ボーイング、787で品質問題が発生、737 MAXではキャンセル増


2020-09-12(令和2年) 松尾芳郎

 

ボーイングは9月8日、チャールストン工場で製造する787機の後部胴体・尾翼取付け部付近で品質管理上の問題が発生した、と発表した。また、飛行停止が長引く737 MAXの確定受注機の減少が今年8月までに1,000機になったと報じた。

(Boeing disclosed on September 8th, a new manufacturing quality issue on 787 airliner’s after fuselage section. The problems came after latest internal investigation, disclosed quality control problems at Charleston Plant, South Carolina. Boeing also released the order backlog for the 737 MAX has been reduced this year by almost 1,000 airplane.)

チャールストン工場

図1:(Aviation Week/Sean Broderick) ボーイングのサウスカロライナ州チャールストン(Charleston, South Carolina)工場で製造される787後部胴体。ここでは後部客室与圧部分セクション47とその後ろの尾翼構造を支持する非与圧部分セクション48を製造し、両者を結合して最終組立工場へ出荷している。

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図2:(Aero-News Network/ Vought Aircraft)ボーイングがボート・エアクラフトのチャールストン工場を買収(2009年7月)する前に撮影された787後部胴体の写真。同工場の複合材製造装置で作られ、左がセクション47、白線の結合部を挟み、右がセクション48。品質問題が明らかになったのはこの結合部。工場では両者を結合後、内部に電装品システム、油圧系統、機械系統を組み込み最終組立工場に出荷する。客室最後部のセクション47は最大径19 feet (5.8 m)、長さ23 feet (7 m)で後端に圧力隔壁がある。セクション48は非与圧で最大径14 feet (4.3 m)、長さ16 feet (4.9 m)、後部の切り欠きは水平安定板が入る部分。

 

787の品質問題

ボーイング787後部胴体で見つかった製造工程のミスは、2015年のFAAとの合意事項に違反する可能性があり、問題化する恐れがある。

  •  ボーイングは787製造工程で2箇所の問題があることを認めた
  •  製造済みの787 の980機に影響が及ぶ可能性がある

発見された問題点は複合材製の胴体に関わる2件で、お互いの関連性はない。

一つは組立作業で行う寸法調節のためのシム(薄板)挿入問題である。構造部材の組立中に生じた微小な隙間を埋めるのにシムなどの材料を挿入する手法は広く行われている。

787の複合材で作る胴体はオートクレーブで加熱処理(cured)した後は極めて硬くになり、僅かな寸法の違いでも正しく接合しなくなる。生じる隙間は一枚の紙ほどの0.004 inch程度、この間にシムなどを入れて寸法の狂いを調節する。ボーイングは検査でこのシムに正しい寸法でないものがあるのを発見した(2019年9月)。不適切なシムを挿入して両者をファスナーで結合すると残留応力が生じ、機体寿命を縮める可能性があると云う。

二つ目の問題は、胴体構造の鋳造ライン(mold line)面の平滑度が許容誤差を超えていた件である。ボーイングが設定した凹凸の平滑度は0.005 inch以内であるが、これを超えていた件が発見された(2020年8月)。

この両不具合が共存する機体は8機あることが判明、該当する787は飛行中に万一強度要件の限界に晒された場合に構造破壊が生じる恐れがある、と云うもの。ボーイングはこれら機体を保有するエアラインに、直ちに検査するよう要請し、修理には少なくとも2週間が必要、と通告した。該当するエアラインは、ユナイテッド航空、エアカナダ、シンガポール航空、エア・ヨーロッパ、ノルウエイ航空、エチハッド、ANA、と言われる(WSJ/Business Insider))。

787はこれまでに980機製造されているが、2件の不具合のいずれか片方を持つ機体の数はまだ発表されていない。しかし関係筋の話では数百機に達すると言われている。

換言するとボーイングは、787の後部胴体の結合部分で生じた別個の2件の不具合を特定し、2件が同一機に共存した場合には787の設計基準を満たさない、ことを明らかにしたのである。

不具合箇所は、ボーイングの品質管理システムが行う通常の生産システム検査の過程で発見され、直ちにFAA(連邦航空局)に通告され原因究明に入っている。

FAAは公式見解は出していないが、ボーイングと共同で作業を始めている。

ボーイングによると、いずれの件も直ちに飛行の安全性を損なうものではない、としている。

即ちこれら2件は設計基準を満たしていないものの、個別であれば設計上の”制限荷重(limit load) “ 以内の飛行には適合でき、直ちに全機の検査を必要とするものではない。

