ユナイテッド航空のボーイング737 MAX大量発注で生産計画に弾み、同時にエアバスA321neoも発注


2021-07-12(令和3年) 松尾芳郎

 United 737MAX

図1:(United Airlines) 6月28日月曜日ユナイテッド航空に最初の「737 MAX 8」が引渡された(写真)。翌29日ユナテッドは「737 MAX 10」150機および「737 MAX 8」50機、合計200機の発注を発表。これでユナイテッドは「737 MAX 8」を90機、「737 MAX 9」を30機、「737 MAX 10」は既発注100機と合わせ250機を導入することを決めた。

A321neo

図2:(Airbus) ユナイテッドは同時にエアバス「A321neo」70機を発注した、2023年から引渡しが始まる。これとは別に長距離型「A321 XLR」を50機発注済み2024年から受領する。

 

ユナイテッド航空は6月29日火曜日に大量の狭胴型機を発注したと発表した。内容はボーイング「737 MAX」200機とエアバス「A321neo」70機の合計270機である。「737 MAX」200機の内訳は「737 MAX10」が150機、「737 MAX 8」が50機。これは航空需要の急速な回復に対応する措置、とユナイテッドは説明している。

(Boeing, Airbus and United Airlines announced on June 29 the carrier will expand its 737 orderbook by purchasing an additional 200 737 MAX airplanes, including 150 the MAX 10, and 50 for basic model 737 MAX 8. In addition, the carrier ordered Airbus A321neo for 70 .The new purchase positions United’s fleet for growth demand for air travel market.)

 

270機に達する今回の発注はユナイテッド航空史上最大の一括発注で、同時に過去10年間における世界中のエアライン最大規模の発注になる。これでユナイテッドの国内線での一出発当たりの座席数は30 %増えることになる。排出される座席当たりCO2量も大幅に削減される。社内の雇用も増え、全ての効果で米国経済に大きな効果をもたらすことになる。

ユナイテッド航空は今回の発注で、燃費効率の良い「737 MAX」系列機の発注残は380機、これに引渡し済みの「737 MAX 9」30機を加えると最終の保有機数は410機に達する。今回の発注には737 MAXの訓練用シミュレータとボーイングのパイロット訓練プログラムを含んでいる。

今回の大量発注を受けてボーイング民間航空機部門のCEOスタン・デイール(Stan Deal)氏は「ユナイテッドとボーイングは創立当初同じ企業だったと云う強い絆を呼び起こしてくれた」とその喜びを語っている。

1929年、ビル・ボーイング(Bill Boeing)氏が「ユナイテッド・エアクラフト&トランスポート(United Aircraft and Transport Corporation)」社を創立、航空機とエンジンの生産とエアライン業務を開始した。しかし1934年に反トラスト法の適用を受け、現在の「ボーイング」の機体生産、「ユナイテッド・テクノロジー(United Technologies) 」のエンジン製造、それに「ユナイテッド航空」に分割された、と云う歴史的経緯がある。

ボーイングの人々は「今回の契約で、ユナイテッド航空向けに新たに数百機を作ることになり、これで今後の数十年間にわたり両社の結びつきは強固であり続ける」と興奮気味に語っている。

既述のように今回の発注は、「737 MAX 8」、「737MAX 10」、エアバス「A321neo」で、いずれも大型の狭胴型機である。これで同社が現在運用している50席級の小型の狭胴型機少なくとも200機を順次退役させる。これで座席当たりの燃費は11 %改善され、CO2排出量は17-20 %少なくなる。

2020年末におけるユナイテッドが運航する200機の小型狭同型機は、ボンバルデイア(Bombardier) CRJ200型機の133機とエンブラエル(Embraer) ERJ-145型機の45機を指している、

737 MAXで最も大きい「737 MAX 10」は今年6月中旬に初飛行したばかり、エアラインへの引渡しは2023年始めからになる。

ユナイテッドの幹部アンドリュー・ノセラ(Andrew Nocella)氏は、2023-2026年で現在使っている140-175席級のボーイング757-200(40機)を退役させ、MAX 10とA321neoに更新する予定、と語っている。

ボーイングの「737 MAX 10」の受注数は500機足らずで競合相手のエアバス「A321neo」の受注(3,500機)に大きく水を開けられていたので、今回の受注で「737 MAX 10」プログラムに弾みが付くことは間違いない。同時にエアバスA321neoを70機発注したが、これは航続距離7,400 kmの性能に着目したため、「737 MAX 10」航続距離は6,110 kmで1,000 km以上差がある。

ユナイテッドがA321neoを買う理由はもう一つ、MAX10より座席数が10席以上多いため。狭胴型機の主要な出発空港であるニューヨーク(New York)、ニューワーク(Newark)、サンフランシスコ(San Francisco)はいずれもランウエイ混雑のため出発回数が制限され、供給便数が限られるため大き目の機体が望ましい。

すでに述べたが、コロナ・ウイルスの世界的流行が沈静に向かうことで航空需要が大きく増加に転ずるのを見越して、ユナイテッドは今後40年間で500機以上の新しい狭胴型機を導入する。すなわち2023年に138機、2024年には350機以上と増やす予定を立てている。

客室内装は一新され、エアバス、ボーイング機ともに、プレミアム(Premium)クラス、上級エコノミー(economy-plus)クラス、座席背面には大型液晶デイスプレイとWi-Fi装置、などを設ける。座席背面のデイスプレイは、プレミアム席が13インチ、エコノミー席が10インチになる。

現用の狭胴型機にも同様の新インテリアが2023年までに3分の2に装備され、2025年夏までに99 %の機体に装備される予定。これで他社に先駆けてコロナ後の航空需要を取り込もうとしてる。ユナイテッドの北米主要路線の座席は2026年までにプレミアム席が半分となり、他社を大きく引き離すことになる。

