2023年パリ航空ショー、歴史的な大量発注で開幕


2023-06-25(令和5年) 松尾芳郎

図1:(Christina Mackenzie/Breaking Defense) 2023年パリ航空ショーでは157機が展示され、インドからの大量発注で活況に沸いた。日本からの航空機出展はゼロ。

第54回パリ航空ショーは、前回コロナの流行で中止された2021年のショーを引継ぎ、パリのル・ブレゲ空港(Paris Le Bourget Airport)で開催された。この航空ショーは1909年から隔年で開催されている。2017年のショーでは世界中から30万人以上が訪れ、1,226機の発注があり、それまでの記録を大きく更新した。

今年は初日(6月19日)にインドのLCCインデイゴ(IndiGo)が、エアバスA320neo系列機500機の発注を発表し、世界を驚かした。

(The world’s largest Paris Air Show, which alternates with Farnborough in Britain, is at Le Bourget for the first time in four years after the 2021 edition fell victim to the Corona pandemic. On the day one of the Airshow, Airbus announced a record-high 500 plane deal with Indian Airline IndiGo for attention.)

インデイゴと並ぶインドの航空会社エア・インデアは、エアバスとボーイングの機体を合計470機発注した。12億の人口を抱えるこの国が必要とする航空路網を完成するには大量の航空機が必要である。

インドの発注に支えられ今年のショーで、エアバス・ボーイングの新規受注は1,100機を超えた。以下に各社の発注状況を見てみよう。

ショーの1日目;―

第1日目はエアバスの受注が際立った。

図2:(Airbus/IndiGo) インデイゴのA320neo型機。

  • インデイゴ(IndiGo)

インドの低価格航空最大の企業インデイゴはすでにエアバスA320系列機を830機発注済みで、今回の500機を加えると合計で1,330機を運航することになる。

  • エア・インデア(Air India)

エア・インデア(Ari India)は、4ヶ月前にエアバスとボーイングに470機を発注すると発表、合計金額は700億ドル以上と見られていた。今回確定発注に切り替えたのは、エアバス機250機とボーイング機220機である。エアバス機の内訳は、狭胴型のエアバスA320neo型機140機、A321neo型機70機、そして広胴型のA350-1000型機34機、同A350-900型機6機。ボーイング機の内訳は、狭胴型の737MAX型機190機、広胴型の787型機20機、および777X型機10機。これに追加して737MAX型機50機と787型機20機をオプションとしてサインした。

図3:(Airbus)エア・インデアが発注したエアバス機の一群。

  • エア・モーリシャス(Air Mauritius)

モーリシャスの国営航空会社エア・モーリシャスは、航空ショー最初のエアバス発注会社で、A350を3機確定発注、これで同社のA350は7機となる。

  • フライナス(FlyNus)

フライナス(FlyNus)はサウジアラビア(Saudi Arabia) の低価格航空で、A320neo系列機を手に30機発注した。総額は37億ドルと推定される。これで同社はA320neo系列機を120機運航することになる。発注の内訳はA320XLR型機を10機、A320ceoを13機、A330-300を4機などとなっている。

  • カナダの航空機メーカー “デ・ハビランド(De Havilland)”が作るDHC-6ツイン・オッター(Twin Otter)機は60年前に初飛行した機体だが、今でも改良を続け生産している。今回の航空ショー初日に最新型のDHC-6 Twin-Otter Classic 300-G型機45機を受注した(顧客名は未公表)。同機はアビオニクスにガーミンG1000NXを採用、安全性の向上と、軽量化され搭載量の増加が図られた。

図4:(De Havilland Canada) ショーで45機の受注を獲得したDHC-6 Twin-Otter Classic 300G型機。

  • カタール航空(Qatar Airways)のエグゼクテイブ部門はVIP専用機として内装を豪華にしたガルフストリーム(Gulfstream) G700型機を10機発注した。
  • ゼロアビア (ZeroAvia)はハイドロジェン・エレクトリック(Hydrogen-Electric)動力の開発会社だが、アラスカ(Alaska)航空から乗客76人乗りデハビランドDash 8 Q400 型機の提供を受け、米国ワシントン州ペイン・フィールド(Paine Field, Washington)の同社施設で水素電動航空機に改造する作業に取り組んでいる。エンジンはゼロアビア製のZA2000エンジン、出力は、800 km飛行する場合2,000-5,000 KW。

ゼロアビアはアラスカ航空と50機を改修する契約を締結。これでアラスカ航空は無公害エアラインの一番手を目指している。

ゼロアビアは水素電動航空機開発のリーダー的企業で、2025年までに9-19席・航続距離460 km級の航空機、2027年までに40-80席・航続距離1,100 km級の航空機の開発を目標にしている。本拠は英国だが米国でも活動を続け、すでに3機の実証試験機飛行に関わる認定を受けている。