 

(注)制限荷重(limit load)とは、激しい機動飛行や突風を受けた時に生じる最も大きな荷重で、この範囲内で機体構造に有害な変形が生じてはならない。構造設計上はこれに安全率を掛けた終局荷重(ultimate load)に少なくとも3秒間は耐えなくてはならない。輸送機の場合安全率は「 2.5 」を使っている。

 

ボーイングは現在飛行中の787のデータを収集・分析中で、その結果で繰り返し検査、あるいは修理の必要性の有無を判断することになる。

787の機体構造重量のおよそ半分は炭素繊維複合材(carbon-fiber-reinforced plastic) および他の複合材製で、生産開始当時は画期的な技術であった。従って787の胴体の問題は、今後の複合材製の機体構造についての良い教訓になるだろう。

今回不具合が見付かったのは、後部胴体の客室与圧部分・セクション47と尾翼を支持する後部の非与圧構造のセクション48との結合部である。両部分ともボーイングのチャールストン(Charleston, South Carolina)工場で製造されている。この工場は2009年にボート航空機(Vought Aircraft)から購入した工場。セクション47と48は製作後ここで結合され、787の最終組立工場であるチャールストン工場かあるいはシアトル北部のエベレット(Everett, Washington)工場に送られる。チャールストン工場は最新式で、-10を含む787全機種を製造している、エベレット工場では787-8および同-9を製造している。

787プログラムは、これまで数件の製造上の問題や品質問題に遭遇し、2014年に起きたリチウム・イオン(Li-ion)バッテリーの発火問題ではFAAから120日以上の飛行停止処分を受けた。

この時FAAが行なった787の設計、型式証明交付、製造工程の総合的な検証 に関わる報告書(2014年)の中で、787は他機と比べて胴体結合作業でのシム調整が著しく多い、と指摘していた。この時ボーイングは不適切なシムの調査を実施、大部分は引き渡し前に発見・修正したが、5機に不適切なシムを含む恐れありとして、アラート・サービス・ブレテイン(Alert Service Bulletin・緊急改善通報)を発行、対処している。

これに関連して787の燃料供給パイプの接合部(coupling)にも不適切な作業が発見され、飛行中に燃料漏れを生じたため、FAAが耐空性改善通報(AD)を発行した事例があった。

冒頭に記したFAAとボーイングの合意事項で、ボーイングは組織を改め、品質改善を積極的に進め不適切な状態を修正する、と約束した。履行期間は2021年1月までとなっている。

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図3:(Boeing) ボーイング・チャールストン(Charleston, South Carolina) 工場の全景。中央紺色の屋根、面積10エーカー(acres)のソーラーパネルに覆われた工場が787最終組立工場、サイズは317 m x 188 mの広さ。ソーラーパネルの発電量は2.6 MWで後部胴体製造や他機種のエンジン・ナセル、その他の部品製造工場を含む全工場の電力を賄っている。787後部胴体製造は、左側白色の大きい工場の大半を使って行われている。同工場右の突出部(上側)はオートクレイブ装置の入る社屋。写真左上は隣接する空港。

 

737 MAXの発注取消しが増加

ボーイングは8月の発注・引き渡しの機数を発表した。それによると飛行再開待ちの737 MAXでは91機の発注が取り消された。

この結果、今年は8月までに合計955機がバックログ/受注機数から削除されたことになる。8月のキャンセルは、大手リース会社エアキャップ(Aercap=Aviation Capital & GE Capital Aviation Services)からの17機、さらに追加として公式受注残から74機が削除された。これらの中には公式にはキャンセルされてないが、ボーイングとの間で協議中の機数が含まれている。

一方今年の737 MAXの新規受注はポーランドのエンター・エア(Enter Air)からの2機を含む合計5機。

これらを勘案すると、今年の737 MAXのキャンセルまたは他機種への変更は合計433機となり、公式受注残から疑わしいものを522機を排除したと云うことになる。

これで現在の737 MAXのバックログ・受注機数は3,408機となるが、競合するエアバスA320neo系列機の受注は8月末現在で6,034機になっている。

また全機種の合計の公式受注数は、ボーイングは4,387機であるのに対し、エアバスのそれは7,501機でここでも若干の差がついている。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Network September 03, 2020 “New 787 Problems Spotlight Boeing’s Quality Issues” by Sean Broderick & Guy Norris

The Seattle Times September 08, 2020 “Boeing admits a new manufacturing flaw on the 787 and tallies more 737 MAX cancellations” by Dominic Gates

Boeing South Carolina Facilities