中国軍機H-6K爆撃機を含む多数が宮古海峡を往復 、米海軍イージス艦が南沙諸島で“航行の自由作戦”


2018-03-25(平成30年) 松尾芳郎

2018-03-26改定(China military com 3月26日により写真を追加、記事を修正)

 

3月23日には中国軍が関係する大きな動きが東支那海と南支那海で発生した。我が国メデイアは、1.“中国軍機多数が宮古海峡を往復” については中国に配慮してか一部を除き全く取り上げなかった。また2.“米イージス艦が南沙諸島で航行の自由作戦” を行なった件については殆どの報道機関が取り上げたが、多くが、米艦が中国領海に不法侵入したかのように報じ、行動に疑問を持たせるよう解説したのが気にかかる。

広く知られているように南支那海に点在する多数のサンゴ礁や小島は、中国が1992年に一方的に領有権を宣言、不法占拠を続けている島々である。これを差し置いて中国の領有を既成事実化するように扱うのには疑問を感じる。

“米国には厳しく中国には媚びへつらう”リベラル・マスコミを象徴する報道姿勢と云って良い。

 

  1. 中国軍機H-6K爆撃機を含む多数が宮古海峡を往復

 

防衛省統合幕僚監部の発表と中国空軍の発表によれば、23日(金曜日)午前から午後にかけて中国空軍のH-6K爆撃機4機を含む多数が沖縄本島と宮古島間の宮古海峡を通過、西太平洋上で遠距離戦闘訓練を行い、往路と同じ経路で東支那海に戻った。航空自衛隊那覇基地から緊急発進したF-15J戦闘機が領空侵犯に備えた。往復した中国軍機は次の通り。

H-6 K爆撃機               4機

TU-154 情報蒐集機     1機

Y-8 電子戦機     1機

Su-30戦闘機           2機

中国国防省によれば、同時刻に射程1,500 kmの巡航ミサイルを携行した複数のH-6K爆撃機とSu-35戦闘機の編隊が南支那海に入り、中国が領有権を主張する島嶼上空をパトロールして演習を行なった。Su-35戦闘機はロシア製で、2016年末から中国空軍で使用を始めた新鋭機である。

23日H-6

図1:(統合幕僚監部) H-6Kについては度々紹介しているので解説は避けるが、2007年1月に初飛行、2011年5月から配備が始まっている。巡航速度790km/hr、戦闘行動半径3,500 km、兵装搭載量は9トン。翼下面などにKD-20長射程巡航ミサイルを最大6基まで携行できる。コクピットを含む電子装備も原型のTu-16から大幅に改良、性能を一新している。

3:23 H-6K、Su-30

図2:(China Military.com) 宮古海峡上空を飛行するH-6K爆撃機2機とSu-30戦闘機2機。H-6K爆撃機の翼下面にはKD-20長射程巡航ミサイルが見える。

 3:23 Su-30

図3:(China Military .com)H-6K爆撃機から写したと思われるSu-30戦闘機。中国空軍ではSu-30MKK型機を約70機、海軍ではSu-30MK2型機を20機ほど使っている。いずれも原型のスーホイSu-30を改良した多目的戦闘機で、米国製F-15Eストライク・イーグル戦闘機に匹敵する重戦闘機と言われる。

 

23日TU-154

図4:(統合幕僚監部) Tu-154はツポレフ(Tupolev)製3発旅客機で、中国空軍はこれに合成開口レーダー(SAR)を取付け電子偵察機(ELINT)に改造、Tu-154MDとして6機使っている。

23日Y-8

図5:(統合幕僚監部) 12月17日と同20日に宮古海峡を通過したY-8電子戦機と同じ機体30519。Y-8GX3あるいは「高新3号」電子戦/情報収集機のようだ。

03-23 中国軍機

図6:(統合幕僚監部) 3月23日、長射程巡航ミサイル6基を搭載できるH-6爆撃機4機を含む8機の中国軍機が沖縄本島—宮古島間を往復した。台湾国防省の発表によれば、20日には中国海軍の空母「遼寧」を含む艦隊が台湾海峡を通過、南支那海に入った。折から米国では政府高官の台湾訪問を自由にする「台湾旅行法(Taiwan Travel Act)」が発効、中国は、これを含む諸々の米国の動きに反発して実戦演習を行うと報じられている。

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図7:(China Military Online) 3月20日に台湾海峡を通過、南支那海に向かう空母「遼寧」。中国海軍が、米軍に対抗するために行う実戦演習に参加する。演習には「遼寧」の他に駆逐艦など10隻程度が参加する模様。「遼寧」は旧ソ連で建造中だった空母「ワリヤーグ」を購入、大連で空母として完成させ2012年に就役した。満載排水量67,500 ton、全長305 m、搭載機数はJ-15戦闘機など50機程度。なおJ-15は、ロシア製Su-33試作機をベースに瀋陽航空機工場で作られ、現在21機が使われている。

 

  1. 米海軍イージス艦が南沙諸島で“航行の自由作戦”

 

中国国防省は3月23日「米海軍駆逐艦が南支那海の中国領島嶼の領海に侵入したので、中国海軍フリゲート2隻が対応、警告を発し領海外に退去させた」と報じ、併せて米艦の行動に強い不快感を示した。

ロイター電によると、「米艦“マステイン(USS Mustin / DDG-89)”は南沙諸6島/スプラトリー諸島(Spratly archipelago)にあるミスチーフ礁(Mischief Reef)から12海里の内側に入り“航行の自由作戦 (freedom of navigation operation) ”を行った」。ミスチーフ礁はかってはベトナム、台湾、フィリピンなどの漁船の避難場所で、フィリピンが領有権を主張するサンゴ礁だった。しかし、1992年以降中国が実効支配を宣言、ここに強大な軍事基地を造成している。すでに対空近接防御システムCIWSを配備し、接近する航空機や巡航ミサイルから施設を守っている。

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図8:(US Navy) USSマステインは、横須賀を基地とするアーレイバーク(Arleigh Burke)級39番目のイージス艦で、米海軍第7艦隊指揮下の第15駆逐艦隊に所属している。2003年6月就役の艦。満載排水量9,200 ton、Mk 41 VLS(垂直発射装置)32セル+64セル、計96セルを備える。SH-60ヘリコプター2機を搭載する。

南支那海地図

図9:(Google)中国が国際社会の主張を無視して、1992年2月25日に一方的に領有権を宣言した南支那海の東沙諸島、西沙諸島、中沙諸島、南沙諸島の位置を示す。中国軍はこれら各諸島に多数の軍事基地を設置している。南沙諸島の場合、ミスチーフ礁を含め7箇所に人工島を建設している。特にミスチーフ礁の西200 kmのフエリー・クロス礁(Fiery Cross Reef)に造成した滑走路は3,000 mの長さがあり、大型爆撃機や戦闘機の離発着が支障なく行なえる。

 

 

 

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