JAXA、国際宇宙ステーションへ “こうのとり” HTV-9を打ち上げ


2020-05-20(令和2年) 松尾芳郎

 

JAXAは、種子島宇宙センターからH-IIロケット9号機で、5月21日(木)午前2時30分に国際宇宙ステーション・ISSに向け、貨物輸送無人機 ”こうのとり” 9号機「HTV-9 ( H II Transfer Vehicle 9 )」を打ち上げる。”こうのとり“は最大約 6 tonの貨物を搭載でき、一度に複数の大型実験装置を運搬できる。

(A Japanese cargo spacecraft loaded with experiment hardware, supplies and spare parts is scheduled to launch from the Tanegashima Space Center at May 21, 2020 local time. JAXA unmanned HTV-9 carries investigations testing a new livestreaming educational tool, microscope and telescope. The HTV able to carries six ton cargo to the ISS.)

ISS向けの宇宙ステーション補給機「こうのとり」は今回の「HTV 9」が最後のミッションとなり、次回からは新型補給機「HTV-X」が行う。

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図1:(JAXA) 高度400 kmの低地球周回軌道上の「こうのとり」・HTV。写真右が「補給キャリア与圧部」、左端が「推進モジュール」。「推進モジュール」には4基の軌道変更用メイン・スラスター/IHI製HBT-5が見える。

 

「HTV-9」が輸送する主な貨物

  1. きぼう宇宙放送局(Space Frontier Studio KIBO)開設用機器

実験室“きぼう”と地上を直接結ぶ放送スタジオを“きぼう”に設置し、ISSと地上との双方向通信の試験を行う。今年の夏から運用を始める。通信経路は、「地上スタジオ/一般視聴者」からインターネットで「JAXA筑波宇宙センター」を結び、ここから専用線で「NASAジョンソン宇宙センター」を経由、専用回線で「ISS」に接続する。これで「ISSきぼう内の宇宙飛行士」と「地上スタジオ」を結ぶことができる。

  1. 超小型衛星搭載用地球観測カメラ(iSIM)

宇宙ステーションから地球を観測する双眼鏡を運ぶ。これは「iSIM」(integrated Standard Imager for Microsatellites)と呼ぶ高解像度の望遠鏡で、スペインのSATLANTIS MICROSATS社が製造した。地球表面の解像度は1 m。最新の光学、構造、エレクトロニクス、およびソフトを統合化して、同性能の既存の望遠鏡に比べ極めて低価格の双眼鏡である。双眼鏡は実験室“きぼう”の外側に取り付けて試験を行う。

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図2:(SATLANTIS) 搭載予定のiSIM-10D双眼鏡。この双眼鏡は国際宇宙ステーションISSから地球表面を高解像度で観測できる性能を持つ。

 

  1. コンフォーカル宇宙顕微鏡(Confocal Space Microscope)

無重力下での生物学研究のためConfocal Microscopeと名付けた宇宙顕微鏡を運ぶ。コンフォーカル顕微鏡は、ISSに搬入済みの微生物の蛍光像を観察する。

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図3:(JAXA) コンフォーカル宇宙顕微鏡。

 

  1. 個体燃焼実験装置(SCEM)など FLARE 実験関連品

個体燃焼実験装置 (SCEM=Solid Combustion Experiment Module) はFLAREプロジェクト(Flammability Limits at Reduced Gravity Experiment)に使う装置。FLARE は自然対流のない無重力下での固体燃料の着火、火炎伝播などの燃焼を、いろいろな固体燃料で試験する研究である。

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図4:(JAXA) 固体燃焼実験装置(SCEM)

 

  1. 非与圧貨物室にISS用の新型リチウム・イオン・バッテリーを搭載

「こうのとり」6号機、7号機、8号機に続いて、非与圧部の曝露パレットにGSユアサ製のリチウム・イオン・バッテリー6個を搭載する。このバッテリーは容量134 Ah、重さ3.53 kg、寿命10年。今回の輸送でISSに搭載してある旧型のニッケル水素バッテリー48個は、全て新型のリチュウム・イオン・バッテリー24個で置き換えられる。

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図5:(JAXA) バッテリーを搭載した曝露パレット

 

