2020-11-25(令和2年)菊池 眞一郎
図1:(SpaceNews/NASA/Joel Kowsky)2020 年11月15日(アメリカ東部時間)、アメリカのケネディー宇宙センターより宇宙飛行士4名を乗せISSに向けて発射される民間のスペースX社製ロケットファルコン9 (SpaceX Falcon9)。翌日所定の時間にISSにドッキング、使命を果たした。
2020年11月15日(日)米国東部標準時間19時27分(日本時間16日、午前9時27分)NASA(アメリカ連邦航空宇宙局)はフロリダのケネディー宇宙センターの ローンチ・コンプレックスNo.29よりクルードラゴン宇宙船をSpaceX Falcon 9ロケットに搭載して国際宇宙ステーション( International Space Station: 以後ISSの略称を用いる)に向けて打ち上げた。ロケット第一段(ブースター)は9分30秒後に予定通り切り離され着陸に成功、12分後には2段目のロケットも正常に分離され、先端部のクルードラゴン(乗組員搭乗部)は予定通りに16日23時過ぎ(日本時間17日13時過ぎ)にISSに到着、これまでの機材と異なり初めて人手を要せず完全な自動ドッキングに成功した。
図2:(NASA TV) ISSに所定の時間にドッキングしたクルードラゴン
図3:(AFP/NASA/SpaceX) ファルコン9ロケットとクルードラゴンの構成略図。
図4:(NASA/NHKニュース) クルードラゴンのコックピット:計器はタッチパネルでスイッチ類はほとんどない。
図5:(NASA/SpaceX) クルードラゴン コックピット内のクルー。
今回の搭乗者(宇宙飛行士)は
NASA所属:
マイケル・ホプキンス(Michel Hopkins)
ビクター・グローバー(Victor Glover)
シャノン・ウォーカー(Shannon Walker)
JAXA所属:
野口 聡一
の4名である。夫々の経歴などは後述参照。
今回のNASA スペースX クルー1 (SpaceX Crew-1) ミッションは民間企業であるスペースX社製ファルコン9ロケットを用いてのISS乗組員搬送である。
1988年、米国、日本、欧州諸国、カナダ、ロシアなど15か国が共同で地球より約400㎞上空の低地球周回軌道上に国際宇宙ステーション:ISSが宇宙での種々の実験や調査を目的として建設された。
ISSへの宇宙飛行士の地球から往復は2011年7月8日まではアメリカのスペースシャトルが用いられてきた。
宇宙活動への往復は極めて高額な費用が掛かるので宇宙船は使い捨てでは無く何度も往復出来るようにすることで費用節減を図るために作られたのがスペースシャトルであった。しかし当初の期待とは異なり運用費用が極めて高かったことなどから、運用を取りやめ、その後の人員交代の輸送はロシアのソユーズに委ねられてきた。
NASAは民間会社/スペースXを主体に信頼性が高く運用費が節減できる新たなロケット システムの開発をゆだねることにした。そうして登場してきたのがファルコン・ロケットとその先端に取り付けられる人員や物資の輸送機/クルードラゴンである。
クルードラゴンには最大6名が搭乗できる。
搭乗の4名は今後ISSにて6か月、夫々のミッションを遂行することになる。
NASAアドミニストレーターのジム・ブリデンスティン氏は、「NASAは米国の民間産業を利用して国際宇宙ステーションに安全で信頼性が高く費用対効果に優れたミッションの提供を米国民と国際的なパートナーに対しコミットしていくとしている。
NASAはクルードラゴン宇宙船をレジリエンス(Resilience)と命名した。 野口宇宙飛行士によると、「レジリエンスとは、困難な状況から立ち直ること、形が変わってしまったものを元通りにすることといった意味。世界中がコロナ禍で困難な中、協力して社会を元に戻そう、元の生活を取り戻そうという願いを込めた。」と語っている.
