防衛省、平成30年度防衛予算案に「長射程巡航ミサイル3機種の導入」に関わる経費を計上


2017-12-13(平成29年)  松尾芳郎

 

小野寺五典防衛大臣は、12月8日の記者会見で、戦闘機搭載型の敵基地攻撃ができる長射程巡航ミサイルを導入するため、平成30年度防衛予算案に必要諸経費を盛り込む、と発表した。

導入費用を計上するミサイルは、次の3種類;—

l   JSM (Joint Strike Missile)[共用型攻撃ミサイル]の購入費用:F-35Aに搭載予定

l   AGM-158B JASSM (Joint Air-to-Surface Standoff Missile)[共用型空対地長射程ミサイル]の導入検討費用:F-15J/DJ*を改修し搭載予定

l   AGM-158C LRASM (Long Range Anti-Ship Missile )[長射程対艦ミサイル] の導入検討費用:F-15J/DJ*を改修し搭載予定

(*:搭載機種はF-15J/DJとしているが将来はF-2戦闘機も含まれそう)

いずれも射程500 kmから1,000 kmの長射程巡航ミサイルのため、発射母機は、敵の防空システムの脅威を受けない遠距離から発射できる。このため母機の安全性が高まる。また、いずれも速度は亜音速だが、ステルス形状のためレーダーに発見されにくく、防空網を突破して目標に接近・着弾し易い。

3種のうち最も完成度が高いのは2番目のAGM-158B JASSMで、空自はこれから導入することになりそう。3番目のAGM-158C LRASMは、その名の通りAGM-158Bを改良した対艦ミサイルで、現在初期少数生産中、米海軍で配備が始まったばかりなので導入は多少遅れそうだ。JSMは、現在開発の最終段階にあり、入手は2022年頃になる。

平成30年度防衛予算案とは別に、政府は平成29年度補正予算として、約1,900億円の防衛費を計上すべく調整をしている。内容は、

l   地上配備型の弾道弾迎撃ミサイル「イージス・アショア」2基を導入するための調査費。2023年度に秋田県、山口県の基地内に配備する。

l   配備済みの地対空誘導弾ペトリオットPAC3を、射程を2倍にする改良型の「PAC3 MSE」に改修を継続する費用

l   旧式な FPS-20型弾道ミサイル警戒監視レーダー(宮崎県高畑山?)を最新型のFPS-7(推定探知距離430 km+)に更新する費用

l   警戒監視システムJADGEの能力向上、

l   イージス艦「あたご」、「あしがら」のBMD能力付与の改修工事の継続(2019年末に完了)、

l   哨戒機P-1および早期警戒機E-2Dの調達前倒し、など

 

ここで我国が保有する最新型巡航ミサイルについて簡単に触れてみよう。これは、1980年から使われている空自の「80式空対艦ミサイル(ASM-1)」を、地上発射型に改良した「12式地対艦ミサイル」である。

「12式地対艦ミサイル」は、2016年から陸上自衛隊の熊本県健軍駐屯地・第5地対艦ミサイル連隊に配備されている。射程250 kmと言われ、今回導入予定発表があった3機種の巡航ミサイルよりかなり短い。速度はマッハ3 (3,600 km/hr)、弾頭には高性能炸薬250 kgを搭載する。複数の誘導システムを持ち、低高度を飛行し目標に接近・着弾する。発射後の弾道修正も可能だ。(詳しくはTokyoExpress 2014-06-17 “陸自、新型地対艦ミサイルの熊本集中配備を決める“を参照されたい)

米国のRGM-109D Block IIIトマホーク巡航ミサイルは射程1,250 km、340 kgの弾頭を持つ。しかし速度はマッハ0.7 (880 km/hr)と遅く、形もステスル性でないため、敵防空システムの迎撃を受けやすい。

 

以下に今回導入予定の発表があった3種のミサイルの概要を紹介する。

 

JSM (Joint Strike Missile)[共用型攻撃ミサイル]

F-35とJMS

図1:(Raytheon / Kongsberg) ) F-35戦闘攻撃機の左右のウエポン・ベイから発射されたJSMの想像図。向かって右のJMSは翼を展張し終わっているが、左はまだ畳んだまま。機首にはセンサーの窓、胴体下にはマイクロターボ製TRI40エンジンの空気取入れ口がある。

F-35 weaponbay

図2:(Raytheon) F-35 JSF戦闘攻撃機のウエポンベイ(左側)に装着された折り畳んだ状態のJSM。右側にも収納される。全長3.7 m、重量300kgなので既存のウエポン・ベイを改修せずに使える。

 

