令和2年1月、我が国周辺における中露両軍の活動と令和元年度第3四半期までの緊急発進状況


2020-02-05(令和2年) 松尾芳郎

 

令和2年1月、我が国周辺における中露両軍の活動

統合幕僚監部が発表した令和2年1月における中国軍の我が国周辺における活動は僅か1件のみ、ロシア軍の活動は報道されていない。中国湖北省で発生した新型肺炎流行の対応に追われているためか、あるいは習近平訪日が近付いてきているためか、いずれにしても沈静化しているように見える。

 

公表 1月20日 中国機の東シナ海における飛行について

1月20日(月)中国軍Tu-154情報収集機1機が沖縄本島の北西空域で旋回飛行を行ったため那覇基地南西航空方面隊所属の空自戦闘機が緊急発進し、領空侵犯を防いだ。

Tu-154

図1:(統合幕僚監部)TU-154情報収集機の原型は、今も生産中のロシアのツポレフ(Tupolev)製3発旅客機で1,000機以上が生産された。1972年から使われており、以来改良が続けられ多数の派生型が生まれた。中国空軍は民間用のTu-154Mに大型の合成開口レーダー(SAR)を取付け電子偵察機(ELINT)に改造、Tu-154MD型としている。Tu-154Mは、最大離陸重量は100 ton、航続距離6,600 km、エンジンはD-30KUターボファン、推力23,000 lbs (100 kN)を3基。第34輸送機師団(北京南苑基地)に6機が配備中。同型機の機番[B-4027]が2019-03-30に東シナ海から宮古海峡を通過し太平洋に進出、反転し同じ航路で戻ったことがある。

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図2:(統合幕僚監部)中国軍 Tu-154情報収集機の飛行経路。我が国島嶼周辺の実線は我が国の領空を示す。

 

令和元年第3四半期の緊急発進状況

統合幕僚監部は令和2年1月29日に「令和元年度第3四半期までの緊急発進状況について」と題する発表をした。その概要を紹介する;―

令和元年4月から12月の9ヶ月間の緊急発進は742回、うち中国機が70 %を占め残りの30 %はロシア機。

航空自衛隊は全国を4個航空方面隊に分け領空侵犯などに対処している。令和元年度9ヶ月間の方面隊別の緊急発進回数は;―

・北部航空方面隊 156回

・中部航空方面隊  26回

・西部航空方面隊  99回

・南西航空方面隊 461回

北部航空方面隊は主にロシア機への緊急発進、一方南西航空方面隊はほとんどが中国機に対する出撃回数である。

中国機に対する緊急発進は523回で、前年同期に対し47回の増加、過去2番目の多さとなった。ロシア機に対する緊急発進は216回、前年同期に対し54回減少している。

航空方面隊別

図3:(統合幕僚監部)航空方面隊別の緊急発進回数の推移(過去5年間)、5年間で見ると、中国と対峙する那覇基地所在の南西空(南西航空方面隊)のスクランブル回数が飛び抜けて多い。

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図4:(統合幕僚監部)統幕発表の年度別緊急発進回数値をグラフ化した図。これまでの最高は、2016年度(平成28年度)の1,168回、うち中国機に対しては851回であった。2019年度は第3四半期までの9ヶ月間の数値を示す。9ヶ月間の緊急発進回数は全体で742回、うち中国機に対しては523回で、このまま推移すれば2019年度は、2016年度に匹敵する回数になりそう。

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図5:(統合幕僚監部)統幕発表の「緊急発進の対象となったロシア機および中国機の飛行パターン例」に空自各航空方面隊の担当空域を書き加えた図。突出して緊急発進回数が多いのは南西航空方面隊、中国の軍事圧力に対抗するため「南西空」の一層の増強が望まれる。

 

