2023-07-26(令和5年) 松尾芳郎
ボーイングCEOデイビッド・カルホーン(David Calhoun)氏はワシントン州シアトルで、エアバスCEOギョーム・フオーリイ(Guillaume Faury)氏はパリで、それぞれエビエーション・ウイーク誌の記者と会見、当面の課題および将来の見通しについて語った。以下はその要旨と解説。
(Boeing CEO David Calhoun sat down with Aviation Week editors Joe Anselmo, Guy Norris and Sean Broderick at Commercial Airplane Delivery Center in Seattle, discussing wide range of current and future subjects the company is being met. Airbus CEO Guillaume Faury spoke current challenges and the road ahead with Aviation Week Senior European Defense Editor Tony Osborne and Executive Editor for Commercial Aviation Jens Flottau in Paris. Following describes brief talks. )
ボーイングCEOデイビッド・カルホーン(David Calhoun)氏
- 新型機の投入は2035年以降
新型旅客機の出現に世間の注目が集まるのは理解できるが、はっきり言えることは、設計図から書き始める新型機は現用旅客機と比較して燃料消費率が20~30 %改善されなくてはならない。このためには50年ほどの期間が必要だ。20年に短縮することも可能だが、それには失敗のリスクが大きい。我々は成功するかどうか不明確なプロジェクトに数十億ドルを投入する危険は犯さない。それよりも個々の技術を磨き、システムを改良して、既存の機体の改善につなげて行く。
エアバスは狭胴型機A320neoの改良型を2035年に投入することを目論んでいる。中国はCOMAC製の狭胴型機C919の国内就航を開始した。これからはエアバス、ボーイング、COMACの3社が世界市場で競合する時代になるだろう。ボーイングはトップを維持するため努力を傾けるが、2035年にどこが先頭にいるか興味深い。
図1:(COMAC)C-919は、中国COMACが開発した158~168席級で、ボーイング737型機、エアバスA320に対抗する狭胴型機。2009年9月製造開始、2017年5月初飛行、2022年9月に中国民間航空局/CAACから型式証明を取得。製造開始から14年後の2023年5月になりやっと中国東方航空で初就航した。中国国内企業から400機以上を受注しているが、欧米の証明未取得なので、西側諸国への輸出は難しい。エンジンやアビオニクス等には西側製品を多用しているが、順次国産化を目指している。
- NASAとの共同開発機「TTBW (Transonic Truss-Braced Wing)」
ボーイングがNASAと共同開発している「TTWS X-66A」は、単通路・狭胴型で将来にわたり環境を破壊せずに永続的に使われる旅客機の基本形となることを目標にしている。この形式の旅客機が現在の狭胴型に代わり、グリーンで、清潔で、静粛な旅客機となる事を目指している。「X-66A」は政府の「U.S. Aviation Climate Action Plane(米航空界の気候変動対策プラン)」の実行に向けた最初の「X-plane」計画である。実証機で得られる設計、製造、飛行試験、のデータは将来のクリーンな新型機に反映される。燃料消費は現在のベストな機体に比べ30 %ほども改善される。現在の航空輸送で狭胴型機は、航空輸送から出るエミッション総量の半分ほどを占めており、これが「環境を破壊せずに永続的に使われる」ようになれば、大きな効果がある。
NASAはこの「環境を破壊せずに永続的に使用する実証機」計画で、ボーイングに対し、今後7年間に4億2,500万ドルを供与する協定を結んだ。ボーイングと協力企業側は7億2,500万ドルを拠出する予定である。
