ボーイング777X、耐久試験中に後部胴体が破断


2019-12-01(令和元年)  松尾芳郎

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図1:(The Seattle Times Nov. 27, 2019 / Dominic Gates) 9月5日「究極荷重」を加えて地上で試験中の新型広胴機777Xの胴体が試験の最終段階で破断した。

 

シアトル・タイムス(The Seattle Times)2019年11月27日紙上で、著名なエアロスペース・リポーターのドミニク・ゲイツ(Dominic Gates)氏が明らかにしたところによると、ボーイングが開発中の大型広胴型機777Xで、機体構造の強度を確認するために高荷重を掛けて耐久試験を行っていたところ、胴体が破断したと報じた。去る9月5日に発生した。

(According the Seattle Times dated Nov. 27, 2019 by Dominic Gates. Says Boeing got a jolt in September when they put the new 777X airframe through an extreme load test of its structural strength. When the test approached its target stress level, an explosive tore through its fuselage.)

ボーイングは大きな衝撃を受け、詳細は明らかにしていないが、当時事故について「ボーイングは後部胴体の貨物室ドアが損傷」と簡単に述べていた。しかしシアトル・タイムスが入手した写真によると、損傷の規模は報じられた内容を大きく上回っていると判明した。

すなわち、胴体は主翼付け根後方で完全に二つに破断し、客室ドアの1枚が飛び工場の床に落下、破損した。

この破断事故は、FAAが規定する耐圧試験の要件値に極めて近い値、わずか1 %未満の高荷重を加えたところで起こった。このためFAAは、破断箇所の補強改修をすることを条件に再試験は要求しないことにした。

ゲイツ氏の質問に対してボーイングは27日火曜日に「破断事故の詳細はまだ解析が終わっていないが、設計変更などによる初飛行に向けて大きな影響はないと考えている」とコメントしている。

ボーイングのスポークスマン / ポール・バーグマン(Paul Bergman)氏は「777Xの初飛行は搭載するエンジンGE9Xの開発遅れで既に遅延しており、今回の事故の影響でさらなる遅れは生じない。初飛行は予定通り2020年始めに実施し、顧客への引き渡しは2021年に行う。」と述べている。

 

主翼は翼端を上に曲げ、胴体は前後が下に曲がる

今回の事故は、この機体の最後の試験で、エベレット(Everett)工場内にある構造強度試験リグに機体をセットして、設計で予期される構造破壊が起きる直近の荷重を加えて行っていた。機体は試験リグの中に収められ、翼や胴体に多数のオレンジ色の錘(おもり)をぶら下げた状態、そして翼、胴体の表面各所には、加わる荷重とそれによる変形を測定するためのセンサーが取り付けられ、ケーブルで管制室のコンピューターに繋がれ、リアルタイムで計測される。

この強度試験の最終段階では、炭素繊維複合材製の巨大な主翼の曲げ試験が行われ、翼端は地上静止状態の位置から8.5 m (28 feet)も上方に曲げられる。通常のフライトで遭遇する最大曲がりは3 m (約9 feet)なのでその3倍の曲がりを試験する訳だ。

同時に胴体の方は、前端と後端に数百万ポンド(1ポンド(lbs)=0.45 kg)の下向きの荷重を掛ける。そしてFAA要件には無いが社内規則に基づき胴体内部に通常の与圧( 10 lbs / inch2 )を加えてこの試験を行った。

通常のフライトで遭遇する荷重は最大で1.3Gだが、この曲げ試験は3.75Gに相当する過酷な試験である。この主翼の曲げ試験と胴体の曲げ試験を同時に行うと、胴体下部中心線(キール・ビーム)に沿って高い圧縮応力が生じる。

FAAの型式証明規則では、構造強度として、通常のフライトでは遭遇することない高い荷重を「制限荷重(limit load)」として規定し、その1.5 倍の荷重を「終極荷重(ultimate lord)」とし、これに3秒間耐える試験を要求している。

777Xの基本となる777型機の試験は1995年に実施された。777Xと違い777型機はアルミ合金製の主翼で、試験では「制限荷重」の1.54倍、すなわち「終極荷重」をわずかに上回る荷重で破断した。ベストセラーの中型広胴型機787は複合材製主翼だが、これの試験では「制限荷重」の丁度1.5倍「終極荷重」まで加え、そこからゆっくりと元に戻した。飛行中に複合材主翼が損傷すると炭素繊維の細片が撒き散らされ環境上問題とされるため、同じ複合材製主翼の777Xの荷重試験はこのことを考慮して計画された。

今回の荷重試験では、FAAから6名の技術者が立ち会い行われたが、「制限荷重」の1.48倍、すなわち「終極荷重」値の99 %の荷重を加えたところで胴体に破断が起きた。中部胴体の下側、主翼付け根のすぐ後ろでランデイング・ギアが収納される部分で生じた。ここのアルミ合金製スキンに過大な圧縮応力が加わり破断した、とされる。

破断の結果胴体内を加圧していた空気が抜け、大きな爆発音が響き渡った。この2次破壊で、写真のように客室ドア周辺の胴体スキンに破断が広がった。

この事故のすぐ後、メデイアは誤って「貨物室ドアが吹き飛んだ」と報道した。

民間輸送機の貨物室ドアは外開きであるのに対し、一般に客室ドアはプラグ・タイプ(plug-type)で、開閉時は一旦内側に入ってから外に開く構造になっている。しかし、今回は客室ドアの周辺が変形、破損していたためドアが吹き飛んだと考えられている。

