2018-07-02(平成30年) 松尾芳郎
2018年6月27日から同8月2日まで、米海軍が主催する多国間共同訓練”リムパック(RIMPAC=Rim of the Pacific Exercise ) 2018 ” が行われている。参加国は日・米を含むインド、イギリス、オーストラリア、ドイツなど26カ国に達する。
我が国からは海上自衛隊および陸上自衛隊が6月15日から8月5日までの間の予定で参加中だが、これを通じて海自および陸自の戦技向上を図るとともに同盟国との相互理解を深め、また信頼関係を強化するのが目的。
場所は日本、グアム島、ハワイ諸島を含む周辺の海空域およびカリフォルニア州周辺海域とされる。
海上自衛隊からの派遣は;—
- 第2護衛隊群・佐世保基地第2護衛隊所属の護衛艦(ヘリ空母)「いせ」と搭載航空機3機、人員390名
- 那覇航空基地第5航空隊所属の「P-3C」哨戒機2機、人員60名
- 掃海隊人員10名
陸上自衛隊からの派遣は;—
- 熊本県健軍駐屯地の西部方面総監部・西方特科隊第5地対艦ミサイル連隊「12式地対艦ミサイル・システム一式」、人員100名
米陸軍第17砲兵旅団(人員100名)、「M142 HIMARS (High Mobility Artillery Rocket Systems / 高機動ロケット発射機)」を装備、と共同でカウアイ島太平洋ミサイル射撃場およびオアフ島スコーフィールド基地で対艦戦闘訓練を行う。
- 佐世保市相浦駐屯地の水陸機動団第2水陸機動連隊、人員70名
米太平洋海兵隊第3海兵連隊(人員600名)とオアフ島カネオヘベイ基地、ハワイ島ポハクロア訓練場などで水陸両用訓練を行う。
- 陸上総隊、国際活動教育隊、人員5名
米陸軍第351民事コマンド(人員80名)と人道支援、災害救援訓練を行う。
リムパック「環太平洋合同軍事演習」は、主に太平洋を囲む国々の軍隊が2年に一度ハワイ周辺で行う共同訓練で、1971年に米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージランドの5カ国で開催したのが最初、今年は26回目となる。
日本からは海上自衛隊が1980年(昭和55)に初参加、以来毎回参加している。陸上自衛隊は2014年に西部普通科連隊が初参加、今回が2回目となる。
中国は2014年に初参加したが、演習参加艦艇以外に情報収集艦“北極星”を近海に派遣し情報収集を行ない、参加各国から嫌われた。2016年にも参加したが、南支那海での軍事基地建設を推し進めているため、2018年度は米国から参加を拒否された。
今年は6月27日〜8月2日の間、26カ国から艦艇47隻、潜水艦5隻、航空機200機、人員25,000人以上が参加して実施中。日本からは既述のようにヘリ空母「いせ」と対潜哨戒機P-3C 2機、陸上自衛隊から12式地対艦ミサイル・システムが参加、合計人員630名が派遣されている。
リムパック2018の注目点は、陸上自衛隊・第5地対艦ミサイル連隊と米陸軍第17砲兵旅団が連携して、初の地対艦ミサイル共同発射訓練を実施する点である。これは近年の中国海軍による海洋進出を念頭に、米国でも島嶼および沿岸防衛が重要との認識が高まっていること、さらに最近の中国による南支那海での軍事拠点作りに対処する狙いもある。後述のように米軍では陸上部隊による対艦攻撃能力が不足との認識があり、これを補うため地対艦ミサイル部隊を運用している我陸自との共同訓練を行うことになった。
これには海軍艦艇や哨戒機が遠距離で捕捉した標的データを、後述の“戦術データリンクシステム”を使って、地対艦ミサイル・システムに伝え、そのデータでミサイルを発射、攻撃する訓練も含まれる。
もう一つの注目点は、南支那海で中国と対立するベトナムとフィリピンが艦艇を派遣、演習に参加する点である。フィリピンはターラック級揚陸艦を派遣し、訓練を行う。
図1:(海上自衛隊)海自ヘリコプター搭載護衛艦DDH-182「いせ」、2011年3月就役、「ひゅうが」型の2番艦で、満載排水量19,000 ton、全長197 m、速力30 kt、搭載ヘリ11機。この2隻に続き26,000 ton級の大型艦「いずも」、「かが」、の2隻が2015年から就役している。
