ロシア、北海道周辺で軍事力を強化・北海道侵攻を狙う



2022-03-22(令和4年) 松尾芳郎

2022-03-23 改定(図21説明の誤字を訂正)

防衛省統合幕僚監部発表(令和4年3月11日)によると、3月10日午前2時、北海道襟裳岬の東北東180 kmの海域を南西に進むロシア艦隊10隻を発見した。この艦隊は津軽海峡を通過日本海に向け立ち去った。これらは2月から日本海およびオホーツク海南部で演習を続けていた艦艇と同一である。
これに関しロシア海軍情報供給部(2022-03-14)は、ロシア海軍太平洋艦隊支隊はオホーツク海での一連の演習を終え、津軽海峡を通過してウラジオストクに帰還した、と報じた。
オホーツク海での演習は1月末から始まり、海上及び空中の目標にミサイルおよび艦砲射撃を行い、浮遊機雷を破壊し、対潜水艦演習を実施したのち、津軽海峡(ロシアはサンガルスキー海峡と呼ぶ)を通過ウラジオストク軍港に戻った。

図1:(統合幕僚監部)3月10日ロシア海軍10隻の津軽海峡通過と、3月14日ロシア海軍6隻の宗谷海峡通過経路を示す図。併せて後述するロシア海軍超音速地対艦ミサイル「バスチオン」配備地点4箇所を赤丸で示す。

太平洋艦隊は2月初めから、旗艦のロケット巡洋艦「ワリヤーグ」、大型対潜艦「アドミラル・トリツプ」、大型給油艦「ポリス・ブトマ」の3隻を、ウクライナ侵攻支援のため地中海東部に派遣している。
3月10日に津軽海峡を通過した10隻とは;―
ウダロイI級駆逐艦/548:大型対潜艦「アドミラル・パンテレーエフ」
ステレグシチー級フリゲート/333:コルベット「ソベルシェンヌイ」
ステレグシチー級フリゲート/335:コルベット「グロムキー」
ステレグシチー級フリゲート/339:コルベット「アルダル・ツイゼンジャポフ」
ステレグシチーII級フリゲート/337:コルベット「グレミヤシチー」
グリシャV級小型フリゲート/323:小型対潜艦「メチェーリ」
グリシャV級小型フリゲート/390:小型対潜艦「コレーエツ」
アルタイ改級補給艦:中型海洋給油艦「イジョラ」
イゴリ・ベロウソフ級潜水艦救難艦:救難艦「イゴリ・ベロウソフ」
ソルム級航洋曳船/MB-99
3月14日には、ズボズドチカ級兵器輸送艦1隻が津軽海峡を通過、日本海に入った。
以下にこれらの写真を示す。撮影したのは海自八戸基地第2航空群哨戒機「P-3C」で鮮明に写っている。

図2:(統合幕僚監部)ウダロイI級駆逐艦/548:大型対潜艦「アドミラル・パンテレーエフ」

図3:(統合幕僚監部)ステレグシチー級フリゲート/333:コルベット「ソベルシェンヌイ」

図4:(統合幕僚監部)ステレグシチー級フリゲート/335:コルベット「グロムキー」

図5:(統合幕僚監部)ステレグシチーII級フリゲート/337:コルベット「グレミヤシチー」

図6:(統合幕僚監部)ステレグシチー級フリゲート/339:コルベット「アルダル・ツイゼンジャポフ」

図7:(統合幕僚監部)グリシャV級小型フリゲート/323:小型対潜艦「メチェーリ」

図8:(統合幕僚監部)グリシャV級小型フリゲート/390:小型対潜艦「コレーエツ」

図9:(統合幕僚監部)アルタイ改級補給艦:中型海洋給油艦「イジョラ」

図10:(統合幕僚監部)イゴリ・ベロウソフ級潜水艦救難艦:救難艦「イゴリ・ベロウソフ」

図11:(統合幕僚監部)ソルム級航洋曳船

図12:(統合幕僚監部)3月14日青森県尻屋岬沖合から津軽海峡を通過、日本海に向け航行したロシア海軍ズボズドチカ級兵器輸送艦。発見・追尾したのは函館分屯地海自第45掃海隊所属の「いずしま」。