アラスカ航空は、Dash 8 Q400型機を2023年まで54機運用していたが、今年全機をリタイアし、100 %子会社のホライゾン・エア (Horizon Air)に譲渡、そこがワシントン州シアトルのシータック (SeaTac)空港を拠点にして地域航空運航に使用している。

図5:(Alaska Airlines by Joe Nicholson) ゼロアビアは、ペイン・フィールドのハンガーでアラスカ航空のDash 8 Q400型機を水素電動機に改修する作業を進めている。


図6:(Alaska Airlines, by Joe Nicholson) ペイン・フィールドで地上試験中のZA2000エンジン。プロペラおよびエンジン・マウントは現用ターボプロップ用 (P&WC製 PW150A/5,000 shp)をそのまま使用している

ショーの2日目;―

2日目はボーイングの受注状況が発表された。エアバスの受注も続く。

  • 台湾のチャイナ・エアライン(China Airlines)が、これまでオプション中のボーイング787-9のうち8機を確定発注に切り替え、発注済みの787の6機を大型の787-10に変更した。同社の787発注機数は合計で24機となる。これで旧式のA330-300の退役が促進され、同社の広胴型機は、エアバスA350が14機、ボーイング777-300ERが10機、これに787系列機24機が加わり一新される。

図7:(China Airlines)チャイナ・エアラインズは787-8型機8機を確定発注に切り替えた。

  • アルジェリアのエア・アルジェリ(Air Algerie)はボーイング737 MAX 9を8機と貨物機改造型の737BCF (Boeing Converted Freighter)を2機発注した。同社は現在737-800を主に737系列機31機を保有、これに737 MAX9が加わり長距離ヨーロッパ路線が拡充される。
  • アイルランドのリース企業アボロン(Avolon) が737 MAX 8型機を40機発注した。これは今回のボーイング機最大の新規発注となる。アボロンは世界各地の顧客およそ40社にリースしている業界の大手。今回の発注機のリース先は未公表だがインドのアカサ・エア(Akasa Air)が有力視されている。
  • アフリカ・アンゴラの代表エアラインTAAGは、昨年のファンボロー航空ショーでエアバスA220型機を6機発注して2025年から受領する予定だが、今年はそれに続きA220を7機リースすると発表した。
  • フィリピン航空(Philippine Airlines)はエアバスA350-1000型機9機を確定発注した。これで同社の長距離路線機は、現在のA350-900型機2機、A330-300型機10機、およびボーイング777-300ER型機9機から、大幅に強化される。
  • フランスのATR は最新型のATR 72-600型ターボプロップ機29機を確定受注した。内6機は台湾のマンダリン・エアライン(Mandarin Airlines)、3機はアズール航空(Azul Linhas Aereas)、11機は未公表企業から受注した。変わっているのはベルジャヤ・エア(Berjaya Ari)から受注の2機は全席ビジネスクラス席仕様。ATRは小型のATR 42-600型機3機を未公表の顧客から受注した。

図8:(ATR) ベルジャヤ・エア(Berjaya Ari)から受注した全席ビジネスクラスの客室の様子。

  • ブラジルのエンブラエル( Embraer)社は、今回のショーで32機の受注に成功。内訳は、フロリダのリース会社アゾーラ(Asorra)からE195-E2型機を15機、ビンター・キャナリアス(Binter Canarias)から6機、大手のアメリカン航空(American Airlines)から子会社でリージョナル・キャリヤーのエンボイ・エア(Envoy Air)向けにE175型機7機を受注した。

図9:(Embraer) エンブラエルは今回のショーで32機の受注に成功。写真はE195-E2型機。

  • ノルウエーのワイダリー(Wideroe)の子会社でリージョナル航空のワイダリー・ゼロ(Wideroe Zero)は電動式垂直離発着機EVE eVTOLを50機購入の覚書を交付した。
  • 全電動航空機メーカーのエビエーション(Eviation)は、マイアミのエアロリース(Aerolease)からアリス(Alice)型機50機の購入契約を受け締結した。Aliceは乗員2名、乗客9名の小型コミューター機。同機はこれまでに、ケープエア(Cape Air)から75 機、ドイチェポスト(Deutsche Post)から12機、グローバルX(GlobalX Airlines)から50機、メキシコのアエラス(Aerus)から30機を受注している。引き渡し開始は2027年の予定。

