海自ヘリ空母「いずも DDH-183」、空母化の第一次改修を完了、2024年度の第二次改修で本格空母へ


2021-07-21(令和3年) 松尾芳郎

いずも

図1:(海上自衛隊)「いずも DDH-183」は、海自最大のヘリコプター搭載護衛艦(DDH)で、長さ248 m、幅38 m、満載排水量26,000 ton、これは大東亜戦時の中型空母「蒼龍」20.000 tonより大きい。2012年にジャパン・マリン・ユナイテッド磯子工場で起工、2015年に就役、横須賀基地第1護衛隊群第1護衛隊に所属している。同型艦「かが」は2017年に就役、呉基地第4護衛隊群第4護衛隊に所属中。

いずも改修

図2:(YouTube/AGCハッチ) ヘリ空母「いずも DDH-183」はF-35B STOVL戦闘機搭載のための第一次改修を終わり、試験航海をして6月25日に横須賀に帰港。F-35B離発着のため、甲板には耐熱塗装が施され、白色のヘリ着艦用の標示点線に沿って黄色の一本の線、滑走路標示線が描かれた。

 

海自ヘリ空母「いずも」は短距離離陸垂直着陸(STOVL)型ステルス戦闘機「F-35B」を搭載、運用出来るよう改修が進められている。改修工事は2020年3月からジャパン・マリン・ユナイテッド(JMU)横浜事業所磯子工場で行われ、このほど第一次改修を完了、試験航海が終わり、2021年6月25日に横須賀基地に帰還した。

(The Izumo-class helicopter carriers are now under modification, providing to operate STOVL Lockheed-Martin F-35B aircraft. The Izumo has accomplished its first work in June and return to service, and scheduled the second and final mod will begin March 2024.)

 

第一次改修では、飛行甲板上に艦首から艦尾にかけて1本の黄色の線「滑走路標示線(tram line)」が描かれた。F-35Bはこの標示線に合わせて滑走、発艦することになる。甲板を良く見ると後方のNo.4、No.5 ヘリスポット辺りの塗色が違っている。これはF-35B離着艦時の高温のエンジン排気熱(1,000℃以上)から甲板を守るための耐熱塗装を施したため。艦橋下部周辺には耐熱遮蔽板が新設された。飛行甲板右側にはF-35Bを係留するための車止めが新たに追加されている。2本の煙突の間に設置されていた「臨時燃料給油装置」は撤去され「かが」と同じになった。

「いずも」の第一次改修費(2021年度予算)は31億円、第二次改修は「いずも」の次回大規模定期検査に併せて2024年度末から実施される。ここではF-35Bの運用を一層容易にするため、艦首形状を現在の台形から四角形に変更し飛行甲板の面積を広げる予定で2026年度中に完了予定。

「いずも」級2番艦「かが DDH-184」の改修は予算231億円が2021年度に計上済みで、「いずも」の第二次改修完了に続いて完成する見込みだ。

第一次改修

図3:(YouTube/AGCハッチ) Youtube画面に加筆した「いずも」の飛行甲板。第一次改修でNo.4および5のヘリスポットに耐熱処理コーテイングを実施した。飛行甲板は長さ245 m、幅38 m。インボード・エレベーターは20 m x 13 m、デッキサイド・エレベーターは15 m x 14 mで、いずれもF-35Bのサイズに合わせ設定されている。1〜3番エレベータは弾薬輸送用の装備。個艦防空用に「20 mm CIWS」と「SeaRAM」を2基ずつ装備する。第二次改修では、艦首を台状から四角形に変更する。

 アメリカ

図3A:(US Navy)米海軍強襲揚陸艦「アメリカ/America LHA-6」。2012年10月就役。満載排水量46,000 ton、全長257 m、幅32 m、速力22 kts以上。V-22 オスプレイ、F-35B STOVL戦闘機などを搭載する。「F-35B」は最大20機を搭載可能。「いずも」は第二次改修で艦首は「アメリカ」と同じ四角形になる。

対空火器

図4:(Wikipedia) 艦尾の「20 mm CIWS」/右側、と「SeaRAM」/左側。

「20 mm CIWS」は、M61バルカン20 mm 6銃身機関砲と捕捉/追尾用レーダーを組み合わせ、来襲する対艦ミサイルを全自動で迎撃・破壊するMk 15と呼ぶシステム。「いずも」には最新の射程15 kmのBlock 1B(ドームが灰色)Baseline 2が搭載されている。

「SeaRAM」は(Rolling Airframe Missile)の意で、米独共同開発のRIM-116 RAM近接防空ミサイル。ミサイル本体はAIM-9サイド・ワインダーで、シーカーにはFIM-92ステインガー・ミサイルから流用、飛行速度はマッハ2.5。前述Mk. 15 CIWSの20 mm バルカン機関砲部分を11連装のRAMランチャーに取り替えた完結システムで最大射程は15 km、多くの米空母、強襲揚陸艦などに搭載されている。

艦橋

図5:(Wikipedia) 「いずも」型はSM-2などの対空ミサイルを持たないため、多機能レーダーは「ひゅうが」型のFCS-3(国産)を簡略化した「OPS-50」を装備している。このアンテナはAESA方式のCバンド捜索用で四面に搭載する。「かが」には背後から整備可能な改良型「OPS-50A」が搭載されている。

