政策なしの都知事選挙、惨敗のオールド野党


2020年7月12日

元文部科学大臣秘書官 鳥居徹夫

 

◆感染者数が増大。選挙期間中の街頭活動が原因?

東京都の新型コロナの感染者数は、暫くは20人以下の日が続き沈静化に向かうのではないかとの観測もあったが、7月5日の東京都知事選挙の投開票日あたりから、感染者数が激増している。

感染者数は、7月2~7日が100人台、8日の75人をはさんで9日以降は200人台が数日間つづいた。

 その2週間前が感染時期とすれば、都知事選の告示日(6月18日)のころ。

新宿や池袋での街頭活動では、運動員や聴衆が興奮の渦にあり、付着したウイルスを拡散したが、マスコミは指摘しなかった。選挙妨害と言われたくないのであろうか。

そこには「正しく恐れる」冷静さが明らかに欠如していた。

案の定、一部陣営では最終日の街頭活動の中止を表明したが、結局打ち上げの集会を行った。また別の陣営も、新宿駅南口で同規模の集会を行った。

現職の小池百合子知事は公務優先で、オンラインでのアピールで街頭活動はなかった。しかし選挙運動の自粛を選挙公約とする対立候補は不在であった。

 

◆小池百合子知事が6割の得票で再選

7月5日に行われた東京都知事選挙は、小池百合子氏が約366万票を獲得し再選。得票数の6割に達し、2012年に猪瀬直樹氏が獲得した約433万票に次ぐ史上2番目の票数。

注目の2位争いでは、宇都宮健児が約84万票したが、得票は小池百合子知事の4分の1以下。立憲民主・共産・社民推薦でありながらも惨敗といえる。

れいわ新選組代表の山本太郎が約65万票、日本維新の党が推薦した小野泰輔が61万票だった。

現職で政党からの推薦や支持は求めなかった小池百合子は、労働団体の連合東京や各種団体などが支持。自民党や公明党の支持層に加え、宇都宮健児を支援した立憲民主党の支持層や、特定の支持政党を持たない無党派層などからも幅広く支持を集めた。

連合東京は6月18日、小池知事支持を表明し次のようにアピールした。

「小池都知事が特別顧問となっている都民ファーストの会東京都議団に議席を置く連合組織内議員4名は、会派内の重職を任され、現在まで連合東京の政策要請を数多く都政に盛り込むための汗をかき、実現に向けて取り組んでいる」。

 

◆意外と健闘した投票率

一方、投票率は55.0%。前回4年前より4.7%下回った。

マスコミでは当初、投票率の大幅な低下を予測していた。それはコロナ自粛下であり各陣営とも派手なパーフォーマンスがなく、自民党が独自候補を擁立せず、野党候補の一本化もできなかったなどである。

保守が分裂、野党一本化で激戦となり小池百合子が初当選した2016年の前回選(59.7%)には及ばなかったものの、石原慎太郎氏が再選した2003年(44.9%)や、舛添要一が当選した2014年(46.1%)をも上回った。

投票率が55.0%とメディアの予想を超えたのは、コロナ対策が選挙の主要争点となり、有権者が高い関心を持って投票所に足を運んだようである。

 

◆近く予想される総選挙、旧民進系の合流は不透明

立憲民主党と共産党などが応援した弁護士の宇都宮健児と、れいわ新選組の山本太郎の票は、合わせても小池百合子の票の半分にも届かなかった。

宇都宮健児は、党派色が強く出過ぎた。立民の枝野、長妻、共産党の志位らが表舞台に出過ぎた。それに加え消費増税を推し進めた野田佳彦までもが一緒に応援演説をした。

山本太郎の失速、魅力度の低下も顕著だった。壊れたレコードではないが昨年(2019年)の参院選と同じメッセージで目新しさがなかった。

立民・共産の支持者も、山本太郎とか小池百合子に流れた。

一方、維新が推薦した小野泰輔候補は、魅力がないのに健闘した。小池知事に反発しながら、独自候補を擁立できなかった自民党の票を吸収した。

国民民主党は自由投票で、小池支援のほか、宇都宮・山本候補の応援演説をする議員もいた。

近く予想される総選挙をめぐって、旧民進党の合流の声が大きくなると予想される。ところが候補者調整はうまくいかない。それは近親憎悪がスゴイからである。

そもそも「愛情も信頼もないのが国民民主と立憲民主」である。だったら結婚しなくていい。

仮に立民・国民の合流に進むとなれば、そのトップは手垢が汚れた枝野・玉木ではなく、満を持して出番を狙っていた岡田克也ではないか。

 

◆度を超えた小池知事へのネガティブな個人攻撃

都知事選挙では各候補とも、小池知事の政策やビジョンに対する違いを明確に打ち出さなかった。むしろメディアなどは、小池百合子への人格攻撃が目立った。

選挙の直前に「女帝・小池百合子」という著書が発売された。その中身は、カイロ大学卒業していないとか、「女を武器としてのしあがった」と言わんばかりの内容であった。

週刊誌などメディアは、アンチ小池の風潮に流され、無批判的に紹介した。

小池陣営は、反論もせず沈黙を続け、告示日の直前にカイロ大の卒業証書を公開した。

そして選挙公報の経歴欄には、小池知事は「カイロ大卒業」と明記した。

この本には、人格攻撃としか思えない記述も多い。

例えば顔のアザについて、かなりの紙数を割き「いつも怯え、傷つきながら育ったのではないだろうか」という記述には嫌悪を覚える。

女性が都知事にのし上がったことへの陰湿なネタミともいえるネガティブなものであった。

この本の執筆者が男性だったなら、女性蔑視との批判は避けられなかったのではないか。非常に不愉快な本である。

石井妙子は「序章」でこう書いている。

「男の為政者に引き立てられて位を極め、さらには男社会を敵に見立てて、階段を上っていった。(中略)ここまで権力を求め、権力を手にした女は、過去にいない」

石井妙子は、田嶋陽子(法政大学元教授)の言葉を借り、小池氏を「女の皮はかぶっているけれども、中身は男性だと思う」とした上で、「彼女の快進撃を女性の解放として、女性が輝く権利を手にしたとして、(中略)受けとり、喜ぶことが、できない」とネガティブにとらえる。

ズバリ中身は、ステレオタイプの女性観であり、女性蔑視である。

 

◆政策の対立軸すらない対立候補と野党

都知事選挙は、現職の小池知事の独走となった。

それは政策の対立軸を、対立候補が作らなかった、いや作れなかったからである。

現職知事への人格攻撃は目立ったが、これからの東京をどのようにデッサンするのかというビジョンが対立候補や、それを推薦する野党になかった。

コロナで顕著になった東京一極の弊害、在宅勤務など働き方改革の支援、食料自給率が1%という東京のリスクマネージメントなど課題は多い。ところが野党の合流とか共闘という次元の政局に、政策が埋没してしまったと言っても過言ではない。

この10年間で4人の知事が入れ替わるという異例の事態が続いている。都民がおろそかにされ、政党の思惑優先の都知事選の連続であった。

政党、とりわけ野党は、都民から猛反省を突き付けられた都知事選挙であったと言えよう。(敬称略)