図10:(Eviation) 全電動旅客機アリス/Aliceは、航続距離250 n.m. (460 km)、速度260 kts (480 km/hr)、搭載量2,500 lbs (1.12 ton)の貨客両用機、コクピットは先進デジタル装備でFAR23クラスの航空機では最初のフライ・バイ・ワイヤ操縦系統を備える。エンジンは NASAが採用、FAA承認済みのMAGNI650電動推進装置・出力700 KWを2基装備。極めて静粛、整備の費用もかからない。最大離陸重量18,400 lbs (8.3 ton)。

  • カンタス航空はエアバスA220型機9機を発注した。これで同社のA220は昨年発注した20機から29機になり、旧型のボーイング717型機を更新することになる。

ショーの3日目;―

3日目もボーイング、エアバスの受注が続き、エンブラエルも受注を伸ばした。

  • インドのアカサ・エア(Akasa Air) はボーイング737 MAXを72機発注済みだが、今回4機を追加し、合計76機とした。内訳は737 MAX 8型機が23機、席数を増やした737 MAX 8 200型機が53機となる。同社は今年秋にさらに大量発注を目論んでいる。

図11:(Boeing)インドのLCCアカサ・エアのボーイング737 MAX。

  • ヨーロッパの新興企業ルクセンブルグのルクスエア (Luxair)は、小型のボーイング737 MAX 7型機を4機を発注した。ルクスエアは今年初め737 MAX 8を4機発注す済みなのでその追加となる。なお、737 MAX 7はFAA型式証明をまだ取得していないがボーイングは今年末までに取得すると言っている。

図12:( Boeing)ルクスエアの737MAX、手前がMAX 8、奥がMAX 7.

  • アイルランドのリース大手 “アボロン(Avolon)”はエアバスA330-900型機20機を購入する覚書 (MOU=memorandum of understanding) をエアバスと交付した。同社は前日にボーイングから737 MAXを40機購入すると発表したばかり。アボロンはすでにA330-900型機を25機保有、また旧型のA330ceo型機を51機運用している。エアショーの1日目には、オーマンの航空会社サラムエア (SalamAir) とA330neosを3機リースする契約を結んだ。
  • ブラジルのメーカー“エンブラエル(Embraer)” は中国北西部の甘粛省蘭州市にある蘭州航空工業開発 社(Lanzhou Aviation Industry Development Group) とエンブラエルE-190およびE-195旅客機合計20機を貨物機に改造する了解覚書 (LOA=Letter of Agreement) を締結した。初めの数機はブラジルで貨物機改修を行い、他は蘭州で実施する予定。エンブラエルでは今後20年間で700機のE-Jet貨物機の需要があると予想、そのうち140機は中国市場と見ている。すでに2022年5月にノルデイック・エビエーション・キャピタル(Nordic Aviation Capital)からE190およびE195合わせて10機の貨物機改修を受注している。

E-Jet貨物機はP2Fとも呼ばれ、2024年末までにブラジルと米国の型式証明を取得、直ぐに供用開始する見込み。最大貨物搭載量は、E190Fが13トン、E-195Fが14.3トン。胴体左前部に大型のカーゴドアを新設する。

図13:(Embraeal) エンブラエルE-Jetの貨物機改修型機 P2Fの完成想像図。左がE195F、右がE190F。

  • フランスのスタートアップ、オーラ・エアロ(Aura Aero) はアフリカ・ガボンのアフリジェット (Afrijet)から電動航空機EAR型機発注のMOUを受領した。オーラ・エアロは電動リージョナル旅客機をアフリジェットに供給する。同機は乗客19名、または1.9トンの貨物を輸送可能で輸送距離は1,600 kmになる。

図14:(Aura Aero)ツールース(Toulouse)のオーラ・エアロが開発中のハイブリッド・エレクトリック・リージョナル・エアクラフト (ERA=Electric Regional Aircraft)は、2026年に初飛行の予定。800-volt電力で8基の電動モーターを回す。電動システムはサフラン(Safran Electrical & Power)が供給する。操縦系統はフライ・バイ・ワイヤでオーラ・エアロが自身で開発する。

  • A350型機系列の貨物機、A350 F型機の外観が明らかになった。エアバスが2022年10月に公募したデザイン競技 (design competition)で当選した案、ジョーン・フィーハン (Johan Feehan)氏の作品がそれ。フィーハン氏はダブリンに住むグラフィック・デザイナー。これを中心に修正した案を決定した。プロの設計者から学生まで世界中から4,000通の応募あった。

図15:(Airbus)John Feeham氏の案とLversen兄弟の案を組合せたデザインに決定。A350旅客機の貨物機型で、最大搭載量は109 ton、航続距離は8,700 km、エンジンはロールス・ロイス製Trent XWB-97を2基搭載する。これまでに確定受注39機を獲得している。