同社幹部は今回の狭胴型機発注に関し、結論として次のように語っている。すなわち;―

  •  毎週需要の動向を注視しているが、国内のビジネス需要はほぼ100 %回復している。国際線のビジネス客も大幅に改善に向かっている。
  •  コロナ感染拡大の時期、多くのエアラインは機材の退役を進めてきたが、ユナイテッドは1機も退役せずに凌いできた。
  • これで、ハブ空港であるシカゴ、ロスアンゼルス、ヒューストンおよびデンバーでは我が社は他社に比べ優位な立場にある。
  • 感染拡大の期間中も、乗員の技量維持に努め、できるだけ乗務させるよう工夫して来たので、5月に発生した大手某社のように1日数百便もの遅延を生じるようなことはなかった。
  • ユナイテッドは今後数年間は年平均で4~6 %の成長を遂げるだろう。
  •  230席級の大型狭胴型機「757-300」(20機保有)の更新は後日検討する。

 

ユナイテッド発注に関するエアバスの発表

エアバスは今回のユナイテッドからの受注に関し、以前に受注済みの「A321 XLR」50機を加えると合計で「A321neo」系列機の受注は120機になる、と発表した。ユナイテッドのような大航空会社から選ばれたのは、「A321neo」の優れた長距離性能と運航経費の低廉さのためである。もう一つの理由は、座席当たりのCO2排出量が狭胴型機で最も低い点が評価されたもの。ユナイテッドは環境問題に熱心で2050年までにCO2排出をゼロにすることを目標に掲げている。

「A321neo」の客室は、快適さを追求した「エアスペース・キャビン・デザイン(Airspace cabin design)」と呼ぶ形式を採用している。すなわち乗客の時差解消につながるよう室内照明の色調の変更、サイドウオール・パネルを薄くして室内を広げ、窓枠とシェイド(shades)を再設計してウインドウの視野を拡大、照明には最新のLED技術を使い、オーバーヘッド・ビン(overhead bin/荷物収納箱)は同クラスで最大、ラバトリーは衛生的なタッチレス型、になっている。

今回受注した「A321neo」は全てエアバスの米国工場であるアラバマ州モーバイル(Mobile, Alabama)工場で生産される。2021年5月現在の「A320neo」シリーズ(A321neoを含む)の受注は7,400機に達している。これにユナイテッドの70機が加わる。

狭胴型機比較

図3:ボーイング・エアバスの代表的狭胴型機の比較表。受注機数の中に今回のユナイテッド航空が発注した270機は含まれていない。

 

「737 MAX」について

「737 MAX」系列機はレントン工場(Renton, Washington)で設計、製造され、顧客に引き渡される。

「737 MAX」はエアバス「A320neo」の燃費15 %改善に対抗するため開発が決まり(2011年)、エンジンを従来のCFM-56-7 (ファン直径61 inch)からCFM Leap 1B (ファン直径69 inch)に変更。これに伴い、エンジン・ナセル-地表の間隔を同じ13 inch (43 cm)に保つため、ノーズギア(首車輪)支柱を8 inch (20 cm) 伸ばし、エンジンの位置を高くし前方に移動した。更に新しいウイングレットの採用を加えA320neoレベルの燃費改善に成功した。

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図4:(Boeing)「737 MAX」系列で最大の「737 MAX 10」は、全長43.8 m、翼幅35.9 m、2クラス座席204席、航続距離6,110 km、2023年の就航を目指す。1984年就航の「737クラシック」から1998年就航の「737 NG (New Generation)」を経て、2017年に「737 MAX」が就航を開始した。これが新エンジン・新ウイングレットを装備した「737 MAX 8」。この最新型が先日初飛行した「737 MAX 10」である。

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図5:(Boeing)コクピットのパネルの改善。左半分が「737 NG」のパネル、右半分が「737 MAX」のパネル。「737MAX」では[787型機]と同じロックウエル・コリンズ(Rockwell Collins)製の15.1 inch (38 cm)大型液晶パネルの4枚装備に改め、パイロットの状況把握を一層容易にしている。

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図6:(Boeing) 「737 MAX」のエンジンCFM Leap-1Bノファン直径は69 inch (176 cm)と大きくなったため、ナセルー地表間隔を「737 NG」と同じ17 inch (43 cm)に維持すべくエンジン位置を前方/上方に移動すると共にノーズギア支柱を8 inch (20 cm) 伸ばしている。

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図7:(Boeing) 「737 MAX」の新しいウイングレットはスプリット型で高さが2.9 mあり、普通の滑らかなウイングレットに比べ1.5 % ほど燃費が改善される。

 

終わりに

ユナイテッド航空の「737 MAX」200機を含む270機の大量発注は、「737 MAX」で生じた2件の事故による飛行停止がやっと解除され飛行再開にこぎ着けたばかりのボーイングにとり、殊の外の朗報となった。これで受注に大きく差を付けられたエアバス「A321neo」に立ち向かうことになる。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

・Boeing News June 29, 2021 “United Airlines orders 200 more Boeing 737 MAX jets”

・Airbus news June 29, 2021 “United Airlines orders 70 Airbus A321neo Aircraft”

・United Airlines June 29, 2021 “All about the Boeing 737 MAX; Safety, Status and more”

・United News June 29 “United adds 270 Boeing and Airbus Aircraft to Fleet, Largest Order in Airline’s History and Biggest by a Single Carrier in Decade”

・Seattle Times June 30, 2021 “United orders 200 Being 737 MAX planes in huge boost for the jet program” by Dominic Gates