ロシア太平洋艦隊は今回の10隻を含み20隻以上の艦艇で構成している。同艦隊は、2022年1月末から始まったロシア海軍の4艦隊(北方、太平洋、黒海、バルト海)同時演習の一環として、日本海・オホーツク海で演習を行った。以下に演習の詳細を時系列で記す。
日本海で演習した後、宗谷海峡(ロシアはラベルザ海峡と呼ぶ)を通過、オホーツク海に進出、そこでロシア運輸省所属の砕氷船「カピタン・フレブ二コフ」の先導でオホーツク海の氷海に入った。
・ 2月10日、中型海洋給油艦「イジョラ」から洋上給油を受けた。
・ 2月11日、艦隊はオホーツク海で水上標的に砲弾射撃訓練を行なった。
・2月12日、カムチャツカ半島エリゾボ飛行場に駐留する太平洋艦隊所属海上航空隊の対潜哨戒機IL-38とIl-38Nが、カムチャツカ半島沖のアバチンスキー湾で機雷敷設訓練を行なった。
・2月12日、艦隊が展開していた千島列島ウルップ(得撫)島周辺海域で対潜演習を行なった。この際対潜哨戒機IL-38は、領海内に入ったアメリカ海軍バージニア級原子力潜水艦を発見、警告を発した。しかし退去しなかったのでフリゲート「マルシャル・シャーポシ二コフ/543」が警告射撃を行い退去させた。
・ 2月14日から16日、艦隊は千島列島沿の海域で対水上砲撃訓練を行った。
・ 2月17日、ステレグシチー級フリゲート「グロムキー」と同「アルダル・ツイゼンジャポフ」は、オホーツク海上で対空戦闘訓練を行い、小型ロケット艦「イネイ/418」が発射した対艦ミサイル「マラヒート」を、対空ミサイル「リドート」と100 mm砲で射撃・撃墜した。
その後、フリゲート2隻は短距離対空ミサイル「キンジャール」を海上標的に発射した。
・2月下旬オホーツク海、北海道の天候が悪化したため、艦隊は演習を中断、ペトロパブロフスク・カムチャキー港に避難した。
・ 2月24日、天候回復で出港、アバチンスキー湾で機雷掃討訓練とヘリコプターを使って捜索救難を行った。
・2月25日、ステレグシチー級フリゲート4隻は。ペトロパブロフスク・カムチャキー港の基地防空演習を行なった。
・ 3月1日、物資補給を済ませた艦隊は同港を出港、翌日はカムチャツカ半島沖/千島列島周辺で艦砲射撃訓練を行なった。またこの際フリゲート「マルシャル・シャーポシ二コフ/543」の艦載ヘリコプターが直接潜水艦に通信文を届ける訓練を行なった。これが北海道根室半島近くで日本領空を侵犯した件である。統合幕僚監部(3月2日)によると、空自戦闘機が緊急発進し警告したが、警告射撃はしていない。
・3月3日、フリゲート「マルシャル・シャーポシ二コフ/543」はオホーツク海で対空防空演習を実施した。
・3月4日、カムチャツカ半島エリゾボ基地に駐留する対潜哨戒機IL-38とIl-38Nは艦隊と合同でオホーツク海で対潜戦闘訓練を実施した。その後、演習を終えた艦隊は津軽海峡を通過してウラジオストクに帰還した。
・本件に関し防衛省が「ロシアが活動を活発化しているとして、津軽海峡通過の目的を分析中」と報じたことについてロシア海軍情報供給部は「分析」するまでもなく分かる事、と嘲笑している。


