。最大離陸重量23,000 lbs (10 ton)、12名の武装兵を輸送できる。エンジンはGE T700ターボファン1,900 hpを2基搭載、巡航速度280 km/hr、戦闘行動半径600 km、平均的な単価は2,100万ドル(約23億円)。

メーカーの「シコルスキー航空機」は、1925年Igor Sikorsky氏が創立した企業でコネクチカット州ストラトフォード(Stratford, Connecticut)が本拠。ユナイテッド・テクノロジー(UTC)の1部門であったが、2015年11月にロッキード・マーチン社に売却され今ではその傘下にある。

 

UH-60の代替として米陸軍は「FVL=Future Vertical Lift」(将来型垂直離発着機)計画として革新的な回転翼機を検討中で、AVX航空機、ベル・ヘリコプター、カレム航空機、シコルスキー・ボーイングの各社に研究を委託してきた。

この中で開発が先行しているのは、ベルの次世代型テイルト・ローター機「V-280 バロー(Valor)」と、同軸ローターとプッシャー・プロペラを採用したシコルスキー/ボーイングの「SB-1 デファイアント(Defiant)」の2機種である。

ベルによると、「垂直離発着機の未来はテイルト・ローター技術にある。したがってUH-60ブラックホークに比べ速度で2倍、航続距離で3倍の性能を持つV-280がその後継機になり得る。」と語っている。またV-280は同じテイルト・ローター機V-22オスプレイ(Osprey)に比べ、炭素繊維複合材を大量に使っているため、軽量、簡単、低価格で提供できる。ベルでは、2012年から”Catia V6 digital Software”を使って設計を始め、2015年6月26日から組立てを開始、現在は地上に係留した状態でパワーを入れる試験をしている。今年末には10 mほどの高さで1時間以上ホバリングする飛行試験始める予定だ。

ベルによると、V-280の開発状況は、競合相手のシコルスキー・ボーイングのSB-1に比べ半年ほど先行している、と云う。SB-1は同社の試作ヘリX-2をベースにした機体で、同社のウエスト・パームビーチ(West Palm Beach, Florida)にある開発センターで製作が進められている。

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図4:(Bell Helicopter) 米陸軍のFVL (将来型垂直離発着機) 計画の有力候補として、UH-60ブラックホークの後継を目指すベル「 V-280 バロー」の完成予想図。

 

米陸軍は戦術輸送機として、空軍が運用するC-130輸送機と陸軍が保有するCH-47チヌーク(Chinook)双発ヘリを使っているが、V-280はこれらに次ぐ大きさで、陸軍が目指すFVL機計画に合致する機体と言える。

V-280は速度、航続距離、搭載量、いずれも陸軍の作戦を根本的に変える性能を備えており、2007年から海兵隊が配備中のV-22 オスプレイをも補完する有力な手段となり得る。

同じテイルト・ローター機であるV-22オスプレイは、兵員24名を乗せ時速500 km/hrで、給油無しで700 kmを飛べる高性能機だが、価格が1機当たり9,000万ドル(約100億円))と高価なため、採用が限られている。今の所海兵隊がMV-22型を360機、米空軍がCV-22型を50機、それに日本が17機購入を決めただけだ。この他に米海軍が空母搭載用としてCVM-22型を30-90機使うことを検討中である。

ベル・ヘリコプターとボーイング・ロータークラフト・システムズが共同開発したV-22はボーイングのフィラデルフィア(Philadelphia)工場とベルのアマリーロ工場で生産が続いている。ベルは、V-22で得たテイルト・ローター技術をさらに進化させ、しかも安価にしてV-280をまとめ上げた。

V-280は、輸送用だけでなく攻撃用あるいは戦場での救難任務にも使える汎用機とする予定。現在、陸軍と海兵隊が使用中のヘリコプター、UH-60ブラックホークやベルH-1ヒューイ/コブラ(Huey/Cobra)の後継機として2020年代中期から配備開始、2030年代半ばまでに交代を目指している。

今後の試験についてベルは、新しい設計手法と革新的なシミュレーション・ソフト技術の適用していることを理由に、陸軍側の要求する試験、「FVL CS3 」(=Future Vertical Lift Capability Set 3)(将来型垂直離発着機・能力セット3)の試験期間を短縮するよう交渉している。

ベルではV-280の飛行試験として、最初にホバリング試験を7時間ほど繰り返し、それからから飛行機モードに移る遷移飛行の試験に移る予定。この遷移飛行は時速70-120 ktで行われる。飛行機モードでの試験は今年末を見込んでいる。そして次第に飛行可能範囲(flight envelope)を拡大し時速280 ktに広げ、来年には305 kt以上に引き上げる。

飛行試験に携わるパイロットはベル側から5人、陸軍から3人が参加し、試験飛行中の安全を確保するため、最初はフライト・シミュレーターとシステム訓練装置(SIL=system integration lab.)で訓練を行い、十分技量が向上してからから実機に搭乗する。

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図5:(Spirit AeroSystems) ベル「V-280バロー」の胴体は複合材製で、ボーイング737の胴体の生産を一手に引き受けている「スピリット・エアロシステムズ(Spirit AeroSystems)」(Wichita, KS)が担当、製造している。設計開始から初号機納入まで僅か22ヶ月で行なった。

 

V-280は現在原型機1機のみが完成、試験中である。原型機のエンジンは、海兵隊が使用中の大型ヘリ「シコルスキー製CH53E スーパースタリオン」が搭載しているGE製T64-419Aエンジン軸馬力5,000 shp を使っている。しかし量産機ではV-22オスプレイ用のRR AE1107あるいはCH-53K キングスタリオン用のGE38/T-408、共に7,500 shp、エンジンに変わるかも知れない。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Oct. 3, 2017 “Bell V-280 Ready for First Flight” by James Drew

New Atlas October 11, 2017 “Bell V-280 Valor tiltrotor revs to full power” by David Szondy

Bell Helicopter “Bell V-280 Va;or”

Lockheed Martin “Sikorsky Black Hawk Helicopter”