ドバイ・エアショー(Dubai Airshow)2019でのトピックス


2019-11 29(令和元年) 松尾芳郎

ドバイ・エアショー

図1:(Dubai Airshow Site) 今年11月17~21日の5日間中東のアラブ首長国連邦(UAE)首都ドバイで開かれたドバイ・エアショーでは、売買契約額は総計545億ドルに達した。

 

2019年のドバイ・エアショーは11月17-21日に開催された。出展機関は1,280社以上、160機以上の展示機が並び、84,000人以上の航空宇宙関係者が参加し、航空機等の売上契約高は545億ドルに達した。

(Dubai Airshow 2019, held Nov. 17-21, was successfully closed. With more than 1,280 exhibitors in attendance, 161 aircraft on the static display. And many of conferences has held with 84,043 trade attendees. Sales were booming, with the order reaching $54.5 billion.)

 

以下にドバイ・エアショーに於けるトピックスを、エアバスおよびボーイングの受注状況を中心に紹介して見よう。

 

エアバス

エアバスは確定受注と購入覚書を含め各機種合計で220機の受注をした。

狭胴型機A320neo系列機は、A219neo、A320neo、A321neoの3機種だが、これにA321neoを超長距離型に改造したA321XLRが加わった。2019年10月末現在でA320neo系列機の合計受注は7,022機に達している。最も多いのがA320neoの3,880機、続いて大型のA321neoが3,142機となっている。この中で引き渡し済みは1,029機。これに今回のドバイ・エアショーで受注した130機が加わる。エンジン選定済み3,617機の内訳は、CFM Leapが34%、PW1100G-JMが28 %、残りの37 %はまだどちらを選ぶか決まっていない。

 

LCC エア・アラビア(Air Arabia)

エア・アラビアは、アラブ首長国連邦(UAE)のシャールジャを本拠とする格安航空(LCC)で設立は2003年2月。所有機はエアバスA320を39機とA321 LRを3機。今回発注したのは、A320neo系列機120機で内訳は、A320neoを73機、A321neoを27機、超長距離型のA321XLRを20機である。

エアアラビアA321XLR

図2:(Airbus) サウジアラビアの新興LCCエア・アラビアは、狭胴型機A320neoの73機をはじめとし、A321neoおよびA321 XLRを含めて、シリーズ合計120機を確定発注した。図はA320neo。A320neo系列機は、それまでA320が使っていたエンジンを、CFM LeapまたはPW1100Gに換装し、翼端のウイングレットを新しいシャークレットにした機体で、燃費をで15 %以上改善している。A320neoは標準2クラス仕様で165席、A321neoは206席、航続距離はA320neoが6,500 km、A321neoが7,400 kmとなっている。

 

エミレーツ(Emirates)

エミレーツはアラブ首長国連邦(UAE)ドバイを本拠とする。1985年に創業、以来積極的な事業拡大を行い、今ではエアバスA380大型広胴型機およびボーイング777大型広胴機を世界で最も多く運航する航空会社となっている。狭胴型機では、エアバスA319 VIP仕様を1機を運用しているだけ。

今回のエアショーでA350-900 XWBを50機を確定発注した。これは以前に取り交わした購入覚書「A350 x 30機とA330neo x 40機」をA350-900に変更する措置である。なおエミレーツは、今年2月に2階建大型広胴機A380の未だ受け取っていない残り分39機の発注をキャンセルした。このためエアバスはA380の生産を2021年末に終了する。

エミレーツ A350

図3:Airbus)エミレーツ航空が確定発注したA350-900 広胴型機。A350 XWBにはA350-900 /全長66.8 m、と胴体を延長したA350-1000 /全長73.8 m、の2種がある。座席数は標準2クラスで、A350-900 /315席、A350-1000 /369席、航続距離はそれぞれ15,000 kmおよび16,100 kmとなっている。エンジンは、-900がロールスロイス・トレントXWB-84、および-1000がXWB-97を装備する。A350 XWBのローンチ・エアラインはカタール航空、2015年から就航を始めた。これまでに329機が製造・引き渡し済み。受注は-900 / 737機、-1000 / 176機で合計900機以上になっている。

 