カールソンCEOは次のようにコメントしている。
[X-66A TTBW] は2028年に試験飛行する。風洞試験ではかなり良い結果が得られているが実際に飛ばして見るまでは正確なことは分からない。目標である30 %の燃費改善を達成するには、エンジンによる部分が大半を占める。2028年までにエンジン性能がどの位向上するか、注目する必要がある。[X-66A TTBW]の胴体は水素燃料型機にするには短すぎるという指摘があるが、水素燃料機の実現にはまだ25年くらい必要と思われるので、一緒には考えない。
図2:(NASA) 米国が2050年までに排気ガスをnet-zero エミッションにするため、NASAは「X-66A」実証機の開発を決定した。開発・製造にはボーイングが参画、同社の狭胴型旅客機MD-90を使い、胴体を短くして主翼とエンジンを新しくする。実証機の主翼は薄く細長く高翼にしてエンジンは翼下面に吊り下げ、揚力を持たせた支柱/トラスで支持する。この設計は、ボーイングが「TTBW=Transonic Truss-Braced Wing(亜音速トラス支持翼)で知られるNASAの「環境を破壊せず永続的使用を目指す実証機計画/Sustainable Flight Demonstrator Project」に提案したもの。
- 次世代旅客機は自動操縦を目指す?、ボーイング買収のエアータクシー「ウイスク(Wisk)との関係
カルホーンCEOは「次世代の民間旅客機にはより一層の自動化(autonomy)の導入が必要」と発言したが、これは次の20-30年間に安全性のさらなる向上のために自動化が必要だ、という意味だ、ヒューマン・エラーが事故の最大の要因なので、これを低減するための自動化が求められる。パイロット側からは、現在の2人乗務から1人乗務に、さらには2人とも無くすのではないか、との疑念が示されるが、これに対し「人減らしが目標では無い(That is not our motivation)」と明確に否定している。
ボーイングは、数ヶ月前にパイロットが乗務しない完全自動操縦の4人乗り電動式エアタキシーを開発する「ウイスク・エアロ(Wisk Aero)」社を買収、100 %子会社とした。ボーイングはこの機体について絶大な信頼を寄せており、この成功を基に業界をリードしてFAAに「自動操縦(Autonomy)」に関する型式証明認定の方法を確立して貰いたいと、考えている。
「ウイスク」は、完全無欠な地上システムで、予定の航路を自動で飛び目的地に安全に着陸する。「ウイスク」を完全子会社化する事で、ボーイングは、「ウイスク」が有する“問題への対処能力”を含む起業家精神 (entrepreneurship)を学び、恐ろしいほど規則ずくめの大企業体質を変えたい。「ウイスク」社は、ボーイング傘下になることで煩雑な対FAA業務で、ボーイングの支援を得ることができる。
図3:(Wisk Aero) ボーイングは2023年5月に自動操縦型エアタキシーのメーカー「ウイスク・エアロ(Wisk Aero)」を買収したと発表した。「第6世代ウイスク」は、乗客4人、翼幅36 foot (10.8 m)、航続距離90 miles (160 km)、巡航速度120 kts (222 km/hr)、主翼を挟んで前後に電動式テイルト・ローター(Tilt Rotor)プロペラ12基を装備する。
「ウイスク・エアロ」は、2019年からグーグルの創業者の一人ラリー・ペイジ(Larry Page)氏所有の「キテイホーク(Kitty Hawk)」社の中で「eVTOL (電気式垂直離発着機)」の開発に取り組んできた企業。これを今回ボーイングが「キテイホーク」から全株式を買取り、子会社とした。ボーイングとキテイホークは共同で2019年に「ウイスク」を設立、有能な人材を集め、2020年1月から4億5000万ドルをエアタキシー機の開発に投入してきた。
これで乗客4人乗りの「第6世代エアタキシー (Generation 6 Air Taxi)」原型機が完成 (2020年10月)、FAA型式証明取得のための機体となる。
