エアバス「E-Fan X」ハイブリッド・システム、BAe 146リージョナル機で飛行試験を目指す


2017-12-08(平成29年) 松尾芳郎

 e-FanX-3D-graphic-1

図1:(Airbus)エアバスなど3社が共同開発する「ハイブリッド電動推進システム」、「E-Fan X」実証試験機は、BAe 146リージョナル機のエンジンの一つを「電動ファン」にする。「ハイブリッド電動推進」で、運航費を安く、エミッションと騒音を少なくし、EU設定の2050年の環境目標をクリアするのが狙い。

 

将来の電動旅客機の実用化への道筋をつけるため、エアバス、ロールス・ロイスとシーメンスの3社が協力して「E-Fan X」と呼ぶ“ハイブリッド電動推進”システムを搭載した実証機の開発を進めている。

「E-Fan X」実証機は、現在地方路線で使われている100席級BAe 146リージョナル旅客機の4基のエンジンの一つを、2MW(メガワット)電動モーターで駆動するファンに置き換えた機体で、2020年に初飛行を、また2030年代に実用化を目指している。この電動モーターは、胴体内に設置するRR製 AE2100エンジンで駆動する発電機からの電力で回す。

現在は、BAe 146機のNo. 3(右翼内側)エンジンを「2 MW電動モーターで駆動するファン」に換装して地上試運転をしている段階だ。試験の結果が良ければ将来は、4台のエンジンを2台の電動モーター・ファンに換装し、離陸と上昇時に必要な推力を得るために、バッテリーを搭載して、試験する予定である。

AE2100はターボプロップで、現在はロールス・ロイスの傘下にあるアリソン・エンジン社が開発したエンジン。2軸式で、本体とプロペラを管制するFADEC (エンジン管制装置)を装備する。この軍用版は、C-130J ハーキュリーズ輸送機や新明和のUS-2飛行艇などに使われている。出力は4,700 hp (馬力)級。

エアバスではこれまで数種の電動飛行機を開発してきたが、最新の機種はシーメンスと共同で開発した小型電動飛行機 ”E-fan1.2”。「E-Fan X」とはこの後継機であることを意味している。

エアバスの首席技術担当役員(Chief Technology Officer) ポール・エレメンコ(Paul Elemenko) 氏は次のように語っている;—

「3社の協力で、安全、高効率、低価格のハイブリッド狭胴型旅客機実現への道が開かれるだろう。“ハイブリッド電動推進 ”「E-Fan X」が将来の航空機の核心的技術となることは、疑いの余地がない。」

既述のように「E-Fan X」実証機は、革新的な技術を使い、推進装置として、ファンジェットやターボプロップではなく、2MW (2,680 hp) 級の“ハイブリッド電動モーター”でファンを回す仕組みである。

E-Fan X原理

図2:(Airbus)「 E-Fan X」は、BAe 146型機の胴体内に、2 MW発電機を組み込んだRR製AE2100タービン・エンジンを装着、これで生じた電力で主翼のNo. 3ナセル内に装備した2 MWのモーターでファンを駆動する。離陸と上昇では1基当たり700 KWの電力が必要なので、リチウムーイオン(Li-Ion)バッテリーの電力でパワーを補完する。

 

「E-Fan X」プログラムで3社は、それぞれ得意の分野で協力する。担当分野は次の通り。

エアバス(Airbus) :全体の取りまとめと“ハイブリッド電動推進”システムとバッテリーのコントロール・システムの構成、そしてこれ等とフライト・コントロール・システムの統合化。

ロールス・ロイス(Rolls-Royce):胴体内に設置するガスタービン(AE2100)とそれに組み込む出力2.5 MW発電機の製作、および主電源システムの統合化。またエアバスと協力して現在のナセル内にファンとシーメンス製電動モーターを組込む作業。

シーメンス(Siemens):ファンを駆動する2MW電動モーターと出力コントロール装置、インバーター、AC/DCコンバーター、および配電システムを担当、これが電動航空機(E-Fan X)の要となる。

シーメンスは、これまでに0.25 MW級の発電機と電動モーター「SP260D」を作り電動スポーツ機「Extra 330LE」の試作に成功している。「SP260D」は重量50 kgで260 KWの出力を得ているが、「E-Fan X」飛行試験機では、この8倍のモーターが必要となる。

