CFM、次世代機向けに革新的な “オープン・ファン”エンジン構想を発表


2021-07-27 (令和3年) 松尾芳郎

図1:(CFM International) 米国GEとフランスのサフラン(Safran)の合弁企業CFM Internationalが発表した ”オープン・ファン“ エンジンの完成予想図。プロペラと同じように回転・大量の空気を後方に送り推力を出すオープン・ファン1段とファン空気流を整流する可変ピッチ・ステーター1段で構成する。

CFM Internationalの折半出資企業「GEエビエーション(GE Aviation)」とフランスの「サフラン(Safran)」は、野心的な技術を投入し燃費を大幅に改善した「オープン・ファン」(ダクトなし)の次世代型エンジンを開発し2035年中頃に完成、就航させたいと発表した。

(CFM International joint venture partners GE Aviation and Safran of France have launched an aggressive technology development program to pave the way for a new generation of fuel efficient unducted /open fan engines to enter service around mid-2030s.)

「オープン・ファン(open fan)」は「オープン・ローター(open rotor)」とも呼ばれ、ファン・ダクトを廃止/「アンダクテッド(Unducted)」化してファン直径を大きくバイパス比を増やし、ファン圧力比を下げて燃費を大きく改善しようと言うアイデア。この新型エンジンは、CFMが公表した「RISE=Revolutionary Innovation for Sustainable Engines」計画、つまり「環境に優しいエンジン用の革新的技術計画 」に沿ったエンジンと位置付けている。

新エンジンは狭胴型機用で、現用エンジンに比べ燃費とCO2排出を20 %改善するのが目標。これは国際的に合意された「2050年までにCO2エミッションを半減する」と云う目標に沿った指標である。「オープン・ファン」プログラムは、1980年代から研究を続けてきた「アンダクテッド・ファン」技術を継承するもので、現在の同社の主力CFM Leap-1エンジンの後継となる。

CFM Leap-1は、それ以前のCFM 56エンジンの燃費とCO2エミッションを15 %削減することで2010年代後半に導入された。

小型機用エンジンの分野では電動ファンやハイブリッド電動エンジンの研究に焦点が当てられているが、大型機(狭胴型機を含む)用としては「オープン・ファン」を含むガスタービンの性能改善が続いている。

「RISE」計画発足に際し、CFMの出資会社GEとサフランは、50-50共同出資体制を2050年まで継続すると発表した。CFMはCFM56エンジンの開発のため1974年に設立され、2008年になるとCFM Leapエンジン開発のため共同出資を2030年まで伸ばすことを決めていた。

GEエビエーションの社長兼CEO ジョン・スラッタリー(John Slattery)氏は;―

「「RISE」技術の実証プログラムを通じて、次世代狭胴型機の燃料効率の改善とエミッションの大幅低減を達成し、航空輸送が環境に優しい姿に変わることを心から願っている。」と述べている。

サフランCEOオリビエール・アンドレ(Olivier Andries)氏の発言;―

「航空エンジン業界は、環境問題対応でこれまでにない困難な事態に直面している。総力を結集して環境改善に取り組まねばならない。CFM共同企業を2050年まで延伸することが決まり、緊急を要する気候変動の改善に向けて、我々が業界を牽引していきたい。」

既述の通り「RISE」計画は環境に優しい「オープン・ファン」エンジンの開発だが、これにはSAFと呼ぶ“環境に優しい燃料(sustainable aviation fuel)”や液体水素燃料を使用する新しい燃焼室の開発・試験が最大のポイントになる。また「オープン・ファン」を駆動する「ハイブリッド電動装置(hybrid-electric operation)」の開発も重要だ。

GEエビエーションの先端技術部門部長アージャン・ヘーゲマン(Arjan Hegeman)氏は「オープン・ファンは、ファンを取り囲むカウル部分が無いのでずっと軽くできる。これで空気抵抗も減り推進効率を著しく高くできる、これ以上の方法はない。」とその利点を強調している。

「RISE」計画は、GEとサフランが2009-2012年に取組んだ「アン・ダクテッド・ファン(UDF=unducted fan engine)」開発から生まれた計画と言える。「アン・ダクテッド・ファン / UDF」エンジンは、米国ではNASA、FAAの支援を受けて試作エンジンの試運転が行われた。ファン・ブレードにはGEの試作エンジンGE36 UDF のファン・ブレードの改良型を使用した。同時期には同じ形式のエンジン「Pratt & Whitney/Allison 578DX」が作られ、MD-80で飛行試験が行われた。両プロジェクト共1989年末までに当時の石油価格下落で燃費節減の必要性が薄れ開発中止となった。

GE・サフランの試作エンジンGE36改良型はFAAの「CLEEN」プログラム(後述)に基づき風洞試験が行われた。その結果、ノイズで規制値(Chapter 4)より15 EPNdB以上良く、燃費では狭胴型機用のCFM56-7Bエンジンより26 %改善されることが分かった。