「ウイスク・エアロ」で開発を指導してきたCEO 「ブライアン・ユトコ(Brian Yutko)」氏は、ボーイングの下で今まで通りCEOとして開発指導を続けている。エアタキシー参入を目指す「アーチャー(Archer)」と「ジョビー(Joby)」の2社がライバルだが、「ウイスク」はボーイングの支援を得て2025年の就航・実用化を目指す。だが、競合相手のエアタキシーがいずれもパイロット乗務機であるのに対し「ウイスク」はパイロット無しの自動操縦、証明取得に手間取る可能性がある。最初の顧客は、南カリフォルニア州で運航する「ブレード(Blade)」社、続いてオーストラリア、ニュージランド、日本等での運航を予定している。
日本航空の整備技術担当社「JALエンジニアリング (JALEC)」は、「ウイスク」が製造する自動操縦エアタキシーの保守・運用計画を策定するためウイスク社と提携その活動を支援する、と発表した(2023年5月30日)。しかし日本航空は「ウイスク・エアロ」機の発注はしていない。日本航空は、ドイツのボロコプター(Volocopter)社に出資(2020-09-29)し、同社製のeVTOL機100機を発注 (2021-10-21/Volocopter発表)、2025年大阪万博から供用を開始する。
図4:(JALEC & Wisk Aero)カリフォルニア州マウンテンビュー(Mountain View, Calf.)の「ウイスク・エアロ」で、ウイスク社APAC リージョナル・デイレクター「キャサリン・マックゴーワン」氏とJALEC CEO 田村亮氏、と関係者の写真。
- 737 MAX 7のFAA証明取得は
777-9、777-8貨物機、と順調に型式証明交付が続いてきたが、737MAX-7で証明取得が停滞しているのは、設計確認関係の書類審査が遅れているため。これは737MAXの-8、-9、型機以降に適用される新規則が、-7に適用されたためである。全く煩雑な規則だが、やっと審査が最終段階に入ったので間も無く証明が交付されるだろう。737MAX-10の型式証明にも新規則が適用されるが、-7の証明取得書類の作成の経験が生かされるので、あまり長く掛からずに交付されるだろう。
737MAX系列機の受注状況は、-8が2,310機、-9が306機、そして型式証明申請中の-7は286機、同-10が1,070機となっている。従って-7および-10の早期証明取得に努力しているところだ(カルホーンCEO談)。
新規則が-7および-10に適用されるのは、737MAX-8で生じた2件の墜落事故のため、2019年ほぼ1年間の飛行停止になったことが大きく影響している。
- 787の生産遅延
787は、最初の複合材(CFRP)製の大型機で、ほぼ全ての構造部材を炭素繊維複合材で作っている。胴体、主翼、尾翼など主要部分は各地の協力企業で製造され、それをエベレットおよびチャールストン工場に運んで結合、完成機となる。この結合部分の平滑度、寸法が設計上詳細に決められており、設計値を外れる場合は、間に薄板のシムを挟み調整することが求められている。アルミ合金の場合は締め付けで多少変形するのでしっくり結合できるが、複合材は非常に硬く変形しないのでシム挿入が必要になる。
2019年に、水平尾翼取付箇所で過大な締付け(トルク)が発見されたのがきっかけで、接合箇所(締結箇所)を検査すると次々に異常が見つかった。いずれも耐空性に支障のない微細な問題だったが、設計要件に違反しているため、すべて修正することが決まった。しかし修正には膨大な手間と時間と工場敷地面積が必要で、現在も作業が続いている。対象機全ての修復が完了するのは2024年末になりそう。これでボーイングは100億ドルの出費を強いられた。
カルホーンCEOは「これは多数の微細な問題の集まりだったが、安全のためには決して妥協しないと言う我々の姿勢を示した措置である。再発を防ぐことは勿論だが、間違いがあった場合は、直ちに認め、修正するのが我々の務めだ」と言っている。
図5:(Boeing/AW & ST Guy Norris & Colin Thron)原典に加筆、判り易くした787品質問題発生箇所を「赤丸プラス」印で示す。機首から最後部まで全ての接合箇所で問題が発見された。(TokyoExpress 2023-01-16 「787製造品質問題、100億ドルの損失で漸く解決へ」から転載)
- T-7 高等練習機の受注
