2018-12-31(平成30年) 松尾芳郎
12月は、日産ゴーン会長の逮捕、米中の貿易摩擦などのニュースが重なったためか、一般マスコミは中国、ロシア両軍の我国周辺での動きについて殆ど触れず仕舞い。しかし、我国周辺の軍事的緊張は依然として高い水準のままで推移しており、楽観を許す状況にはない。
以下に、統合幕僚監部が発表した中露両軍の活動の9件と、岩屋防衛大臣が直接発表した“韓国艦艇のレーダーによる照射事件”について紹介する。
① 12月7日発表「中国海軍艦艇の動向について」
② 12月10日発表「中国海軍艦艇の動向について」
③ 12月12日発表「中国機の東支那海および太平洋における飛行について」
④ 12月13日発表「中国海軍艦艇の動向について」
⑤ 12月14日発表「中国機の東支那海および太平洋における飛行について」
⑥ 12月17日発表「中国海軍艦艇の動向について」
⑦ 12月19日発表「ロシア機の日本海における飛行について」
⑧ 12月27日発表「中国機の東シナ海および日本海における飛行について」
⑨ 12月28日発表「中国海軍艦艇の動向について」
⑩ 12月28日防衛省発表「韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について」
これら10件について、上記①、②・・・等に対応して中国、ロシア両軍の活動状況をまとめて地図上に示したのが次の図である。
図A:2018年12月の中ロ両軍の我が国周辺における活動を示す地図。
以下にそれぞれの事案について簡単に説明する。
- ①12月7日「中国海軍艦艇の動向について」
12月7日午前6時半、ルーヤン「旅洋」II級ミサイル駆逐艦1隻が沖縄本島と宮古島の間宮古海峡(Miyako Straits)を東支那海から太平洋に向け通過した。発見追尾したのは海自舞鶴基地第14護衛隊所属の「せんだい」[2,000 ton, 1991年就役]と那覇基地第5航空群所属のP—3C哨戒機。
図1:(統合幕僚監部) 2018年4月30日、同6月17日に続き我が国近海に出現した 「旅洋(Luyang)型」駆逐艦。「旅洋(Luyang)型」は、「旅洋I型:広州級(052B型)」、「旅洋II型:蘭州級(052C型)」、「旅洋III型:昆明級(052D型)」に大別される。「旅洋I型」は試作で2隻のみ。「旅洋II型」は中国版イージス艦(Chinese Aegis)と呼ばれ僚艦防空能力を持つ、6連装回転式VLSを8基搭載し、6隻が建造された。このうちの4番艦が写真の「鄭州/Zhengzhou」[151]」である。2013年末に就役。満載排水量7,000 ton、速力30 Kt。なお「旅洋III型」は最新モデルで、2018年初めまでに18隻が製造中で、うち13隻が就役済み。
- ② 12月10日「中国海軍艦艇の動向について」
12月8日午前7時、ルーヤン「旅洋(Luyang)」II級ミサイル駆逐艦1隻が久米島の南100 kmの太平洋の海域から北西に向かい宮古海峡(Miyako Straits)を通り東支那海に入った。発見、追尾したのは舞鶴基地第14護衛隊所属の「せんだい」と那覇基地大5航空軍所属のP-3C哨戒機である。同艦は12月7日に宮古海峡を通過太平洋に出た艦と同じである。従って写真は「図1」を参照されたい。
- ③ 12月12日「中国機の東支那海および太平洋における飛行について」
12月12日、中国軍機Y-9情報収集機1機が東支那海から宮古海峡(Miyako Straits)を通過、太平洋に進出、沖縄列島沿いに北東進、反転して同じ航路を通り東支那海に戻った。空自戦闘機が緊急発進(scramble)、領空侵犯を防いだ。
図2:(統合幕僚監部)機首と胴体側面前後にアンテナを収める膨らみがあるので「Y-9JB」型らしい、我が空自、海自の通信、レーダー波、などを傍受し諜報活動を行うELINT型。基本形は空軍用中型輸送機Y-9で、全長36 m、翼幅38 m、全備重量65 ton、貨物積載量20 ton、航続距離1,000 kmとされる。
- ④ 12月13日「中国海軍艦艇の動向について」
12月11日午後3時、ジャンカイ「江凱」II級フリゲート1隻が久米島西70 kmの海域を南進、宮古海峡(Miyako Straits)を南東に向かい太平洋に進出した。発見、したのは那覇基地第5航空軍所属のP-3C哨戒機である。
図4:(統合幕僚監部)東海艦隊所属の江凱(Jiangkai)II級2番艦(530)「徐州/Xuzhou」、2008年就役である。満載排水量4,500 ton、速力27 Kts、の大型艦。艦橋前方には、HQ-16対空ミサイルが米海軍のMk41VLSと似た32セルVLS(垂直発射装置)に収められている。艦中部にはYJ-83 対艦ミサイル4連装発射機2基を搭載。YJ-83は射程200 km、最終段階での速度はマッハ1.5。江凱(Jiangkai)II級はHQ-16対空ミサイルを搭載したことで僚艦防空能力を持つ。1番艦「舟山(529)」が2008年就役した後27番艦「日照」まで完成、中国海軍の主力フリゲートである。