宇宙ステーション補給機「こうのとり」・HTV

三菱H IIBロケットで打ち上げられる無人宇宙船で、最大6 tonの補給物資・貨物を高度400 kmの低地球周回軌道を回る宇宙ステーション・ISS に輸送し、帰路には不用品を搭載、大気圏に再突入して燃やす。「こうのとり」は毎年1回程度のペースで打ち上げられてきたが、今回の「HTV 9」の打上げで任務を終了する。次回2021年からは新しい強力な三菱製H-3ロケットで、新設計の宇宙機「HTV-X」が打ち上げられ、業務を引き継ぐことになる。

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図6:(NASA) 2018年9月27日、ISSの至近距離に到達した宇宙補給機こうのとり「HTV 7」をISS宇宙飛行士が操作するロボットアーム「キャナダーム2 (Canadarm 2) 」が捕捉したところ。アームで引き寄せ、ISSにドッキングする。ドッキングは、写真左端「補給キャリア与圧部」左面にある「共通結合機構 (CBM =Common Berthing Mechanism)」で行う。宇宙飛行士はここのハッチを通り、貨物室から貨物を取りおろす。

 

「こうのとり」 (HTV)の構成

「こうのとり」は「補給キャリア与圧部」と「補給キャリア非与圧部」の2つの貨物室、それに「曝露パレット」、「電気モジュール」、「推進モジュール」で構成されている。

補給キャリア与圧部

与圧部は1気圧に保たれ、実験用装置、飲料水、食料、医療品などを搭載する。ISSと結合中はISSから乗員が乗り込み荷降ろしをする。与圧部には1.27 m 四方のハッチがあり、大型装置はここから搬出できる。搬出が終わったら不用品を搭載する。

補給キャリア非与圧部

側面に開口部があり、与圧不要なバッテリーのような大型装置を搭載する曝露パレットをここから搬出する。

電気モジュール

誘導制御、通信、電力、などの電子機器を搭載、自律的航法や地上指令にもとずく航法を行う。また各部への電力供給も行う。

推進モジュール

「こうのとり」には、IHI製の軌道変更用メイン・エンジン[ HBT-5] 4基と姿勢制御用RCSスラスター[HBT-1 ] 28基の合計32基のスラスターが装着されている。推進モジュール内の4基の推進剤タンクからスラスターに推進剤を供給、軌道変更や姿勢制御を行う。

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図7:(JAXA) 「こうのとり」/ [HTV:H-II Transfer Vehicle] のカットビュウ。全長約10 m、直径約4.4 m、本体重量約10.5 ton、最大重量約16.5 ton、補給能力・与圧部4.5 ton、非与圧部1.5 ton。推進剤は燃料:MMH(モノ・メチル・ヒドラジン)、酸化剤:MON-3を使用。「補給キャリア与圧部」の左面にある「共通結合機構 (CBM)」のハッチは1.3 m x 1.3 mの四角形で大型貨物の搬出入が可能。「非与圧部」には、貨物取り出し用開口部(奥に見える白い切り欠き)があり、宇宙飛行士が船外活動で搭載貨物を取り出す。

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図8:(JAXA)種子島宇宙センターで公開された平成30年9月打上げの「HTV-7」。上から「補給キャリア与圧部」、「補給キャリア非与圧部」、「電気モジュール」、一番下が「推進モジュール」。「非与圧部」の開口部には搭載したリチウム・イオン・バッテリー6個が見える。貨物搭載量は「与圧部」、「非与圧部」合計で4 ton.

 

後継機・新型宇宙補給機「HTV-X」

「HTV-X」の特徴は、①現行「HTV」に比べ重量で1.5倍(合計5.82 ton)のカーゴを搭載できる。②宇宙ステーションを離脱後に先進的技術の実証ができる。③将来月周回基地「ゲートウエイ」への物資輸送ができる。

「HTV-X」は「こうのとり」/HTVの技術を生かし輸送能力・運用能力を向上させた新型宇宙船である。

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図9:(JAXA) 「HTV-X」の想像図。2つのモジュールに集約され、それに曝露カーゴ搭載部が付くと云う構造になる。想像図の手前側が「曝露カーゴ搭載部」。

 

「HTV-X」は「曝露カーゴ搭載部」と「サービス・モジュール」、「与圧モジュール」、の3つから構成される。現行「HTV」の「非与圧部」は廃止され「曝露カーゴ搭載部」に変更され、「電気モジュール」と「推進モジュール」は統合され「サービス・モジュール」に一体化される。「与圧モジュール」は「HTV」の「与圧部」を改良、搭載能力と運用能力を向上する。