米空軍教育訓練司令部(AETC=Air Education & Training Command) は、超音速訓練機ノースロップ(Northrop) T-38 Talonの後継機を検討してきた。これに応えてボーイングは、スウエーデンのサーブ(Saab)と共同でT-7の開発を決め、2016年12月に初飛行に成功した。T-7はGE F404ターボジェット1基を装備、垂直尾翼2枚、縦列複座の高等練習機。2018年9月に空軍が「T-7A Red Hawk」として採用を決定した。契約は総額92億ドル、T-7機を351機とシュミレーターを46基、それに整備支援を含んでいる。それにオプションととして475機の購入権利が付く。
この受注でボーイングとサーブは、生産工場をインデアナ州ウエスト・ラファエッテ(West Rafyette, Indiana)に新設すると発表(2019年9月)。これには同地に所在するプーデユー大学(Purdue University)が協力する。T-7Aの開発、製造にはデジタル・エンジニアリング手法を使い、開発開始から初飛行まで僅か36ヶ月で達成できた。サーブは後部胴体と油圧系統、燃料系統、セカンドパワー・システムなどを担当している。
2023年6月28日、量産型T-7A高等練習機の初飛行がセントルイス・ランバート国際空港(St. Louis Lambert Int’l Airport)で、米空軍第416試験飛行中隊テスト・パイロット「ブライス・ターナー(Bryce Turner)少佐」の操縦で行われた。空軍長官フランク・ケンドール(Frank Kendall)氏は「T-7の出来栄えは我々の予想を20 %ほど上回る」と語っている。
ボーイングは、T-7 Red Hawkは米海軍、オーストラリア空軍、セルビア空軍などが採用を検討中で、最終的には2,700機以上の需要があると見ている。
「T-7A Red Hawk」は、空軍で今後数十年に渡り次世代型戦闘機や爆撃機のパイロットの養成に使われる練習機となる。設計には空軍の「デジタル・センチュリー・シリーズ (Digital Century Series)」方式のソフトが使われ、概念設計から仮装試験飛行まで全てがコンピューター上で行われた。新ソフトは柔軟性が高く、多くのシステムやミッションに対応できるので、拡張性や整備性を含みデジタル・エンジニアリングで短期間で仮装組立までできる。これまでの伝統的な設計手法に比べるとT-7Aでは;―
- 技術的完成度が75 %向上
- 組立に要する時間が80 %短縮
- ソフトの開発と検証に要する時間が50 %節減
している。
ここで「拡張性」とは、T-7を単なる練習機としてでなく、空軍の行う戦闘訓練で “敵空軍機/アグレッサー(aggressor)”として使う事、さらに“軽戦闘機”として使用することを意味している。
結論として、ボーイングはT-7開発でデジタル設計に関し多くのことを学んだ、これは将来大きな還元をもたらすだろう、とカルホーンCEOは語っている。
図6:(Boeing) T-7A Red Hawk高等練習機。乗員2名、長さ14.3 m、翼幅9.32 m、高さ4.11 m、最大離陸重量5.5 ton、エンジンF404-GE-103ターボファン推力ドライ時11,000 lbs、アフトバーナ時17,200 lbs、最大速度1,300 km/hr。
エアバスCEOギョーム・フオーリイ(Guillaume Faury)氏
- 2050年までにNet-Zeroエミッション達成が目標
エアバスはZEROエミッションを目指して2035年までに水素(Hydrogen)を動力源とする民間機の実証機を飛ばす予定だ。このために多様な技術を開発中である。
水素動力の旅客機構想は3機種あり、いずれもハイブリッド形式、ガスタービン・エンジンを水素燃焼できるように改修、液体水素を燃料とし空気中の酸素を使い燃焼、エネルギーを出す方式を採用する。
さらに水素燃料電池(Hydrogen Fuel Cell)からの電力で、ガスタービン・エンジンの動力を補完する。これで効率的な「ハイブリッド・エレクトリック推進システム (Hybrid-electric Propulsion system)」を作り上げる。
2022年にエアバスは、保有するA380試験機で「水素燃焼技術 (Hydrogen Combustion Technology)」の飛行試験を実施することを決め、2025年までに実用可能な技術を獲得する。
