自民伸び悩み ‼ 共産傾斜で連合軽視の立憲民主党


 

2021年7月7日(令和3年)      元 文部科学大臣秘書官  鳥居徹夫

 

この秋までには必ず実施される総選挙の前哨戦と言われた東京都議会議員選挙が、7月4日に施行された。

立憲民主党の安住淳国対委員長は翌5日、記者団に立憲民主党が15議席を獲得した東京都議選では「立憲民主党と共産党との共闘」の成果があったとの見解を示した。

しかし、立憲民主党と共産党は、選挙区調整はあったものの「立憲民主党と共産党の共闘」と言えるものはなかった。

 

◆ 自民失速の都議会議員選挙 

東京都議選の開票の結果は、定数127人で、自民33人、公明23人、都民ファ31人、立民15人、共産19人、維新・生活ネット・無所属その他が6名となった。

投票率は42.4%。4年前の51.3%よりも大幅に低下した。そのため固定票以外があまり期待できず苦戦が予想された公明党が、メディアの予想に反して全員当選となった。

自民は4年前の23議席からは増加しているものの当初予測の50議席台には程遠く、前々回8年前の59議席と比べるならば大幅に減少した。

都民ファーストは、当初予測の1ケタ台との予測を跳ね返し自民党と2議席差の31議席で第2会派にとどまった。これは「自民党に反発するが野党はもっとダメ」という層の受け皿になった。

また過労で入院し、投票日直前に公務復帰した小池百合子都知事が、都民ファーストの最高顧問として候補者事務所に顔を出し、メディアに露出した効果も大きかったようである。

自民党への批判は、コロナのワクチン接種をめぐるゴタゴタや、時短営業などに苦しむ事業者への給付や、生活窮迫の個々人への支援対策への国民不信も無視できない。

給付への申請手続きは面倒で複雑。そして給付が2~3カ月後という国の施策への批判が強かったとみられる。

コロナ対策の「ツー・レイト、ツー・スモール」の政権への批判が、自民党の都議会議員に向けられたのではないか。

その反発の受け皿となったのが都民ファーストとなったようである。

一部報道で「勝者なき都議選」と報じられたが、完全勝利したのは公明党である。そもそも自民・公明の共闘も効果が疑問であった。公明党の候補者がいる選挙区は、すべて自民党の候補者がおり、公明党に自民党からの見返りが期待できるわけがなかった。

衆議院選挙ならば、選挙区候補が「比例は公明」と訴えることが出来るが、地方選挙ではそれがなかった。

 

◆立憲民主党と共産党に、選挙区調整は一部にあったが政策協定はなかった 

立憲民主党は、当初予想では20議席を超えるという報道もあったが、結局15議席に終わった。1~3人区で共産党が候補者を立てなかった選挙区での共産党票を期待したが、議席増につながったのは一部の選挙区に過ぎなかった。

「市民と野党の共闘を深化させたい」と絶叫する共産党の小池晃書記局長の思惑とは裏腹に、思ったほど立憲民主党から共産党へ票は流れなかった。

共産党も獲得議席は19議席と、選挙前から見れば増えたようにみえるが、前回4年前の当選者も19議席であった。

それどころか3人区の目黒区では、共産党の現職議員が、立憲民主党の新人に敗れるという波乱も起きている。選挙区調整と言いながらも、共産党現職がいる選挙区で立憲民主党は候補者を下さなかったのである。

2~3人区で立民と共産党との選挙区調整が出来ず、双方が出馬し共倒れとなった選挙区が、港区、西東京市、南多摩、北多摩3区である。

共産党が候補者を取り下げなかった西東京市、南多摩の両区では、立憲民主党の現職が落選した。

つまり議席につなげられそうな選挙区は、立憲民主党も共産党も候補者を擁立したのである。

立憲民主党には有力な候補者が不在の選挙区があったし、共産党は若干の選挙区で候補者を取り下げた。

つまり、立憲民主党と共産党は、選挙区調整はあったものの「立憲民主党と共産党の共闘」はなかった。

立憲民主党からは共産党候補者の推薦がなく、共産党からは立憲民主党の候補者の推薦もなかったのである。

共闘というなら、両党の政策協定が締結され、有権者に公表されなくてはならないが、それがなかった。

たしかに共産党の票が、立憲民主党の候補者に流れた選挙区はあったが、そこは労働団体の連合と距離がある菅直人と長妻昭の地盤であった。

共産党は「市民と野党の共闘」と声高に叫ぶが、実態は選挙協力に過ぎなかった。ただ選挙区調整が各地で行われたことは間違いない。

 

◆ 立憲民主党と共産党にクサビを打ち込む、労働団体の連合 

都議選の直前に立憲民主党の候補者は、連合も共産党も両方からの支援どころか、連合からも共産党からも相手にされないという事態が起ったのである。

連合と共産党の二股をかけるどころか、「二兎を追うものは一兎も追えず」となった。

これは共産系の新聞「東京民報」で、立憲民主党の東京都連幹事長の手塚仁雄衆院議員と共産党東京都委員会の田辺良彦委員長の対談を掲載したからである。

手塚仁雄は「東京で共闘を積み上げられれば政権交代への大きな弾みになる」と強調し、共闘への前向き姿勢をアピールした。これに連合東京が猛反発した。

立憲民主党の候補者は、共産党が候補者を取り下げ、労働団体の連合が支援する「良いとこ取り」を期待していた。ところが、連合東京は「共産党と組みしないこと、違反行為がある場合は推薦等の支援を取り消す」と提起した。

つまり連合東京から推薦を受けた候補者は、「共産党と距離を置け」という通牒である。

連合推薦をとるか、共産党候補の取り下げをとるかを、立憲民主党の都議選候補者は、踏み絵を迫られた。

ところが立憲民主党の国会議員の多くは、「連合よりも共産党の票の方が期待できる」との観測である。

秋の政局、総選挙に向け、立憲民主党は、共産党が候補者を取り下げ、連合が支援することを期待しているが、今後も波乱含みである。

しかも立憲民主党は、共産党重視で連合軽視である。連合は票とカネだけを出せばよい、口を出すなという発想である。

立憲民主党は、共産党と連立政権を組まないと言いながら、共産党と選挙区協力をするという姿勢が見え隠れする。

労働組合と政党との関係は、階級闘争史観にみられる、前衛党(共産党)と大衆組織・労働組合というような主従の関係ではない。それぞれ独立した組織である。

◇       ◇     ◇

前回4年前の都議選では、古い自民党、しがらみのある政治との対決姿勢を鮮明にした都民ファーストが、都議会自民党への批判票を一手に取り込んだ。

ところが今回は、有権者の選択は立憲民主党や共産党に流れなかった。(敬称略)