JSM (Joint Strike Missile)は、ノルウエイのコングスバーグ・グルッペン(KONGSBERG Gruppen ASA)が開発中のミサイルで、すでにノルウエイ海軍とポーランドが採用済みの新型対艦ミサイルNSM (Naval Strike Missile) を基本にした、空対地/空対艦ミサイルである。

ノルウエイ政府は、この程導入を決めた米国ロッキード・マーチン製F-35 JSF (Joint Strike Fighter)の胴体内ウエポン・ベイあるいは翼下に懸架するミサイルとして、JSM (Joint Strike Missile) の開発を進めている。

開発には米国レイセオン (Raytheon) が協力して、米軍への販売を担当する。

JSMは、敵防空システム圏外の遠距離( 500 km)から発射できるので、発射母機の安全性が高くなる。また低視認ステルス設計なので、迎撃され難い。

JSMは、目標選定能力が高い。すなわち、赤外線シーカーを使う自律目標認識機能(ATR=Autonomous Target Recognition)を備え、海面の波浪などによるクラッター(乱れ)を排除して目標を選定できる。正確な航法機能を備え、地上または海面上を極めて低高度で飛行、目標に向かう。JSMが搭載する双方向データリンクは、西側諸国標準のLink 16システムで、発射後の目標変更も可能である。選定した目標箇所に正確に着弾するとともに、付近にも損害を与える。

発射プラットフォームは、F-35だけでなく、F-16C/DやF/A 18戦闘機、P-8哨戒機など、あるいは艦船に搭載し、使用できる。

F-16を使ったJSMの発射試験は、2015年10月から始まり、2016年12月には米国エドワーズ空軍基地(Edwards Air Force Base)の試験空域で行われた。現在開発の最終段階にあり、HIS Jane’sによると、最終発射試験 (5回目の試験)は2018年3月に予定されている。

JSMの基本となる対艦ミサイルNSMは、全長3.96 m、重量407 kg、高性能炸薬を装填するチタン製弾頭は重さ125 kg、ロケット・ブースター付き、エンジンはフランスのマイクロターボ(Microturbo)製TRI-40推力約700 lbsを搭載する。射程は185 km以上、最新の複合材でステルス形状のため敵レーダーの検知を受けにくい。米国のGM-84ハープーン(Harpoon)ミサイルの次世代型と云って良い。一般の巡航ミサイルに使われているレーダー・シーカーは装備せず、発射母体からのレーダーの反射波を受信して目標を捕捉する。NSMはノルウエイ海軍のNansen級イージス駆逐艦に搭載が始まっている。

これを空中発射型にしたのがJMSで、全長3.7 m、重量307 kg、ノルウエイ空軍のF-16への配備は2020年から始まるが、F-35Aへの配備は、機体にブロック4ソフトが搭載される2022-2024年になりそうだ。

 

AGM-158B JASSM (Joint Air-to-Surface Standoff Missile)[共用型空対地長射程ミサイル]

AGM-158 JASSM

図3:(Lockheed Martin)母機から発射され、翼を展張して飛行中のAGM-158 JASSM巡航ミサイル

agm-158_03

図4:(Lockheed Martin) JASSM (Joint Air-to Surface Standoff Missile) (共用型空対地長射程ミサイル)は、ステルス形状でロシア製S-300対空防衛システムを突破できる。我が空自ではF-15Jを改修して翼下面に搭載する。左は翼下面に懸架した時の状態、右は発射後に翼を展張した状態。

 

AGM-158 JASSM とその系列巡航ミサイルは、ロッキード・マーチンが開発、製造するステルス形状の航空機発射型長射程巡航ミサイルで、米空軍と友好国が共用可能なよう開発された。発射後コース修正ができるようにウエポン・データリンク(WDL= weapon data link)が組込まれ、高精度で地上移動目標や海上航行中の艦船を攻撃できる。重量1,021 kg、全長4.27 m、翼幅2.4 m、弾頭は450 kgで、貫通式爆弾WDU-42/Bを内蔵する。2014年以降同社のトロイ(Troy, Alabama) 工場で製造中、すでに米空軍を主に5,000機以上の受注がある。

誘導はGPS、INSで行い、電子戦妨害でGPSが使用できなくなってもWDLで誘導が可能、目標に接近すると赤外線自動目標視認装置が作動、目標に向け弾頭を誘導し衝突破壊する。米空軍によると命中精度は3 m CEPと云う。

 

(注) CEP (circular error probable) 「半数必中界」と云い、軍事用語で命中精度を表す。発射弾数の半分が目標点を中心とする円内に着弾する場合、その円の半径で表す。[CEPが3 m]とは、10発打った場合5発が目標の3 m以内に着弾する、ことを意味している。

 

