メサ・エアグループ、76席級の三菱スペースジェット[ M100 ] 100機を購入することで合意


2019-09-25(令和元年) 松尾芳郎

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図1:(三菱航空機) 三菱スペースジェット( SpaceJet)には、北米向け3クラス76席型[ M100 ]と、3クラス88席型の[ MRJ90 ]改め[ M90 ]の2つがある。「メサ・エアグループ」と購入覚書を交わしたのは小型の[ M100 ]。大型の[ M90 ]のANAへの納入は2020年から、また[ M100 ]の「メサ」への納入は2024年を目標にしている。
SpaceJet主要諸元
図2:(三菱航空機)[The Mitsubishi SpaceJet Brochure]より抜粋した主要諸元。
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図3:(三菱航空機)大型の[ M90 ]は、全長35.8 m、翼幅29.2 m、高さ10.4 m、最大離陸重量42.8 ton、航続距離3,770 km。これに対し小型の[ M100 ]は、全長34.5 m、翼幅27.8 m、高さ10.3 m、最大離陸重量39 ton、航続距離3,540 kmで、原型の[ MRJ70 ]と比べ寸法、性能、諸元が改定されている。

三菱重工は、「[ MRJ ]・三菱リージョナルジェット」として開発をスタートした小型旅客機の完成予定が大幅に遅れ、その対応に苦慮しているのはご存知の通り。今年7月のパリ航空ショーで、三菱重工宮永会長は[ MRJ ]プログラムの遅れを挽回しリージョナル機市場への参入を強化するため次の対策を発表した。すなわち;―
① 名称を、[ MRJ ]から「スペースジェット(SpaceJet)」に改める。
② 76席級[ MRJ 70 ]を改良した「スペースジェット[ M100 ]」の開発を急ぎ、2024年の就航を目指す。これに伴い従来から開発中の88席級[ MRJ90 ]」の呼称をスペースジェット [ M90]」に改め、2020年からANAで就航をスタートする。
③ カナダの航空機メーカー「ボンバルデイア社」から、同社が作るリージョナル機[ CRJ ]シリーズ3機種([CRJ700]、[CRJ900]、[CRJ1000])に関わるプログラムを5億5,000万ドルで買収、そのサービス・サポート網を入手する。ただし[CRJ]の生産はしない。

(注):[ CRJシリーズ ]は、基本型の66-78席級[ CRJ700 ]が2001年に就航、以後大型化した76-90席級[ CRJ900 ]と97-104席級[ CRJ1000 ]が開発され、好評を博し896機を受注、プログラムとして成功したが、現在では受注残が50機を切り細々と生産を続けている状況。受注が減った主な理由は、エンジン(GE CF34-8C5)の燃費が新世代エンジンと比べ劣るのと設計が陳腐化したためと見られる。

(Mitsubishi’s arrival on the large regional aircraft market in U.S. has been delayed several times. However, a recent order by Mesa Air Group for up to 100 Spacejet M100s gives Mitsubishi’s hope that it can penetrate the large US market with it’s 76-seater [M100].)

「スコープ・クローズ(scope clause)」:
米国(カナダを含む)では2018年12月にエアラインと乗員組合( ALPA )の間で締結された「スコープ・クローズ(scope clause)」と呼ぶ協定があり、リージョナル機の上限を、最大離陸重量 [ 39 ton (86,000 lbs)]、最大座席数 [ 76席]と定義している。従って北米のリージョナル航空会社は、国内のリージョナル路線でこれより大きい機体は運航しない。三菱[ M100 ]はこれに適合する機体となる。2019年末までに【90席】に制限が緩和される見通しだったが、交渉がまとまっていない。

「メサ・エアグループ」と三菱の合意:
米国のリージョナル航空大手「メサ・エアグループ( Mesa Air Group)」が「スペースジェット[ M100 ]」を100機を仮発注したニュースは日本でも先般報道された。去る9月5日テネシー州ナッシュビル(Nashville, Tennessee)で行われた「米国リージョナル航空年次総会(RAA=Regional Airline Association)で発表された。同じニュースは、同日「三菱航空機」から「メサ航空と100機のSpaceJet [ M100 ]購入に関する覚書を締結」として発表された。
米国のリージョナル航空業界では、「スコープ・クローズ」に適合する機体、ボンバルデイア製の[ CRJ700 ]、[ CRJ900 ]、それにブラジルのエンブラエル製[ Embraer E-175 ]が多数使われているが、これらが今後更新時期をを迎える。従って今回の「メサ・グループ」による[ M100 ]大量発注は業界関係者から大きな注目を集めている。
「メサ」と「三菱」は今後確定発注の内容を詰めて本契約に調印する運びとなる。本契約での購入機数は「確定発注 50機」、「追加発注の権利 50機」となる。

