この第3波に慌てるな。正しい知識で正しく怖がりたい


2020-11-30(令和2年) 木村良一(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員)

 

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■マスク会食には賛成しない

「スーパーコンピューターで効果が立証されているのはマスクだ。会食する際も含め、マスク着用を心からお願いしたい」

11月21日の新型コロナ対策本部の終了後、菅義偉首相がGoToイートを念頭に記者団にこう話していた。いわゆるマスク会食の勧めである。もとはと言えば、神奈川県の黒岩 祐治知事が県民に求めていた感染対策で、菅首相は20日の全国知事会でも黒岩知事を前に「黒岩さん流のマスク会食をお願いしている」とも語っていた。

このマスク会食、私は賛成しない。確かに食事中の会話で唾液の飛沫が飛ぶことはある。感染していた場合、その唾液には新型コロナウイルスが含まれている。だが、会食によってどれだけの人が感染しているのかは不明だ。しかも感染するかどうかは、ウイルスの暴露量や暴露を受ける人の身体の状態で大きく違う。

今年1月の屋形船での集団感染のように大勢の人々が集まった宴会で、「雨が降っていて寒いから」と船内の窓をすべて締め切った状態ならともかく、換気の良い空間での会食ならばまず問題はない。新型コロナウイルス感染症は、3密(密集・密接・密閉)という環境下で感染が拡大することが分かっているからである。

厳密に考えると、目の粘膜からの感染はどう防ぐのか。マスク会食の次はゴーグル会食が求められそうだ。

 

スパコンでマスクの効果を示すが…

食べるときはマスクを外し、会話するときは再び着ける。何度もこれを繰り返す。こんなことで会食が楽しめるのか。大いに疑問である。

マスク会食をしない客を見てマスク着用を強要する飲食店も現れるかもしれないし、酔っ払った客同士で「マスクを着けろ」「嫌だ」と喧嘩になるケースも出てくるだろう。同調圧力やマスク警察だ。私はマスクを着けた飲食なら会食などしない方がいいと考えている。

感染症対策の専門家からも「マスク会食は面倒で馴染みにくい」と疑問視する声が出ている。

冒頭の菅首相の話にもあったが、理化学研究所がスーパーコンピューターの富岳を使ってマスクの効果を度々、訴えている。11月26日にもカラオケボックスや野外、タクシー車内などで飛沫が拡散する状況を検証した結果を発表している。

たとえば、野外のバーベキューで10人がテーブルを囲む状況を想定。1人がマスクをせずに大声で話すと、1メートル先の正面の人が飛沫全体のうち10分の1を浴びていた。さらに弱い風が吹くと、風下にいる人たちにも飛沫が及んだ。マスクをしていれば、いずれもほとんど届かなかった。

 

冬になれば感染が拡大するのは当然だ

マスク着用の重要性はよく分かる。しかし、富岳は11月号のメッセージ@penで取り上げた河岡ラボの実験のようにウイルスそのものを扱った実験ではないし、感染には個人差があり、一律に成立するものでもない。それに通常、空気の流れの強い野外では1万分の1ミリという極小のウイルスはすぐに拡散し、感染はなかなか成立しない。このあたりを踏まえたうえで、理研の発表を評価する必要がある。

ここ最近、感染者が増え続け、第3波だと指摘されている。手元の資料を見ると、11月27日には全国で1日に2476人の感染者が新たに確認され、東京都と愛知県で過去最多を記録、千葉県では過去2番目に多い感染者数になった。この2476人のうち重症者は過去最多の435人で、これまで最多だった4月30日の328人を超えた。死者の人数は26日の時点で29人となり、過去最多の31人(5月2日)に迫っている。

しかし、こうした感染拡大に慌てふためいてはならない。新型コロナウイルス感染症は、冬に流行する気道・呼吸器の感染症だ。そのウイルスは気温と湿度の低下で活発になり、反対に人の喉や鼻腔の粘膜は感染防御が弱くなる。つまり冬になれば感染が拡大するのは当然であり、日本列島の中で最初に冬を迎える北海道から感染増が始まるのも当たり前である。

 

エボラ出血熱が襲ってきているような騒ぎ方は止めてほしい

ここで新型コロナとはどんな感染症なのかをあらためて認識してほしい。今年3月1日に加藤勝信厚生労働相(当時)が記者会見で「感染者の8割が他者に感染をさせていない」との見解を公表していた。専門家会議が国内で発生した事例を分析したところ、大半の感染者の基本再生産数は「0」か「1未満」。換気の悪い3密環境下で感染が拡大し、「2前後」の基本再生産数になるケースがあった。厚労省のこの見解は、3月1日時点と変わっていない。(川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長提供のグラフ資料を参照)

WHO(世界保健機関)も2月17日、中国から患者4万4000人分のデータが提供されたことを明らかにしたうえで、「中国のデータを分析した結果、致死率はおよそ2%で、SARS(サーズ)やMERS(マーズ)ほど致命的ではない。80%以上の患者が軽症で回復している」との見解を示していた。このWHOの見解も変わらない。しかも日本の致死率はさらに低くなっている。

マンパワーが求められる医療機関の負担は増えるから医療崩壊を事前に食い止める対策は必要だ。だが、無暗に感染の拡大に慌てないでほしい。人口100万人あたりの日本の死者数は欧米の数10分の1以下とかなり少ない。9割~6割の患者が死亡するキラー感染症のエボラ出血熱ウイルスが空気感染して襲ってきたような騒ぎ方だけは止めたい。無用なトラブルを誘発するだけである。

 

―以上―

※慶大旧新聞研究所OB会によるWebマガジン「message@pen」12月号記事「この第3波に慌てるな、正しい知識で正しく怖がりたい | Message@pen (message-at-pen.com)」から転載しました。