三菱MRJ、引渡し開始2017年に延期


2013-08-30  松尾芳郎

 

三菱MRJ

図:(三菱航空機)三菱MRJ完成想像図。基本型はMRJ90(90席)、それと小型のMRJ70(70席)を開発中。MRJ90は全長35m、翼幅29.7m、最大離陸重量39.6㌧、エンジンはP&W製PW1200推力17,600lbs x 2基装備。

 

8月22日三菱航空機は、MRJの初飛行予定を2013年9月から2015年6月に、また、初号機の納入予定を2015年後半から2017年第2四半期に、それぞれ約1年半延期すると発表した。MRJは2008年4月に開発を開始、2013年末に引渡しの予定だったが、今回の発表で、開発スタートから就航まで9年かかることになる。

同社は遅れの理由に付いて、装備品全般の仕様の詰めに時間を要したためで、日経などが報じた“P&Wギヤードターボファン・エンジンPW1200の開発遅れが主因”とする見方を否定した。すなわち、同社にとり初めてとなる高性能民間機の開発を確実にするため、設計開発のプロセスを慎重に構築し、多岐に亘る装備品や部品の仕様の決定に時間を要したため遅延、と説明している。設計と型式証明取得に関わるプロセスを進めて行く中で、部品製造のやり直しなど予定以上の人手と時間が掛かったのは、報じられている通りで、これが装備品の納入と準備に影響を及ぼしたためと思われる。

三菱によると、初飛行予定の機体を含め現在2機が製作中で、型式証明取得のためのテスト飛行には5機を充当する、と云う。

MRJは165機の確定受注があり金額では69億㌦(6,800億円)となるが、業界の通説である「機体価格の4分の1はエンジン価格」を適用すると、エンジンメーカーP&Wの売上げは17億㌦となる。

MRJ開発スケジュール延伸の発表を受けて、P&Wは直ちに「MRJ用PW1200エンジンについては三菱側と密接に協力しており、三菱の要望通り開発が進行中であり、初号エンジンの引渡しは予定通りに行なう」と発表した。今回の遅れで、開発が先行しているボンバルデイアCSeries用PW1500エンジンの経験がPW1200に反映されることになり、むしろ好都合とも云える。

業界の有力なアナリスト(Raymond Jaworowski, Forecast International)は「新型機の開発は遅れるのが一般的で、特に三菱のように新しく市場に参入しようと云う場合には、むしろ普通である」、「今回の遅延発表でも確定受注に変更ないことが確認されているので、将来の受注活動への影響は少ないだろう」と述べている。

MRJの確定受注165機のうち100機は米国のスカイウエスト社からのMRJ90型で、さらに同社は100機のオプションを入れている。スカイウエストは2017年からの納入を強く求めており、さらに遅れるようであれば購入再考もあり得る、と同社幹部(Michael Kraupp, Chief Financial Officer)は語っている。

MRJ開発が始まってから今回は3度目の完成延期となり、これまでは競合相手のエンブラエルE-Jet E2との間に、引渡し時期で3年以上の差があったが、これが僅か1年に縮小することになる。それでなくてもE-Jet E2の基本型E-Jetファミリーは1,000機が製造済み、手持ち受注は200機を超えていて、その優位性は揺るがない。これ以上MRJの完成が遅れることになると、市場の信頼性は失われ、E-Jet E2シリーズに大きく市場を奪われることになろう。

E-Jet_E2

図:(Wikipedia/Empraer)エンブラエルE-Jet E2シリーズの完成予想図。既存のE-175(80席)、E-190(97席)、E-195(118席)のエンジンをPW-1700推力15,000lbs、またはPW-1900推力19,000lbsに換装し、性能向上を図った機体。

 

E-Jet E2は、ブラジルのエンブラエル社が既存のE-JetファミリーのエンジンをPW1700およびPW1900ギアードターボファンに換装し、性能を向上させた新型機で、今年(2013)パリ航空ショウで発表された。すでにスカイウエスト社からE175-E2を100機、ILFC社からE190-E2を25機とE195-E2を25機、合計150機の受注を確保した。最も早く完成するのはE190-E2(106席) PW1900エンジン付きで、2018年前半から就航可能としている。

イギリスの調査会社(Flightglobal Ascent Online Fleets database)によると、MRJの生産計画は、2017年に4機、2018年に31機、2019年に51機、としている。一方エンブラエルE2は、2018年に5機、2019年に9機、2020年に20機台、としている。

新型機開発には遅延がつきものだが、それにしてもこの夏にはスケジュール延期発表が相次いだ。三菱”MRJ”の遅延が発表されたのが8月22日、その一月前にはカナダ・ボンバルデイアの新型機”CSeries”の初飛行遅延が発表された。CSeriesは2012年12月に飛ぶ予定だったが、以来3度に亘って延期、就航は2015年となる。また中国の国有民間航空機製作会社(Comac)が開発する”ARJ21”(78~90席)は予定から1年半遅れの2014年就航に改められた。

このような開発遅れは、100席前後のリージョナル機に限った現象ではなく、最新型のボーイング787や2階建ての大型機エアバス380でも経験されている。新型機は、いずれも運航経費を削減するために多くの新技術を組込んでいる。軽量化のための複合材、次世代型の低燃費エンジン、新しいシステムや装備品、これ等を統合し成果を挙げるため複雑なコンピューター・システムの開発など、これらでしばしば予期せざる問題に遭遇することになる。

ボーイング787の場合、2003年に7E7ドリームライナー計画としてスタートし開発期間は4年、2008年から就航するとしたが、実際にローンチカストマーのANAが受領したのは2011年末になった。

ボンバルデイアCSeriesは初飛行までに9年を要しており、同社では1年間のテスト飛行で証明取得を目指すが、この通りになるか注目される。

結論として云えることは、新型機の開発とは「予定通りに、予算の範囲内で、如何に新技術を消化してまとめ上げるか」と云うことだろう。MRJが改訂スケジュールに沿って立派に完成することを心から期待したい。

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