「加計理事長の記者会見」


2018-07-01(平成30年) ジャーナリスト 木村良一

  • 「いまこそチャンス」と考えたのだろう

これほど批判される記者会見も珍しい。6月19日に初めて行われた学校法人・加計学園の理事長、加計孝太郎氏の記者会見のことである。

加計氏は1年も前に愛媛県今治市での獣医学部新設をめぐる疑惑を報じられ、報道各社から取材や記者会見を求められても、決して応じなかった。

それにもかかわらず突然、地元岡山の報道各社に「2時間後に会見を開く」という内容のファクスを送り付けた。しかも記者会見に参加できる記者を地元に限ったうえ、学園側が「理事長は校務があるので質問はあと3人」などと一方的に記者会見を打ち切った。結局、会見時間は30分と短いものに終わった。

なぜ、このタイミングで緊急の記者会見なのだろうか。

前日の18日朝には、大阪で震度6弱を記録する大きな地震が発生し、当日の19日夜にはサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会の日本対コロンビア戦が予定されていた。

報道各社は地震とW杯の取材で追われ、他のニュースに十分対応できる取材記者が不足しているところが多かった。新聞の紙面やテレビ・ラジオの番組枠もほとんど一杯になっていた。

そこに入ってきたのが、加計氏の緊急記者会見だった。

たぶん加計氏は「いまこそチャンス」と考え、「メディアの私の記者会見の扱いは、小さくなる」と判断したのだろう。もしそうだとしたら、加計氏の記者会見は「悪賢い」と批判されても仕方がない。

  • 背後の読者や視聴者の存在を自覚したい

そもそも記者会見とは、記者クラブなどで新聞記者や放送記者に対し、ニュースの事実関係を正確に説明したうえで、自らの考えや主張を語る場である。報道記者からの質問を受け、それにきちんと答えるは当然のことだ。謙虚に応じることが重要なのである。

ここで記者会見する側にとって大切なのは、目の前の報道記者の背後に多くの読者や視聴者が存在することを自覚することだ。これが大原則だ。これを怠ると、一方的で乱暴な記者会見となり、最悪の場合、国民・世論を欺くような事態にまで発展する。

加計氏の記者会見はこの大原則をまったく無視している。加計氏の周辺に記者会見の何たるものかを熟知した、然るべきブレーンは存在しないのだろうか。

記者会見で加計氏は愛媛県の記録文書に記載された「2015年2月25日」の安倍晋三首相との面会について「3年前のことで記憶にもないし、調べたが、記録にもなかった」と否定した。

さらに加計氏自身を「腹心の友」と呼ぶ安倍首相との関係には「何十年来の友達だが、仕事のことを話すのは止めようというスタンスで会っている。こちらの話なんかあんまり興味ないと思う」「たまたま仲が良かったことで、こういうことが起きた」と説明した。

記憶にない――。

かつてよく耳にしたフレーズだ。30年前のリクルート事件では追及をかわそうと、国会答弁で国会議員が使っていた。この言葉の〝利点〟は後で「思い出した」と訂正できるところにある。

果たして加計氏が訂正するかどうかは分からないが…。

仕事の話はしない――。

本当だろうか。耳を疑う。安倍首相も似たような国会答弁を何度も繰り返してきた。2人はよく似ている。

親しい友達ほど何でも語り合えるはずだと思うのだが…。

  • 安倍首相と加計理事長の「面会」は虚偽なのか

ときもたってきたので加計学園の疑惑を振り返っておこう。

国家戦略特区制度を活用した獣医学部の新設計画に首相官邸が関与し、加計学園ありきで計画が進められたのではないか、との疑惑がそれである。

文部科学省の記録文書の中に内閣府から「総理の意向」と伝えられたとの記載が見つかった。前川喜平前文科事務次官も「官邸から働きかけられた」と証言した。

安倍首相は加計学園の計画を「『2017年1月20日』に知った」というが、「加計氏が『2015年2月25日』に面会し、安倍首相に伝えた」という記録が愛媛県に存在することも発覚している。

しかし安倍首相は面会を全面否定している。加計学園側も「面会は獣医学部新設の話を進めようとして作り上げた」との趣旨で面会そのものを否定している。

「2015年」と「2017年」。2年も違う。「面会した」と「面会は虚偽だった」。これも大きな食い違いである。どちらかがウソをついていることになる。白黒をはっきりさせたい。

もうひとつの森友学園の疑惑といっしょにして「もりかけ疑惑」と呼ばれているが、いずれも国家権力が直接関わったとの明らかな証拠は出ていないし、いまのところ疑獄事件に発展する兆しもない。

しかし疑惑追及の手は緩めてはならない。小さな芽のうちに摘み取らないと、政治と金の問題で揺れたロッキード事件やリクルート事件のようになる危険性がある。

ー以上ー

※慶大旧新聞研究所OB会によるWebマガジン「メッセージ@pen」7月号(http://www.message-at-pen.com/)から転載しました