3月17日ロシア海軍情報供給部は「太平洋艦隊所属の海軍歩兵部隊をウクライナに派遣」として次のように報じた。
「3月15日に太平洋艦隊所属の揚陸艦4隻が太平洋から津軽海峡を経て日本海に入った。この4隻はいずれも3月9日に日本海から津軽海峡を経由、太平洋に進出、オホーツク海で射撃演習に参加した艦。」で、いずれも4,000 ton級。
アリゲーターIV級戦車揚陸艦(081) ;大型揚陸艦「ニコライ・ビルコフ」
ロプチャーI級戦車揚陸艦(066) :大型揚陸艦「オスラービヤ」
ロプチャーI級戦車揚陸艦(055) :大型揚陸艦「アドミラル・ネベリスコイ」
ロプチャーII級戦車揚陸艦(077) :大型揚陸艦「ペレスベート」
防衛省統合幕僚監部(3月16)によると、アリゲーターIV級戦車揚陸艦には多数の車両を積載いるのを確認、ウクライナへの増援部隊を輸送しているものと、判断している。
ウクライナ軍参謀本部(3月13日)は「ロシアはカムチャツカ半島駐留の第40独立海軍歩兵旅団から1,500名規模の兵員を抽出、ウクライナ戦線に送る」と報じている。
米国防総省は「ロシアは、地上部隊の75 %をウクライナに投入中で余力が少なくなり、極東から地上軍を輸送している」と報じている。(日経3月18日)
3月16日の米紙によると、米情報機関は「ロシア軍の戦死者は7千人以上、負傷者は1万4千人に達したと推定」と発表している。
これらから今回の戦車揚陸艦4隻の津軽海峡通過は我国への示威ではない、と言える。

図13:(統合幕僚監部)アリゲーターIV級戦車揚陸艦(081) ;「ニコライ・ビルコフ」1974年就役、甲板には大型車両が満載されている。

図14:(統合幕僚監部)ロプチャーI級戦車揚陸艦(066) :「オスラービヤ」1981年就役。満載排水量4,000 ton、艦内の車両甲板に450 tonの戦車、装甲車量を積載、海岸に乗り上げ艦首の観音開きの扉を開き、車両を揚陸する。

図15:(統合幕僚監部)ロプチャーI級戦車揚陸艦(055) :「アドミラル・ネベリスコイ」1982年就役。

図16:(統合幕僚監部)ロプチャーII級戦車揚陸艦(077) :「ペレスベート」1991年就役。

3月17日、インターファックス極東通信は、太平洋艦隊の第175独立艦上対潜ヘリコプター飛行隊所属のヘリコプター飛行隊は、カムチャツカで揚陸部隊の降下訓練に取り組んだ」と報じた。降下訓練には「Ka-29」戦闘輸送ヘリコプターを主に、対潜ヘリKa-27PL、捜索救難ヘリKa-27PSが参加した。

図17:(ロシア海軍情報供給部)Ka-29戦闘輸送ヘリコプター、1990年以降予備役になっていたが、2016年から修復され現役に復帰した。現在太平洋艦隊に12機が配備されている。乗員2名と兵員16名を輸送できる。

3月17日タス通信は太平洋艦隊のフリゲート「マルシャル・シャーポシ二コフ/543」が、沿海州ピョートル大帝湾で通常動力キロ級潜水艦「ワルシャワンガ」を仮想敵に見立てて対潜訓練を行なった。これに対潜ヘリコプターKa-27PLも参加した。

図18:(ロシア海軍情報供給部)フリゲート「マルシャル・シャーポシ二コフ/543」。日本海・オホーツク海での演習を終え、3月18日にウラジオストクに戻った。近代化改修後、艦対地巡航ミサイル「カリブル」搭載艦になっている。

ロシア海軍、超音速地対艦ミサイル「バスチオン」を各所に配備

「K-300P パスチオン-P」は、沿岸防備用の地対艦ミサイル・システムで、指揮・管制車両1両、ランチャー(TEL)4両、ミサイル運搬車4両などで編成されている。各ランチャーは「P-800」オーニクス・ミサイルを2発ずつ装填する。「P-800」ミサイルは固体燃料ブースターで垂直に上昇、ブースター分離後自身の固体燃料ロケットで超音速に加速、その後ラムジェットに切り替わりマッハ2.5で高度20,000 mを巡航、目標手前で降下、低空を飛びアクテイブ・ホーミング・レーダー誘導で着弾する。射程は450 kmと言われる。
「P-800」オーニクスは超音速対艦ミサイルでコンテナを含み、直径70 cm、長さ8.9 m、ミサイル重量3,900 kg。
地上配備型は図1に示すように、北海道近くのカムチャツカ半島のペトロパブロフスク・カムチャキー基地、沿海州のウラジオストク基地近くのスモリヤ二ノボ基地、千島列島の択捉島(2016年末)、および最後に昨年末に松輪島配備したことで、合計4箇所に配備が完了している。
択捉島に配備されたのは、第520独立沿岸ロケット砲旅団・第574独立沿岸ロケット砲大隊である。