南西航空方面隊「南西空」とは

前身は沖縄返還後昭和48年(1973年)に編成された「南西航空混成団」。沖縄・南西諸島地域および南シナ海・太平洋方面の防空を担当する空自部隊である。2010年代から始まった南西諸島方面の戦力強化方針に伴い、2016年に戦闘機部隊が2個飛行隊( Fighter Squadron)に増強され第9航空団となった。そして翌年(2017年)には、これまでの「航空混成団」からから「航空方面隊」に昇格、現在に至っている。

主な組織は「第9航空団」、「第5高射群」、「南西航空警戒管制団」の3つ、これを支える支援部隊で構成されている。

  1. 「第9航空団」:―

F-15J戦闘機を主とする2個飛行隊[第204飛行隊]および[第304飛行隊]で編成、那覇基地に展開している。F-15Jの配備は合計45機ほど。

  1. 「第5高射群」:―

那覇基地に本部があり、4個高射隊で編成されている。配備地点は、知念/第16高射隊と第18高射隊、那覇/第17高射隊、恩納/第19高射隊となっている。戦闘機部隊および警戒管制団と連携して、侵入する敵航空機および弾道ミサイル等をペトリオット[PAC 3]ミサイルで迎撃破壊するのが任務。

  1. 「南西航空警戒管制団」:―

与座岳分屯基地/第56警戒群には[ J/FPS-5C ]を配備。[ J/FPS-5C ](三菱電機製)は航空機、巡航ミサイル、弾道ミサイル探知用のAESAレーダー、高さ34 m の六角柱の3壁面に、直径18 mのL・Sバンド・レーダー1基、他の2面に直径12 mのLバンド・レーダーが1基ずつを取付け、2012年から運用開始。

宮古島/第53警戒隊、沖永良部島/第55警戒隊には[[ J/FPS-7 ]を配備、[ J/FPS-7]は巡航ミサイル探知を主眼としていたが、後に弾道ミサイル探知能力も付加された。近距離用アンテナ3面と遠距離用アンテナ1面で構成される。2015年以降から運用開始。

久米島/第54警戒隊には[ J/FPS-4 ]を配備。[ J/FPS-4 ](東芝製)は背中合わせの2面アンテナ・レーダーで、低価格、高性能、2008年から運用開始。

これら各地に配置する大型レーダーと移動式レーダーをネットワークで結び、飛来する航空機を常時監視、迎撃戦闘機を誘導し、また第5高射群に情報を伝達し、巡航・弾道ミサイルを迎撃する。

これらレーダーはいずれも高性能、沖縄列島の防衛には欠かせない存在、しかし固定装置であるため、巡航ミサイルなどによる飽和攻撃には極めて脆弱、強力な防空網のカバーが欠かせない。

陸上自衛隊「西部方面隊」隷下の「第2高射特科団」は、九州・南西諸島(沖縄本島を除く)の中距離防空を担当し、2015年(平成27年)から[03式中距離地対空ミサイル]の運用を開始した。「第2高射特科団」の下に「第3高射特科群」、「第7高射特科群」があり、その1部が奄美駐屯地に展開、今年(2020年)には宮古島駐屯地にも配備される。これら高射特科群の装備の充実と、レーダー基地防空への配備が緊急の課題である。

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図6:(航空自衛隊)南西航空方面隊の配備基地。「第9航空団」は沖縄本島那覇基地に駐留。「第5高射群」は、配下の4個高射隊を沖縄本島に集中配備している。レーダーを運用する「「南西航空警戒管制団」は、与座岳に中国本土奥深くまで探知可能な[FPS-5C]を始め、宮古島および沖永良部島に[FPS-7]、また久米島には[FPS-4]をそれぞれ配備、-奄美大島には奄美通信隊が駐屯している。

 

中国海警局艦艇による尖閣諸島周辺接続水域及び領海への侵犯

中国海警局艦艇は、2012年(平成24年)9月以降、荒天の日を除きほぼ毎日接続水域・領海に侵入を繰り返してきた。2020年1月も同様で、元旦から27日まで連続して航行・侵入が続き、海上保安庁巡視船による警告、抗議が行われた。1月末の数日間侵犯が途絶えたが、2月3日から再び始まっている。

 

―以上―