図7:(Airbus)エアバスが開発する「Zeroエミッション機 / ZEROe concept aircraft」。2035年頃の初飛行が目標、いずれも水素燃料ガス・タービンを2基装備する。
左から順に;―
- 8翅プロペラ付きターボプロップ機、乗客100名、航続距離1,000 n.m.、巡航速度マッハ0.5。燃料タンクは胴体後部・圧力隔壁の後に装着する。
- 乗客200名、航続距離2,000 n.m.、巡航速度マッハ0.78のターボファン機。燃料タンクは胴体後部・圧力隔壁の後に装着する。
- ブレンデッド・ウイング・ボデイ機 (Blended-Wing body=BWB)。機体容積が大きく、燃料タンクは翼下面に配置する。乗客200名、航続距離2,000 n.m.、巡航速度マッハ0.82。
(詳しくは「TokyoExpress 2020-09-27 “エアバス、水素燃料旅客機3機種の構想を発表-2035年実現を目指す” を参照のこと」
エアバスは排気ガス/エミッションZero達成に向け、動力源として「水素燃焼 /Hydrogen combustion」と「水素燃料電池 /Hydrogen fuel cells」の2つの技術を並行して開発中。
「水素燃焼 /Hydrogen combustion (H2C)」:
2023-05-12、エアバス・サフラン(Airbus-Safran)の合弁企業「エリアン・グループ(ArianGroup)」は、航空機用エンジンに水素燃料を供給する装置「コンデショニング・システム(conditioning system)の概念設計を完成した。水素を液体に保つには極超低温「-253℃」が必要、そしてエンジンで燃焼させるには適温まで上昇させる、このための装置が「コンデショニング・システム」である。これは「ハイペリオン / HyPERION」と呼ばれ、宇宙開発で開発した技術を転用、2035年までに完成を目指している。
同時に「H2C」水素燃焼実証エンジンとしてGE「パスポート(Passport)」を、GE・サフランの合弁企業「CFMインターナショナル」と共同で開発、エアバスが保有する大型旅客機A380試験機に搭載、飛行試験を行う。
「水素燃料電池 / Hydrogen fuel cells」:
最近エアバスは、ドイツ・ミュンヘン(Munich, Germany)にある子会社「E-Aircraft Systems」で「水素燃料電池」エンジンの開発状況を公開した。ここは欧州最大の燃料電池研究施設、ここで燃料電池12個を直列に連結して半年間運転を行い1.2メガワット(MW)の最大出力を得るのに成功した、これは航空用燃料電池としては世界最大の出力レベルである。
これが実用化の域に達すれば、「燃料電池エンジン(fuel cell engine)」6基を搭載して1,850 km飛行する100席級旅客機を作ることができる。今回の「E-Aircraft Systems」の試験結果は大きなマイルストーンを達成したと言える。
「非推進エネルギー / Non propulsive energy」:
エアバスが取組中の3つ目の項目は「非推力エネルギー/Non-Propulsive Energy (NPE)」の節減である。航空機には空調システム、フライト・コントロール・システム、等エネルギーを必要とするシステムが多くある。これらを合計すると、航空機が飛ぶのに必要なエネルギーの5 %になり、その多くはAPU(補助動力装置)から供給されている。
エアバスの子会社「アップ・ネクスト/UpNEXT」社が開発する「NPE」実証システムは、10 kgの水素ガスを内蔵する燃料電池(fuel cell)方式で「NPE」用に電力を供給する。「NPE」実証システムは3年以内にエアバスA330-200型機に取付けて実運航で試験する予定。
「フューエル・セル・スタック(Fuel Cell Stacks)」エンジン」
エアバスのZEROeプログラムの中で重要な技術開発が進行中、「エアロスタック(Aerostack)」社が作る「フューエル・セル・スタック(fuel cell stacks)」がそれだ。「スタック」とは多数の燃料電池を直列に結合、高電力を得る手法を云う。