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図4:(YouTube) 「メサ・エアラインズ」の[ CRJ 900 ]がポートランド(Portland, Oregon)に着陸するところ。「アメリカン・イーグル」のロゴを付けている。

三菱 [ SpaceJet M100 ]の特徴:
度々述べてきたように、三菱が2024年から「メサ」に納入する[SpaceJet M100]は、クラス最高の客室快適性と運航経済性を備える機体で、今の所「スコープ・クローズ」制限下で運航できる唯一の次世代機となる。
客室快適性:
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図5:(三菱航空機)MRJ改め [ SpaceJet M100 ]の客室断面。座席は同クラス機で最も幅広の 47 cm (18.5 inch)。エアバスA320やボーイング737系列機に近い広い頭上および足元空間、クラス最大の頭上ビンを備える。客室内側2.76 mは、同クラスのエンブラエル[ E-Jet ] / [ E-Jet E2 ] は2.74 m 、横4席型旅客機では[ M100 ]が最も広い。床上高さは2.02 m、これも[ E-Jet ]および[ E-Jet E2 ]より2 cm ほど高く、米国人男性の大部分は屈まずに通路を歩ける。三菱が名称を「スペースジェット(SpaceJet)」に変えた理由は “客室スペースが広い” ことをアピールするのが狙い。
運航経済:
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図6:(Pratt & Whitney) [ PW1200G ]エンジンは、ファンとそれを駆動する低圧タービンの間に[ 3 : 1 ]の減速比のギアを入れ、ファンを遅く、とタービンを早く、それぞれの最適スピードで回転させる方式のギヤード・ファン形式ファン・バイパス比は[ 8.4 : 1 ]で燃費の提言をしている。これでリージョナル機に使われてきた在来型エンジン[ GE CF34 ]に比べ燃費が20%も向上している。「三菱重工」では[Pratt & Whitney ]からライセンス供与を受け、自社で組み立てを行う。[ MRJ ]では[ MRJ70 ]と[MRJ90 ]ではエンジンサイズが異なっていたが、[ SpaceJet ]になり[ M100 ]と[ M90 ]は同じサイズを搭載する。

「メサ・エアグループ」:
「メサ・エアグループ」は民間航空持株会社でフェニックス(Phoenix, Arizona)に本社がある。子会社は「メサ・エアラインズ(Mesa Airlines)」。「メサ・エアラインズ」はアメリカン航空とユナイテッド航空のリージョナル路線の一部を受け持ち、それぞれ「アメリカン・イーグル(American Eagle)」および「ユナイテッド・エキスプレス(United Express)」のブランド名で運航している。
1982年にファーミングトン(Farmington, New Mexico)で設立、1998年にフェニックスに移った。現在145機を保有、南北米大陸各地の200の都市を結ぶ路線を運営する米国有数のリージョナル航空である。

「アメリカン・イーグル」ブランド名を使うリージョナル航空は7社あり、「メサ・エアラインズ」はボンバルデイアCRJ900を64機使い路線を運営している。他に「エンボイ・エア」、「ピドモント・エアラインズ」、「PSAエアラインズ」、「リパブリック・エアウエイズ」、「スカイウエスト・エアラインズ」などがある。いずれもボンバルデイア CRJ700、CRJ900、およびエンブラエルERJ-145、E-175、等合計630機ほど使っている。
「ユナイテッド・エキスプレス」ブランド名を使うリージョナル航空は8社あり、その中で「メサ」はボンバルデイアCRJ700とエンブラエルE-175を合計80機使っている。他のリージョナル航空は、「エア・ウイスコンシン」、「コミュート・エア」、「エキスプレス・ジェット」、「リパブリック・エアウエイズ」、「スカイウエスト・エアラインズ」、「トランスステーツ・エアラインズ」である。合計で600機ほどを使用中。