米国のリース会社GECAS

A330neoを12機および長距離型のA321 XLRを20機、このうちの7機は以前に発注済みのA321型機からの機種変更となる。GECASはGEの系列企業なので、A321 XLRのンジンはGE・スネクマ共同出資のCFM Internationalが作るCFM Leap 1Aとなる。

 

サウジLCC フライナス(Flynas)

フライナスは2007年にナス・エアとしてリアドに設立、2013年にフライナスと改名した。現在はA320を29機、A320neoを3機運航している。発注中はA320neoを117機だが、今回のエアショーで超長距離型A321 XLRを10機確定発注した。

フライナスA321XLR

図4:(Airbus) フライナス航空が発注のA321 XLR。 A321 XLR (Extra Long Range・超長距離型)は、航続距離8,700 kmで、これまでのA320neo系列機の長距離機A321neo LRより15 %伸びる。これで座席当たりの燃費は、旧型のA320に比べ30 %も減少する。A321neo LRから変更した箇所は、後部センタータンクの大型化、ランデイング・ギアの強化、最大離陸重量を101 tonへ増加、主翼後縁フラップの変更、等である。その他は、ほとんどA321neo LRと共通にしてある。

 

エア・セネガル(Air Senegal)

アフリカのセネガル共和国の航空会社エア・セネガルは2016年にダカール空港に創立されたばかり。現在はA319を2機、A330-900neoを1機、小型のATR72-600を2機、合計5機を運航している。今回A220-300 を8機購入の覚書を交わした。

エアセネガルA220-300

図5:(AIRBUS) エア・セネガルが発注したA220-300型機。A220はカナダ・ボンバルデイア(Bombardier)が”C Series”の名称で開発した中・近距離用狭胴型機、これをエアバスが2018年7月に製造権を含みプログラム全体を買収、エアバスの戦列に加えた。系列機にA220-100 /全長34.9 m /2クラス客席数100席、と大型のA220-300 /全長38 m /2クラス客席数120席、がある。今年10月までの受注と引き渡しは、それぞれA220-100が99機/36機、A220-300が431機/58機となっている。エンジンはPW1100G-JMを装備する。

 

英国のLCC イージージェット(Easyjet)

イージージェット航空はロンドン・ルートン(London Luton)空港に本社があり、国内外に30カ国以上・1,000路線を運営する低価格航空(LCC)の大手である。1995年創立、以後買収と協力関係の構築で拡大を続けてきた。イージージェット・ヨーロッパ(Easyjet Europa)とイージージェット・スイス(Easyjet Switzerland)は協力会社。現在これら3社の合計で334機( A319 /125機、A320 /169機、A320neo /33機、A321neo /7機)を運航し、発注中はA320neo /84機とA321neo/ 23機、これに今回のA320neoを12機確定発注が加わる。(A320neo)については図2の説明を参照)

 

ボーイング

ボーイングは、各機種合計で確定と購入覚書で93機の受注を得た。

 

狭胴型機737 MAX;-

注目されたのは、2件の事故を受け飛行停止が続く737 MAXを市場がどう受け止めるかだった。結果は、3社から合計60機の確定発注および購入覚書を獲得し、将来への展望を開くことができた。737 MAX系列機の受注総数は2019年10月末で4,900機以上、うち引き渡し済み387機となっている。

 

トルコのレジャー航空サン・エキスプレス(SunExpress)

サン・エキスプレス航空は、ドイツ・ルフトハンザ(Lufthansa)とトルコ航空が共同出資(50%ずつ)して1989年に設立、84機の機材を使って地中海各地、黒海沿岸、それに紅海のリゾート地と欧州各地とトルコを結ぶ路線を運航している。合計30カ国の90以上の地点を結んでいる。本社はトルコの旅行拠点として著名なエーゲ海沿岸(Aegean coast)のアンタルヤ(Antalya)にあり、従業員は4,200名。使用機材は、A320 /11機、737-800 NG /68機、を含む合計84機。ドバイ・エアショーで、これまで購入覚書を交わしていた42機の737 MAX 8のうち10機を確定発注に切り替えた。

