ロールスロイス、「ウルトラファン」実証エンジンの飛行試験を近く開始


2018-05-08(平成30年) 松尾芳郎

 

ロールスロイスがこれまでの「トレント」系列エンジンの後継となる「アドバンス」と「ウルトラファン(UltraFan)」の開発を始めてから4年になるが、その全体像が明らかになってきた。

それによると現在の最新型「トレントXWB」から出発した同じ3軸式の「アドバンス3」は試作に止まる見込みだ。これで得た新設計の高圧系コア、すなわちHP(高圧)コンプレッサーとHP(高圧)タービンの技術を使い、2軸式としたのが「ウルトラファン」である。

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図1:(Rolls Royce) 「ウルトラファン」の透視図にその特徴を書き加えた図。「ウルトラファン」は2軸式のため、3軸式の「トレントXWB」や「アドバンス3」にあった“LP(低圧)タービン”(6段)はない。

 

「ウルトラファン」は、「アドバンス3」のコアで達成した圧力比60 : 1 に、最新技術と革新的耐熱材料を加え、全体の圧力比を70 :1 以上に高めている。そして、ファンと中圧コンプレッサー(IPC=Intermediate pressure compressor) との間に新しくパワー・ギアボックス(PGB=power gearbox)を入れ、ファンを効率の良い低速回転に、またIPタービンは高効率の高速回転で運転する。

ロールスロイスは、「ウルトラファン」の開発にエアバスの協力を得て2020年代半ばの実用化を目指している。近くロールスロイス保有の飛行試験機、ボーイング747-200型機に搭載し飛行試験を行う運びとなった。

「ウルトラファン」の飛行試験は、EUの航空宇宙研究計画の一つで排気ガス・エミッションの低減を目標とする“クリーンスカイ2(Clean Sky 2)” 計画に基づく資金援助も得て行われる。「ウルトラファン」は、エアバスの将来機への採用だけでなく、ボーイングを含む他の民間機への採用も目指している。

「ウルトラファン」については、これまで「TokyoExpress」で、

「2016-12-08“RR、ウルトラファン用パワー・ギアボックス(PGB)の試験を開始“」、および

「2017-05-08改定 “ロールスロイス、新エンジン「アドバンス」と「ウルトラファン」の開発を促進”」で紹介している。

すなわち「ウルトラファン」は“全く新しい(all new)”かつ“拡張性の高い技術(scaleable architecture)” を備えるエンジンとなる。

中心であるコア(core)、高圧コンプレッサー(HPC)と高圧タービン(HPT) 、は新設計、それにファンはタービンからパワーギアボックス(PGB)を介して減速し駆動される。

設計は、ロールスロイスが広胴型機用として成功している3軸式”トレント(Trent)”エンジンの技術を全体として受け継いでいる。異なるのは、小型の単通路の狭同型機から大型の2通路広胴型機までカバーするのを目標にしている点で、ボーイングが検討中の”NMA=new midmarket aircraft”(新しい中型機市場向け航空機)への採用も狙っている。

「ウルトラファン」は、全体の圧力比は70 : 1以上、ファンのバイパス比は15 : 1以上、現用の“トレント700”エンジンに比べ、熱効率、推進効率が向上するので、燃費では25%以上の改善が見込まれている。

今年(2018) 4月のベルリンILA (Berlin Air Show)では、ロールスロイスから詳しい説明はなかったが、前述のように、ボーイング747-200飛行試験機に搭載、近く飛行試験を開始する。この試験機は、これまでA340-600用の“トレント900”、A350XWB向けの”トレントXWB”などエアバス機に搭載するエンジンの開発試験に使われてきた。

「ウルトラファン」実証エンジンは、推力70,000-80,000 lbsのサイズとなる予定。目下それに使う「パワー・ギアボックス(power gearbox)」および「アドバンス3(Advance 3)」コアの試験が行われている。

試作「パワー・ギアボックス」は、2017年9月からドイツ・ダルウイッツ(Dahlewitz)のRR施設の姿勢変更装置(Attitude Rig) で試験中、これまでに70,000 hp(馬力)までの耐久運転を終わっている。

「アドバンス3」コアの試験は、2017年11月からRRのダービー(Derby, England)工場で始まっている。

「ウルトラファン」実証エンジンのファン直径は公表されていないが、RRの首席技術担当役員“ポール・スタイン(Paul Stain)”氏は、かって140 inchになると示唆しており、これが事実なら“トレントXWB”の118 inch (3 m) やGEが誇る世界最大のエンジン“GE9X”の134 inch より大きくなる。

 

 

