NASA、ジェームス・ウエブ宇宙望遠の総合システム試験を実施


2020-07-15(令和2年) 松尾芳郎

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図1:(NASA) ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡。本体は直径6.5 m の主鏡と3本の支柱で支える副鏡、付属する観測装置、で構成される。それに太陽光・宇宙機バスなどの熱源から本体を遮蔽するサンシールドが付く。ウエブ望遠鏡はカセグレン式で、凹面の主鏡で集めた光を凸面の副鏡に導き反射させ、主鏡の中心にある観測機器に焦点を結ばせる構造。

ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope)は、稼働すれば世界で最新・最大の望遠鏡となり、太陽系のさらなる解明、銀河系にある他の星々の探査、さらに遠方にある多数の未知の銀河の探求、などを行うことになる。ウエブ望遠鏡は、NASAが主導しESA(欧州宇宙機構)とカナダ宇宙機構が協力している国際プロジェクトである

ウエブ宇宙望遠鏡は、このほど(2020年7月初旬)最終的な組立てが完了、全システムの接続が完了たので、重要なソフトウエアと電気システムの最終試験を実施した。

これまでは個々のシステムの試験が終り、それぞれの機能についてはデータが得られている。しかし組立てが完了した姿で、各システムが互いに干渉せず正常に作動することを確認する必要がある。この試験が「総合システム試験 (CST=Comprehensive Systems Test)」と名付けた今回の試験である。

(Now that NASA’s James Webb Space Telescope has been assembled into its final form, testing teams seized to perform a critical software and electrical analysis on the entire observatory as a single vehicle. Known as a Comprehensive Systems Test or CST, this was the first full systems evaluation that has ever been run on the observatory, and  the final activities the team will perform.)

ウエブ望遠鏡は、NASAが作る最大で技術的に極めて複雑な宇宙望遠鏡。多数の部品・システムから成り、それらがお互い緊密に連携しなければ任務は達成できない。特に重要なのはソフトウエアの開発、小さなモーターから装備品まで、書かれたソフトに従って正しく作動することを確認し、次の組立段階では規模の大きいソフトでの試験をする、と云う繰り返しの試験、その途中でバグを直し新しい機能を追加し、さらに確認試験をする。この試験のため関係技術者は24時間体制で15日間連続で勤務し、約1,070項目のソフトを試験・検証し1,370件の改定を実施した。

ウエブ望遠鏡の一連の試験「CST」が終了したことで、電子機器の機能・性能の基本的検査が終わり打上げの準備が整うことになる。数ヶ月以内に、今度は打上げ時に望遠鏡が遭遇する騒音と振動に対する耐久性の試験を行う。ここでも担当技術者グループは、全システムに試験の前後で変わりがないことを確認しなくてはならない。

ロサンゼルス(Los Angeles, Calif.)郊外、レドンド・ビーチ(Redondo Beach)にあるノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)社のウエブ望遠鏡電気装備品統合・試験担当の先任技師ランデイ・ポレマ(Randy Pollema)氏は話している;―「こんなに多くのチームや人々が、それぞれ違った分野で、一つの共通目標に向かって協力し、垣根を超えて、仕事に取組む姿は見たことがない。ウエブ望遠鏡を完成するために、全員が誇りを持って夫々の仕事に邁進してきた。間も無くその成果が達成されることを確信する。」

武漢コロナウイルスの蔓延で世界中が影響を受けているが、ノースロップ・グラマンのウエブ望遠鏡担当チームは3月から安全対策を実施し、人員を減らしながら交代制勤務を続け、クリーン・ルームの中で組立と試験を行ってきた。5月になってからは人員を正常時に近くまで戻し作業している。打上げ予定は2021年3月だが、最新情報では6月に延期されそうだ。

 

展張可能なタワー(Deployable Tower Assembly)

今年6月初めにウエブ望遠鏡の打上げ準備の一つ、“展張可能なタワー・アッセンブリー(Deployable Tower Ass’y)”の展張試験が行われ、成功した。

タワー展張試験

図2:(NASA/Northrop Grumman) ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡の“タワー”展張試験を片持ち梁に寝そべって見守る技術者。タワーとは望遠鏡の重要装置を収めた柱状構造物で、主鏡とサンシールドの間を離す役目をする。