サンエクスプレス737MAX

図6:(Boeing) サン・エキスプレスが確定発注した狭胴型機ボーイング737 MAX 8。737MAXは基本型の737 NG系列機を改良、エンジンをCFM Leap 1Bに換装した機体。2017年1月にマリンボ・エアで初就航した。2019年3月までに393機が、サウスウエスト航空、アメリカン航空、エアカナダなどに引き渡されたが、2件の墜落事故で飛行停止措置を受けている。系列機に737 MAX 7、737 MAX 8、737 MAX 9、737 MAX 10の4機種があり、座席数で138席から230席の範囲をカバーし、航続距離は約6,000 kmから7,000kmとなっている。各機種合わせて約5,700機を受注している。受注数で最も多いのは基本型の737 MAX 8型機で3,200機を超えている、続いてMAX 10が500機超となっている。FAAが2019年末までに、欧州EASAが年初1月に飛行停止を解除する見通しなので、それに従い飛行再開となる。

 

エア・アスタナ(Air Astana)

カザフスタン(Republic of Kazakhstan)のアルマテイ(Almaty)にあるエア・アスタナは、カザフスタンの投資会社と英国のBAEシステムズが共同出資する企業で2002年に開業した。現在の運航機は、A320、A20neo、A321neoなどエアバス機が16機、757、767、などボーイング機が7機、その他で37機。発注中はエアバス/17機とボーイング787を3機など計21機。これに今回の737 MAX 8を30機購入する覚書が加わる。エア・アスタナはこれらを新設のLCCフライ・アリスタン(FlyArystan)で使う計画である。(737 MAX 8については図6の説明を参照)

 

名称非公表のエアライン

名称非公表のエアラインから、737 MAX 7を10機と737 MAX 10を10機、合計20機の受注を獲得した。737 MAX系列で  MAX 7は最も小型、そしてMAX 10は最も大型でドバイ・エアショー終了の翌日22日に初号機がロールアウトしたばかりの最新型機。これで737 MAX 10の受注は520機となった。

737 MAX10

図7:(Being) 737 MAX 10の完成予想図。MAX 10初号機は去る11月22日に完成し、レントン工場でロールアウト式典を行った、初飛行は1月以降になる。標準2クラスで204席、最大で230席仕様、全長43.8 mの大きさ、航続距離は6,100 km。最も小型のMAX 7は標準153席、最大172席、全長35.6 mなので、これと比較すると座席数で約50席、長さで8 m以上大きくなっている。エアバスA321 XLRに対抗する機種となる。

 

中型広胴型機787ドリームライナー;-

 

エミレーツ(Emirates)

アラブ首長国連邦(UAE)のエミレエーツ航空は、中型広胴型機787-9 x 30機を確定発注した、これは発注済みの大型広胴型機777のうちから30機をキャンセルし、787-9に機種変更したもの。これでエミレーツは、発注中の世界最大の広胴型機777Xを126機と受領済みの777 の155機を運用し、それを補完する30機の中型広胴型機787-9でフリートを構成することになる。

この他に、ビーマン・バングラデッシュ航空(Biman Bangladesh Airlines)が787-8 を2機とエジプト・エアー(Egyptair)が787-9を2機、それぞれ確定発注、さらにアフリカのガーナ(Ghana)政府が787-9を3機の購入覚書を交わした。

エミレーツ787-9

図8:(Boeing) エミレーツ航空が30機を発注した中型広胴型機787-9ドリームライナー。787-9は全長63 m、標準2クラスで296席仕様、航続距離13,950 km、燃費は767等に比べ20 %少なくて済む。787系列機は我が国のJAL、ANAを含め世界中で80社以上で使われ1,400機以上が就航中。

 

その他;―

 

プラット&ホイットニー(Pratt & Whitney)

プラット&ホイットニー社が発表したところによると、同社が生産する[GTF] PW1000G系列エンジンの受注は好調でドバイ・エアショーでの追加受注を含めると、受注量は、80社以上から合計10,000台を超えた。これらの内かなりのエアラインは、P&Wが提唱する[EngineWize Comprehensive service agreement](全世界のエンジン情報を統合、常時エンジン性能を維持するための活動の意)に参加する意向を示している。