続いてサフランは、 EU当局の「クリーン・スカイ航空研究プログラム」の中にある「SAGE 2 (sustainable and Green engine)/環境に優しいエンジン計画」に基ずき、「二重反転オープン・ローター計画(CROR=counter-rotating open rotor)」の研究を2億4000万ドルで受託実施、2017年に研究を完了した。続いてサフランとGEのイタリアの子会社Avio Aeroは、EU当局に対しこの研究のさらなる継続を2027年完結を目標に提案している。

こうしたことから「RISE」計画には、今後米国およびEUの関係当局からの支援が得られることは間違いなさそうだ。

図2:(GE, NASA) 1985年に地上試運転が行われた GE36 UDF。GE36はGE主導でスネクマが35 %参加して開発、しかし1989年にキャンセルされた。軍用エンジンGE F404をコアにし、排気ガスで7段低圧タービンを回し、直接駆動・二重反転ファンのプッシャー方式。ファンは10枚+8枚、直径は3.35 m。バイパス比35:1、推力は25,000 lbs。マクダネル・ダグラスMD-80に取付け1987年から翌年にかけて合計281時間もの試験飛行を行った。ファン・ブレードは炭素繊維複合材製で英国のダウテイ・ロートル社が製造した。

FAA 「CLEEN」プログラム

米国FAAは、航空エンジンの将来目標として「CLEEN II研究プログラム」を掲げている。「CLEEN II」とは「Continuous Lower Energy, Emissions, and Noise, the second phase」に略で、「燃料消費、排気エミッション、ノイズの低減化追求-第二段階」と云う意味。FAAは「CLEEN II」に基ずき、民間機は2026年までに、燃料消費率を40 %、離着陸時に排出するNOxを70 %、ノイズレベルを32 dB、それぞれカットする技術を確立し、さらに「環境に優しい燃料(sustainable aviation fuel)」の使用を開始することを目標にしている。基本となる「CLEEN」は2010年に作られ、2015年に「CLEEN II」に改定された。

「CLEEN II」には、GE、PWA、Aurora Flight Sciences、ボーイング、デルタ航空、ハニウエル、英国からロールス・ロイスなどが参加、FAAと研究契約を結んでいる。

「RISE」の姿

「SAGE 2」プログラムでは、エンジン・システム全体の統合と推進効率に重点が置かれ開発が進められてきた。しかし「RISE」オープン・ファンでは、新しい熱効率の良いコンパクトなコアエンジンを開発し、低エミッションの燃焼室、それにファンを駆動するハイブリッド形式のモーター・ジェネレーター、を開発することが必要になる。

また「RISE」は、二重反転ファンをエンジン後方に取付ける“プッシャー方式”のCROR、GE36、PW 578-DXなどと異なり、エンジン前部に1段ファンを取付ける “プラー(puller)方式”となる。“プラー方式”では、エンジンを飛行試験機に取付けるのに機体側に大きな改修をする必要がなく比較的簡単に行える。

「RISE」エンジンでは、1段ファンの後ろに回転しない固定式の可変ピッチ・ベーン・1段を取付けファン後流の乱れを整流をする。これでファンの圧力比が高くなるが同時にローターに加わる荷重が低減する。この結果航空機の飛行速度/マッハ数を上げることができる。エンジン全体は、コンパクトなコア、高速回転のコンプレッサー、それにフロント・ギアボックス経由で駆動軸を回す高速回転の低圧コンプレッサーで構成される。

サフランの「RISE」プログラム担当責任者Delphine Dijoud氏は、「回転するのはファン1段、その後ろにはガイドベーンが付く。この2段は可変ピッチにするのでリバーサー(逆噴射装置)の役目もする。二重反転ファンでは複雑な反転機構が必要だったが、これがなくなり軽量化と重量節減が同時にできる。」と言っている。

「アン・ダクテッド・ファン(UDF)」では、機体との取付けに関わる整合性とファンから発生するノイズの2点が問題点だったが、「RISEオープン・ファン」では2点共に解決の見通しが付いている。すなわち、この20年間の技術の進歩でノイズを低減する最適解が得られるようになってきた。それから同じ推力を出すのに1980年代では直径16 ft (4.88 m) のファンが必要だったが、今ではずっと小型の12-13 ft (3.66-3.97 m)径で対応できるようになっている。これは現在の狭胴型機のエンジン・ナセル外径と大差なく、比較的容易に装着できる。そして最新の騒音低減技術と相まって、2桁のノイズ・レベル改善が可能になる。

