不祥事議員と候補者公募制度


2019年11月01日(令和元年)          政治アナリスト・元杏林大学教授  豊島典雄

 

公募制度改革は喫緊の課題 

首相は日本丸の船長である。この日本丸の船長になれるのは国会議員だけである。各党はお客様(有権者)に提示する商品(候補者)の品質管理に努めるべきである。

世襲や官僚の多い政界に新しい血を入れ体質を改善するには公募制度は良いが、公募議員に不祥事が相次ぐ現在、制度改革は喫緊の課題である。

議員の公募制度は「政党が候補者を指名する方法の一つで、選挙に際して候補者を公募し公認候補とする制度。

日本では、1992年に日本新党が行ったのが最初と言われ、その後、各党が取り入れるようになった。2005年郵政選挙で自民党から多数の公募候補が当選し注目を浴びた。同党は2010年参院選から多数の選挙区で公募、党員投票という公認制度を導入している。各党によって、公募制度への取り組みは異なり、候補として決定後も公認の名を与えるだけの政党もあれば、供託金及び選挙資金の一部まで補助する政党もある」(知恵蔵2016年)。

 

世襲が多すぎた

私は、政治改革が断行された細川内閣時代(平成5年~6年)に著書で、公募制度中心の候補者選考を提言したことがある。世襲議員があまりにも多すぎたからだ。

平成2年(1990年)の第39回総選挙では、定数511で143人の世襲議員が誕生した。自民党では286人中、123人が世襲だった。2人に1人が世襲であり、永田町では“石を投げれば世襲に当たる”と言われた。平成5年(1993年)の総選挙では定数511人中、世襲は164人と増えた。

自民党では223人の当選者のうち、109人が世襲、新生党では55人中18人が世襲だった。

私は著書で「二世でなくても、お金がなくても、地盤(個人後援会)がなくても、党の地方支部の候補者選考委員会で政治家の資質があると認められれば、立候補でき政治家になれるイギリス保守党に学ぶとこがあるのではないだろうか」と提起した。

イギリス保守党は、党本部が候補者になりたい人を広く集めてテストによる選考をして、保守党の候補者としてふさわしいと、どこかの党支部で採用してくれれば、候補者として適当であるという人のリストをつくる。

そのやり方だが、まず、党本部が申し込み書類の審査をする。その際、一番重視するのは、党活動や選挙運動のボランティアの経験と、その経験を保証する上級ボランティアの推薦だ。このボランティア中心の選挙こそが、小選挙区制とともにイギリスの選挙を金のかからないものにしている一つの要因だ。

次が、ペーパーテストだが、ここでは政治や一般教養に関する問題が出される。

そしてディスカッション(討論)。社会福祉や税制などの諸問題について、受験者同士がディスカッションする様子を党幹事、上級ボランティアが採点する。

これらの関所を無事突破するとアプループド・リストといわれる候補者適格者リストに載るのだ。合格率は30~40%だ。

この後に、自分の出たい選挙区の党支部の候補者選考委員会の厳しい審査が待っている。この委員会は、地元のボランティアの選考委員会で構成される。この選考作業のほとんどは面接を通じて行われるが、申請者を数名に絞ったところで、地元の党員集会を開き、そこで演説させた上で、党員の投票によって決める」(『日本の政治はどう変わる』共栄書房)と紹介し、公募制度の導入を力説した。

が、近年、公募議員に不祥事―不倫、秘書への暴言、暴行疑惑等―が発覚し世間のひんしゅくをかっている。

週刊紙に取り上げられた宮崎謙介、田畑毅、豊田真由子元衆院議員、石崎徹衆院議員はいずれも2012年当選組である。「魔の三回生」で、公募議員である。

公募では性格や人柄までは把握できず、経歴が立派なら選ばれてしまうという。

 

議員になれれば何党でも

ある野党選対関係者は民主党から自民党に政権交代になる2012年に「公募制度には危険があります。議員になれれば何党でも良いのがいます。自民党に拒まれたら民主党。民主党に拒まれたら新党を目指します」「ペテン師、詐欺師、いかさま師の類いが応募してきますよ」と嘆いていた。

野党の衆院議員の政策秘書経験者は「霞ヶ関でも出世コースから外れた者が公募に手を上げる」「フリーターが多数、新党の地方議員公募に応じて当選しましたが、様々なスキャンダルを起こしましたよ」と言う。

どうしても、肩書き、見た目の良さで、海外の一流大学留学、イケメン、美女は選ばれやすい。

自民党の幹部職員は「厳しい審査と言うが、暴言、暴行をするかなど興信所を使ってもわからない」「世襲を批判しますが、子供の時から見ているので、スキャンダルを起こしそうかはわかりますよ」と言っていた。世襲なら品質の良し悪しがわかるという。

そうとも断定できない。

「最近は公募見直し論が出ていて、公募するよりも二世や秘書出身者、または地方議員出身者のほうがいいのでは…、業界経験が長いことなどからも、うまくいくのではという人もいる」「しかし、そう思っていたら中川俊直さんの不倫問題があった」(FNN  PRIM 2017年6月24日)。

 

有志が公募改革の勉強会

自民党の有志議員が国政選挙の候補者公募の審査手続き見直しに取り組んでいる。公募議員の不祥事は自民党だけではない。マスコミに叩かれた上西小百合元衆院議員、丸山穂高衆院議員も日本維新の会の公募で当選している。

公募制度の改革は政界の喫緊の課題である。

自民党の有志議員の勉強会のメンバーは公募議員の先輩として質の低下を防ぐ方策を検討するという。

時事通信の記事(8月15日)によると具体的には、都道府県連が行う公募の審査方法の在り方を議論する。論文などによる書類選考後に面接を実施するのが一般的な流れだが、このうち面接をいかに充実させるかを話し合う。

例えば、面接で県連幹部のほか自民党幹部を立ち会わせるなどして審査をより厳しくすることを検討する。自民党本部で過去の応募者情報を一元管理して党全体で共有したり、審査方法を統一したりできないかも課題となる。

ただ、「面接で応募者の問題点などを見抜くのは難しい」との声もあり、どこまで実効性のある見直しが出来るかは不透明だという。

 

政界にもインターンシップ

今後、マスコミ等でも論議されるだろうが、改革メニューとしては次のようなものも考慮して欲しいものだ。

①、面接に学者なども入れる。

自民党職員経験者は「選考する側のレベルが問題なんです。自民党ではかっては党本部が選考を行っていたが、今は地方任せです」と言っている。地方議員主体の選考に改革が必要である。

②、過去の党活動、選挙ボランティア活動の有無、熱心さをチェックする。

③、人物を見定めるため、インターンシップを導入する。いわば試用期間である。

党本部や議員会館で職員や秘書業務を担当させる。下積みの仕事を体験させることで人の痛みもわかるようになる。また、党との相性も確かめられる。

④、国会議員になりたい者に、まずは地方議員経験を原則とする。

⑤、各種選挙での公認の前提として党員拡大を義務づける。

⑥、アメリカの政党のように予備選挙を導入する。

⑦、常時募集し、人材のプールをする。アプループド・リストを作る。

―といった案が考えられる。

「国民はおのれにふさわしい政治しか持てない」(フランスの哲学者、ド・メステル)。政治家の品質管理には、制度改革と同時に、国民の眼力の向上と自覚が緊要である。