PW1000G系列エンジンは、2016年から使用を開始しているが、これまでに40社に550台が引き渡されている。

この1年間に[GTF]エンジンを選んだのは、ジェットスマート(JetWMART)がA320neoの 85機に、デルタ航空がA220 の95機に、KLMがエンブラエルE195-E2 の35機に、リース企業SMBC Aviation CapitalがA320neo の40機に、などとなっている。

一方で問題も生じている。インド最大のLCCであるインデイゴはPW1100Gエンジン付きA320neoを約100機運航しているが、改修の遅れを理由にインド航空当局DGCAから新型のPW1100Gに交換するよう命令を受けた。インデイゴではPW1100Gの初期故障のため、その後追加発注した280機のA320neoのエンジンは、全て競合相手のCFM Leap 1Aに切り替えた経緯がある。

こうしてPW GTFは、A320neo系列機ではCFM Leapに遅れをとるが、A220系列、エンブラエルE2系列、三菱スペースジェット、ロシアのイルクートMC21系列機などに独占供給することで、受注は拡大を続けている。

[GTF]エンジンは、就航以来エンジン時間で370万時間以上使われ、燃費は在来型エンジンに比べ16-20 %改善している。これでエアラインは2億ガロンの燃料を節約できた勘定になる。また炭素排出量は190万トン削減できた。

PW1100GJM のローター

図9:(Pratt&Whitney) PW1100G-JMエンジンのローター部分。ファンは低圧タービン+低圧コンプレッサー駆動軸から「減速ギア」を介して駆動される。この結果低圧コンプレッサーおよび低圧タービンは高速で、ファンは低速で、それぞれ効率の良い速度で回転する。

 

三菱重工

A320neo系列機にはPW1100G-JMが搭載されているが、三菱重工が燃焼機を製造、独占供給している。2021年以降になるとA320neoの生産がピークに達し、それに伴いPW1100G-JMエンジンの生産量も増えるので、三菱では長崎に燃焼機製造専門の工場を新設、2020年から生産を開始する。

新工場は、長崎造船所推進器工場跡地に、三菱重工航空エンジン株式会社MHIAEL)の長崎工場として建設する。IoT / Ai技術を活用、航空エンジン部品工場としては最高の生産性、高効率を追求する。

PW1100G JMのタービン部分

図10:(Pratt&Whitney0 P&W [GTF]の燃焼室はアニュラー型(annular type)。三菱重工航空エンジンKKが製作する。燃焼室は高圧コンプレッサー(HPC)と高圧タービン(HPT)の間にある。燃焼室(図の上)から高圧空気と燃料の混合気が噴射され、点火・高温となった燃焼ガスを高圧タービン・ノズルに吹き付けタービンを回す。

 

アニュラー型燃焼室は、大きなドーナツ状の断面をして多数の小孔のある籠状の一体構造の燃焼室である。修理や交換は手間がかかるが、構造的に最も簡単、全長が短く、圧力損失が少なく、安定した燃焼が得られ、出口温度・タービン入口温度が均一となる。

スクリーンショット 2019-11-24 15.35.50

図11:(三菱重工ニュース2019-08-19)2020年から[GTF]燃焼機の生産を始める三菱重工航空エンジン株式会社長崎工場の完成予想図。左は長崎造船所史料館と思われる。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Dubai Airshow 2019 Site 21 November 2019 “DUBAI AIRSHOW CLOSES TO ACCLAIM”

International Flight Network 23. Nov. 2019 “Order summary of the Dubai Airshow 2019”

Boeing News Nov. 20. 2019 “Emirates Orders 30 Boeing 787 Dreamliner Airplanes to Complement 777X family”

Aviation Week com. Nov.12 2019 “Pratt & Whitney GTF Engines Gain Market Momentum”

Airbus News June 2019 “Airbus launches longest range single aisle airliner: the A321XLR”

Aviation Week MRO-Network.com Nov 28, 2019 “Indigo Races to Modify Older GTFs” by Alex Derber

三菱重工ニュース2019-08-19 “航空エンジン部品の新工場「新燃焼機センター」を永作造船所敷地内に建設、世界最高レベルの生産効率を追求し増産に対応”

航空用語辞典―JAL