日本航空、超音速旅客機の実用化を目指しブーム社に出資


2017-12-20(平成29年) 松尾芳郎

 ブーム超音速機

ブーム 2

図1:(Boom Technology) ブームが開発する超音速旅客機は2023年完成が目標。コンコードと比較してサイズは約3/4、運航費は1/4を目指す。エンジンは3基、構造は複合材製、全備重量は77.1 ton、全長は52 m、翼幅は18 m、客室はビジネスクラス55席。速度は、現用機のマッハ0.85、コンコードの2.0、より早いマッハ2.2。ビジネスクラス料金で旅行可能、航続距離は8,300 km 。革新的な空力設計、最新の複合材構造で高効率な機体を目指す。エンジンはアフトバーナー無し、現用エンジンのコアに新設計のファン(低圧系)を組込む形式で、2018年中に決定する。JALはこのほど20機の仮発注をした。

 

日本航空(以下JAL)とブーム・テクノロジー(Boom Technology) は、ブームが開発を進めている超音速旅客機による「飛行時間短縮」に共同で挑戦すべく、パートナーシップ関係を締結した(12月5日)。

航空旅行に要する時間は、半世紀以上も一定で変わっていない。ブームが開発中の超音速旅客機は、マッハ2.2で飛行するので飛行時間は半分以下に短縮できる。航空機による「移動時間の短縮」には大きな価値があり、それに挑戦するブームをJALはエアラインの観点からサポートし、実現を目指す。超音速機の運航で、旅客に従来とは違う「時間」を提供できる未来を創出すべく協力して行く。

u  ブーム開発機の概要

巡航速度:マッハ2.2 (洋上飛行時、時速2,335 km)

現在の旅客機の時速はマッハ0.85、(800 – 900 km)

航続距離:8,300 km

客席数 :45 -55 席(ビジネスクラス仕様)

u  パートナーシップ詳細

JALが1,000万ドル(約11億円)の資金を提供する

JALがエアラインの観点から技術、仕様などのサポートをする

JALは将来の20機の優先発注権(pre-orders arrangement)を持つ

JALはバージン・アトランチック(Virgin Atlantic)航空 (2017年に10機オプション発注) に続く2番目のブーム超音速旅客機の顧客となった。ブーム開発機は2020年台半ば の就航を目指しており、バージンおよびJALを含みこれまでに76機のオプション契約を獲得している。

ブーム開発機は、現在のビジネスクラス料金で運航する55席仕様の超音速機で、最新の空気力学とエンジンを適用した設計で、デルタ翼、3発形式、1960年代に使われた英仏共同開発のコンコード(Concorde)超音速旅客機に比べ速度は10%早い。

 

(注)ブーム・テクノロジー社は、2014年にデンバー(Denver, Colorado)に設立された新興の航空機企業。2016年始めにはベンチャー企業育成を本業とする”Y Combinator社”が参加、援助するようになった。現在の資本は、JAL出資の1,000万ドルを含め5,100万ドル(56億円)。これで開発機の1/3サイズのモデルXB-1実証機の製作・試験と、開発機の設計に必要な資金が確保された。ブーム社は、開発中の超音速機には500の都市間を結ぶ路線で2035年までに1,000機の需要があると見ている。

 

ブーム・テクノロジー社の創立者兼社長のブレーク・スコール(Blake Scholl)氏は、JALが開発資金を拠出したことに関し、「これは歴史上初めてエアラインが超音速機開発に資金を出した事例で、画期的なこと」と話ししている。

スコール社長によると「JALは航空機の運航方式の決定、整備費の目標、客室内装の設計、ケータリングの仕様などについて、開発に参画する筈だ。JALはサービス品質で世界的に定評があり、長期間の運航経験がある」。

JALは、日本と北米を結ぶ重要なルート「北太平洋路線」に超音速機を使う夢を長い間抱いてきた。すなわち1963年には英仏共同開発のコンコードを3機発注したが、間もなく発生した世界的な石油危機の影響で止むなくキャンセルした。そして1970年代初期には、ボーイング開発の大型超音速機2707を8機オプション契約したが、こちらは計画中止になり実現しなかった。