この“展張可能なタワー”の主な目的は、望遠鏡の金色の主鏡と観測機器が収まる上の部分と、相対的に温度の高い電子機器および推進装置があるバスと呼ぶ下の部分、の間に大きな隙間を作ることにある。この二つの部分の間に間隙を作り主鏡とセンサー類の温度を、「アクテイブ&パッシブ冷却システム 」の力で、超低温に保つ。

タワーの展張試験は、宇宙空間での動きを想定して、1.2 mの高さまで数時間掛けてゆっくりと上方に伸ばして行われた。宇宙での展張は無重力状態で行われるので、試験はプーリーや錘で無重力状態を再現しながら行われた。これでウエブ望遠鏡は、無重力環境下で完全に組立てられることを証明できた。

この成功で、観測機器を超低温に維持可能になったのに加えて、打上げロケット「エイリアン5(Ariane 5)」の狭いペイロード室内に望遠鏡を折畳んで収納出来ることが実証された。宇宙空間でフェアリングが開き、折畳んだウエブ望遠鏡が放出されると、先ずタワーが展張して、サンシールドと主鏡部分の展開に必要な空間を確保する。続いてサンシールドと主鏡部分が開いて、完全な機能を備えた赤外線宇宙望遠鏡が形成される。

ウエブ望遠鏡は赤外線で微かな熱を放射する天体を探索する望遠鏡、従ってその観測機器を超低温に保つため太陽からの熱をテニスコートほどもある遮光膜 “サンシールド”で遮断する。しかし、打上げ時には遮光膜や主鏡を折畳んで狭いロケットのペイロード室内に納める必要がある。この役をしているのが「展張可能なタワー(DTA=Deployable Tower Assembly)」。

「タワー」は、宇宙空間での極端な温度変化に耐えられるよう炭素繊維複合材製の黒色柱状の釣竿のような構造。完全に伸びると高さは3 mになる。2本の同軸の太い筒状で両端は螺子で相手側に固定されている。

発射してから数日後に「タワー」が展張されると、望遠鏡主鏡部分および観測装置部分は宇宙機バス部分およびサンシールド部分から離れ、お互いが数メートルの間隔になる。

「タワー」は、ノースロップ・グラマン社「アストロ・エアロスペース(Astro Aerospace)」部門で作られた。

展張可能なタワー

図3:(Northrop Grumman) ノースロップ・グラマン社のレドンド・ビーチ工場で「タワー」の試験をする技術者。「タワー」は2本の同軸筒状の構造。打上げ時は短く、打上げ後には高さ約3 m に伸びる。(接写写真のため曲がって見えるが、実際は垂直)

 

アクテイブ & パッシブ冷却システム(Active & Passive Cooling System)

ウエブ望遠鏡は極く微弱な赤外線を観測する宇宙望遠鏡なので、望遠鏡の光学系(optics)および観測装置(scientific instruments)は、背景となる赤外線のノイズを遮断するため、超低温に保つ必要がある。各観測装置内には“デテクター(detector)”と呼ぶ「赤外線信号を電気信号に変換し画像化する装置」が内蔵されていて、正しく作動させるには赤外線の背景ノイズを減らすため冷却する。長い波長の赤外線を観測するには一層低温にしなければならない。

ウエブ望遠鏡には観測装置(scientific instruments)が4つ搭載され、その内3つは可視光線の赤の部分から近赤外線、波長[0.6 – 5 ミクロン]範囲の短い波長帯を観測する。これら計測装置には「水銀(Mercury)-カドミウム(Cadmium)-テルル(Tellurium)」・[HgCdTe]」で作った“デテクター”が使われる。このデテクターは絶対温度[37o K ](-236C) に保つ必要がある。これは宇宙空間の温度でもあるので、“サンシールド”を展張、遮光して得られる。これを「パッシブ冷却(passive cooling)」と云う。

4つ目の観測装置(scientific instrument)は「中赤外線観測装置(Mid-infrared Instrument / MIRI)」で、波長[5 – 28 ミクロン]の長い波長帯を観測する。これに使う“デテクター”は別の素子「ヒ素含浸シリコン(Arsenic-doped Silicon)」・[Si:As]」製で、絶対温度[ 7o K ] ( -266C )以下にする必要がある。このため「超低温クーラー(cryocooler)」を開発し搭載している。従ってこちらは「アクテイブ冷却(active cooling)」と呼んでいる。

