2018-06-14(平成30年) 松尾芳郎
シアトル近郊カークランド(Lirkland)で2013年に創立したズーナム・エアロは、運航費の安い、騒音/エミッションの少ない小型のハイブリッド電動飛行機を開発し、短距離リージョナル航空機市場への参入を目指している。
南部カリフォルニアで定期チャーター機を運航しているジェットスイーツ(JetSuite)社が、今年5月中旬にズーナム・エアロ機を大量発注してローンチ・カスタマーとなった。
ズーナムの創立者でCEOのアシシ・クマール(Ashish Kumar)氏は「短距離リージョナル機の市場はもうすぐそこまで来ている」と話している。
同社が最初に取り組んでいる機体は12人乗り、航続距離700 mile (1,100 km)、巡航速度340 mph (540 km/hr)、で、運航費は現在のリージョナル機に比べ40 – 80 %も安くなりそうだ。バッテリー技術が進歩すれば航続距離は1,000 mile (1,600 km) 以上になる。
ローンチ・カスタマーのジェットスイーツ社は、オプションを含めて100機を発注し、個人向けチャーターと、同社の子会社ジェットスイーツX社が運営する一般向け定期チャーター便で使う予定にしている。
ジェットスイーツ社は、ジェットブルー航空(JetBlue Airways)とカタール航空(Qatar Airways)が出資する企業で、今年5月1日からカリフォルニアとネバダ両州でジェットスイーツXが運航する便とコードシェアを始めた。
ズーナム・エアロ社への出資会社は、ジェットブルー航空・技術投資部門とボーイング・ホライゾンX部門の2社。ホライゾンX部門は、ボーイング社内で有望なベンチャー企業への投資を担当する部門である。
ズーナム開発のハイブリッド機の特徴は;—
- ハイブリッド電動出力で運航費が低廉
- バッテリー電力使用で燃費低減
- ターボジェネレーター使用で航続距離を延伸、同時に安全性も向上
ジェットスイーツ社は現在エンブラエルERJ-135型機など約40機で、カリフォルニア州バーバンク(Burbank)、コンコード(Concord)、とラスベガス間の運航中で、出発/到着はプライベート・ターミナルを使っている。ERJ-135型機は通常37席だが8席を取り外し29席で使っているので、一般の航空旅客に要求される登場前の保安検査は必要なく、プライベート乗客用の簡単な検査で搭乗できる。ズーナム機を使う場合、ジェットスイーツX社は9席仕様で、またジェットスイーツ社では6席仕様で飛ぶ予定だ。
ジェットスイーツ社は機体を受領すると、辺鄙な所に住む人達を空港に送り届けるサービスを開始する。同社ではこれを“ライトハウス・ルート(lighthouse routs)(灯台路線?)”と呼んでいる。そこでは特段の設備は必要なく、電気自動車が使う充電設備さえあれば良い。
ズーナム社では、運航が始まっても機体と推進装置の改良を続け、特にバッテリーとターボシャフト・エンジン駆動のジェネレーター・システムの改良に取組む予定だ。
図1:(Zunum Aero) ジェットスイーツ社は、小型ハイブリッド電動推進機で短距離定期チャーター便を始める。図はジェットスイーツのロゴで飛ぶズーナム・ハイブリッド機の想像図。ズーナム機は、ターボジェネレーターの電力で電ファンを駆動し上昇、巡航高度に達すれば停止、バッテリー出力だけでファンを回し巡航する。バッテリー技術が進歩すれば、ターボジェネレーターを廃しバッテリーのみで運航する。試験飛行は2019年開始、ジェットスイーツへの引渡しは2022年から。
(注)FAA Part 23:乗客9人以下、最大離陸重量12,500 lbs以下の曲技飛行に使わない航空機(いわゆるゼネラル・エビエーション(GA = General Aviation) 用航空機)の耐空性基準を定めた規則。これを改めた新Part 23が2017年9月に公布された。新Part 23では、適用が全備重量19,000 lbs以下で乗客19名以下の航空機に拡大され、併せて小型機への革新的技術、安全性強化策の導入が容易に行えうるようになり、同時にコストも低減される。さらに2018年末までにハイブリッド電動推進機の耐空性基準がこれに追加される予定。
図2:(Zonum Aero)ズーナム機は、乗員0または1-2名、客席6-12席、全長13 m、翼幅16 m、最大離陸重量5.2 ton、うちバッテリー重量1.4 ton、ターボジェネレーター500 kw 1基、航続距離700 miles(1,100 km)、巡航速度340 mph (540 km/hr)、
ズーナムでは、推進装置となる電動ファンと駆動用モーターを製作中で、今年中に地上設備で試験をはじめる。それから双発の普通小型機を購入、これを飛行試験機(FTB=Flying Test Bed)に改造し電動ファンなどを取付けて、飛行試験を来年(2019)6月頃に実施する。さらに、関連業界に対しターボジェネレーター、関連システム、機体構造について参加を呼び掛けている。
推進およびパワー・システムの開発は、開発ソフト上で開始し、最初の2つのモデルは地上試験で使い、3番目のモデルで飛行試験を実施する。そして運航開始には5番目のモデルを搭載する予定にしている。