- ⑤ 12月14日「中国機の東支那海および太平洋における飛行について」
12月14日、中国軍機Y-9情報収集機1機が東支那海から宮古海峡(Miyako Straits)上空を通り太平洋に進出、沖縄列島沿いに北東進、反転して同じ航路を通り東支那海に戻った。空自戦闘機が緊急発進(scramble)、領空侵犯を防いだ。
図5:(統合幕僚監部)詳しくは図2を参照。
- ⑥ 12月17日「中国海軍艦艇の動向について」
12月14日午後9時、ジャンカイ「江凱(Jiangkai)」II級フリゲート1隻が久米島の南100 kmの海域を太平洋から東シナ機に向けて通過した。発見追尾したのは佐世保基地第13護衛隊所属「じんつう」である。同艦は12月11日に東シナ海から宮古海峡(Miyako Straits)を通過太平洋に出た艦と同じである。
図6:(統合幕僚監部)詳しくは図4を参照。
- ⑦ 12月19日「ロシア機の日本海における飛行について」
12月19日ロシア空軍Su-24戦術偵察機1機が北海道西岸日本海側に飛来、本州日本海側に沿って南下能登半島沖で反転シベリア方面に立ち去った。航空自衛隊では戦闘機を緊急発進(scramble)させ、領空侵犯を防いだ。
図8:(統合幕僚監部)不鮮明な写真だが、Su-24戦術偵察機は、2018年4月7日、9月1日にも我国の日本海側防空識別圏(ADIZ=Air Defense Identification Zone)を侵犯した。スーホイ(Sukhoi)Su-24攻撃機の後期量産型Su-24Mを偵察機型に改装した機体でSu-24MRと呼ぶ。機首にはBKR-1側方視認レーダー、胴体下面には赤外線センサー、電子偵察機材、各種カメラを搭載、主翼下面には電子情報蒐集のELINTポッドを備えている。ロシア空軍の戦術偵察機の主力。
基本形のスーホイ(Sukhoi) Su-24フェンサー(Fencer)は、超音速の全天候攻撃機で、可変後退翼、双発で並列座席に乗員2名が乗る。1974年就役開始、1993年までに約1,400機が作られた。航続距離3,000 km、爆弾・ミサイル搭載量は8 ton。構造、電子装備の近代化改修が行われSu-24M2として配備されている。最大離陸重量は43,8 tonの大型機で、可変後退翼は飛行モードに応じて4段階にセットできる。エンジンはサターン(Saturn)AL-21F-3A、アフトバーナ付き推力24,700 lbsが2基。ロシア空軍では各種合わせて約370機を配備している。
- ⑧ 12月27日「中国機の東支那海および日本海における飛行について」
12月27日中国空軍Y-9情報収集機1機が対馬と九州の間の対馬海峡(Tsushima Straits)を東支那海から日本海に通過、その後反転して同じ航路を通り東支那海に立ち去った。航空自衛隊先頭が緊急発進(scramble)し、領空侵犯を防いだ。
図10:(統合幕僚監部)詳しくは図2を参照。
- ⑨ 12月28日「中国海軍艦艇の動向について」
12月26日午後5時、ジャンカイ(Jiangkai)II級フリゲート1隻が下対馬の西50 kmの海域を東支那海から北東に進み(Tsushima Straits)日本海に進出した。その後往路と同じ航跡を辿り東支那海に戻った。発見追尾したのは佐世保基地第3ミサイル艇隊所属の「しらたか」である。
図11:(統合幕僚監部)「江凱(Jiangkai)」II級フリゲート(O54A型)15番艦Weifang、北海艦隊所属2013年就役である。詳しくは図4説明を参照。
⑩ 12月28日「韓国海軍艦艇による火器管制レーダー(Fire Control Radar)照射事案について」
本件は12月20日に発生し、防衛省が同28日に発表した。日韓関係を揺るがす案件として、多くの報道機関が取り上げている。以下は防衛省が「YouTube防衛省動画チャンネル」で公表した内容である。
12月20日(木)に、日本海の我国のEEZ(Exclusive Economic Zone/経済的排他水域)圏内にある「大和堆(Yamato-Tai)」付近で哨戒飛行中の厚木基地第4航空群所属のP-1哨戒機に対し、韓国海軍「クアンゲト・デワン」級駆逐艦から火器管制レーダー(F/C Radar)が照射された。本件について当該P-1が撮影した動画(約13分)が公開された。次のサイトをタップして見ることが出来る。(選択してダブル・タップし数分間待つこと)
https:/???#E418FC/youtu.be/T9Sy0w3nWeY
動画には、海自P-1が火器管制レーダー(F/C Radar)を一定時間継続して、且つ複数回照射されたと見られる場面や、海自P-1機が当該韓国艦から一定の高度と距離を保ちながら飛行していること、また、P-1が当該駆逐艦に対し「韓国海軍艦艇艦番号971 (Korea South Naval Ship, Hull Number 871)」と英語で3回呼び掛け、レーダー照射の意図の確認を試みたことなどが記録されている。
図12:(防衛省)海自第4航空群P-1哨戒機が撮影した動画の表紙。
—以上—