「曝露カーゴ搭載部」

船外実験装置など大きな装置を搭載できる。

「サービス・モジュール」

後方、誘導制御、通信、電力、推進スラスターなどの機能を集約したモジュールで、将来は単体で使用することも可能。これに伴い、現行「HTV」のモジュール間にある接続が不要になりシステムが簡素化される。また、軌道変更用の4個のメイン・スラスターは廃され、姿勢制御用スラスターで代行する。

「与圧モジュール」、

与圧室内を改良、荷物の搭載性を増し、打上げ間近でも貨物搭載を可能にする。

この結果、ISSへの輸送能力は[曝露カーゴ搭載部]を含めて、4 tonから5.82 tonへ45 %増加する。また輸送容積は49㎥から78㎥へ60 % 増える。内訳は、与圧カーゴ:3.0 tonから4.07 ton、曝露カーゴ:1.0 tonから1.75 tonとなる。

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図10:(JAXA) 「HTV」から「HTV-X」への変更箇所を示す図。「HTV-X」では、「電気モジュール」、「推進モジュール」が一体化され「サービスモジュール」となり、上部に「曝露カーゴ搭載部」が付く。その両側にソーラー・パネルが新設される。「HTV」では上部にあった「与圧部」は下部に移り「与圧モジュール」となる。「与圧モジュール」には、打上げ間近かの貨物搭載のため“サイドハッチ”を設ける案があったが、「2019-10-31」発表の最新報告では削除されている。これらの改良で「HTV-X」は、打上げ時重量は1 ton軽くなるが、カーゴ搭載量は4 tonから5.82 ton に増加する。

 

終わりに

NASAが定める国際宇宙ステーション[ISS]向け物資輸送基準「CRS1」”Commercial Resupply System 1” に従って物資輸送をしている宇宙船は、ロシア「プログレス」、米国Orbital ATK社「シグナス(Cygnus)」、米国SpaceX社「ドラゴン(Dragon)」、それに我が国JAXA「こうのとり」・「HTV」である。最近のこれら宇宙船の活動は、予定を含め次の通り。

 

・4月7日、SpaceX 「ドラゴン(Dragon)」無人貨物輸送機がISSのロボットアーム「キャナダーム(Canadarm 2)」から離れ、帰途につき、同日午後3時40分にカリフォルニア州ロングビーチ沖合に着水。

・4月25日、ロシア「プログレス(Progress) 75」無人貨物輸送機がISSのロシア部分にドッキング。

・5月20日、JAXA「こうのとり9号」/HTV 9無人貨物輸送機がH IIロケットで出発ISSに向かう。

・5月27日、NASA「民間有人飛行プログラム(Commercial Crew Program)」に基づき、スペースX社「クルー・ドラゴン(Crew Dragan)」宇宙船に2名の宇宙飛行士が搭乗、午後4時半にフロリダ州から「ファルコン9 (Falcon 9)」ロケットで出発、ISSに向かう。米国製ロケットで米国人がISSに行くのは2011年以来のことである。

 

NASAは、2022-2024年期間中のISSへの物資輸送基準を改め「CRS2」として定めている。「HTV-X」は、「CRS2」基準中「カーゴ回収能力・1.5 ton」を「小型カプセル回収」で部分的にしか満たしていないが、他の条件は全てクリアしている。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

NASA May 14, 2020 “JAXA HTV-9 Spacecraft Carries Science, Technology to the International Space Station” by Michael Johnson / Ein Winick

JAXA 宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号機 (HTV 9)ミッション

JAXA 2020-05-01 “「こうのとり」9号機の主な搭載品”

JAXA “「こうのとり」(HTV) の構成“

三菱重工 重要なお知らせ 2020-03-24 “H-II ロケット9号機による宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号機(HTV 9)の打ち上げについて“

TokyoExpress 2018-09-28 ”JAXA、H-IIBロケットで宇宙ステーション補給機7号機(HTV’「こうのとり」)を打上げ“

JAXA 2019-10-31 “新型宇宙ステーション補給機 HTV-Xの概要と開発状況について“ by 補給機Project Team 伊藤徳政