飛行試験機(FTB)には、先ず片側だけに電気推進ファンを取付け、他方は既存のエンジンを装着したままで試験をする。電動推進ファンはバッテリーで始動し、それから搭載するターボジェネレーターの電力で駆動する。
飛行試験機自体は、さらに改造を続け連続して出力1MW の出力の動力装置の機体にし、開発中のズーナム機がFAA Part 23 の証明を取得する前に、航空機用エンジン/動力装置の耐空性基準FAA Part 33証明の取得を目指す。
そしてズーナムの目標とするバッテリー出力だけで飛行する機体を2022年までに完成する。ターボジェネレーターは航続距離延長のために使い、バッテリー性能が十分向上したら取り外す予定、しかしターボジェネレーターだけでも飛行できるので、顧客の要望があれば残すつもりだ。
ターボジェネレーターには、ジェネラル・エレクトリック(GE)、ハニウエル(Honeywell)、ロールスロイス(RR)、ユナイテッド・テクノロジーズ(UTC) / P&WC、の各社の提案から選定する。ズーナム社の要件は500 KW クラスのターボジェネレーターで、今の所適合するエンジンはない。各社とも既存のエンジンを母体にエミッションの少ない電動推進用ターボジェネレーター開発を進めている。その中でGEエビエーションは開発中の「キャタリスト(Catalyst)」エンジンをハイブリッド電動エンジンとして提案している。
図3:(GE Aviation) GE Aviationが開発中の「キャタリスト」ターボプロップ。セスナの単発ビジネス機「デナリ」に搭載が決まっている。2017年末に地上試運転を開始、2020年に証明を取得予定。出力850-1,600 軸馬力(630-1,190 kW)級で、競合機種より20 %効率が良い。これは圧力比 16 : 1 、可変ステーターベーン、空冷式タービンブレードなどを採用しているため。
「キャタリスト」は、全く新規設計の出力1,300 shp (軸馬力)級のターボプロップで、この市場を独占しているプラット&ホイットニー・カナダ(P&WC) PT6系列エンジンに対抗するモデルである。
「キャタリスト」のギアボックス、パワータービン、燃焼器はイタリアのチューリン(Turin)、コンプレッサーを含む回転部分はポーランドのワルソー(Warsaw)で作られる。共にイタリアのアビオ(Avio)社の施設だったが2013年にGEが買収した。そして最終組立はチェコのプラグー(Prague)にあるワルター・エンジン(Walter Engines)社で行われる。セスナ「デナリ(Denali)」就航までに2,000時間の運転を完了する予定。
競合相手のP&WC PT6 はこれまでに50,000台以上が生産され、50年間に渡ってこのクラスの市場を独占してきた。
GEでは、ハイブリッド推進システムはこのクラスのエンジンから始まると考えていて、「キャタリスト」とは別に、2016年末から空軍研究所とNASAの支援を受け、軍用のF110を改造した出力1 megawatt のエンジンの試験をしている。
GE エビエーションは、GEグローバル・リサーチ・センター(GRC=Global Research Center)と協力して1 megawatt級の電動モーター/発電モーターの開発に取組んでいる。このモーター・システムは、同じGE系列のEPISCenter (Electrical Power Integrated System Center) で試験中。そしてサーブ340が使っていた直径11 ftのダウテイ(Dowty) プロペラを駆動する試験は、ピーブルス(Peebles, Ohio)工場で行う。また電動モーターが発電する直流を交流に変換するには高効率のインバーター(inverter)が必要だが、これには、高周波で使う損失の少ないカーボン・ベースのスイッチを使う。この装置は入力2,400 volt 直流を3相交流の出力に変換するものだが、これにはGE製の1.7 KW 用特殊なパワートランジスタを使う。
開発中のスイッチは、従来のものに比べ2倍の出力を出せるが、陸軍からの要求で8倍の出力のスイッチの研究に取り組んでいる。
このようにGEはハイブリッド電気推進システムの研究を着々と進めている。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Forbs May 23, 2018 “Zunum Aero Could Achieve A First* An Alternative-Powered Plane That Acturally Reaches the Market” by Dan Reed
Aviation Week May 23, 2018 “Launch Customer JetSuite Shares Zunum’s Regional Vision” by Graham Warwick and Guy Norris
Aviation Week May 23, 2018 “GE’s Catalyst could lead way to Hybrid-Electric Power” by Guy Norris
TokyoExpress 2017-04-28 “リージョナル市場に参入、「ズーナム・エアロ」ハイブリッド機“