「フューエル・セル・スタック」技術は将来の電気推進システムの心臓部となるシステムで、「スタック」からの電力でモーターを回しプロペラで推力を得る全く新しいエンジン技術である。開発製造する「エアロスタック(Aerostack)」社は、エアバスとドイツの大手自動車部品メーカー「エリング・クリンガー(ElringKlinger AG)」社が折半で2020年に設立したベンチャー企業。ドイツのデッチンゲン(Dettingen/Erms, Germany)にある。
図8:(Airbus) 「エアロスタック」社が開発中の「フューエル・セル・スタック」エンジンの概念図。真ん中のフューエル・セル・スタック(9枚)で発電、左の電動のモーターを駆動、左端のプロペラを回し推力を得る完全な電動エンジン。
「水素燃料電池(Hydrogen Fuel Cell)」は、水素と酸素で生じる電気化学反応で電気を発生させる装置で、高効率で電力を発生、排出は熱と水だけ、CO2やNOxは全く出さない。(詳しくはTokyoExpress 2020-12-25 “エアバス、燃料電池で飛ぶ将来型輸送機の構想を発表”5ページ以降を参照のこと)
エアバスCEOギョーム・フオーリイ(Guillaume Faury)氏は、次のように語っている;―ZEROエミッションを達成するには段階を踏む必要がある。先ずは「SAF-sustainable aviation fuel/環境に優しい航空燃料」の調達、2030年までに航空燃料の10 %をSAFにしたい。そして2050年までに航空燃料はすべてSAFにするのが目標。そしてZEROエミッションを達成するには「水素技術」、すなわち先ずは水素燃焼のガス・タービン、続いて燃料電池/フューエル・セル・スタック動力エンジンの実用化、の2ステップが必要、それがエアバスの目標である。
そして2035年、または2035年から2050年の間に現在のA320neoやA321neoに比べて20~25 %燃費を改善した機体を就航させたい。それまでの12年間は現用機の改良で進む。B737が就航以来50年、A320の就航が30年前であったが、両機種はその間に改良を重ね、業界の需要に応えてきた。設計図面から始める新型機(new platform) は検討中だが2030年以前に開発を決めることはないだろう。この間は技術の開発に努め、協力企業との連携を密にし、サプライヤーとの協力を深め、デジタル設計技術の改良・普及を進めて行く。(この点はボーイングのカルフォーンCEOと同じ意見)
- CFM開発のオープン・ローター付き新型機構想
CFM International社とエアバスは、CFMが開発するオープン・ローター「CFM RISE」エンジンをエアバス飛行試験機に取付け2026年ごろに試験をする、と発表した(2022-07 19)。「RISE」とは「Revolutionary Innovative for Sustainable Engine /革新的かつ創造的で長期使用可能なエンジン」の意味。「CFM RISE」は現在最も高効率なエンジン対比で燃料消費率を20 %以上削減し、CO2排出量も20 %減らすことができる、と云う。
CFMはGEとサフラン航空エンジン(Safran Aircraft Engine)の折半合弁会社。エアバスは「CFM RISE」をA380の左翼内側に取付け試験を予定している。
オープン・ローターは、1988年ファンボロー航空ショーでGE・サフランが共同開発した実験エンジン「GE36」で初めて公開された。これはエンジン尾部にダクトの無いお互いが反対方向に回る2組のファンで推力を得る仕組みだった。
これを基に開発したのが「CFM RISE」、これはファン1段(直径12-13 ft /約3.7 m)と後ろのステーター・ガイドベーン1段で構成される。両方とも可変ピッチ機構付きなので、逆推力も出せる。ファンとガイドベーンの関係を最適化して、騒音を低減し、ファンを大きくしてファン圧力比を1.1程度まで下げることで推進効率を0.95に向上し燃費を改善し、エミッション低減に成功している(現用のCFM56-7ターボファンの場合、ファン圧力比は1.7で推進効率は0.8以下である)。またファン、ガイドベーンは軽量・高強度の炭素繊維複合材で作り、タービン部分には耐熱性に優れたセラミク・マトリックス・コンポジット(CMC= ceramic matrix composites)材を使い軽量化を図る。(CMC開発には日本企業が参画している)