”Simcenter”と名付けた自社開発のシュミレーション・ソフト使った最新の試作では、モーター重量1 kg当たり5.2 KWの出力を得ている。このソフトを使い設計を最適化するので、2 MWモーターは相当軽くなる。さらにシーメンスでは、10-20 MWの超電導大型モーターの開発を始めている。

現在「ハイブリッド電動推進 E-Fan X飛行試験機」の開発は次の段階にある;—

u  ロールス・ロイス製AE2100ターボプロップに2.5 MW発電機を組込み、試験する。

u  エアバスでは2MW容量のバッテリーを開発、準備する。バッテリーの重量は約2 tonになり、機体の床下貨物室に搭載する。バッテリーは、巡航中に発電機で充電し、離陸、上昇時には貯蔵電力でファン駆動を助ける。

u  電力配送システムには3,000ボルトDC(直流)を使い、配線サイズを小さくし、軽量化する。現在の航空機では270ボルトDCが主流だが、最新の電気推進を使う艦船や車両では3,000 volt DCが使われるようになっている。しかし航空機で使う場合、高空を飛行する際にコロナ放電が生じやすくなり、これを防ぐためシールドや配線の分離が必要になる。将来の大型機の推進には10 MW(約13,000 hp) 級の電動モーターが必要になるので3,000 volt DC級の配電技術の習得は欠かせない。

u  BAe-146型機のNo.3エンジン位置のナセル内には、シーメンス開発の2 MW SP2000液冷 ACモーターを取付け、これでAE3007エンジンから流用したファンを駆動する。このためにDC発電機の電力をAC(交流)にコンバーターで変換する必要がある。

 

(注)Rolls-Royce AE3007エンジンは、ファン・バイパス比5 : 1 の2軸式ファン・エンジン。推力6,500-9,400 lbsでコア部分はAE2100エンジンと同じ。セスナ・サイテーションXやエンブラエルERJ 145リージョナル機に使われている。軍用版のF137は、我国でも導入が決まったRQ-4グローバルホーク無人偵察機のエンジンである。

 

ガスタービンは過去80年にわたって航空機に動力を提供し続けてきた。今日のジェット機は、ガスタービンが直接駆動するファンで推力を発生して飛行している。

これに対し、“ハイブリッド電動推進”機は、ガスタービンで発電機を回し、その電力でモーターを回してファンを駆動、推力を得る方式である。これで機構が複雑になり重くなるので、これまで顧みられることはなかった。

さらに“ハイブリッド電動モーター”の不利な点は、推進のためバッテリーが必要なことである。現在のシステムではこれで大量の熱を生じる。また大電力を送るために高電圧のケーブルが必要になる。

このように、いくつもの困難があるにせよ「E-Fan X」は実験機であり、エアバス、RR、シーメンスの3社が新しい研究に挑戦していくことになる。

Unknown

図3:(You tube) 「E-Fan X」の実証試験機にはBAe-146 (British Aerospace 146) が使われる。同機は短距離リージョナル旅客機で、BAE Systems 社の1部門「ブリテッシュ・エアロスペース」で、1983-2002年の間400 機近く作られた。高翼単葉で”T”字型尾翼、エンジンは推力7,000 lbsのライコミング(Lycoming) ALF502を4基搭載している。標準型で客席は100席、最大離陸重量は42 ton、航続距離は3,600 kmである。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Flight Global 01 December 2017 “OPINION: E-Fan X is vital stepping stone” by Flight International

Airbus 28 November 2017 “Airbus, Rolls-Royce, and Siemens team up for electric future Partnership launches E-Fan X hybrid-electric flight demonstrateor”

Electrek November 28, 2017 “Airbus partners with Rolls-Royce and Siemens to build an electric airplane” by Fred Lambert

Siemens 28 November 2017 “Pictures of the Future “ ,”Airbus, Rolls-Royce, and Siemens to Develop Flying Demonstrator” by Julia Hetz

Aviation Week Network December 1, 2017 “Airbus E-fan X to pave way tor Electric regional Aircraft” by Graham Warwick and Tony Osborne