「スカイウエスト・エアラインズ」とエンブラエル[ E175 ]:
三菱[ M100 ]に対抗するエンブラエルは、米国市場に依然として[ E175-E1 ]を売り込んでいる。新型で効率の良い[ E175-E2 ]は、前掲の「スカイウエスト・エアラインズ(SkyWest Airlines)」と2013年6月に確定100機 + オプション100機の仮契約を行い、販売に成功したかに見えた。しかしその後2019年になり、エンブラエルはオーダー・ブック(order book)からこの受注覚書を削除している。[ E175-E2 ]は前述の「スコープ・クローズ」が2019年に90席まで緩和されると見込んで発注されたが、見通しが消えたためと見られる。
「スカイウエスト・エアラインズ」は、ユタ州セント・ジョージ(St. George, Utah)を本拠とする全米第一のリージョナル航空で、アメリカン航空(American Eagle)、デルタ航空(Delta Connection)、アラスカ航空(Alaska SkyWest)、ユナイテッド航空(United Express)、のリージョナル路線を括弧内の名前で運航している。従業員は16,300人、所有機数は488機、251の都市を結んでいる。同社の76席級の機体は、ボンバルデイア[ CRJ900 ]を30機、エンブラエル[ E175 ]を121機+発注10機、三菱スペースジェット[ M90 ]を100機発注している。

エンブラエル[ E175 ]:
エンブラエル[ E175 ]は、前身の[ E170 ]の胴体延長型で2005年7月から就航中、前述の「スコープ・クローズ」に合致している。客室は2クラス76席、エンジンは GE製の[ CF34-8E ]推力14,200 lbs 2基装備。2019年6月現在で600機を引き渡し、受注残は約200機となっている。
ボンバルデイアは[ E175 ]を含む[ E-Jet ]系列機3機種を[ E2 ]系列にする改良に着手、最初に大型の[E190-E2 ]を完成(2018年2月)した。3機種ともこれまでと同じ胴体内径で、エンジンはP&W製[ PW1000G ]系列に換装、新設計の主翼、アビオニクスなどを採用、性能を向上している。
[ E175 E2 ]は系列機中最も小型で80席級、最大離陸重量は44.8 ton、で、このままでは「スコープ・クローズ」の制限値( 76席、39 ton )を超える。現在最終組立中で2019年内の初飛行を目指していて、カストマーが現れれば2021年から就航可能。
[ E2-Jet ]系列機では、大型の2機種は好評で、96席級の[ E190-E2 ]は受注残38機/引き渡し済み6機、120席級の[ E195-E2 ]は受注残123機/引渡し済み1機となっている。
我が国では日本航空系列の[ J-Air ]社が76席型[ E-170 ]を18機、95席型[ E-190 ]を14機運用している。日本航空はこの代替として三菱SpaceJet を機種未定で32機発注している。
またANAは、ローンチ・カストマーとして、系列会社ANAウイングス用に、[ M90 ]を確定15機+オプション10機発注している。
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図7:(Wikipedia) ボンバルデイアは[ E190-E2 ] を使い東京を訪問、2018年10月13日にデモ飛行を行った。[ E190-E2 ]は、標準2クラスで96席、全長36.24 m、翼幅33.72 m、最大離陸重量56.4 ton、航続距離5,280 km、エンジン[ PW1919G ]推力19,000 lbs。

終りに:
「メサ・エアグループ」の会長兼CEOのジョナサン・オーンスタイン(Jonathan Ornstein)氏は今回の発注について次のように述べている。【客室が広く快適性が優れていることと、新技術で運航費が軽減されること、を評価して[三菱SpaceJet M100 ]を選択した。これで「スコープ・クロース」制限内の旅行も快適になる。】また別の幹部は【旅客は快適さをエンジョイでき” 、“運航を担当する我々は経済的メリットを得る 】と述べている。
今回の「メサ・エアグループ」の発注で、[SpaceJet ]の受注は[ M90 ]、[ M100 ]の合計で273機、オプションは234機となった。
2019年パリ航空ショーで三菱重工宮永会長が発表した「新戦略」は早くも成功の兆しが現れてきたが、これを結実させるには[ M90 ]の2020年就航と、2024年予定の[ M100 ]完成引渡しを確実に実行することにある。
―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week Sept 16-29, 2019 “Mesa Air Group Agrees to Take 100 SaceJet M100s” by Ben Goldstein
三菱航空機ニュース@2019-09-05 “メサ航空と100機のSpaceJet M100購入に関する覚書を締結“
三菱航空機[The Mitsubishi SpaceJet Brochure]