スホーイPAK FA T-50戦闘機、数年後には新エンジン装備


2013-08-28  松尾芳郎

 

ソビエト体制崩壊後しばらく停滞していたロシアの航空宇宙と防衛産業は、プーチン大統領の下で息を吹き返し、以前をしのぐ勢いで発展しつつある。その象徴が8月25日に動画付き記事で紹介した「露、初の本格ステルス戦闘機『T-50』が2016年に実戦配備」である。露空軍は同機を60機導入する予定とされるが、PAK FA T-50に組込まれた新技術を中心にここで補足したい。

スーホイ・T-50

図:スホーイPAK FA T-50多目的戦闘機、全長19.8m、翼幅14m、最大離陸重量37㌧、搭載兵装7.5㌧、サターン117エンジン推力33,000lbs x 2基、超音速巡航ができ卓越した運動性を誇る。

 

前述のようにT-50は2011年のMAKS(モスクワ航空ショウ)で姿を現したが、その後フライトコントロール・ソフトを改良、飛行可能領域(flight envelope)を拡げてきている。最新の関連動画を観ると、高度を維持しながら水平回転飛行をする様子、高迎角のまま旋回する様子など、これまで見たことのないような飛行が公開されている。

このような高機動を実現するために新しいアイデアが採用されている。以下にT-50の特徴を述べて見よう。

*  エンジン推力偏向装置(TVC=Thrust-Vector Control)

左右のエンジン推力の大きさと排気の方向を、飛行モードに応じて個別に操作できる複雑な自動化システムを備えている。例えば一方のエンジン排気を上向きに、他方の排気を下向きにすると機軸に捻れ(twist)の力が加わり機体は旋転する。あるいは、片方の推力を増し他方を減らすと水平旋回する、と云う具合だ。T-50はピッチ、ヨウ、ロール(pitch, yaw, roll)で表す機体の3軸を操作できる3次元推力偏向装置(TVC=Thrust Vectoring Control))を備えた、世界初の第五世代の戦闘機である。これに対し米国のF-22のTVCシステムは機首の上下(pitch)コンロトールの機能だけで、左右(yaw)と旋転(roll)する機能は備えていない。

*  フライトコントロール

前縁フラップ、低速時に使うエルロン(aileron)、フラップとエルロンの機能を併せた後縁フラッペロン(flaperon)、可動式水平尾翼、全可動式垂直尾翼、など12枚の舵面と、エンジン推力偏向装置(TVC)二つで合計14の装置を組合わせ、フライトコントロールを行なっている。前縁フラップはかなり大きいが、揚力増加の目的のほかに、高迎角飛行で片方のTVCが故障した場合の姿勢制御の役目も持つと云う。超音速飛行では一般に方向安定性が悪くなるので、F-22などでは大きな固定式垂直尾翼を備えているが、T-50では全可動垂直尾翼をアクテイブコントールして安定性を保持している。このため垂直尾翼はずっと小さくて済む。さらに垂直尾翼を対称に動かしてエアブレーキの役目もするので、エアブレーキは備えていない。

*  エンジン装備

2基のエンジンはかなり離して装備してあるので、その間のスペースにミサイル等を収納する爆弾倉(weapon bay)を2つ直列に設けてある。また、推力軸が離れているので、前述のように推力を違えてヨウ(yaw)およびロール(roll)コントロールができる。F-22の場合は両エンジンが接近しているので間が狭く、爆弾倉はエンジン吸気ダクトの下部に設けてある。

*  搭載エンジン

飛行中の試作機4機を含む初期型には、サターン117(Al-41F-1)エンジン推力(アフトバーナ時)33,000lbs (14.7㌧)を搭載している。原型の117Sは、推力/重量比が10.5:1、スホーイSu-35戦闘機で使用中のエンジンである。この推力/重量比は F-22用F119エンジン・推力35,000lbsの7.95より勝れ、F-35用F135エンジン・推力43,000lbsの11.47には及ばない。現在サターンでは、より高性能の新型117を準備中で、2020年以降の機体から装備すると云っている。

*  兵装

T-50は現用の各種ミサイルを最大で7.5㌧搭載可能と云われている。未だ不明のところが多いが、昨年ロシアのTactical Missile社の幹部が語ったところでは「対艦ミサイルKh-35UE、対地攻撃誘導弾Kh-38MEおよび同RVV-MD、改良型の空対空短距離ミサイルR-73E等の搭載が可能」。さらに射程245km、速度マッハ4の新型対レーダーミサイルKh-58UShKEも機内弾倉に納められる。

T-50の機内弾倉は一部前述したが、全体で4ヶ所、2つは両エンジンの間に直列に配置され、それぞれにミサイル2発が収納可能、エンジン吸気ダクトの両側の弾倉にはRVV-MD一つずつが収納できる。

*  その他

レーダーは米国や日本で実用化済みのAESA型レーダー、情報共有化のためのデータリンク、光学/赤外線利用の目標捜索/追跡システム、などを搭載し、アビオニクス装備は西側の水準にほぼ匹敵すると観られる。

ステルス性を備えているものの、ロシア関係筋はF-22には一歩譲るとしている。それでも複合材の多用、ステルス設計、充分とは云えないがエンジン吸気ダクトを曲げファン部からの反射を少なくするなど、対レーダー視認性はF-35に近いレベルに達している模様。

 

友好国とは云えないロシア空軍の中核となる第五世代戦闘機T-50の開発状況を知り、我国の現状を振り返ると安閑としては居られない心地がする。日本でも同級でやや小型の試作機”心神“の組立てが進行中と聞くが、初飛行もまだ、その先の実用化への計画も明示されていない。我国の行く末はどうなるのだろう。

–以上−