CFM Internationalとは

CFM Internationalは前述の通りGE エビエーションとサフラン(Safran Aircraft Engine / 以前のスネクマ)の合弁会社で、CFM56エンジンの開発、生産のため1974年に設立された。GEとサフランはそれぞれの最終組立工場でエンジンを生産している。そしてGEは高圧コンプレッサー、燃焼室、高圧タービン、を担当/製造。サフランはファン、ギアボックス、排気ダクト、低圧タービンを製造している。GE、サフランで組立てたエンジンは、CFM International経由で顧客に納入される仕組み。

  • CFM 56エンジン

1974年に最初の試運転に成功したが1979年まで受注は皆無、しかし空軍からボーイングKC-135タンカー約400機のエンジンを換装する計画で注文を獲得し1982年から生産が軌道に乗った。その後エアバスA320系列機、ボーイング737クラシック、同NG、などに採用され、これまでに33,000台ほどが作られた。A320ファミリー用にはCFM56-5B/推力30,000-32,000 lbs、ボーイング737 NG用にはCFM56-7B/推力20,600-27,300 lbsがそれぞれ使われている。ファン・バイパス比は -5Bが5.4-6.0:1、 -7Bが5.1-5.5:1となっている。需要は次第に次世代のCFM Leapに移りつつあるが、受注残はまだ1万台ほどもある。

図3:(CFM International) CFM56エンジン

  • CFM Leap エンジン

ボーイング737 MAX用として独占供給に成功、エアバスA320neoではPW 1100GとCFM Leapのいずれかを選択できるがCFM Leapが約60 %を獲得中。これまでに約4,500台を納入済み、さらに受注残9,000台を抱えている。

CFM Leapは、サフラン製のGEnxエンジン用低圧タービンを小型化して使っている。ファンはオートクレーブで焼成する複合材製でバイパス比は10-11:1。タービン・シュラウドには耐熱性に優れたセラミック・マトリックス・コンポジット(CMC)複合材を採用。これら新技術で燃費をCFM56対比で15 %改善している。ボーイング737 MAX用にはCFM Leap-1B/推力23,000-28,000 lbs、エアバスA320neo用にはCFM Leap-1A/推力24,500-35,000 lbsが使われる。さらに中国のCOMAC C919用としてCFM Leap-1Cがある。

図4:(CFM International) CFM Leap エンジン。ファン・ブレードは炭素繊維複合材製で回転速度が上がると捻りが戻る可撓性ブレード(flexible blade)設計。

現在のエンジンは、ファン・ブレードの破断に備え外周をケースで囲み、さらにその外側をナセル/カウルで覆いブレードの飛散を抑える構造にしている。これまで数件のブレードあるいはファン・デイスクの破損事故があったが、いずれもファンやデイスクの金属疲労が原因だった。ボーイング777-300ERおよび787のエンジンであるGE-90およびGEnxでは炭素繊維複合材製のファン・ブレードを使っており、これまで1億4千万時間以上の飛行時間で破損したことは無く、安全性が証明されている。

終わりに

CFMが提案するオープン・ファンは2030年台半ばとなっており、これはエアバスがCFM Leapを装備するA320neoの後継機として「ゼロ・エミッション中型機」を開発・就航させたいとする時期と一致する。

一方ボーイングは2度の墜落事故で長期間の飛行停止となった737 MAXは、エアバスに差をつけられ長距離型A321neoに対抗できる系列機の開発を見送らざるを得なくなった。市場シェア回復のためボーイングは2030年代ではなく2020年台半ばに新型機の開発を決めようとしている。しかし開発には巨額の資金が必要な上A321neo より燃費で15 %改善が必要なので達成は容易ではない。このタイミングではCFM 「RISE」エンジンは未完成で、CFM LeapやPW1100Gの改良型に頼ることになる。

どうなることか、動向に注目したい。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

・Seattle Times June 15, 2021 “GE and Safran tout new Open Rotor engine future for sustainable aviation” by Dominic Gates

・Aviation Week “Evolutionary trail of the Open-Fan engine” by Guy Norris

・Aviation Week June 28-July 11, 2021 “CFM unveil ‘Open Fan’ Demonstrator plan for next-Gen Engine” by Guy Norris

・Aviation Week June 25, 2021 “CFM details Open-Fan plan for Next-Gen engine” by Guy Norris, Theiery Dubois

・GE aviation June 14, 2021 “The Future of Flight: Engine-maker unveils New Technology development Program to cut CO2 emission by 20 %” by Tomas Kellner

・AirInsight Group June 14, 2021 “CFM omits to Open Rotor with RISE program” by Richard Schuurman

・FAA “Continuous Lower Energy, Emission, and Noise (CLEEN) Program”

・TokyoExpress 2014-06-10 “次世代エンジンCFM Leap-1用ファンブレードの量産始まる“

・TokyouExpress 2015-04-22 “ CFM Leap-1Bエンジンの燃費性能(SFC)が予定に達せず“

・TokyoExpress 2020-09-27 “エアバス、水素燃料旅客機3機種の構想を発表―2035年実現を目指す“