  • サウジのリヤド・エア (Riyadh Air)は、今後導入するボーイング878-9型機のエンジンに、GE製のGEnx-1Bを採用することを決め、39機分として90台の購入契約をGEと取り交わした。
  • プラット&ホイットニー(P&W=Pratt & Whitney)は、中国香港に本社を置くリース会社チャイナ・エアクラフト・リーシング・グループ ( CALC=China Aircraft Leasing Group)から、同社発注済みのエアバスA320neo型機60機のエンジンにPW1100G-JMエンジンを選定する覚書(MOU)を受領した。CALCは2016年創業で中国の大手リースの一つ。

ユナイテッド航空は、2022年4月にエアバスA321neo型機70機および同XLR型機を50機発注しているが、それらのエンジンにP&W製PW1100G-JMを採用すると発表した。

図16:(Pratt & Whitney)エアバスA320neo系列機に搭載するPW1100G-JMエンジン。

ショーの4日目;―

大型機の新規発注はなく、低公害航空機に関するニュースが関心を集めた。

  • 米国のリージョナル・スタートアップ企業、カリフォルニア州ロサンジェルスのエア・カハナ(Air Cahana)は、ゼロ・アビア(ZeroAvia)にZA2000 ハイドロジェン・エレクトリック(hydrogen-electric)エンジン250台を発注した。このエンジンはゼロ・エミッションで2027年に完成、リージョナル旅客機デハビランドDash 8-Q400型機のゼロ・カーボン・エミッション改良型に搭載を予定している。ZA2000は水素を燃料とし2,000~5,000 KWの電力を発生させる完全無公害のエンジン。小型のZA600エンジンはドルニエ228型機に装着、世界初の無公害飛行を実施済み。

図17:(ZeroAvia)2019年創業の米国ロサンジェルスの新興企業エアカハナは、DHC Dash 8型機にゼロ・アビア製ZA 2000電動エンジンを搭載、無公害運航を予定する。運航はフライシェア(Flyshare)が担当する

  • フランスの地域航空リース会社のグリーン・エアロリース (Green Aerolease)はゼロ・アビア (ZeroAvia)からZA600ハイドロジェン・エレクトリック・エンジンの購入契約を結んだ。同社はフランスの地域航空フィニスター(Finistair)が使う予定のセスナ・キャラバン改修型機に搭載を目指している。

図18:(ZeroAvia) セスナ208型キャラバン (Cessna 208 Caravan)を基本に、エンジンを現在のPWC製PT6A-114からゼロ・アビア製ZA600に変更、翼下面に水素タンクを増設したグリーン・エアロリース機の想像図。セスナ208型機は乗客9名または貨物1,300 kgを搭載、航続距離は2,500 km。

  • ドイツの電動航空機メーカーのオートフライト(AutoFlight) は、同社が試作するeVTOLプロスペリテイ1(Prosperity1)の試験飛行を2024年開催のパリ・オリンピック期間中ポントイス・バーテイ飛行場(Pontoise Vertiport)で実施すると発表した。プロスぺリテイ1は航続距離250 km、キャビンはパイロット1名と乗客3名を収容。2022年1月の社内試験飛行で高度150 mまでの垂直上昇、それから最も難しいとされる水平飛行に移る遷移飛行を経て水平飛行で時速160 kmを達成、そして着陸に成功している。

図19: (AutoFlight) オートフライト製プロスペリテイ1は、有人飛行に関わる型式証明をEASAから2025年に取得する予定。

終わりに

2023年パリ航空ショーの大要を紹介した。期間中の受注機数は、これまでの記録の2017年の総計1,226機には及ばなかったもののエアバスが846機、ボーイングが358機の両社合計で1,104機を確定受注、前回2019年のパリショーより受注数を伸ばした。注目されるのは12億の人口を擁するインドの発注数。これらを予定通り納入するには、メーカー側のサプライチェーンの一層の充実。改善が不可欠だ。もう一つ、航空業界の低公害化への動きが加速されている、欧米のスタートアップ企業は競い合って低公害化に取り組んでいる。

翻って我が国は三菱MRJの開発中止もあり、ショウ出展は低迷、マスコミの取り上げも少なく、国民の関心も薄い。我が国関連業界、政府の一段の奮起を望みたい。

―以上―

本稿作成には多数の記事を参考にしたが、主な記事は次の通り。

  • Simple Flying June 20 2023 “Paris Air Show Day 1: A Roundup of all the important news from Le Bourget” by Steven Walker
  • Simple Flying June 21 2023 “Paris Air Show Day 2: A Roundup of all the important news from Le Bourget”  by Steven Walker
  • Simple Flying June 21 2023 “Paris Air Show Day 3: A Roundup of all the important news from Le Bourget”  by Steven Walker
  • Simple Flying June 22 2023 “Paris Air Show Day 4: A Roundup of all the important news from Le Bourget”  by Abid Habib