「RISE」は、現在のCFM Leap 1エンジンの後継とするのが目標で、推力は2,000-35,000 lbs級、新設計のコンパクトで高い熱効率を持つ高圧系コアを中心に構成する。
エアバスは「CFM RiSE」の将来性に着目、その実現に協力している。フオーリイCEOは、「RTSE」は極めて有望と、語っている。これを装備する機体は、A320neoやA321neoとほぼ同じ大きさで、しかも航続距離は多少伸びるので好ましい。水素燃料時代がやって来る前の、新しい狭同型機のエンジンとして有望だ。
但しオープン・ローターは直径は大きいので装着に多少の考慮が必要、さらに振動や騒音、それに飛行安定性等の問題が証明取得に影響すると予想される。
図9:(Airbus) エアバスは自社の飛行試験「A380」の2番エンジン位置に「CFM RISE」オープン・ローターを取付け、2026年に飛行試験を実施する。1988年に試作した実験エンジン「GE36」ではファンは、直径4.8 mと大きく、コアエンジンの後部に付いていた。これでは狭胴型機に装備するのが難しいので「RISE」ではファンを前にし、直径を小さくして対応している。
- 将来戦闘機システム計画「FCAS=Future Combat Air System」
2022年12月、フランス、ドイツ、スペイン各国政府を代表してフランス国防総省(French General Directorate for Armament / DGA)は、「将来戦闘機システム(FCAS=Future Combat Air System) のフェイズ1B実証機の製作を開始すると発表した。費用は32億ユーロ(約4,640億円)で3年半後の完成を目指す。
これを受けてダッソー・エビエーション(Dassault Aviation)、エアバス(Airbus)、インドラ(Indra Systemas)、ユーメット(Eumet)、の各社は、ヨーロッパの防衛に必要な強力な革新的軍用システムの開発を進め、その試験飛行の成果を2028-2029年に開始する本格開発に役立てる。
「FCAS」プログラムは複数のシステムで構成される:すなわち「新戦闘機 (NGF=New Generation Fighter)」本体は常に随伴機(RC=Remote Carriers)と一緒に行動し、「コンバット・クラウド(CC=Combat Cloud)」/「戦闘空域を包含する情報システム」と連携して戦闘に参加する。
主な作業分担は次の通り;―
- 全体の統括は「エアバス」が担当し、これにフランスの「ダッソー・エビエーション」とスペインの「インドラ・システマズ」が参加する
- 新戦闘機(NGF)本体は「ダッソー・エビエーション」が担当する
- 新戦闘機エンジンは、フランスの「サフラン(Safran)エアクラフト・エンジン」とドイツの「MTUエアロ・エンジン」が折半出資で設立した合弁企業「ユーメット(Eumet)」が担当する、これにスペインのIPTエアロが参加する
- 随伴機(RC=Remote Carrier)は無人機で「エアバス」が担当する、これにドイツの「MBDA」が参加する
- 「コンバット・クラウド」システムは「エアバス」とドイツが担当する、これにフランスの「タレス(Thales)」とスペインの「インドラ」が参加する
[FCAS]は、2040年ごろに退役が予定されているフランスの「ラファール(Rafalees)」、ドイツの「タイフーン(Typhoon)」、スペインの「EF-18 ホーネット(Hornets)」各戦闘機の後継機と目されている。
図10:(Airbus) フランス、ドイツ、スペインが開発する「将来戦闘機システム(FCAS=Future Combat Air System)」の運用構想。図中央の新戦闘機( NGF)は複数の無人随伴機(RC)を伴い攻撃目標に接近、攻撃する。「戦闘空域/Combat Cloud」では早期警戒機(AWACS)や偵察衛星から情報支援を得て戦闘する。