TYO-SFO

図2:(Boom technology) 東京からサンフランシスコまでの飛行時間

NYC-LON

図3:(Boom Technology) ニューヨークからロンドンまでの飛行時間

 

これとは別に日本ではJAXA (航空宇宙開発機構)が、50席級、速度マッハ1.6、航続距離 3,500 nm (約6,500 km)の超音速旅客機の開発研究を行なっているが、実現は2030年代以降になりそう。これらを考え合わせて、JALはブーム開発機の実現に期待を寄せ、その早期完成に協力を決めたと言うことだ。

現在米国政府と議会では、現行の“陸地上空の超音速飛行の禁止”を見直す法案が検討されている。これが具体化すれば、民間航空での超音速飛行の市場は飛躍的に拡大するだろう。上院が提出予定の2018会計年度連邦航空局(FAA)規則修正案には「FAAは2020年代半ばまでに、経済的に可能で技術的に許容可能なソニック・ブーム(衝撃波)の基準値を設定すべし」と書かれている。

来年春にはFAA規則の改定が見込まれており、実現すれば超音速旅客輸送に向け弾みがつくことになる。

FAAと国際民間航空機構 (ICAO) は“陸地上空の超音速飛行の禁止”の撤廃について協議中である。FAAは2021年に低ソニック・ブーム飛行実証試験を行う予定で、地上住民の75 PNLdB (perceived noise level decibel) ブームに対する反応を調べる。この75 PNLdBの値は、コンコードの運航で生じる105 PNLdBに比べ相当に低い。

 

実証機XB-1 “ベイビー・ブーム”

ブーム社では、超音速機の3分の1の大きさ、実証機XB-1“ベイビー・ブーム(Baby Boom)”の完成を急いでいる。XB-1は小型の複合材製のデルタ翼機で、GE製J85-21推力3,500 lbs のエンジンを3基搭載し、速度マッハ2.2で1,900 km を飛行する。

2018年末に亜音速飛行、ついで2019年には超音速飛行を予定している。すでに組立てを完了、複合材製主翼の桁はマッハ2.2の速度で遭遇する高温に耐えられるよう加熱状態(300℉=150℃)での強度試験を実施済み。

使用する複合材はオランダのTenCate Advanced Composites社が作る素材で、比較的低温な箇所には炭素繊維エポキシ基の材料、高温となる主翼前縁や機首にはスペースX社の打ち上げロケット・ファルコン9(Falcon 9)で使用中の“高温度耐久素材”が使われる。最も高温になる主翼前縁と機首では標準状態で307℉ (153℃)になると予想されている。

DF-JALBOOM_2_BoomTechnologies

図4:(Boom Technology) 実証機XB-1 “ベイビー・ブーム”の完成予想図。全長21 m、翼幅5.2 m、最大離陸重量6.1 ton、エンジンはGE J-85-21推力3,500 lbsを3基、エンジン・インレットと排気口は可変型、2人乗り。

 

終わりに

開発中の超音速機が初飛行に成功した後、量産されることになるが、この生産体制の確立が次の課題になる。ブーム・テクノロジー社は規模の小さいベンチャー企業なので、このような中、大型旅客機の量産の経験がない。量産に必要な資金、設備を考えると、単独で需要に対応するのにはかなり困難が予想される。いずれは経験豊富で十分な資金力のある大企業の傘下に入り、そこで作られることになるのではないか。最近の例では、カナダのボンバルデイア製CSeries中型旅客機が、エアバスの傘下で量産することになった。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

JAPAN AIRLINES and Boom共同プレスリリース2017年12月5日

Boomsupersonic.com “The Future is Supersonic”

Boom Press Release – 12.5.2017 “Japan Airlines and Boom Announce Partnership fir Supersonic Air Travel”

Aviation Week Network Dec 5,2017 “JAL Options up to 20 Boom Supersonic Airliners” by Guy Norris