図2:(陸上自衛隊)88敷地対艦誘導弾(SSM-1)の後継として三菱重工が開発した12式地対艦ミサイル(12SSM)。2014年度から調達が始まり2018年度までに3システム(発射機車両22両を含む)が配備。射程は約200 kmと言われる。誘導方式にGPS誘導を加えて精度が向上した。
12式地対艦ミサイルは、長さ5 m、直径35 cm、重量700 kgで、誘導方式は慣性誘導(INS)で飛行、途中から搭載のGPSで誘導され、目標に接近するとアクテイブ・レーダー・ホーミングで目標に命中する。エンジンは三菱重工製ジェットエンジンと固体燃料ロケット。飛行速度は亜音速だがマッハ1に近い。システムは、ミサイル6基を搭載する発射機4両とレーダー、射撃統制、指揮統制、弾薬運搬車など合計13両で構成される。1式の取得価格は81億円とされている。
陸自では12SSM部隊を奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島、などに配備し、中国軍の島嶼侵攻に備える準備を急いでいる。
前米太平洋軍司令官ハリ-・ハリス( Harry B. Harris Jr.) 提督は昨年(2017)5月に、「(12式地対艦ミサイルを念頭に)米軍の陸上部隊は対艦攻撃能力を持つ必要がある」と強調した。これが今回のリムパック2018に陸自第5地対艦ミサイル連隊が参加するきっかけとなったとされる。
陸自と共同訓練をする米陸軍第17砲兵旅団の「M142 HIMARS (High Mobility Artillery Rocket Systems / 高機動ロケット発射機)」についても簡単に触れておこう。
“ HIMAES”は、従来使われていたM270多連装ロケット・システム(MLRS)の後継となる装備で“M142 高機動ロケット発射装置”と呼ばれ、ロッキード・マーチン製。2003年から配備が始まりこれまでに発射機900両が納入された。各種の対地、対空攻撃用ロケット6基または大型ミサイル1基を搭載・発射する。主に敵地上部隊制圧を想定して配備されている。米陸軍の他に海兵隊、シンガポール陸軍も運用している。
これによる対艦攻撃が有効かどうか、リムパック2018で検証されることになろう。米陸軍では、有効な地対艦ミサイルを保有しておらず、HIMARSに搭載して運用した経験はない。
図3:(US Army)「M142 HIMARS / 高機動ロケット発射機」」が対地攻撃用ロケットを発射したところ。
陸上自衛隊では、2023年度配備を目指して飛距離を300 kmに伸ばした改良型地対艦ミサイルXSSM-3の開発を進めている。平成29年度予算に、改良型/ XSSM-3と、これを哨戒機搭載型にする空対艦ミサイルの開発のため、116億円が計上されている。また、陸自に戦術データリンク機能を導入し、海自、空自、米軍と共同して対艦戦闘が行える体制、すなわち戦術データ交換システムの整備(連接装置)が進んでいる。費用は1式3億円。
改良型/XSSM-3は制式化されれば「23式対艦ミサイル」と呼ばれるようだ。
改良型は、現在ほぼ開発が完了した空自戦闘機搭載型の対艦ミサイル「XASM-3」を陸上発射型にするので、比較的短期間で開発できる。
XSSM-3は、推進方式が固体燃料ロケットとラムジェットを組み合わせた統合推進システム(IRR=Integrated Rocket Ramjet)に変わる。これでマッハ3以上の超音速飛行で目標に衝突できる。最終段階の誘導方式は、アクテイブ・レーダー・ホーミングとパッシブ・レーダー・ホーミングの複合方式となるので、電子妨害排除機能が向上する。
改良型/XSSM-3が完成すれば、南西諸島方面での防衛体制が一段と強化される。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
海上幕僚監部(お知らせ)30-06-15 “heisei30年度米国派遣訓練について“
陸幕広報部(お知らせ)30-06-15 “平成30年度国外派遣訓練(RIMPAC 2018) の概要について“
防衛省“我が国の防衛と予算—平成29年度概算要求の概要“
Army Technology “HIMARS High-Mobility Artillery Rocket System”