エンジンは、原型のAGM-158 JASSMが使うテレダイン製CAE J402-CA-100推力680 lbsから、改良型のAGM-158B JASSM-ERではウイリアムス(Williams Int’l)製 F107-WR-105ターボファン推力1,400 lbsに換装、その他の改良で射程は1,000 kmに伸びている。単価は130万ドル(約1億5000万円)。

2009年から米空軍に配備開始、2014年からはオーストラリア、フィンランド、ポーランドなどでも使われている。改良型を含めJASSMは、2016年9月までに2,000機以上が米空軍に納入された。B-1、B-2、B-52などの爆撃機、F-15E、F-16、F/A-18、F-35などの戦闘機の翼下面に懸架できる。昨年末にはポーランド空軍が70機を発注している。

2017年6月の契約分以降では、改良型のAGM-158B JASSM-ER (以後JASSMと略称)のみが生産されている。

 

AGM-158C LRASM (Long Range Anti-Ship Missile )[長射程対艦ミサイル]

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図5:(Lockheed Martin) 米海軍はF/A-18E/Fスーパーホーネット戦闘攻撃機などに搭載し、海上の艦船などの目標攻撃に特化したJASSM-ERを、「AGM-158C LRASM」の名前で2016年から初期型( LRASM-A)の取得を始めた。

 

LRASMは、ロッキード・マーチン社のオーランド(Orland, Fla,.)にあるミサイルおよび火器管制部門(LMMFC) が主契約者となり、開発・製造を担当している。

LRASM-Aの後継機LRASM-Bは、高空を超音速で飛行するミサイルにすることを目標にしている。

空対艦型のLRASM-Aは、F/A-18 E/Fには2019年から、また空軍のB-1爆撃機には2018年から配備が始まる。それだけでなく、イージス艦などが使う垂直発射装置(Vertical Launch System) Mark 41 VLSから発射可能の艦対艦モデルの実用化を急いでおり、Mk-114ブースターを付けて試験している。Mk 41 VLSは我が国でも国産化して海自護衛艦に多数装備しているので、VLS型LRASM-Aミサイルは、将来我が護衛艦でも使うことになりそう。

米海軍がLRASM-Aの配備を急いでいるのは、1977年以来使用しているハープーン対艦ミサイルの更新として、特に近代化著しい中国海軍を念頭に置いた措置である。

中国は、米空母打撃群に対する攻撃用として、地上移動発射式対艦弾道ミサイルDF-21D(射程1,500 km)、沿岸に配備するYJ-18亜音速巡航ミサイル(射程500 km+)、あるいはSS-N-22サンバーン超音速巡航ミサイル、などを多数配備している。これに対し米海軍は、射程わずか100 km+の時代遅れのハープーン・ブロック1Cを備えているに過ぎない。

米海軍が導入を進めるAGM-158C LRASM-Aは、JASSMと、機体、エンジン、抗堪製の高いGPS受信機、弾頭を含み、88%の部品を共用している。シーカーは対艦船用に性能を向上したBAE Systems製を使う。

AGM-158C LRASMは、強力な妨害電波の飛び交う過酷な電子戦環境下で使える。すなわち、搭載する自律誘導ソフトで目標の近くまで飛行し、ターミナル段階では迎撃回避のため複雑な飛び方をし、狙いを定めて目標に着弾する。つまりAGM-158C LRASMは、発射母体の「ISR」能力、情報収集(intelligence)、監視(surveillance)、偵察(reconnaissance)、ネットワーク結合、GPS航法等に余り頼らすに任務を遂行できる次世代型対艦ミサイルと言える。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

防衛省・自衛隊「防衛大臣記者会見概要」平成29年12月8日

Defense Industry Daily Dec 11, 2017 “Japan MOD requests JSM funding, LRASM & JASSM integration”

Raytheon Joint Strike Missile “Long-Distance Anti-ship Missile”

Defense World net. Oct. 5, 2017 “Final Test of Norwegian Joint Strike Missile Scheduled for March 2018”

Defense Industry Daily Dec 21, 2017 “Kongsberg’s NSM/JSM Anti-ship & Strike Missile Attempts to fit in small F-35 Stealth Bay”

Air Force Technology “AGM-158 JASSM (Joint Air-to-Surface Standoff Missile)”

HIS Jane’s Defense Weekly 30 November, 2016 “Poland requests to buy 70 JASSM-ER missiles” by Remigiusz Wilk

Defense Industry Daily July 21, 2017 “AGM-158 JASSM: Lockheed’s Family of Stealthy Cruise Missiles”

Aviation Week Network Mar.3, 2017 “Defense Laureate 2017 : AGM 158C Long-Range Anti-Ship Missile” by James Drew

Global Security.org “AGM-158C Long Range Anti-Ship Missile (LRASM)”