飛行中、SpaceX社はカリフォルニア州ホーソーンのミッションコントロールセンターから宇宙船を指揮し、NASAのチームはヒューストンにある同機関のジョンソン宇宙センターのミッションコントロールセンターから飛行中の運航監視を担当した。
JAXA副会長の佐々木博氏は、「ISSプログラムに参加した国際パートナーとしてこのクルードラゴン最初の正式フライトに日本の野口宇宙飛行士を参加させることが出来たことを光栄に思う。私たちは、彼が多くの科学研究を行い、地球上で、そして将来のために、それらの技術を実証することを楽しみにしている。また、NASAとスペースX社がこれを実現するために払ってきた多大な努力に感謝したい。」と述べている。
クルー1宇宙飛行士について:
マイケル・ホプキンス クルードラゴン宇宙船とクルー1ミッションの司令官。イリノイ大学で航空宇宙工学の学士号を、スタンフォード大学で航空宇宙工学の修士号を取得。NASAに入社する前はアメリカ空軍の飛行試験エンジニアであった。
ビクター・グローバー クルードラゴン宇宙船のパイロットであり、ミッションの第2指揮官。カリフォルニア工科大学で一般工学の学士号、飛行試験工学の理学修士号、エア大学で軍事運用と科学の修士号を取得し、海軍大学院でシステム工学の理学修士号を取得。海軍のパイロット(F / A-18ホーネット、スーパーホーネット、およびEA-18Gグロウラー航空機のテストパイロット)であった。
シャノン・ウォーカー クルー1のミッションスペシャリスト。彼女は指揮官とパイロットと密接に協力して、刻々と変化する打ち上げと再突入段階での宇宙船の状態を監視する。また、タイムライン、テレメトリ、および消耗品の監視も担当。ISSでは第64次長期滞在のフライトエンジニアを務める。2004年にNASAの宇宙飛行士に選ばれ、副操縦士としてロシアのソユーズTMA-19宇宙船にてISSに行きオービター(軌道実験室)で161日間を過ごした。滞在中は、人間の研究、生物学、材料科学などの分野で130以上の微小重力実験を行なった。ヒューストン出身。ライス大学で物理学の学士号を取得、1992年~1993年にライス大学で科学修士取得。
野口聡一 宇宙ステーション3度目のベテラン乗組員。1996年5月、宇宙開発機構(NASDA、現宇宙航空研究開発機構=JAXA)の宇宙飛行士候補に選ばれた。2005年のSTS-114の間、宇宙飛行士として初めて宇宙ステーション外で宇宙遊泳(ミッション中に合計3回、計20時間5分の累積宇宙遊泳時間を持つ)。2009年にソユーズ宇宙船に搭乗してISSでの長期滞在の経験がある。今回のISS往きは野口にとって3度目の長期研究滞在となる。
2021年3月31日には2度目のファルコン9クルードラゴンによる4名の宇宙飛行士のISSへの搬送が予定されている。この中にはJAXA所属の星出彰彦氏が含まれておりISSでの船長を務める予定である。
宇宙への旅:極めて危険を伴うので事前に十二分な安全の確保と確認が肝要である。スペースシャトルではミッション中に機体破壊事故で搭乗者が亡くなる事態も発生した。2011年スペースシャトルの使用が停止された翌年(2012年)にはアメリカはファルコン9ロケットを使ってのISSへの物資輸送を始めた。以来8年を掛けてファルコン9ロケットの安全性や信頼性を確かめた上で今回の有人飛行本番を決定したものと思われる。
従来以上の安全性、信頼性、経済性をこの民間開発ロケット システムに期待したい。
SpaceX社は公的なビジネスの他、遠くない将来に一般人のビジネスや宇宙観光旅行などの商用プログラム実現をも目指している。ロケットはユニット化されているので用途に応じ中心ロケットの左右に同じロケット2本を添えることなどにより更に高高度(月や火星など)への打ち上げも想定している。
付記
1.ISS:1998年11月20日より軌道上での組立開始、地上からの高度約400㎞を秒速約7.7㎞(時速27,700㎞)で地球の赤道に対し56°の角度で飛行。地球一周は約90分。 当初の運用期間は2016年までの予定であったがアメリカ、ロシア、日本、カナダは少なくとも2024年までの運用継続を決定している。
2.これまでのISSへの往復:今回のファルコン9クルードラゴンのISS行きは234回目となる。1998年11月20日、アメリカのプロトン・ロケットが最初であった。最多はロシアのソユーズで141回、アメリカはスペースシャトルの37回、今回話題となったファルコン9は24回などでプロトン、アトラス、アンタレスなどのロケットを含めると計79回、日本のH-IIBロケットは9回、ヨーロッパのアリアンが5回となっている。ミッションクルーのISS送迎は79回(内長期滞在クルーは今回の4名が第65期)である。当初、人員送迎はソユーズとスペースシャトルが担当してきたが2011年7月にスペースシャトルをリタイアさせた後はISSへのアメリカ人クルー送迎も専らスプートニクに頼ってきた。今回のファルコン9ロケットとクルードラゴンによるアメリカ人飛行士の送りこみは実に9年振りとなる。
3.イーロン・マスク氏:南アフリカ共和国出身、アメリカ、ロスアンゼルス在住。1971年6月28日生れ(49才) 10才のときコンピューターを買い12才時に商業ソフトウエアBlasterを販売。17歳時にカナダへ移住、アメリカのペンシルベニア大学ウォ―トン校で経済学と物理学の学位取得。2002年に宇宙輸送ロケット製造開発のスペースX社を起業、電気自動車メーカーのテスラー社にも投資、現在両社経営のトップである。
余談
アメリカのワシントン州シアトルにある航空博物館(Museum of Flight)はスペースシャトルを含め多くの航空機や関連展示物が充実しています。昨年、筆者が友人と訪れた際に撮影したスペースシャトルとそのコックピット内の写真を参考までに添付しておきます。
図6:(筆者撮影)シアトル航空博物館に展示されているスペース・シャトル。
図7:(筆者撮影)スペース・シャトルのコクピット。沢山のスイッチが並んでいる。
図8:(筆者撮影)スペース・シャトルのコックピットの天井もスイッチパネルで埋め尽くされている。図4のクルードラゴンのコックピットと比べると技術の進歩の大きさが実感される。
―以上―
参考文献
・NASA、SpaceX社、JAXA、BBCなど各社のHome Page
・各Item該当のWikipedia