図19:(ロシア国防省YouTube)2021-12-07に千島列島松輪島に配備された超音速地対艦ミサイル「K-300P」パスチオン-P超音速地対艦ミサイル・システムのランチャー(TEL)。

図20:(ロシア国防省YouTube)2021-12-2、ロプチャー級戦車揚陸艦(4,000 ton)から千島列島中部の松輪島に揚陸される「K-300Pパスチオン」地対艦ミサイル・システム。

3M22ジルコン(Zircon)極超音速対艦・対地ミサイル

2021年末タス通信は、対艦・対地攻撃用の極超音速ミサイル「3M22ジルコン」の量産が始まったと報じた。「ジルコン」は、スクラムジェットで飛翔する極超音速ミサイルでマッハ8-9で飛行し、射程1,000 km以上と言われている。
ロシア国防省は2021-10-04に、バレンツ海で潜水中の原子力潜水艦「セベロビンスク(Severovinsk/K-560)」から「ジルコン」の発射試験を行い、2回続けて試験に成功・正確に目標に着弾した、と発表した。
「ジルコン」は、有翼のミサイルで固体燃料ブースターで超音速に加速、切離し後スクラムジェット(改良型液体燃料)で極超音速で1,000 km以上離れた目標に向け飛行する。「ジルコン」は成層圏上層部28,000 mの薄い空気層を飛ぶので周囲にプラズマが発生しレーダーで捕捉し難い。これは迎撃側にとっては頭の痛い問題である。
「ジルコン」は汎用型の垂直発射装置「3S-14」型から発射できる。「3S-14」は「アドミラル・ゴルシコフ級フリゲート」/プロジェクト22350」5,400 ton級、および「改ステレグシチー・フリゲート/プロジェクト20385」2,200 ton、に装備されている。これら新型艦は「P-800」オーニクス」を対艦・対地用ミサイルとして搭載しているが、「ジルコン」の生産が進めばこれに替わる。
陸上配備の「K-300P パスチオン-P」システム/「P-800」オーニクス・ミサイル」の発射機も僅かの改修で「3S-14」に変更できるので、間も無く陸上にも「ジルコン」が配備される事になる。
これで北海道全域は、択捉島、松輪島のみならず沿海州のスモリヤ二ノボなどに配備の「パスチオン」システムの射程内に入る。

図21:(Naval News) 「3M22 ジルコン」極超音速ミサイル。図右の色の濃い部分はブースター、左半分は弾頭を含む2段目、スクラムジェットで極超音速飛行する。

図22:(ロシア海軍報道情報管理部)汎用ミサイル発射機「3S-14UKSK」。これまで別々の垂直発射機が必要だった「クラブ系列」と「オーニクス系列」のミサイル同一の発射機から発射できるようにした。図は模型だが円筒が2個あり、そこに各種ミサイルの模型が示してある。プロジェクト22350フリゲート、改ステレグシチー・フリゲート/プロジェクト20385、に装備されている。

終わりに
数年前ロシアのプーチン大統領は「北海道のアイヌ人はロシアを構成する一部族だ、虐待されているので解放してやりたい。近いうちに時期を見て解放作戦を考える」と発言した事がある。
ウクライナで起きている事態と、直近の北海道周辺での大規模演習、長射程ミサイルの配備増強等を重ねあわせると、北海道侵攻が夢物語でなく現実味を帯びてくる。政府、防衛省による早急の対応が必要と考える。
国会では「基地攻撃能力保有の可否」を巡って議論が続くが、計画中の「12式地帯艦誘導弾(改)能力向上型」(TokyoExpress 2021-01-10「12式地対艦誘導弾…」参照)の開発を急ぐべき。北海道には第2師団(旭川)と第7師団(千歳)が配備されているが、オホーツク海沿岸はほぼ無防備、この増強も必要だ。さもないと北海道を奪われかねない。

―以上―