2次破壊で胴体のスキンがめくれ、ドアが落下したが、これらは直接原因ではなく、破断の引き金となったのは胴体下部の縦通材/キール・ビーム(keel beam)の強度不足と認定され、ボーイングはこの強度増加の改良に取り組んでいる。

前述したが、改修後の再試験の予定はない。FAAの安全担当エンジニア某氏は「この試験事故は終極荷重の極く近くで生じた(このため再試験は不要)」との見解を示している。

同氏はまた「ボーイングは「終極荷重」の99 %負荷までの段階で大量のデータを取得済みでこれをコンピューター・モデルとの比較・検証を行っている。これで強度の足りない箇所を特定し、改修することができる。これらの解析で残りの1 %は十分カバーできる。」と述べている。

航空業界では、「終極荷重」試験で構造破壊が起きることは稀ではない。我が国では現在航空自衛隊で配備が始まっている川崎重工製の大型輸送機C-2でも試験中(2014年7月)に後部貨物室ドアが破損、この改修で納入が2016年に遅れたことがある。

 

航空機構造の強度試験

航空機は使用類別で許される運動の程度が決められている。機体に働く空気力の垂直成分を飛行重量で割った値、「制限荷重」、は戦闘機などでは[7]前後と大きいが、輸送機の場合は[2.5]を使っている。構造の設計では「制限荷重」x 「安全率」を「終極荷重」とし、この荷重で3秒間耐えることを要求している。「安全率」は一般構造に対しては[1.5]を使っている。

実際の運航でこのように過大な荷重が加わることはあり得ない。777-9の最大離陸重量は351.5 tonなので、これに[ 2.5 x 1.5]を掛けた値[3.75]を掛けると「終極荷重」は1,100 tonを超えることになる。

 

777Xとは

777Xは、従来の777とはかなり異なり大型になる。777Xとは、系列機777-8と胴体の長い777-9の総称である。全長は777-200が63.7 m、777-300が73.9 m。これに対し777Xの[-8]は70 m、[-9]は約77 mとなっている。特に[-9]は超大型機となり競合相手はいない。また主翼幅は777が65 mに対し777Xは「―8」、[-9]共に72 m。そして空港駐機スペースに合わせるため「折り畳み」主翼を採用している。

日本企業の製造分担割合は、現在の777と同じく主要構造部位の約21 %。三菱重工が後部胴体、尾部胴体、客室ドアを担当。川崎重工が全部胴体、中母胴体、主脚格納室を担当。すばるが中央翼、中央翼と主脚格納室の結合部、主脚ドア、貨物室ドア、前部翼-胴フェアリングを担当。新明和が中・後部の翼-胴フェアリングを担当。日本飛行機が主翼構成品を担当。となっている。

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図2:(Boeing) 777Xは777の後継として生まれたが、787で得た技術を多く導入した機体。座席数は標準2クラスで、777-8は350-375席、777-9は400-425席、航続距離は777-8は約16,000 km、777-9は約14,000 km。GE9Xエンジン2基を装備、既述したが翼幅は両者共通で飛行中は72 m、折り畳み時は65 m、全長は、777-8が70 m、777-9が77 mで相当に長い。確定受注はANAの20機/777-9を含み344機。初号機は777-9型機でロールアウトは2019年3月に行われた。

 

終わりに

既述したが、本稿はドミニク・ゲイツ氏がシアトル・タイムスに書いた記事を基に作成した。本ウエブサイト[TokyoExpress]の創立者である故小河正義氏(元日本経済新聞編集委員)は、日経随一のエビエーション・リポーターとして活躍されたが、常にドミニク・ゲイツ氏を範にし目標として努力されていた。本稿でわかるようにゲイツ氏の報道は「事実を正確に伝える」ことに徹している。そこには多くのメデイアが陥り勝ちな、「破断」のみをセンセーショナルに取り上げ読者受けを狙い、他を顧みないと云う姿勢は全くない。

小河氏は[TokyoExpress]を航空宇宙や安全保障を軸にしたサイトに育てるべく腐心されてきたが、病を得て先般他界され、その後を松尾がサイト管理者を引き継いできた。幸いなことにこの11月から、同じ元日経記者で現在上智大学客員教授を務める藤井良宏氏を新サイト管理者に迎えることできた。このお披露目も兼ねて11月25日に、日本記者クラブ(日本プレスセンター内)で藤井氏の設立した「小河正義ジャーナリスト基金・助成授与式」が開催された。

本稿の読者で、本サイト[TokyoExpress]が志向する設立意義に賛同し記事投稿を考慮される方がおられれば、下記宛に連絡をお願いしたい。歓迎する。

 

藤井良宏  Mail Address : green@rief-jp.org

または

松尾芳郎 Mail Address: y-matsuo79@ja2.so-net.ne.jp

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

The Seattle Times Nov. 27, 2019 “Boeing 777X’s fuselage split dramatically curing September stress test” by Dominic Gates

航空技術1981年5月“航空機構造の強度試験(上)” by 河野宏明

Boeing com “777X”

Aviation Wire 2015-07-23 “777X、日本企業5社が正式契約 21%製造“