航空管制室

図6:(YouTube/AGCハッチ) 後部艦橋の張出し部は「航空管制室」。艦橋前部の台座には「RIM-116 SeaRAM」近接防空システムが搭載されている。

 

F-35B STOVL戦闘機の取得

「いずも」と「かが」に搭載する「F-35B」戦闘機は、2020年度予算で793億円を計上、2024年(令和6年)度に6機を取得、続いて2021年度予算で2機分259億円を計上、2025年(令和7年)に廃部する予定。これで「F-35B」の最初の飛行隊を宮崎県新田原基地に新設する。新田原基地は馬毛島に新設する訓練施設に近く、ここを使って離着陸訓練をすることを考えている。

防衛省では、空軍用モデル「F-35A」を105機、海兵隊用モデル「F-35B」を42機導入する計画である。

F-35系列機については「TokyoExpress 2018-09-18改訂 “F-35戦闘機の開発完了と経緯 ―18年の歳月と3兆7,000億円を投入― “」にあるので参照されたい。

「F-35B」の要点を以下に述べる。

令和2年度版防衛白書に「F-35B戦闘機の取得」の理由として次の記述がある;―

「我が国周辺では第5世代戦闘機の配備が急速に進んでいる。我が国防衛には航空優勢を確保するためF-35など新型戦闘機の運用が必要。現在自衛隊が使用できる2,500 m級滑走路のある飛行場は全国に20箇所あるが、太平洋上には硫黄島のみで展開基盤が乏しい。これを補うには短距離離陸・垂直着陸ができる「STOVL」戦闘機が必要。これは数百mの滑走で離陸でき、自衛隊保有の飛行場45箇所で運用できる。このため2019年に、「F-35A」と同様な高い能力を備えた「F-35B」STOVL戦闘機の導入を決めた。現中期防の期間(令和元年―5年度)に18機導入する予定。併せて「いずも」型護衛艦にF-35Bの運用可能な改修を実施する。」

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図7:(Wikipedia) 原図に説明を加えた図。垂直着陸時にはリフトファンと推力偏向ノズルの推力で降下速度を制御し、ロール・ポストからのコンプレッサー抽気による推力で左右の傾きを修正しながら着陸する。

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図8:(Youtube USA Military Channel)赤色は垂直になったエンジン推力偏向ノズルからの排気、青色はリフトファンからの排気で両者の推力はほぼ同じ。オレンジ色はコンプレッサー抽気/ロール・ポストならの推力を示す。着艦時はこの状態。発艦時は赤色・推力偏向ノズルが垂直でなく斜め後方にセットされる。

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図9:US Marine) 着艦体制に入った「F-35B」、コクピット背後の「リフトファン吸気ドア」が開き、その後ろの「エンジン吸気用補助ドア」も開く。同時に推力偏向ノズルは90度下向きになる。

発艦時

図10:(Youtube USA Military Channel) 米海軍強襲揚陸艦「アメリカ LHA-6」・46,000 tonから発艦する「F-35B」。発艦時は推力偏向ノズルを斜め後方に向け、リフトファン推力を使い浮揚する。飛行甲板長さは257 mで 「いずも」245 mより僅か長い。

F-35Bスペック 

図11:(Lockheed Martin Spec) 「F-35B」STOVL戦闘機のスペック。最大離陸重量27 ton、機内ウエポンベイに6.8 tonのミサイル、爆弾を搭載できる。

 

終わりに

「いずも DDH-138」級護衛艦は2015年に「いずも」、2017年に「かが」が就役した空母型の大型艦である。航空機運用、対潜戦の中枢艦である。しかし水上戦闘能力は抑えられ、兵装は近接対空火器のみ、対潜ソナーシステムは機雷探知と魚雷探知用のOQQ-23だけ。従って運用はイージス艦やフリゲートを伴い行動することになる。「いずも」には今年6月に「F-35B」離発着機能が付与された。本格空母化への改修は「いずも」は2025年3月から、「かが」は2027年3月から始まる。完了すれば「F-35B」を10数機搭載する空母が2隻誕生し、我が国太平洋岸の護りが一段と強化される。期待したい。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

防衛省 2021-07-17 “防衛大臣記者会見”

防衛省 “令和3年防衛白書、第4章 防衛力整備など・第1節 令和3年度の防衛力整備”

夕刊フジZakZak 2021.7.2 “海自最大の護衛艦「いずも」中国の脅威に備え「空母化」1回目の改修が終了” by菊池雅之

Yahoo News 2020-10-01 “いずも型護衛艦の「空母化」で看守を四角形にする意味“ by JSF

乗り物ニュース2020-10-09 “海自いずも型護衛艦「艦首改造」に予算。。。どういうこと? F-35B運用に向け大改造開始!”by 竹内 修

TokyoExpress 2018-09-18改訂 “F-35戦闘機の開発完了と経緯 ―18年の歳月と3兆7,000億円を投入― “

令和2年版防衛白書「解説/F-35B戦闘機の取得」