中国軍機の動き、我国周辺で益々活発化


2017-12-22(平成29年) 松尾芳郎

 

この数日 (17日、18日、20日) 我国周辺で中国軍機の動きが異常に活発化している。注目すべきは18日の対馬海峡通過・日本海での演習、および3ヵ日連続で電子戦機等で宮古海峡を通過した件である。軍事筋では、北朝鮮情勢の緊迫化で我国が防衛力強化に向かうのを牽制し、またいつでも南西諸島を収奪できるぞ、との脅しと受け止めている。

防衛省統合幕僚監部は今回の中国軍機の動きについて、次のように3回に分けて公表した。また普段は両国友好に反するような報道を避けるマスコミも部分的だが報じていた。

H-6K巡航ミサイル搭載

図1:(統合幕僚監部)航空自衛隊戦闘機が撮影した12月18日対馬海峡上空を飛行する中国軍H-6K爆撃機。翼下面にKD-20巡航ミサイル(射程2,000 km+)を搭載して日本海で演習を行なった。さる12月9日に宮古海峡を通過、バシー海峡から南支那海に入ったH-6K爆撃機もKD-20巡航ミサイルを装備していた。

 

12月18日には巡航ミサイルを装備した最新型のH-6K爆撃機2機が、護衛戦闘機Su-30 2機と共に我国の防空識別圏(ADIZ)を侵犯、対馬海峡上空を通過、日本海に入り演習を行なった。防衛省はこれを含む3回の中国軍機の行動に対し、その都度航空自衛隊のF-15J戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。18日には中国軍機は同時に韓国の防空識別圏も侵犯したため、韓国空軍戦闘機も緊急発進した。

 

統合幕僚監部発表の大要は次の通り;—

①      12/17 「中国機の東シナ海および太平洋における飛行について」

Y-8 情報蒐集機   1機

Y-8 電子戦機    2機

②      12/18 「中国機の東シナ海、日本海および太平洋における飛行について」

H-6 爆撃機     2機

Su-30 戦闘機    2機

Tu-154 情報蒐集機 1機

Y-8 電子戦機    1機

③      12/20 「中国機の東シナ海および太平洋における飛行について」

Y-8 電子戦機     2機

Tu-154 情報蒐集機 1機

 

中国側は18日の対馬海峡通過の件について、次の発表を行っている;—

China Military Online (2017-12-18)によれば「中国空軍機は12月18日に初めて対馬海峡上空を通過し、日本海の公海上で訓練を実施した」。そして「訓練にはH-6K爆撃機、Su-30戦闘機、その他偵察機などの航空機が参加し、外国軍機による妨害を排除しながら訓練を行なった。この訓練は国際法上許容されたもので、特定の国を対象にしたものではない。」と付け加えた。また日本海と対馬海峡は日本の領海ではなく、国際法上どの国の艦船、航空機でも通過することができる、と主張した。

 

以下に統合幕僚監部が発表した情報を、日時、飛行経路、飛行した中国機について、順を追って解説してみよう。

 

1217日の中国空軍機の動向

Y-8情報蒐集機1機とY-8電子戦機2機が相次いで南支那海からバシー海峡を経由して宮古海峡を通過、東支那海に向かった。

12:17行動

図2:(統合幕僚監部)12月17日の中国軍機の行動。

12:17 Y-8

図3:(統合幕僚監部)去る11月23日にH-6K爆撃機4機と共に宮古海峡を通過したY-8情報蒐集機と同じ機種。ロシアの貨物輸送機An-12Bを基に、中国でY-8輸送機を作り、この派生型の一つが情報蒐集機。垂直尾翼前方に大きなふくらみがあるのでY-8DZ型電子偵察機(ELINT)のようだ。

12:17 Y-8電子戦機

図4:(統合幕僚監部)胴体側面に電子装備を収めた大型フェアリングがあり、戦闘指揮と電子戦機能を備えるY-8GX3あるいは「高新3号」と呼ばれる電子戦/情報収集機らしい。

 

 

1218日の中国空軍機の動向

KD-20と見られる長射程巡航ミサイルを装着したH-6K爆撃機2機を中心に、Su-30護衛戦闘機2機とTu-154情報蒐集機が随伴し、東支那海から対馬海峡を通り、日本海に入り演習を行なった。H-6K爆撃機が日本海で演習するのは中国空軍始まって以来の出来事である。既述のように中国軍事筋はこの件を大々的に報じ、その戦闘能力の充実ぶりを内外に誇示した。

これとは別にY-8電子戦機1機が、西太平洋から沖縄県宮古海峡を通過、東支那海に向かった。

12:18行動

図5:(統合幕僚監部)中国東部にある基地を出発したH-6K爆撃機を中心とする編隊は東支那海から対馬海峡を通過、日本海に入り、演習を行い、終了後再び往路と同じ経路で本土に向け立ち去った。これとは別に④で示すY-8電子戦機1機が宮古島周辺を飛行した。

12:18 H-6

図6:(統合幕僚監部)図1と同じ写真。H-6K爆撃機、翼下にKD-20巡航ミサイルが見える。巡航速度790km/hr、戦闘行動半径3,500 km、兵装搭載量は9トン。

12:18 Su-30

図7:(統合幕僚監部)ロシア製Su-30戦闘機。双発、複座、高機動性で、米空軍のF-15Eに匹敵する制空戦闘機。中国向けはSu-30MKKとSu-30MK2。中国空軍ではSu-30MKKを73機、中国海軍はSu-30MK2を24機それぞれ運用している。

12:18 Tu-154

図8:(統合幕僚監部)Tu-154はツポレフ(Tupolev)製3発旅客機で、中国空軍はこれに合成開口レーダー(SAR)を取付け電子偵察機(ELINT)に改造、Tu-154MDとして6機使っている。

12:18 Y-8

図9:(統合幕僚監部)12月17日に同じコースを飛んだ機体と同じ、Y-8GX3あるいは「高新3号」と呼ぶ電子戦/情報収集機と見られる。

 

1220日の中国空軍機の動向

この日の中国機の行動は、次のように個別に行われた。まず①で示すY-8電子戦機1機が、バシー海峡方面から東北に進み宮古海峡を通過、東支那海に向かった。②に示すTu-154情報蒐集機1機が東支那海—西太平洋間を宮古海峡を通過往復した。③に示すY-8電子戦機1機が、中国東岸から東支那海に入り、我国九州西岸に沿い飛行したのち中国本土に向け飛び去った。

12:20 行動

図10:(統合幕僚監部)12月20日の中国空軍偵察機などの飛行経路。

12:20 Y-8

図11:(統合幕僚監部)図4に示す12月17日に宮古海峡を通過したY-8電子戦機と同じ機体30519。

12-20 Tu-154

図12:(統合幕僚監部)図8に示す12月18日に対馬海峡を往復したTu-154情報蒐集機と同じ機番「4029」が読み取れる。

12:20 Y-8 No.2

図13:(統合幕僚監部)12月20日飛来のY-8電子戦機は機体番号30515で、17日と18日に姿を見せた30519とは異なる。

 

—以上—