電磁波

図4:ウエブ望遠鏡が観測する波長帯は、可視光線の赤の部分から近赤外線の範囲で、波長[0.6 – 5 ミクロン( 0.6 -5 μm)]。もう一つは「中赤外線計測装置(Mid-infrared Instrument / MIRI)」で、波長[5 – 28 ミクロン( 5 -28μm)] の範囲。

 

ウエブ望遠鏡の打上げ

ウエブ望遠鏡は、ESA(欧州宇宙機構)が開発した極めて信頼性の高い「エリアン5 (Arian 5)」ロケットで、赤道に近いフランス領ギアナ、クールー(Kourou, Guiana)にあるヨーロッパ宇宙港(European Spaceport)のELA-3発射台から打上げられる。

エイリアン5ロケット

図5:(Arian Space com.) エイリアン・スペース作成図の修正図。ウエブ望遠鏡はこのように小さく折畳んで搭載される。「エイリアン5」打上げロケットはエアバス国防・宇宙部門が製造する2段式。1996年以来108回打上げて103回成功済み。使用開始後改良が続き、ウエブ望遠鏡打上げは120号機で「ECA」型を使う。高さ(全長)50.5 m、直径5.4 m、重量780 ton。「ECA」型は、推力160万lbsブースターが2本が付き、コアは推力22万lbs バルカン2エンジン1基、2段目は推力15,000 lbs HM7Bエンジン1基。

 

サンシールド

望遠鏡を太陽、地球、月あるいは望遠鏡自身が放射する光、熱から守り超低温に保持するため、テニスコート大のサンシールドが作られた。これはパラソル状の薄膜5枚重ねで、大きさは21.2 m x 14.2 m になる。

ウエブ望遠鏡は、地球から太陽の方向と反対側約150万kmの距離にあるラグランジェ・ポイント「L2」に打上げられ、ここで使われる。サンシールドは常時太陽、地球、月と望遠鏡本体の間に位置するようにし、望遠鏡を光、熱から守る。

L2点

図6:(NASA/STScl)ウエブ望遠鏡の位置ラグランジェ・ポイント「L2」の説明。「L2」は太陽と地球の引力が同じになる点で、望遠鏡は、地球の影になるので太陽光から遮られる。太陽―地球間の距離は1億5千万km、地球―月間は38万km、そして地球―「L2」の距離は約140万kmになる。NASAは月までの有人飛行は経験しているが、「L2」はその3倍の距離にあるので有人飛行による整備は予定していない。

サンシールドで、熱は宇宙に放散されるので望遠鏡の温度は50o K ( -223C)以下に保たれる。近赤外線用の観測装置、NIRCam、NIRSpec、FGS/NIRISS、は「パッシブ・冷却」により温度39oK (-234C) で使われる。

中赤外線観測装置 (MIRI=mid-infrared instrument)は一層低い7o K (-266o C)で使うのでヘリウムを使う超冷却装置(cryocooler system)で冷却する。

5層のサンシールドは、太陽光に面した1層目から2層目と順次熱を反射して低温にする。また各層の間は真空なので断熱効果が高まる。

各層は、髪の毛より薄いカプトン(Kapton)Eの膜で、耐久性に富む反射性の高いアルミ・シリコン・コーテイングをしてある。カプトンは1960年代終わりにデユポン(DuPont)が開発したポリミド(polymide)フィルムで、耐熱性が高く、-269o Cから400o Cの範囲で安定した性能を維持する。

サンシールド

図7:(Northrop Grumman / Alex Evers) 「L2」点に到着すると望遠鏡は常に太陽、地球、月に背中を向け、丁度日傘を差した格好になり、望遠鏡や観測機器を熱から守る。

 

ウエブ望遠鏡のミラー/主鏡

ウエブ望遠鏡の目的の一つは、宇宙が若かった大昔に遡って過去の姿を調べること。すなわち130億光年の彼方にある銀河の観測である。こんな遠方の銀河は微弱な光しか出さないので、大きな主鏡が必要になった。

望遠鏡の精度、つまりどれだけ小さい物体が見えるか、は望遠鏡の光を集めるレンズ、鏡の大きさ・面積で決まる。大きな面積は多くの光を集光できる、雨のとき大きなたらいは沢山の水を貯める事ができるのと同じ理屈だ。

検討の結果、超遠方の銀河の光を観測するには直径6.5 m の主鏡が必要とされた。今使われているハブル宇宙望遠鏡の主鏡は直径2.4 m で、これに比べると遥かに大きく重くなる。軽くするために分割構造にし、各セグメントは軽く強い金属ベリリウム(beryllium)で作り、重さを20 kg に抑えた。