図11:(Airbus)「FCAS」の新戦闘機「NGF」は単座、双発、双尾翼、デルタ型主翼の超音速機。無人随伴機(RC)は、[NGF]よりかなり小型の双尾翼、主翼は肩翼、輸送時は後方に折りたたみ貨物機などに収納できる。また、「FCAS NGF」は、フランス海軍が進めている2038年就役目標の新型原子力空母「PA-NG (Porte-Avions Nouvelle Generation)」75,000 ton、への搭載・配備も予定している。
フオーリイCEOは大要次のようにコメントしている;―
2017年に始まった「FCAS」がこれでやっと纏まった。これで開発が順調に進むと思う。唯一エンジンの合弁企業「ユーメット」はこれから詳細の協議に入る。これをスムースに進めなくてはならない。フェイズ1Bまでは現在のパートナー体制で進むが、その先の輸出を考えると、さらに多くの協力企業が必要になる。良い例がF-35、ここでは今や8カ国(日本を含む)が協力している。ドイツおよびフランスはこれまで国防費の増額に慎重な姿勢を示してきたが、直近のウクライナ情勢から、国防費増額に積極的になった。これが「FCAS」システムの完成を支援することになる。
終わりに
冒頭に述べたが、ボーイングのカルフォーンCEOは中国が就航を開始ししたCOMAC 製狭胴型機C919について、当面は中国国内で使われるが、10年後には現在のエアバス・ボーイングの2社独占が終わり3社体制の時代になるだろう、と語っている。同じことを最近の公的会議の席上でエアバスのフォーリイCEOも述べた、と伝えられる。両首脳は狭同型機について述べたのだろうが、それにしてもCOMACの台頭は著しい。狭胴型機はこれまでボーイング、エアバス共に1万機以上を生産してきた。COMACは国有企業、政府の強力な支援でC919を完成させた。2社独占の市場に参入するには長期に渡る揺るぎない国家の支援が必要なこと示唆している。
将来展望に関しては、ボーイングは近年の737の飛行停止、787の品質問題の影響でやや手堅く、一方好調な業績を背景にしたエアバスは積極的な対応を示している。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- Aviation Week June 19-July 2, 2023 “Boeing’s Long Game” by Joe Annselmo, Guy Norris, and Sean Broderick
- Aviation Week June 19-July 2, 2023 “We need a New Generation of Planes” by Tony Osborne and Jens Flottau
- Aviation Week June 14, 2021 “CFM Unveils Open Fan Demonstrator plan for Next-Gen Engine” by Guy Norris
- Aviation Week July 19, 2022 “irbus to Flight Test CFM RISE Open Rotor” by Guy Norris
- FLYING June 1, 2023 “Boeing becomes Sole Owner ofo Air Taxi manufacturer Wisk Aero” by Jack Daleo
- SAAB Home “T-7A”
- Boeing Home “T-7A RED HAWK”
- Airbus Home “Future Combat Air System (FCAS)”
- DRONE 2023-5-10 ”日本航空とWisk Aeroが提携。エアタクシーを日本に導入へ“
- TokyoExpress 2020-09-27 “エアバス、水素燃料旅客機3機種の構想を発表-2035年実現を目指す”
- TokyoExpress 2021-07-27 “CFM,次世代機向けに革新的なオープン・ファン・エンジン構想を発表
- TokyoExpress 2022-01-30 ”ボーイング、NASAとの共同研究機TTWSの試作開始“
- TokyoExpress 2020-12-25 “エアバス、燃料電池で飛ぶ将来型輸送機の構想を発表”(水素燃料電池の仕組みを含む)