ロールスロイスの大型エンジン系列

以前にも紹介したが、RRの「トレント」系列エンジンの最近の状況を以下に述べて参考に供する。

大型エンジンTrent (トレント)系列は3軸型の高バイパス比ターボファンで、基本はRB211から始まっている。1990年8月のTrent 700の成功以来、Trent 900、Trent 1000、Trent XWBが次々に完成、A380型機、ボーイング787型機、A350 XWB型機などに採用されている。RRは、「Trent」の成功で大型ターボファンの分野ではGEに次ぐ世界第2位のエンジン・メーカーになった。

「Trent」系列には、我国から、川崎重工が「IP(中圧)コンプレッサー・モジュール」、三菱重工が「燃焼室」と「LP(低圧)タービン・ブレード」の製造、で参画している。

 

「Trent」系列エンジン;

Trent 700

RB211を継ぐ最初のTrent系列、エアバスA330用に、GE製CF6-80E1およびP&W製PW4000に次ぐ3番手として採用された。キャセイパシフィックのA330で1995年3月から就航開始。A330の確定受注は1,482機、現在の受注残は114機。A330-200Fを基本にしたタンカー(給油機) ”A330 MRTT”は英、独、仏、オーストラリアなどの各国空軍から63機を受注、うち29機を引き渡し済み。A330系列機に於けるTrent 700のシェアは3分の1を超えている。

Trent 900

エアバスA380用としてGE-PW合弁企業Engine Alliance製のGP7000と共に採用され、ほぼ半分のシェアを持つ。推力は70,000〜76,000lbs 。A380の受注331機うち引渡し済みは222機。受注機のうちTrent 900装備機は154機。日本ではスカイマーク社がTrent 900付きA380型機2機の導入を試みるが2015年に経営破綻して白紙に戻った。この救済策を巡りエアバス、デルタ航空などが協議、紆余曲折の末、全日空がこの2機を含む3機を購入しハワイ路線に使うことが決まった。

Trent 1000

ボーイング787用としてGE製GEnx-1Bと共に採用された。Trent 1000エンジン付きを選んだのは、全日空、ILFC、ブリテイッシュ航空など443機。Trent 1000装備の787の就航開始は2011年9月。推力は64,000〜76,000 lbs 。787の受注は1,318機、うち引渡し済みは670機である。

2018年になりTrent 1000のIPコンプレッサーにパッケージC [Pack C]として導入した性能向上の改修で、IP段1段と2段のローター・ブレードにクラックが生じる問題が発生。EASA(欧州)とFAA(米国)がAD(耐空性改善通報)を発行、繰り返し検査とETOPS(長距離洋上飛行)を[330分]から[140分]に制限する措置を決めた。

日本では全日空がTrent 1000付き787型機64機を保有、うち31機には[Pack C]改修を実施したのでADの適用を受ける。

Trent XWB

エアバスA350 XWB用に独占供給するエンジンで、Trent 1000をベースに性能アップを図ったエンジン。A350XWBはカタール航空で2015年1月から就航開始。推力75,000~97,000 lbs、ファン直径は3 m (118 inch)、バイパス比は「9.3:1」、「コア」圧力比は「52:1」である。A350XWBの確定受注は832機、引渡し済みは167機である。日本航空は-900を18機、-1000を13機、合計31機を確定発注済みで2019年から受け取りを始める。

Trent 1000TEN

787用のTrent 1000が競合するGEnx-1Bより燃費で劣るため、次期787用として提案しているのがTrent 1000TEN。Trent XWBに採用した技術を使い、燃費でTrent 1000対比で5%の改善をする。2017年末からScoot航空およびエア・ニュージランドで就航開始している。

Trent 7000

2014年7月に開発決定したエアバスA330neo用に独占供給するエンジン。Trent 1000TENの技術を転用し、性能向上を目指す。推力は68,000~72,000 lbs 、Trent 700に比べ燃費を10%改善。A330neoには-900と-800があり、現在の確定受注は-900のみで214機。エアバスはA330neoの受注が伸び悩んでいるのに苦慮している。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Daily May 2, 2018 “Airbus-Rolls UltraFan Demonstrator to Fly on 747 Testbed” by Guy Norris

TokyoExpress 2017-05-08改定 “ロールスロイス、新エンジン「アドバンス」と「ウルトラファン」の開発を促進”

TokyoExpress 2016-12-08 “RR、ウルトラファン用パワー・ギアボックス(PGB)の試験を開始“

Reuters Business News April 25, 2018 “Rolls-Royce, Airbus to collaborate in new UltraFan enginee”

Royal Aeronautical Society “Pioneers of Power”