セグメント18枚を円形に配置する折畳み式で、各セグメントは直径1.32 m の平板。6角形にしたので、お互いが密着し隙間のないほぼ円に近い主鏡にすることができた。

主鏡の比較

図8:ウエブ望遠鏡の主鏡/直径6.5 m とハブル望遠鏡の主鏡/直径2.4 m の比較。ウエブ望遠鏡は6角形セグメントの18枚構造に対し、ハブル望遠鏡の主鏡は1枚構造。

主鏡の折畳み

図9;(NASA/Chris Gunn) ウエブ望遠鏡の主鏡の両脇の“ウイング”の片方が折畳まれている。両ウイングはセグメント3枚ずつで、折畳んでロケットに収納される。頂部には支柱で支持する副鏡(直径74 cm)が見える。主鏡面の曲がった2本の線は支柱の影(主鏡が凹面鏡であることが分かる)。

主鏡セグメント裏面

図10:(ASU/NASA/Ball) 各主鏡セグメント裏面の写真。主鏡の焦点を調整するため合計7つのアクチュエータ(小型モーター)が付いている。

セグメントの素材ベリリウムはユタ州で採掘され、細かい金属粉末に精製され、高圧で1.3 m四方の板状に成形する。これを切削加工して裏面をハネカム状にする。ハネカム・リブの厚みは僅か1 mmに仕上げている。これで各セグメントの重量は20 kg、裏面の焦点調整用アクチュエータ類の重さを加えると、1枚当たり約40 kgになる。

各セグメントの表面は完璧に研磨され、宇宙の温度[-240o C] の超低温試験装置で試験し変形しないことを確認してある(Ball Aerospace)。

超低温試験を終わったセグメントは、最終工程の金コーテイングをする。これで鏡面の赤外線反射率がさらに改善される。コーテイングは真空室内で少量の金の粒子をセグメント表面に吹き付け、厚さ僅か100 n.m. (ナノメーター)の膜を作る。さらに防護皮膜としてアモルファス(amorphous SiO2)を被せる。

副鏡も全く同じ方法で作られる。

ミラーセグメントの検査

図11;(NASA Goddard) 主鏡セグメントの最初の2枚はNASA Goddard で2012年9月に完成、検査を受けた。最終組立てまでの間、クリーン・ルーム内の特別容器内に保管された。

望遠鏡支持構造

図12:(NASA Goddard) 望遠鏡の支持構造、この上に主鏡のセグメントが取付けられる。

セグメント取付

図13:(NASA Goddard) ウエブ望遠鏡の主鏡セグメントを支持構造に取付けているところ。天井走行クレーンで各セグメントが運ばれる。セグメントの防護用黒色カバーは、組立手が終わった2016年2月に外された。

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図14:(NASA Goddard) 望遠鏡の主鏡、副鏡の組立てが終了し、観測装置類が取付けられた。数ヶ月以内に、打上げに備えた対騒音、耐振動試験が行われる。これら試験を終了すると、望遠鏡はヒューストン(Houston, Texas)にあるNASAジョンソン宇宙センターに送られ、ウエブ望遠鏡がそのまま入る大型真空室で光学系と観測装置類の超低温試験が行われる。(主鏡表面にはクリーンルーム手前にある文字とロゴが写って見える)

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

NASA July 13, 2020 “NASA’s James Webb Space Telescope Completes Comprehensive Systems Test” by Thaddeus Cesari/Goddard Space Flight Center, Updated by Lynn Jenner

NASA June 9, 2020 “tower Extension Test a Success for NASA’s James Webb Space Telescope” by Thaddeus Cesari and Last Updated June 11, 2020 by Lynn Jenner

NASA Sept. 9, 2015 “The Secrets of NASA’s Web Telescope’s “Deployable Tower Assembly” “ by Rob Gutro, Up Dated Aug. 7, 2017 by Lynn Jenner

NASA ”About Webb Innovations “Cryocooler”

NASA “About Webb Launch”

NASA “Observatory the Sunshield”

NASA “About Webb Innovations Sunshield Membrane Coatings”

NASA “Observatory Webb’s Mirrors”

Arian Space, Ariane Group “ARIANE 5”

TokyoExpress 2016-11-18改訂 ”NASAのジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡、完成近づく“