中国、巡航ミサイル携行のH-6K爆撃機など多数が宮古海峡を通過


2017-12-15(平成29年) 松尾芳郎

 

我が国のメデイアは、中国軍機の宮古海峡通過について、あまりにも頻繁な飛行のため殆んど取り上げなくなっている。しかし、ここに述べるように事態は沈静化するどころか、昨今の中国軍による威嚇行動は一層高まっている。

防衛省統合幕僚監部の発表によると、この数日H-6K爆撃機を含む多数の中国軍機が相次いで宮古海峡を往復あるいは通過した。すなわち;—

 

  1. 平成29年12月 9日(土)

H-6K爆撃機     4機

Y-8電子戦機      1機

これら中国軍機はいずれも東支那海から西太平洋に飛行し、折り返して宮古海峡を通過中国本土に帰還した。今回は長射程巡航ミサイルDF-10の空中発射型KD-20を2発搭載して飛行したことが注目されている。KD-20巡航ミサイルは射程2,000 km+あり、西太平洋の公海上から遠く離れた我国はもちろん、グアム、ハワイなども攻撃できる。

12-09 H-6K

図1:(統合幕僚監部)12月9日に宮古海峡を往復した中国空軍H-6K爆撃機、両翼下面に搭載するKD-20長射程巡航ミサイルに注目されたい。

dh-10-1cs

図2:(China Military News)空対地巡航ミサイルKD-20の基本形である地対地巡航ミサイルDF-10Aの飛行状態。両者の違いは、ブースターの有無のみで、地上から発射する DF-10Aでは加速するために必要だが、空対地KD-20では不要。

 

DF-10長射程巡航ミサイルは、1990年代にロシア製Kh-55亜音速巡航ミサイルを入手、これを基本にした最新の地上発射型巡航ミサイルで、2009年の北京軍事パレードで初めて公開された。射程は約2,000 kmなので中国内陸部から日本全土を攻撃できる。

このDF-10をH-6K爆撃機から発射できる空対地ミサイルとしたのが、CJ-10KあるいはKD-20である。射程は2,000 – 2,200 kmとされる。命中精度、すなわち半数必中界(CEP)は5 – 10 mで極めて高精度、弾頭には核爆弾または高性能炸薬450 kgを搭載する。

 

  1. 平成29年12月11日(月)

H-6K爆撃機     2機

Y-8電子戦機     1機

Tu-154情報蒐集機   1機

Su-30を含む戦闘機  2機

 

航空自衛隊は、これらに対し沖縄基地の第9航空団所属のF-15J戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を未然に防いだ。

12-11 H-6K

図3:(統合幕僚監部)11日撮影のH-6K爆撃機は9日撮影のと同様、翌下面にはKD-20長射程巡航ミサイル2基が装備されている。最大6基まで携行できる。H-6Kについては度々紹介しているので解説は避けるが、2007年1月に初飛行、2011年5月から配備が始まっている。巡航速度790km/hr、戦闘行動半径3,500 km、兵装搭載量は9トン。コクピットを含む電子装備も原型のTu-16から大幅に改良、性能を一新している。

12-11Y-8

図4:(統合幕僚監部)11日に空自戦闘機が撮影した本機は、去る11月23日と同じY-8GX3あるいは「高新3号」と呼ばれる電子戦/情報収集機のようだ。胴体側面に電子装備を収めた大型フェアリングがあり、戦闘指揮と電子戦機能を備える。

12-11 Tu-154

図5:(統合幕僚監部)Tu-154はツポレフ(Tupolev)製3発旅客機で1,000機以上が生産された。1972年以来改良が続けられ多数の派生型がある。中国空軍は民間用Tu-154Mに合成開口レーダー(SAR)を取付け電子偵察機(ELINT)に改造、Tu-154MD型として使っている。本機は最大離陸重量100 ton、航続距離6,600 km、エンジンはD-30KUターボファン、推力23,000 lbs (100 kN)を3基装備している。中国空軍司令部直轄部隊の第34輸送機師団(北京南苑基地)に配備され、6機がSAR付きELINT仕様で、他は輸送機として使っている。

中国国防軍ニュース(China Military Online)英文版(Dec 11, 2017)は本件に関し、次のように報じている。すなわち;—

「中国空軍機は2017年12月11日に定例のパトロール飛行訓練を行なった。空軍機の編隊は、H-6K爆撃機、Su-30およびJ-11戦闘機、偵察機、早期警戒機、タンカー、で構成され、沖縄列島の宮古海峡を通過、台湾とフィリピン・ルソン島間のバシー海峡を通り南支那海で演習を行なった」

中国側が公表した写真には、Su-30戦闘機2機で、J-11戦闘機の写真はない。J-11は恐らく宮古、バシーの両海峡を通らずに直接南支那海に入ったためと思われる。

12-11 戦闘機

図6:(China Military Online)スーホイSu-30は双発、複座、高機動性を備え、米空軍のF-15Eに匹敵する制空戦闘機。中国向けに作られたのはSu-30MKKとSu-30MK2。中国空軍ではSu-30MKKを73機、中国海軍はSu-30MK2を24機それぞれ運用している。中国以外ではベネゼラが24機、ベトナムが36機購入している。最大離陸重量34.5 ton、最大速度マッハ2、航続距離3,000 km。

12-11宮古海峡

図7:(China Military Online)12月11日、H-6K爆撃機の護衛をするSu-30MKK戦闘機2機の写真。

12-11 中国機

図8:(統合幕僚監部)平成29年12月11日の中国軍機の行動。「④推定戦闘機(2機)」とは、Su-30MKK戦闘機を指す。長射程巡航ミサイルKD-20を携行したH-6K爆撃機が沖縄本島—宮古島間の海峡を通り、台湾を迂回し飛び去るのは、我が国や台湾に対する威嚇でしかない。

 

—以上—